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Colony  作者: Scherz
第六章 終わりと始まり
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14-2-14.ブレイブインパクト



 何故ブレイブインパクトのメンバーがこの場に集まっているのか。それは容易に想像出来よう。リーダーのルーベンとキャラクが魔法街統一思想の代表格なのだ。残りの2人がこの思想に同調していない訳がなかった。

 学者のような男がエロさを感じさせる微笑を湛えながら口を開く。


「それにしても…へヴィー学院長にはしてやられましたね。まさか私達がしようとしていた事を全て奪っていくとは思いませんでした。」

「本当だよ。この僕が立てていた筋道の1番おいしいところを掻っ攫いやがった。」


 学者のような男に同調するのはキャラク=テーレだ。キャラクは肩をすくめながら続ける。


「魔法街統一思想がある程度強硬姿勢を貫くのかと思わせたところで、他人の意見を取り入れ、魔法街の為に思想のあり方を変える可能性があると見せつける。これによって魔法街統一思想に対するイメージがだいぶ柔らかくなり、門戸を広げる予定だったのにさ。それをするのが魔聖っていうのが憎いよね。」

「まぁまぁ。結果としては柔軟さを兼ね備えた思想だと認知されたのですし、良いのでは無いですか?それに、全面的ではないにしても魔聖が支持を表明したのは大きいですよ。」

「セイメイ…お前は自分の手柄とかそう言うのは気にしないんだな。結果良ければ全て良しと思ってるのかい?」


 セイメイと呼ばれた男は爽やかな笑い声を上げる。


「ははっ。私はブレイブインパクトのブレーキ役ですからね。あなたが感情に流される時でも、私が冷静に判断するのが役割だと心得ていますよ。」

「…ちっ。それじゃあこの僕が感情に流されやすい馬鹿みたいじゃないか。」

「ん?そんな事は言っていませんよ?君の思考能力の高さはこの私が1番知っていますから。」


 噛み付くような発言をしても、優しく包み込むようにセイメイに躱されてしまうキャラクはブスッとむくれてしまう。


「フフ…キャラクは相変わらずセイメイに弱いねぇ?」

「はぁ?そんな訳ないだろ。仲間同士であぁだこうだ言い合う必要が無いから言い返さないだけだ。」

「まぁそう言う事にしてあげるわ。強がっちゃって可愛いんだからねぇ。」

「…はぁ?シャロルだってこの前フラれた時にセイメイに泣きついてただろ。私の胸が小さいからいけないのかしら?…なーんて言ってたのは誰だったかなー。」

「なっ…ちょっ…!その話を出すのは卑怯じゃない!」

「いやいや。普段は『このボンクラどもが…このアタイが叩き潰してやるよ!』なんて言ってるけど、根は乙女だからね。好きな相手に恥ずかしくて女の子の一面を出せないって泣いてたのは誰だったかな。」

