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Colony  作者: Scherz
第六章 終わりと始まり
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14-2-13.統一集会後半



 魔法協会中央区支部の大会議室内にいたマーガレットは、休憩中に空気が振動しているのを感じ取っていた。


(あら…やっぱり予想通りに統一思想に反対を唱える人達が暴動でも起こしたのでしょうか?…とは言っても、魔法協会には防御結界が張られているので簡単に被害は出ないはずですわね。)


 フとマーガレットに影がさす。見ると、そこには街立魔法学院の教師であるラルフ=ローゼスがダルそうに立っていた。


「よぉ。確かシャイン魔法学院のマーガレットだよな?」

「そうですが…何の用ですの?」


 マーガレットに緊張感が走る。魔法街の中で現状ではメジャーとは言い難い統一思想の集会にいる事は、ともすれば自身の身を滅ぼす可能性があったのだ。一般人ならまだしも…マーガレットの父は法務庁長官で、彼女自身は魔導師団の一員である。

 下手をすればラルフに通報されて魔導師団から除名となりかねない…と思っていたのだが…。


「横、座るぞ。」


 そう言ってどしんと椅子に座ったラルフはステージ上に視線を送りながら話し始めるのだった。


「お前さんさ、この集会…どう思う?」


 ラルフの口から出た言葉は、ある意味で当たり障りのない内容だった。それが何を意図するのかは別として。


「そうですわね…。」


 質問への答えは身長を要していた。例えば、ここでマーガレットが魔法街統一思想の熱狂的な支持者だと思われたとしたら…それは誤解になるし、今後の魔法街に於ける生活が大きく変わる可能性も秘めている。かと言って…全く興味がないと嘘をついても意味がない。

 少し悩んだ後、マーガレットは本音をそのまま話す事を決めていた。ラルフも今この場にいるという事は、賛成にせよ反対にせよ統一思想に興味を持っているという事なのだから。それなら、ありのままの考えを話し…それに対してラルフがどう返すのかを聞いても良いと思ったのだ。


「私は正直な所、3つの魔法学院が1つに纏まれば良いと思っていますわ。そう思ったのは魔導師団として機械街に行き、そこで2つに分かれていた機械街がある意味で、本当の意味で1つになる道を歩き出したのを見たからですの。それと比較して今の魔法街は…1つに纏まっているようで根幹の部分でバラバラだと感じましたの。だから私はこの集会で統一思想がどういう考えを持っているのかを確かめるつもりですわ。」

「はぁん。成る程な。俺が思ってるより全然すごいな。じゃぁ聞くが、今の所は奴らの話を聞いてどう思った?」

「考えとしては良いと思いますわ。魔法学院が1つになることでメリットもデメリットもありますし、行政的にも同じくメリットとデメリットがありますの。それよりも何よりも、将来魔法街に何かしらの悪影響を与えるかもしれない外的要因…これに対応するために魔法使い全体の底上げをしようとする考えはありですわ。まぁ…これも機械街に行ってなかったら思っていないかもしれませんが。」

「…当たり障りが無い答えだな。じゃぁ突っ込んで聞くけどよ、今現状6つの浮島で構成されている魔法街を1つにするって構想に関してはどう思う?」

「……。分かりませんの。私の考えは魔法学院が1つになる事であって、魔法街を1つの島にするメリットというのはあまり無いように感じますわ。それこそ、魔法街の在り方は今のままで魔法学院を1つに統一するだけで事足りのでは…?と思ってしまいますの。」


 真面目に考えながら言葉を紡ぐマーガレットを見るラルフは…フッと笑みを零した。


「…なんですの?」


 それを馬鹿にされたと感じ取ったマーガレットはムッとした表情でラルフを睨みつける。


「あぁ悪い悪い。別に馬鹿にしたんじゃないぞ?マーガレット、お前さんは物事の本質を見抜く力に長けてるのかもな。…ひとつだけ忠告しておく。お前さんの考えは正しいと思う。実際に俺も同じ意見だ。だが…世論ってのはそう簡単にはいかない。様々な状況が合わさる事で、一部の奴らの思惑通りに誘導されちまうもんだ。そうなっちまったら…本質を見抜いた奴らがどれだけ声を大にしようと…誰にも響かない。そういう時は別の方法を探すしかないんだ。それが出来なきゃ…結局はただ叫んでいるうるさい奴で終わっちまう。」

