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Colony  作者: Scherz
第六章 終わりと始まり
803/994

14-3-6.魔獣討伐試験〜焔と氷の協奏曲〜



 龍人達が動き出そうとした時だった。野太い雄叫びがビルに囲まれた広場に響き渡る。


「もしかして、もしかするか?」


 予想できる最悪な事態を予想し、龍人は思わず口元をひくつかせてしまう。


「えぇ、もしかするわね。あそこを見て。」


 火乃花が指し示した方向を見ると、ビルとビルの隙間から異形の集団が姿を現していた。

 赤い体に、額からは1本の角を生やし、体には茶色い鎧を身につけている。遠目から見て鉄製に見えない所からして、恐らくはレザー系の鎧だろう。

 その姿は以前に魔法協会ギルドの資料で見たゴブリンに類似するものだった。


(…ん?だけど、なんか違う気がすんだけどなぁ。)


 この龍人の疑問は、隣にいるちなみによって解決する事となる。


「あ、あれってゴブリンの上位種のオークじゃないかな?」

「…ん?ゴブリン系の魔獣に上位種っていたっけ?

「あ、違くて、ゴブリンよりも強い種族って事だよ。確かオークも下位種だったと思うな。」

「成る程な…。つまり、試験の討伐対象のゴブリンよりも厄介な奴らが来たって訳か。」

「…うん。」


 状況はかなり悪いと言えた。つい先程、体を砕いたロックゴーレム4体は既に再生を終えていて、その巨軀を動かし始めていた。オークの集団も龍人達を見つけると、横に大きく広がりながら前進を始めている。


(これは…キッツイな。ジャバックに言われた戦い方に変えてみるか?)


 実は、龍人は今までの戦い方に疑問を持っていた。機械街でピストと対峙した時や、ジャバックとの過酷な特訓の中で、もっと出来るはずなのに…という思いを拭えなかったのだ。実力相応の戦いが出来ていないという不完全燃焼感が否めなかったのだ。

 それをジャバックに相談した所、もともと過酷だった特訓よりも更に過酷な特訓を強いられ…結果として新しい戦闘スタイルを見出すに至っていた。

 ただ、この戦闘スタイルに関してはまだ未完成である事や、龍人自信が慣れていないという事が相まり…戦闘中に迷いが生じてしまう。

 迷いある者は何においても真の実力を発揮する事が出来ない。思考の一部が迷いという思考に占領されてしまうのだから当たり前だ。

 こういった事情から、龍人は自分の中で確立されたものが出来上がるまで新しい戦闘スタイルを実戦で試す予定は無かったのだが…。


(このままだと数に押し切られてやられそうだし…新しい戦闘スタイルの方が突破力が高いのも確かだ。やるしかないな。)


 覚悟を決めた龍人は龍人化【破龍】を解除する。これから使う戦闘スタイルの魔劔士は、緻密な魔法制御が必要な為、龍人化状態だと制御しきれずに暴発してしまう恐れがあるのだ。

 迫り来る4体のロックゴーレムとオークの群れを睨みつけながら、龍人は火乃花とスイ、ちなみに声を掛けた。


「火乃花、スイ、ちなみ…ちっと戦い方を変えるわ。剣術主体の近距離から中距離をメインに戦う。」

「…うむ。我は近距離専門で行かせてもらう。」

「じゃあ私はバランスをとって中距離メインで戦うわね。」

「えっと…私は…支援魔法と、遠距離からの牽制でいいかな?」


 全員からの返答は、急造の4人チームという事を考慮しても中々にバランスが取れたものだった。


「いい感じだな。じゃあ…どうやって倒してく?」

「それは…私に考えがあるわ。」


 火乃花が話した作戦は、奇抜…とまではいかないが大胆なものであった。が、成功すれば高確率でこの状況を突破できる作戦である。


(…俺の近距離から中距離ってのは最終的に少しブレる気もするけど…まぁいっか。)


