14-2-8.魔法街統一思想集会
場面は魔法街中央区に移る。
普段から各区の住民や他星の商人で賑わっている中央区は、いつも以上に賑わっていた。と言っても、普通の賑わい方では無く…ややざわつきが強めとも言える賑わい方ではあったが。
街を歩く人々の関心は、そのほとんど全てが今日行われると宣伝されている魔法街統一思想集会に向けられていた。
これまで多くの学者や行政区のお偉いさんが何度となく唱えたこの思想が、遂に一般人を巻き込んで動き出すという…ある意味で魔法街における歴史の転換点となるかも知れない事態なのだ。
普段からそういった話に興味が無い人でも気になるというものであった。
そして、人々の注目を集めているのにはもう1つ大きな理由がある。それが開催場所である。
通常、こういった思想団体の集会は路上の広場を使って行われる場合が殆どなのだが、今回集会の場所として選定されたのは…魔法協会中央区支部であった。
この場所でするという事自体がかなり大きな意味を持っていた。
その意味を理解しているのか、していないのかは分からないが…集会の様子を見たい人々は魔法協会中央区支部の入り口に整理券を求めて大行列を作っていた。
「これは…少しばかし注目を集めすぎているな。行政区としては一切宣伝を行っていないのにこれか。」
「はい…。どうやら統一思想団体が水面下で情報を広げていたみたいです。」
魔法協会中央区支部の上階から入り口を見下ろしているのはゲイル=レルハだ。
普段の「マーガレットちゃ~ん!」なんていうおちゃらけた雰囲気は一切無く、行政区法務庁長官としての…物事の本質を見抜き的確な判断を下し、時には非情な判断も辞さない…顔をしていた。
「手配は済んでるか?」
「はい。指示通りに各人員の配置は済んでいます。」
「よし。後は動きを待つのみか。」
「あの…ゲイル長官。」
躊躇いがちに声をかける部下にチラッと視線を送ったゲイルは、すぐに視線を窓の外に戻す。
「なんだ?」
「…えっと…あの…もし、もしですよ、ゲイル長官が予想していた通りの事態が起きるとしたら…今回の人員では太刀打ち出来ないと思うのですが。」
「まぁ…そうだろうな。だが、警戒はさせられる。行政区が関わっているのかと勘ぐれば下手な動きはうてない。そうすれば時間を稼ぐ事が出来る。だからこそ警察の制服を着させているんだ。」
「つまり…捨て駒ということですか?」
捨て駒…この言葉を言った部下の声には非難の感情が隠しきれずに現れていた。
ゲイルも勿論そこには気付いているが…敢えて気づかないフリをする。
「捨て駒?俺がそんな事するわけ無いだろ。まぁ…見てなって。この集会は最後までやらせてやるからよ。」
「……え?ゲイル長官…魔法街統一思想の集会には反対なんですよね?」
今まで聞いていたことと逆のことを言い放ったゲイルに戸惑いを隠せない部下。
だが、ゲイルは部下の詰問には答えず、笑みを浮かべるのだった。
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魔法街中央区が魔法街統一思想集会の開始が近づくにつれて盛り上がる中、別の盛り上がりを見せる人々がいた。
場所は魔法協会中央区支部近くの雑貨店2階。この建物は雑貨屋を営む店主の持ち物であり、他人が中に入る事は出来ない。
だが、今この場所には4人の男達が息を潜めて魔法協会南区支部に並ぶ人々を眺めていた。
「へへっ。これから暴れるって考えるとゾワゾワしてくんな。」
「そうだけどよ、俺たちの所属がばれない様に集会の邪魔をするってのは…結構難しいぞ?」
「あ?そんなん簡単だろ。特徴的な属性魔法は使わないで暴れりゃいいんだよ。」
「ん~…俺、そしたら得意属性を使えないんだよな。」
「はぁ…何を気弱になってんだ。所詮相手は警察だろ?大体の奴らが魔法学院で4年生まで上がれなかった奴らなんだ。そんな奴らなら…俺たちで楽勝だ。」
「そうかなぁ…。」
気弱な発言を続けている男は薄く息を吐くと部屋の中を見回す。
部屋の中は中に潜んでいるのがばれない様に薄暗い明かりに調整されている。
「あ、あのさぁ…僕達の他にもまだまだメンバーいるんだよね?」