「…随分と中傷的ですわね。」

「はは。まぁ具体的に言える話でもないからな。今言えるとしてら、ついさっき魔法協会中央区支部に暴徒が押し掛けた。んでだ、行政区の高官が配置していた警備と警察、後は魔法学院生が鎮圧したらしい。ここまでは良い。だが、この暴動の様子が何故かテレビで放映されてたらしいんだな。つまり、魔法街統一思想に賛同するとい暴漢に襲われる可能性がある…と大衆の潜在意識に刷り込む事に成功したわけだ。んでだ、さっきまでの集会では今まで魔法街が公表してこなかった事実…他星の存在、魔法協会南区支部地下での出来事とかが公表された。これによって魔法街行政区に対する不信感はかなり募っているはず。ここから先、どうなるか分かるよな?」


 ラルフの話を聞いていたマーガレットの背中を悪寒が走り抜ける。問いかけられた答えが…思っていたよりも良くない事態を招く事を示唆していたのだ。

 周囲に聞かれる事を気にしてか、先程よりも小声で答えるマーガレット。


「この後の集会の内容で多少は変わるとは思いますが、魔法街統一思想に賛同する者と、反対する者。そして…行政区への不信感から賛同したいけど、自身の保身を考えて賛同の意を唱えられない人々を巡る争奪戦…ですわ。」

「そうだ。恐らく今日から少なくても半年以上はこの統一思想に関する論争が止む事はない。…だが、果たして魔法街の統一に関しては本当に望ましい形に落ち着くかは誰にも分からない。なんたって、今の魔法街統一思想はある意味で極論だからな。」

「…。」


 これから起こるであろう事を想像して二の句を告げないマーガレット。その頭にポンとラルフの手が優しく乗せられる。


「いきなり重たい話をしちまって悪いな。マーガレットが話すに足る人物だと思ったから言わせて貰った。いいか、周りの意見に左右されずに自分の五感で判断するんだぞ。」

「…はいですわ。」

「うし。じゃぁ俺は自分の席に戻るわ。」


 そう言うとラルフは手をヒラヒラと振りながら会議室の端に向かって歩いて行った。


(これは…思ってた以上に難しい話ですわ。…だからこそ、簡単に賛同する事も反対する事も出来ませんわね。)


 とても貴重な忠告をくれたラルフに感謝するマーガレットだった。

 そのラルフはというと、自分の席にちゃっかりと別人が座っていて…


「おい!そこは俺の席だろうが!」

「はぁ?自由席だろ?荷物も何も置かないで空いてたら空席だって思うだろ!ってか、本当にこの席にお前が座ってたのかよ!」

「…はぁ?何逆ギレしてんだよ!やるかこの野郎!?」

「あぁん?喧嘩吹っかけてくるなんていい度胸してんじゃねぇか!俺は魔法協会ギルドで名の知れたチーム…ぶへぇっ!!!」


 …と、勝手に自分の席に座っていた無礼者を漫画の様に吹き飛ばしていて、ついさっきまでの威厳みたいなのは一切無かったのだが。


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


 休憩の宣言から40分後。集会は再開される事となる。本来であればきっかり30分後に始めたかったのだが、会議室内の其処彼処で席の取り合いによる喧嘩が頻発し、それが決着するのに多少の時間を要してしまっていたのだ。

 まぁ、喧嘩を1番最初に始めたのがラルフだったというのは…何とも言えない気分にさせる事ではあるが。まぁ、席を勝手に横取りしようとした者が悪いので何とも言えない。

 とは言え、今では全員が席に座り、座れない人々は通路にギッシリと並んで立ち、集会が再開出来る状態になっていた。

 ひな壇のステージ上でマイクを握り締めたルーベンは、ブスッとした顔の中級官僚トリオを見てから観客へ視線を移し、話し始めた。


「よし。じゃぁステージ上だけで話しててもあれだから、ここから少しの時間質疑応答タイムにするわ。俺たちへの質問でもいいし、中級官僚の3人への質問でもいい。なんでも言ってくれ。野次は禁止。全て挙手制でスタッフがマイクを渡した奴だけが話す。これがルールだ。じゃぁ質問や意見がある奴は手を上げてくれ。」