「よし。じゃあみんな…行くぞ!」

「うむ!」

「えぇ。」

「う、うん!」


 龍人とスイは並走しながら先ずはロックゴーレム4体に向けて突進する。ロックゴーレムの後ろ20メートル程の所にはオークの集団が迫っていた。


「あんまし時間が無いな。一気に行くぞ!」

「任せておけ。」


 ここで龍人とスイの体がフワッと軽くなる。同時に周囲を知覚する感覚が鋭くなる。…ちなみによる第2段階の支援魔法だ。効果は移動速度強化と速者速度強化。

 一気に加速した龍人は夢幻の刀身に魔力を帯びさせ、それ自体の攻撃力を強化。更に夢幻に沿うようにして魔法陣を並列展開し、風邪を纏う。


「シッ!」


 鋭い息を吐きつつ、極太の腕を振り下ろすロックゴーレムの両腕を逆袈裟斬りで一閃して切り落とす。更に振り上げた夢幻を慣性の力を利用して抜刀の位置に持っていった。


「魔剣術【一閃】!」


 両腕を失いバランスを崩しかけたロックゴーレムの体に横一文字の居合斬りが容赦なく襲い掛かり、ロックゴーレムを上下に分断する。更に、居合斬りの剣閃から魔力の刃が飛翔し、スイの後ろから腕を分解して攻撃しようとしていたロックゴーレムの脇腹に突き刺さった。

 スイは既に一体のロックゴーレムを斬り伏せており、龍人の攻撃を受けて怯んだロックゴーレムに対して冷気を纏った氷冰刀で連撃を放ち、斬りつけた部分を次から次へと凍結させていく。


(やるねぇ…!)


 魔剣術【一閃】の動作を終えた龍人は、夢幻に纏わせた風を操作して体の向きを残り一体のロックゴーレムに向けつつ、背中に展開した魔法陣を発動。爆風を発生させて自身の体をロックゴーレムに向けて吹き飛ばした。

 錐揉み回転の様に吹き飛んだ龍人だが、その表情は余裕。ニッと笑みを浮かべると体勢を低くしてロックゴーレムの足元を抜けざまに両足を切断する。足を失って倒れるゴーレムに見向きもせずに、風邪を操って龍人は上空へと舞い上がった。

 眼下ではスイが冷気を広げてロックゴーレム4体を同時に凍結し、動きを奪っている。

 そして、そこにオークの集団が到着し…手に持つ剣を水に向けて振りかざした。その総数50体はいるか。流石のスイでも同時に攻撃を受けたらひとたまりも無い。…が、ここで距離を取っていた火乃花から強力な魔力圧が発せられる。


「真焔【流星】。」


 火乃花の周りに拳大の焔が無数に出現し、オークの集団へ流星の如く襲い掛かった。


「グルァァァァア!」


 唾を撒き散らしながら回避行動に移ろうとするオーク。…だが、突如として足元から広場の石が伸びてオーク達の体に巻きつき、動きを阻害した。


「ナイスだちなみ!」


 今の攻撃はちなみによる魔法だ。魔法制御に長けるちなみだからこそ出来る芸当である。

 動けなくなったオーク達に火乃花の固有技である真焔【流星】が直撃し、爆炎と共にオークを焼き尽くさんと猛威をふるう。

 一連の攻撃によってロックゴーレムとオークは…ほぼ同じ場所に集まり、動くことができなくなった事になる。


(後は俺が放つ魔法の威力が全ての魔獣を倒せるかどうかだな。)


 上空から下を見下ろす龍人は冷静に状況を分析しながら魔法陣の展開、分解、構築を行っていた。龍人化を行っていないので、魔法陣の展開と分解の工程が入るために時間は掛かってしまうが…それでも着実に魔法陣の構築は進み、複数の魔法陣が折り重なって1つの魔法陣を形成する。