「あぁ勿論だ。俺たち4人だけでこの集会を止めるなんて事は無理だろ。」
「そ、そうだよねぇ…。あ、あのさぁ…あの方は今日は来るんだよね?」
「あぁ~…どうだろうな。あの人が首謀者ってのはバレたら終わりだからな…。」
「ははぁん。それなら簡単だよ。あの方は…既に潜伏している者達のどこかに紛れているはずだぁね。」
「…それ本当か?」
「当たり前じゃないかぁん。考えてもみなよ。あの方はこの魔法街統一思想集会を確実に止めろって言ったよねぇ。そんな大事な事を俺たちだけに任せて結果だけを待ってるとは思えないのさぁ。」
「確かに…。」
「あ、あのさぁ…それなら…心強いよね?」
「そうだな。…よし。合図があったら一気に動き出すぞ。今の内にもう1度作戦をおさらいする。」
雑貨屋の2階に潜む4人はもぞもぞと近寄ると1枚の羊皮紙を広げ、中に書いてある作戦の確認を始めた。
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魔法協会中央区支部内にある巨大会議室。ここが魔法街統一思想集会が行われる会場である。会議室の中にはまだ人は殆どおらず、数人の人々が集まって何かを話し合っていた。
彼らこそが魔法街統一思想団体の幹部達である。この集会を開催するために長い年月をかけて活動を行ってきた生粋の思想の持ち主達だ。
その中で特に異彩を放つのが…漆黒の鎧を纏った男、ルーベン=ハーデスである。
「うし。お前ら、これからの集会は、ただ同じ思想を持った人達を集めて盛り上がるだけじゃねぇ。俺たちと同じ思想を持つ奴らにはとことん同調してもらって、俺たちと異なる思想を持つ奴らには俺たちの思想を理解させる。そうする事で…この魔法街に統一思想が広がり、初めて1つの大きな思想として根付くんだ。」
ルーベンの言葉に、その場にいる全員が無言で頷く。
「いいか。忘れるな!俺たちの目的はあくまでもこの星に住む人々に俺たちの考えを理解してもらう事だ!確実に反対勢力が今日の集会を妨害しにくるだろ。だが、俺たちは一切手を出さない。まぁ…攻撃されたら防ぐくらいはすっけどな。」
「その件なんだが…ちっといいか?」
こう言って手を挙げたのは…金髪で短髪の男。
「お、ラルフか。いきなり集会に参加するって言ってきて、更に何か忠告か?」
「あぁ…。」
そう。ここに立っていたのは街立魔法学院教師のラルフ=ローゼスだった。授業の中止を2年生に伝えた後、すぐにこの場所に飛んできた事になる。
ラルフはやや面倒臭さそうに頭の後ろを掻きながら話し出す。
「えっとだな…恐らくだけど、中央区支部の周りに複数の反対勢力が潜んでっぞ。集会の開始と同時に攻撃されるのは確実だ。」
「なるほど。流石は消滅の悪魔の異名を持つだけの事はある。情報収集力も一流だな。」
「はっ。言ってろ。一応忠告はしたぞ。」
「…忠告だけか?」
「…あ?何が言いたい?」
「お前は俺達に賛同するからここに来て、忠告までしたんだろ?それなら反対勢力を止めてくれても良いんじゃないかと思ってな。」
「俺をそんな簡単に利用出来ると思ってんのか?」
睨み合うラルフとルーベンに場の空気が震え始める。その場に集まる人々は2人が出す圧力に気圧され、動く事も話す事も出来ない。
そんな中、この雰囲気に一切気圧される事がない…いや、それどころか楽しむように見ている人物がいた。その人物は気圧されて動けない人々の合間を縫う様にして歩き、睨み合う2人に近づいていく。
「なぁ、あんたらよ…こんなトコで仲違いしても意味ないだろ?無駄な時間を使うのは避けようぜ。この僕でさえこれからの集会にはやきもきしてるんだよ。時間は有効に使うべきじゃないかな?」
「…お前、誰だ。」
「……はぁ。邪魔すんなよ。ちっとばかしラルフをからかって遊んだだけだろ?」
「…君は馬鹿なのかい?この僕がわざわざ無駄な時間を使わない様にって言ってるんだ。というよりも言わなくてもそれ位分かってるんだろ?こんな時くらい遊び心はしまっておいて欲しいもんだね。」
「だから…お前は誰だって…」
「ったくよー、つまんねぇな。ま、今が遊んでる時じゃないってのは分かってるよ。悪かったなラルフ。」