 傍聴者の間でチラホラと手が上がり始める。


「ん~じゃぁそこの金髪の兄ちゃんからいこうか。」


 こうして質疑応答タイムが設けられたのだが…結局の所ルーベン達の術中だった事は否めない結果になっていた。

 サクラがいたかどうかは分からないが、質問の殆どが統一思想を支持しつつ、行政区が隠し事をしていたという事実に対する詰問で、中級官僚トリオが汗を流しながら何とか弁明をする…という状況が延々と続いていた。

 唯一違う趣旨の質問があったのは以下の質問位か。


 質問者は一般の青年。魔力量から察するにどこかの魔法学院に属する学院生だろうか。


「えっと…へヴィー学院長はここで魔法街統一思想に賛同の意を唱えているって事ですよね?全面的に。」

「うむ…。全面的にというと首を縦に振るのは微妙じゃが、ある程度までは賛同をしているのは事実じゃ。」

「…では、どの程度まで賛成で、どの辺りは反対なのですか?」

「それは答えられ無いのである。本日はあくまでも行政区と魔法街統一思想が全面戦争みたいにならない様に間を取り持って欲しいと言われているだけなのである。」

「でも、統一思想側に座っているという事は、今の魔法街の体制に不満…いえ、少なくとも疑問は持っているんですよね?」

「うむ。それは否定出来ないのである。じゃが、今の体制にも良いところはあるのである。私としては程よい妥協点を見つけるのが良いと思うのである。」

「なるほど…。あともう1ついいですか?」

「いいのであるよ。」

「魔聖である貴方が賛同側の立ち位置を表明するというのは、この魔法街に於いて大きな影響力を与えると思うんです。それこそ他の魔聖を牽制する効果もあると思うんですが。他の魔聖の方々がどういう意見を持っているのかは把握しているんですか?」

「そんなのしていないのである。魔聖といえども最終的には個人という枠組みの魔法使いなのである。他の3人が反対の意見を唱える可能性も十分にあるでの。…だが青年よ、間違ってはいけないのである。私達の様に魔法街に少なからずとも影響力を持つ者達が、賛同しているとか反対しているとかはどうでも良いのである。大事なのは…何故その立場を表明しているか…なのである。表面上の意見に惑わされてはいけないのである。その表面に出している意見の根幹を全員が考え、その上で自身の意見を形作る必要があるのじゃ。世論とか他人の意見なんて糞食らえなのである。大事なのは、お主達が本当に何を考えるのか…である。」


 このへヴィーの言葉に青年は納得した様に頷く。


「…分かりました。ありがとうございます。」


 質問をした青年は納得したようだったが、へヴィーの横に座るルーベンは苦笑いをし、キャラクに至っては睨みつけるかのような視線をへヴィーに送っていた。

 だが、それも仕方の無い事と言えよう。彼ら2人からすれば、ヘヴィーは完全に賛同側だと思っていたのだ。だからこそ自分達の…仲間…として呼んだのだ。だが、結果として上手く今の状況を利用し、世論が感情で魔法街統一思想を実現すべきだという流れになるのを阻止する発言をされては睨まざるを得ない。

 そして、中級官僚トリオはキャラクとは対照的に少しばかし安堵の表情を浮かべていた。魔聖が完全に敵対関係に無いと分かるだけで精神的プレッシャーが大分軽減されるのは想像に難くない。


(はは…上手くやられたな。完全に統一思想に賛同してくれてるもんだと思って油断してたぜ。キャラクが睨むのも分かるわ。しかも、間を取り持って欲しいなんて言ってないんだけどな。憎いのが、へヴィーがそういった事で魔法街統一思想が柔軟性を持った思想だと認識されるって事か。敵味方両方に塩を送る…か。やっぱり魔聖ってのは油断ならねぇわ。)


 苦笑いを浮かべるルーベンはへヴィーの話し口に感服の思いだった。統一思想とも行政区側とも、そして統一思想に反対の意を述べる者とも対立せず、寧ろ好感を持たせる話し方は是非是非見習いたいものだった。…横に座るキャラクは元々荒い気性の持ち主なので、上手く利用された事で腸が煮えくり返る気分を味わっているのだろうが。


 こんな問答が延々と続けられたのち、余裕の表情を浮かべたキャラクがマイクを持って立ち上がる。へヴィーにしてやられた怒りはすでに収まっているようで(とは言ってへヴィーへ視線を送る事は一切しなくなっていたが)口元には笑みすら浮かんでいる。