「……キャラク。調子に乗って何でもかんでも言ってるんじゃないわよ。流石のアタイでも我慢の限界ってもんが…」

「ん?普段から沸点低くなかったかな?そうやって勝気なトコしか出さないから彼氏が出来ないんだと僕は分析するね。」

「アンタだって彼女いないでしょうが!」

「僕には必要ないのさ。なんでわざわざ彼女なんかを作って、拘束される時間を作らなきゃいけないのさ。そんな無駄な時間を過ごす余裕はこの僕には無いんでね。」

「…へぇ。普段歩いてる時に女の太ももに視線が釘付けなのは誰だっけー?」


 ブッとキャラクが噴き出す。


「な、な、な…なぁんのことかな?」


 明らかに動揺していると言わんばかりの態度にシャロルは悪い笑みを浮かべる。


「おかしいわね。あたいはてっきりキャラクが人の太腿を眺めるのが好きかと思っていたんだけど。それもムチムチで肉感的な太腿が好きなのかと思っていたわ。」

「…そ、それは勘違いだよ。この僕が人の太腿に目を奪われるわけないだろ,r


 視線が泳ぎつつも太腿好き疑惑を解こうとするキャラクだが、シャロルはそれに取り合わずに右足を上に足を組み替える。

 チラッとキャラクの視線が太腿に吸い込まれていき…もちろんそれをシャロルが見逃すわけもなかった。


「アタイの太腿はムチムチじゃないからごめんね。」

「…!?………。」


 してやられた…と顔を歪ませるキャラクを見兼ねたセイメイが口を挟む。


「まぁまぁそれ位にしたらどうですか?シャロルさんがフラれて私の所に来るのも、キャラクさんが女の人の太腿を見てるのも…今更 言い合ってもしょうがない問題ですよ?」

「言ってくれるね。だったらセイメイの問題も言ってやろうか?」

「えぇ構いませんよ。」


 仕返しをしようと言ったキャラクに対して、セイメイは微笑みかける。セイメイが日常的に起こしている問題…それは…。


「……。」


 言葉が続かない。セイメイの日常的な行動や、非日常時における行動を思い返すが…何もなかった。

 考え込んでしまって何も言わないキャラクを見てシャロルがため息まじりに言う。


「はぁ…。キャラク…セイメイに欠点なんてある訳ないでしょうが。そうじゃなかったらアタイとキャラクの問題点を悪びれもなく言う訳ないのよ。所詮は負け戦って訳ね。」

「…チッ。」


 舌打ちをしたキャラクはセイメイから顔を背けると、どしんと会議室の椅子に座り込んだ。子供の様な拗ね方にセイメイは思わず笑みを零してしまう。


「おい。笑わないで貰いたいね。」

「ふふ…。これはすいません。思ったよりもキャラクさんが可愛い行動をするもので、ついつい笑いがこみ上げてきてしまいました。」

「あらぁ。キャラク…可愛いだなんて言われるの久しぶりじゃないの?良かったわね。」


 嫌味たっぷりもシャロルの言葉にビキっと額に血管が浮き上がるキャラク。反撃すべく口を開きかけるが、ここで静観していたルーベンが割って入ってきた。


「はいはい。口喧嘩はここまでだ。そもそもこういう話をする為に集まってる訳じゃないぞ。」

「…そうでしたね。ついつい言い合う2人が面白くてからかってしまいました。申し訳ありません。」


 ここまでルーベンが黙って聞いていた事の意図を感じ取ったセイメイは素直に謝罪の意を述べる。キャラクは相変わらず拗ねたように口を尖らせていて、シャロルはそんなキャラクを見てニヤニヤ笑いを堪えられない様子だが…一先ずは口喧嘩がこれ以上続く様子は無くなっていた。

 これだけの個性的なメンバーをひと言である程度御すことが出来る事からも、ルーベンのブレイブインパクトでの存在感の強さが窺えるというものだ。


「じゃぁ話を本題に戻すが、これから魔法街統一思想団体としてどういう活動を行っていくかを真面目に考えないと駄目だ。今回の集会における目的…魔法街統一思想正確な情報の拡散、行政区が隠していた過去の事件の露見、他星の存在を魔法学院に進学していない人々全員に伝える事…これは見事に達成する事が出来た。だが、予想通りではあるが…やはり反対勢力も姿を現しやがった。一般人を手当たり次第に襲いやがったせいで、魔法街統一思想に賛同すると反対勢力に襲われる可能性がある…と世間では認識されちまってる可能性がある。併せて行政区もどちらかというと反対の意を唱えてるしな。」


 指を顎に当てて考える仕草をとったセイメイが疑問を呈する。まるで1枚の絵画のようなポーズで、BLが好きな女性が近くにいたら…幸せの余り卒倒するかもしれないほどのオーラを放っていた。…まぁ大袈裟かもしれないが。


「その反対勢力の首謀者の目処はついているのですか?私の予想では、魔法街である程度の権力や実力を持っている者なんですが。」

「ん~そうだな。俺もその予想は間違ってないと思う。なんたって、暴動を起こした奴全員の顔が何かしらの魔法で作られた顔だったみたいだからな。捕まった後に全員の顔が黒い仮面に変化したんだとよ。」

「黒い仮面ですか…。」


 ルーベンの話を聞いている間にスネ夫を止めたキャラクが、考え込む顔をしながら手を上げる。


「それってさ、つまり…属性【闇】に類する魔法か特殊な属性を持った奴が首謀者…もしくは共謀者としている可能性街高いって事だよね。例えばだけど、街立魔法学院、シャイン魔法学院、ダーク魔法学院のどこかの魔法学院が首謀だったとしたら、反対勢力の尻尾を掴むのは簡単かも知れないね。けれど、もし…魔法学院の括りに関係無く反対勢力が構成されていたとしたら、首謀者を突き止めるのはかなり困難になる。」