「いや…だからこいつは誰だって。」
何故か自分を差し置いて話が進み始めたのに戸惑いを隠せないラルフである。
「あ、そっか。そういや紹介もしてねぇんだっけか?こいつはキャラク=テーレ。魔法協会ギルドのブレイブインパクトの一員だ。」
「…ほぉ、お前のチームメンバーか。」
「この僕の事を知らないっていうのも珍しいね。これでもそこそこに名を馳せているつもりなんだけど。」
「まぁ俺もギルドの前線から離れてるからな。大体お前達ブレイブインパクトは魔獣狩りを中心にやってんだろ?俺とはフィールドワークが違うしな。」
「ふぅん。ラルフ=ローゼス…意外に頭もキレるのかな?」
「さぁな。俺はお前達と深く関わるつもりはない。」
「好きにすると良いさ。魔法街統一思想団体にはこの僕がいるんだからね。ラルフ…君の助力は必要ないのさ。行政区の官僚なんか僕1人で十分だ。その為にこれまで準備してきたんだからね。」
「好きにしろ。じゃあ俺は後は傍観させてもらうぜ。」
面倒臭そうに手を振ったラルフは会議室の端に向かって歩き出した。集会に参加する者達が中に入り始める前に席を確保するつもりなのだろう。
歩き去るラルフの後ろ姿を見るキャラクは、見る人が見れば小馬鹿にした様に見える笑みを浮かべていた。
(ラルフ=ローゼス。思っていたよりも高い能力を秘めているか。それに探知能力にも長け、引き際も弁えている…。うん、彼は敵に回してはいけないね。忠告をしてきた事を鑑みれば、一先ずはこちら側だとは思うけど油断は出来ないか。…今日は楽しくなりそうだ。)
口元の笑みが獰猛なものに変わっていくキャラクを見たルーベンは、腕を組むと心の中で盛大なため息をついていた。
(はぁ…。こいつは本当に癖が強いな。同じチームで活動してなかったら理解不能としか言いようが無い。まぁ、先ずは集会を成功させることに意識をフォーカスするか。)
時計を見れば、会議室の入場開始時間が10分後に迫っていた。
「よしっ。じゃあ全員気を引き締めろ!もうすぐ…魔法街の歴史の転換点だ!」
魔法街の在り方を変えるであろう魔法街統一思想集会が間もなく始まる。
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魔法街統一思想集会が行われる会議室への入場が、あと数分に迫った魔法協会中央区支部前の行列。
関心を持っている人がかなり多いのか、アリの大行列とでも言わんばかりの人が並んでいた。
この行列を商売のチャンスと睨んだのか、ビールの売り子、焼きそばの売り子などの商人が行列に並ぶ人達に商品を売りさばいていた。
ある意味でお祭り騒ぎの様になりつつ行列の中で、マーガレットは腕を組んで辟易とした表情をしていた。
(……何なんですのこの状況は。統一思想に関心を持っている人がこんなにいるだなんて思ってもいなかったのですわ。)
予想外の人の多さではあったが、考えようによってはマーガレットにとって良い状況とも言えた。
自分と同じく3つの魔法学院が足を引っ張り合う関係を憂いている者、改善したい者がこれだけいるという事なのだ。勿論、中には反対意見を持つ者も混ざってはいるのだろうが。
それでも、賛成にしろ反対にしろ関心を持つ者が大勢いるという事実は、この問題に対してこれまで1人で考えてきたマーガレットからすれば嬉しい事実でもあった。
ただし、ひとつだけ問題が残っている。
(この魔法街統一思想集会で、ルーベン達が何を語るのか…それが重要ですわ。彼は私に向かって「魔法街統一思想に似た考えを持っている」と言いましたの。…つまり、3つの魔法協会を1つにする事は過程の1つ…もしくは結果として起こる1つのどちらかですの。…慎重に見極める必要がありますわ。)
行列に並びながら意思を固めるマーガレットは、動き出した行列にならって魔法協会中央区支部の中に入っていった。
動き出した行列に並ぶ者。建物に身を潜め様子を窺う者。行列の人々を迎え入れる者。行列のある場所に向かう者。
魔法街の在り方を変える思想が動き出し、それに付随する様々な思惑を持つ者達が動き出した。




