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Colony  作者: Scherz
第六章 終わりと始まり
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14-3-8.白の騎士



 白い鎧は龍人達の方に顔を向けたまま一切の動きを見せない。だが、明らかに先程と違う体の向きである。

 人を感知してその方向に顔を向けるだけのギミック…という可能性もあるが、普通に考えれば何者かが鎧を着て立っていると考えるのが妥当であるのは間違いが無い。

 龍人とちなみは顔を見合わせると、足音を立てない様に静かに歩き始める。白い鎧は動かない。

 このまま出口までたどり着くことができれば御の字なのだが…、残り10m程になった時だった。白い鎧が動きを見せる。カシャ…という音と共に左腰に付けた剣を抜いたのだ。

 ゾワリ…と龍人の全身が総毛立つ。

 白い鎧…いや、白の騎士が抜いた剣は純白の剣で、見る者の視線を吸い込むかのようであった。だが、龍人が危機を察知したのは剣そのものでは無い。剣を抜く動作を見て全身の細胞が危険信号を発したのだ。

 あまりにも滑らかすぎるその動作は、白の騎士が熟練した剣の使い手である事を示していた。


(はは…戦闘スタイルを魔劔士て確立するために剣術の稽古をしてるからよく分かるわ。あの騎士…確実に俺よりも遥かに格上な剣の使い手だ。)


 もちろん、剣の腕で勝負が決まるわけではない。剣と魔法…この2つをどれだけ巧みに操るかが戦いの行方を決めるのだから。だが…とは言え…である。剣術で劣るという事は、魔法技術において確実に相手の上を行く必要があるのだ。戦う前から不利を悟らざるを得ないというのは…中々にシビアである。


「ちなみ…相手がどうやって動くか……っ!??」


 ガギィィィン!と、金属同士がぶつかる音がエントランスに響き渡る。

 つい先程までエントランスの中央で剣を抜いて構えていた白の騎士が、体がブレたかと思うと一瞬で間合いを詰めて斬撃を放ってきたのだ。

 攻撃が来るかもしれないと警戒をしていなければ、確実に止めることが不可能な攻撃速度だった。…いや、構えていたとしてもこの後の攻撃を防げるかどうか。今の攻撃を防げたのもまぐれに近いのだ。

 純白の剣と、銀の剣が鬩ぎ合う。白の騎士の力は強く、少しずつ…だが確実に剣は龍人の顔に近付いていった。


「ぐっ…おおおぉおお!」


 全力の声を上げつつ、龍人は純白の剣を弾き返す。白の騎士は衝撃で剣を持つ腕を上げてしまうが、すぐに後方へ下がると正眼の構えを取り…攻撃をする隙を龍人に与えない。

 この一瞬の攻防で龍人は完全に悟ってしまう。このままでは確実に勝てないという事を。


(…この騎士、マジでヤバいぞ。勝てるイメージが全く浮かばない。龍人化【破龍】を使って戦うしかないか?だけど力押しで勝てるタイプの相手じゃない。となると、やっぱり魔法を剣術と合わせた魔劔士としての戦いで切り抜けるしかないか…?龍人化の状態で魔劔士のスタイルが使えたらいいんだけど……特訓をサボってたわけじゃないけど、もっとやっときゃ良かったな。)


 窮地に立たされていると自覚した時に襲いかかる後悔だが、後悔先に立たずという言葉の通り、今更後悔した所で何も話が進まない。であるのなら、出来ることを考え…実行するしかなかった。


「ちなみ、支援を頼む。」

「……うん。」


 ちなみも白の騎士が物凄い実力を秘めている事に気付いているのだろう。心配そうな表情で龍人に視線を送っていた。

 これに気付いている龍人は、彼女を安心させる為に、視線を送って微笑んだりしたいのだが…その余裕すら無かった。

 視線を逸らした瞬間に純白の剣によって斬り裂かれてもおかしくないと思えてしまうのだ。


「行くぞ。」

「うん!」


 龍人は夢幻を体の横に構えつつ、白の騎士に向けて疾走する。途中、ちなみの移動速度強化のバフがかかり…体が軽くなる感覚と共に龍人は一気に加速する。


「うぉおおお!!」


 勢いそのままに夢幻を横一線に凪ぐが、白の騎士は剣の柄を上に、刃先を下に向けて受け止めつつ…斬撃の威力を受け流しながら夢幻の軌道を斜め下へズラしていく。


「…なっ!?」


 しっかりと受け止めるか回避行動に移ると予想していた龍人は、予想外の受け流しに反応出来ずにバランスを崩してしまう。

 白の騎士は受け流した純白の剣を斜め上から容赦なく斬り下ろした。必中のタイミングに放たれた斬撃。…だが、これが剣術だけの戦いならだ。

 体勢を崩された龍人は白の騎士との間に物理壁を張りつつ、体を1回転させつつ夢幻の刃先に魔法陣を直列展開。切っ先を白の騎士に向けたところで展開していた魔法陣を空間に固定し、魔法陣の中心を穿つ。発動するのは高熱の塊。夢幻の切っ先に凝縮されたそれは、物理壁に斬撃を阻まれた白の騎士へと吸い込まれていき、凝縮された熱が解放…爆発を引き起こした。

 直撃…かと思いきや、視界の右端に白の何かを察知した龍人は咄嗟に体を左に投げる。すると、龍人がいた場所を白い剣閃が連続で切り裂いた。

 ここまで10秒に満たない攻防。互いに傷はなく、互角…と言えば互角な状況だ。


(くそ…。先手を取ったのに後手に回りかけてるな。単発じゃなくて、連続した攻撃で反撃の隙を生まないならどうだ…!)