 この分析にルーベンは頷いて同意を示した。


「そうだろうな。俺は魔法学院の括りは無いと踏んでいる。というのも、反対勢力の全員が当たり障りの無い属性しか使用していないかったという報告があるからだ。もちろん、1つの魔法学院が中心になって構成した反対勢力でも、同じ方法を取ればどこの魔法学院が首謀者なのかの判別は難しくなる。使用した魔法属性だけで考察するのは間違った推理に繋がる可能性が高いが、ここでもう1つの情報が役立ってくる。」


 もう1つの情報という知らない単語に他3人がピクリと反応を示す。


「それは、反対勢力の奴らは大体が4人前後のグループで構成されていたみたいなんだが、それにしては統一が取れていなかったらしい。グループ毎の行動方針がバラバラで、魔法協会中央区支部を襲う者、統一思想に賛同の意を示すものを狙う者、警備の人を狙う者、無差別に攻撃を繰り出す者…って感じだったらしい。敢えて行動方針をバラバラに設定させたとも考えられるが、こういう後々に影響を与える場面で起こす暴動で、わざわざバラバラの行動をとる意味が無い。ある程度の順序を組み立てて、1つの結果に繋がるようにするのなら分かるが、今回は結果として無差別に攻撃するっていうのに流れでなった感じも強いからな。」

「ルーベン…それでも、1つの魔法学院だけで反対勢力のメンバーが構成されている可能性は捨てられないわよ?」

「あぁ、それは分かってる。つまりだ、俺の意見としては魔法学院の括りはないと思うって訳だが、シャロルの言う事も否定出来ない。」

「つまり、反対勢力に関する有力な情報は何もないって事ですね。これは…ここから先がかなり思いやられますね。」


 困った顔で顎に指を当てて考え込むセイメイ。他の3人も同じように考え込んでしまう。

 反対勢力の目星がつかない現状、これから行う活動にどんな横槍が入ってくるのかが予想出来ないのだ。これは、魔法街統一思想を魔法街に広め、最終的に実現させるにあたって大きな障害となってくる事は間違いが無かった。


「よし。」


 と、口を開いたのはキャラク。ブレイブインパクトにおいてブレイン役を務めるキャラクが、1番最初に結論を導き出したのは当然とも言える。


「今後の行動方針は今までよりも少し目立つ方法で思想を広めていった方が良いと思う。その中で確実に反対勢力が邪魔をしてくるが、僕達は絶対に反対勢力に対して攻撃をしない。更には周りにいる人達も全力で守る。これを繰り返し行う事で、反対勢力が悪、魔法街統一思想団体は善という認識を魔法街に少しずつ広めていく。そこから先は反対勢力が取ってくる手段がどう変わるか次第だね。」


 キャラクが提案した方法は、魔法街統一思想団体にとっては茨城の道になり得るものだったが、実現可能という前提に立てば最善にかなり近い案である事に間違いが無かった。

 この案に満足したのか、ルーベンが深く頷く。


「その案で問題なさそうだな。一先ずはそれで動いてみるか。俺たちの目的は元々が魔法街のさらなる発展だ。そこだけはブレずにいかないとな。」

「あぁ。」

「そうね。」

「勿論です。」


 其々がルーベンに同意をしたところで、ブレイブインパクトのメンバー達は立ち上がると会議室から出て行く。

 防音仕様の重たいドアが閉まり、会議室の中は暗闇に包まれた。魔法街の在り方を変えるかもしれない集会が行われていたとは思えない静けさ。この空間に今在るのは無。この暗く静かな無は、物理的な結果として存在するものなのか、それとも…これから未来に導き出される何かしらを暗示するものなのか。


 魔法街の歴史が動き始める。


 一瞬、何もないはずの空間に紫電が走ったのは気のせいか。


 未来を形作るのは、人の想い。それが悪しき想いなのか、善き想いなのかは関係無く、想いが想いを動かし、大きな意志となり、それが世界の未来を形作る。


 彼らは知らない。意志はより大きな、より強い意志に呑み込まれてしまう事を。…しかも、自覚がないままに。





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