「さぁて、そろそろ質問も出切ったかな?じゃあ…改めて行政区中級官僚の3人に聞こうか。魔法街統一思想に対する理解は深まったかな?」


 ここまでの論戦で魔法街統一思想という考えが、魔法街にとって利点をもたらす可能性が高いというのはほぼ間違いが無かった。更に、今までひた隠しにしてきた事実を公開されてしまった事で…大衆の行政区に対する不信感は高まっている。会場内の雰囲気からしても半分以上の人間が魔法街統一思想に肯定的な意見を持っているのも事実。

 …この状況で魔法街統一思想を全面否定する事は、行政区の立場を更に悪くすることに繋がりかねない行為だった。

 つまり、全面肯定は出来ないにしてもある程度は譲歩した意見を述べる必要がある。

 中級官僚トリオは顔を見合わせると、苦い表情で頷きあう。そして、官僚のっぽがゆっくりマイクを握った。


「魔法街統一思想に関してですが、正直なところ申しまして受け入れる事は出来ません。」


 完全否定の言葉に会場がざわめきかけるが、続いて官僚のっぽが言った言葉を聞くと再び静まり返っていった。


「しかし、それは今のままの思想であるのなら…という限定条件が付きます。どれとは言いませんが、魔法街統一思想には魔法街の利益となる可能性を含む考え方があるのも事実です。それらを考慮した上で、利益のある考えを実現する為の具体的な策を構想してみようかと思っています。」


 肯定しているようで否定しているような曖昧な表現ではあるが、1つだけはっきりしていることがあった。それは…統一思想の考え方を一部だとはしても認めたという事だ。


「そうか。そこそこに肯定的な意見をありがとう。まぁ…突っ込みたいところは多々あるけれど、君達行政区がほんの少しだとしても魔法街統一思想を認めた事には変わらないからね。それなら、僕たちはこの思想の賛同者を増やし、必ず実現出来るように尽力させてもらうよ。いざこの思想が実現するってなった時に、また同じ問答を繰り返さないようにお願いするよ。」


 嫌味を込めたキャラクの締め台詞に、官僚トリオの眉がピクリと反応するが…反論の言葉が出る前にルーベンがマイクを取る。


「てな訳だ。まだまだ俺たちの思想は皆に伝えたばかりだ。今後はここまで大きな集会は無いにしても、小さい集会で意見の交換等は積極的に行っていく予定だ。興味がある奴は是非参加してくれ。じゃあ…これで魔法街統一集会は終わりにする。」


 閉会を宣言したルーベンは聴衆に向けて深いお辞儀をする。何気無い動作だが、ブレイブインパクトのリーダーであるルーベンという大物が頭を下げるという行為は…大衆の心に響く。決して遊びでやっているのではなく、魔法街の未来を考え、真剣に取り組んでいるんだという印象を植え付ける。

 パチパチ…。と拍手が疎らに起こり、それらは次第に広がり…一部の聴衆以外がルーベンを讃えるかのように惜しみ無い拍手を送る事となった。


 統一集会が終わり、聴衆が全員帰った後の大会議室内に4人の人影があった。

 1人は漆黒の鎧を身に付けた黒髪短髪の大男。無表情に腕を組んで立つ姿は、まるで英雄の銅像であるかのよう。

 1人は黒のパーカーを着た鋭い青の瞳が印象的で、前髪が右目の上が短く、左目の方に行くにつれて長くなっている男。口元には人を馬鹿にしたような笑みを浮かべている。

 1人は身長180cmはある長身で紫のロングストレートヘアを揺らすスレンダー美女。ボンキュッボンでは無く、あくまでもスレンダーな体型で長い手足が目を引く美女だ。吊り目のせいか勝気な女性といった印象を受ける。

 1人は学者が着るような緑の服を着た男。190cmはある身長はスラリとした体のせいか、それ以上の高さがあるように見える。小さな丸眼鏡を鼻に掛け、口に咥えた煙草からは煙が蛇行しながら上がっている。前髪薄っすら掛かる金髪具合は、BL小説に出てきそうな装いでもある。

 全く共通点が無さそうな4人だったが、実は彼ら結びつける確固たるものがある。それは、魔法協会ギルドに所属するブレイブインパクトというチームである。





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