「よしっ…!」


 龍人が気合の声を上げるのと共に魔法陣が光り輝いて発動する。

 まず、形成されたのは直径50cm程の岩の塊だ。数は…無数。ビルに囲まれた広場の空を埋め尽くすほどの岩が上空に姿を現した。それらの岩にボウっという音と共に炎が付与され、ゴォォオという音と共に風が纏わりつく。そして、炎と風を纏った岩其々が高速で回転を始め、この影響で広場上空には乱気流が巻き起こる。


「…凄いわね。前にプレ対抗試合で見たからっていうだけで提案したけど、あの時よりも精度が上がってるわ。」

「うむ。中々のものだ。」

「あ、あの時のあの魔法を使ったの龍人君だったんだ。」


 今龍人が発動した魔法は、プレ対抗試合で使った古代魔法メテオストライクもどきの上位版…古代魔法メテオストームもどきである。

 火乃花から言われた魔法はメテオストライクもどきを直撃させるというものだったのだが、単発式である事と連射があまり効かないことを憂慮した龍人が、連射を効かせる為には…という発想の元に編み出したのだ。

 …因みに補足しておくが、龍人達4人はこれから放つ魔法がメテオストームに似ている事も、プレ対抗試合で放った魔法がメテオストライクに似ている事も知らない。

 とは言え、この4種類の複合魔法であり、更に古代魔法に似た携帯の攻撃であり、そしてそれに準ずる威力を秘めているのも事実である。

 メテオストームもどきを放つ準備が出来た龍人は全身に魔力を漲らせながら叫ぶ。


「いっけぇぇ!」


 そして…メテオストームもどきが容赦なく魔獣の群れに降り注いだ。

 ドォン!という音が幾重にも折重なり、ドドドド…と轟音を響かせる。広場のコンクリートが重さを感じさせない勢いで巻き上がり、ほんの微かに魔獣の断末魔のような声が轟音の中で響く。この攻撃を受けて無傷でいられる者はほぼ居ないだろうというレベルの攻撃力に、火乃花達3人は着弾の余波による爆風に吹き飛ばされないようにするので精一杯であった。

 パラパラとコンクリートの破片が降り注ぐ中、魔力をほとんど使い切った龍人はフラフラと地上へ降りてくる。


「ははっ…ちっと張り切りすぎたかな。もう動けねぇわ。」


 こういうと、着地した場所にペタンと座り込んでしまった。

 この様子を見た火乃花は呆れ半分で笑みを浮かべていた。


「龍人君…あなたって本当に予想を飛び越えてくるわよね。まさかあんな魔法が使えるのは思わなかったわ。」

「そりゃあ俺もだよ。思い付きでチャレンジしてみたんだけど…成功して良かったわ。もしかしたら龍人化するときに魔力のコントロールがかなり難しいから、それで自然と制御力が上がってたのかもな。」

「それをサラッと言う辺りが憎いわね。」

「はは…。」


 魔力虚脱状態に陥りかけている龍人は弱々しく笑うことしかできない。火乃花、スイ、ちなみも脅威が過ぎたことに安心し…場に和やかな雰囲気が流れる。


「グ……ルゥゥウオオオウ!!」


 全員の気が緩んだ時だった。龍人の魔法攻撃を受けてギリギリ生き延びていたオークの一体が急に起き上がり…龍人に襲いかかる。


「…しまっ!」


 咄嗟に反応しようとするが…魔力虚脱状態に近い龍人は満足に体を動かす事が出来ない。火乃花、スイは龍人から離れた位置におり…今からでは確実に間に合わないタイミングである。

 唯一、龍人を助けられる位置に来ていたのは…ちなみだ。そして、ちなみ本人も自分しか龍人を助けられないと認識していたのだろう。この後、彼女が取った行動は一切の躊躇が無かった。

 ちなみが取った行動…それは制服のポケットに入れていたクリスタルを取り出し、記憶されていた魔法陣を発動させるというものだった。

 魔法陣は一瞬で展開されて発動。同時に龍人とちなみを光が包み込み…次の瞬間には2人の姿は広場から完全に消え去っていた。

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