 投げ出した身の体勢を空中で立て直した龍人は、地を強く蹴って白の騎士へ向かう。龍人の意図を察知したのだろうか、ちなみからのバフ効果が上昇し、反応速度が飛躍的に上昇する。

 技術で勝てないのなら、速度で一気に押し切る作戦に出た龍人は白の騎士へ肉迫すると、斬撃を連続で繰り出していく。

 剣と剣が激突する音が次から次へと生み出され、あたかも打楽器がリズムを奏でるかのように、アッチェレランドをかけていくかのように剣戟の感覚が短くなっていく。

 絶え間なく斬撃を繰り出して追い詰めていく龍人。白の騎士は純白の剣で龍人の斬撃を防ぐのみで、反撃をする兆しは一切見えない。このまま攻撃を続けていけば防御に綻びが生じ、決定打を叩き込むチャンスがある可能性が高かった。


(いけるか?…だけど、何かが腑に落ちない…!)


 斬撃を打ち込めば打ち込むほど、何かがずれているという感覚が龍人の感覚を刺激する。

 その違和感はすぐに形となって現れる事となる。

 斜め斬りおろしからの回転斬りを巧みに剣さばきで防ぎきった白の騎士が構えを変え、攻勢に転じたのだ。龍人の攻撃の隙を突いた2発…たった2発の斬撃でバランスを崩された龍人は、白の騎士が鳩尾に放った掌底を受けて吹き飛んでしまう。


「ぐ……!」


 壁に激突する寸前に物理壁を展開し、ダメージを軽減することに成功はしたが…それでも体に打ち込まれた衝撃は膝が言うことを聞かなくなるのに十分だった。

 シャキン。と音を立てて純白の剣を構えた白の騎士が初めて口を開く。


「お前達はここへ何をしに来た?」

「……。魔獣から逃げる為に行き先を指定せずに転移魔法を使ったらここにきちまっただけだ。そもそもここは何処だし。」

「成る程な…。此処が何処かを伝える必要は無い。そして、此処はお前程度の実力者が来て良い場所でも無い。」

「な…!?」


 場所も教えない。そして間接的に弱いと言われた龍人は思わず絶句してしまう。


「お前も気付いていただろう?俺がお前の実力を実力を計っていた事に。」

「…さっきの違和感はそれか。」

「お前の実力がある程度に達していたのなら…ここが何処なのか、ここにある意味が何なのかを伝えようかとも思ったが、まだまだ甘い。与えられた力が大きい故に、力に頼った強さしか持っていない。だから俺の攻撃を防ぐ事ができない。あの程度ですら。」

「あの程度…。」


 白の騎士が言った言葉…それは、全く実力を出さずとも龍人が相手にすらならない…という事実を指し示すものだった。


「…それは分かんないぞ。俺もまだ…本気は出してないからな。」

「威勢が良いのは褒めてやる。」

「じゃあ俺がお前を倒したら、この場所が何なのか全て言ってもらうぞ?」

「この俺を倒せる実力があるのなら喜んで話そう。…だが、飽くまでもお前自身の力のみで倒す事が前提だ。」


 白の騎士の体が光り輝いたと思うと、一瞬で龍人の視界から姿が消えてしまう。


「え…!きゃっ!」


 声が聞こえたのは後方…ちなみがいるはずの場所からだった。

 慌てて振り向くと、そこには白の騎士の腕に抱きかかえられて力を失ったちなみの姿があった。


「てめぇ…。」


 怒り。白の騎士への怒りが胸の奥からふつふつと湧き上がってくる。


「安心しろ。気を失ってもらっただけだ。この娘にバフを使われていたのでは、お前の本気とやらを見極められないからな。」


 気を失ったちなみをそっと地面に横たえた白の騎士は、悠然とした態度で龍人のもとへ歩み寄り始める。

 この時、龍人は過去に仲間を失った時の事が頭を支配していた。


(俺の仲間を…俺の仲間に…!)


 怒りという…いや、憎しみ、憎悪というドス黒い感情が体の中心から手を伸ばし始める。それは意思を持っているかのように龍人の自由を奪い…。


《主よ…我が主よ!》

(…。)

《主の怒りが何に起因するものだとしても、このまま感情に身を任せれば…主は我等の力に呑み込まれるぞ。》

(……う。)

《主は仲間を守るのだろう。ならばそれは主自身の意思で、力で為すべきではないのか?》

(…仲間?…ちなみはもう………?)


 ここで龍人は事実と自分の認識にズレがある事に気がつく。わかっていたはずの事実が、内なる憎悪によって違う事実にすり替わっていたのだ。


(…………………………。ちなみは…………………生きてる。…俺は、何を憎んでるんだ?俺は……。)


 スゥゥゥ…と、黒い感情に支配されかけていた視界が鮮明さを取り戻していく。

 ちなみは倒れてはいるが、微かに胸が上下している事から生きている筈だ。…となれば、白の騎士を憎む必要性は無い。

 つまり、これから龍人がすべき事は…単純明快。目の前まで歩み寄ってきた白の騎士を、小細工なしの正々堂々とした戦いで倒す。この一点につきる。


「さて、準備は良いかな?」

「あぁ。…全力でいかせてもらう。」


 つい先程まで黒い感情に支配されそうになっていた事など一切感じさせない笑みを浮かべた龍人は、固有技名を口にする。


「龍人化【破龍】!」

「…これはこれは中々の。…さぁかかってこい!」

「あぁ…行くぜ!」


 黒の稲妻を纏った龍人と、白の騎士が互いの持つ全ての力をかけて激突する。

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