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Colony  作者: Scherz
第六章 終わりと始まり
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14-2-7.鬼コーチジャバック



「よし。では魔法陣で融合魔法を使う事を目標にいこうではないか。」

「あぁ頼むわ。そもそもなんだけど、魔法陣で融合魔法って可能なんだよな?」

「勿論。複合魔法のように2つの魔法陣を重ね合わせるのでは無く、融合魔法を発動させる為の単独の魔法陣を完成させる必要があるから難しいがな。」

「成る程な。でもさ、要は融合魔法の魔法陣の形を教えてもらえれば、それを展開すれば使えるって事だよな?」

「それは違う。融合魔法はその比率によって紋様が変わる。例えば…火と風を半々で発動させる場合、火を主体にして風を融合させる場合、風を主体にして火を融合させる場合、更にはそれらの融合の比率…これらが少し変わるだけで魔法陣の紋様は大きく変わる。」

「…げ。って事は、それらを全部作る必要があんのか?」

「それもまた違う。融合魔法の魔法陣は融合する属性の魔法陣を2つ頭に思い浮かべ、それを頭の中で融合させて実際に展開する。」

「え…。それって全然分かんないんだけど。」

「だろうな。言うならば…2つの属性の根幹となる魔法陣の部分を崩さず、しかしその形を保たずに1つの魔法陣として組み立てる。だな。」

「………やばいな。全然できる気がしない。」

「話すだけ無駄か。では、実践あるのみだな。先ずは火と風の基本属性でやる。さぁやってみるが良い。」

「…分かった。」


 会話を延々と続けていたのは龍人とジャバックだ。休日の今日、魔法陣魔法で出来る幅を増やす為にジャバックと2人で教員校舎訓練室に入っていた。

 目的は先にも述べた通り魔法陣技術の向上、更には実戦経験を積む事だ。

 機械街での経験で龍人が感じたのは、対人の経験が圧倒的に足りないという事だ。勿論、街立魔法学院の授業でクラスメイトと戦ったりはしている。

 しかし、極端に言えば命を懸けて戦った事は数える程しかない。命を懸けて戦う時、人は予想を超えた動きをする。動けるはずがない重傷を負っているのにも関わらず、それまでを超えた動きを見せたり。…そうでなくても通常の戦いから動きが変わる。命を懸ける…それは相手の命を奪うという事とほぼ同義なのだから。


 龍人は自分がこれから歩むであろう道程を決して軽くは見ていなかった。むしろ普通の人と比べれば…それこそ血反吐を吐くであろうものだと認識していた。

 だからこそ…しかもその道を共に歩くと言ってくれた仲間がいるからこそ…龍人はここで妥協する事が出来ないのだ。

 小さな油断が死を招き、それは自分だけではなく隣にいる仲間をも?み込んでしまうかもしれない。

 それを想像した時…龍人は計り知れない恐怖が体の奥底に芽生えたのを感じ取っていた。


(ま、ジャバックと戦うってのは本気で嫌なんだけどな…。絶対ラルフよりドSだし、容赦ないだろうし。)


 そんな龍人の気持ちを知ってか知らずしてかは分からないが、ジャバックは早速スパルタ指導を開始していた。


「今のではただ2つの魔法陣を重ね合わせるようにしたに過ぎん。もう一度だ。」


「それでは先ほどと同じだろう?同じ失敗を繰り返すな。」


「何故その部分を融合の概念で作った。魔法陣として成り立ってないではないか。」


「何故出来ぬ?頭の中で魔法陣を融合させると言っているだろう?」


「もう一度だ。少しでも進歩するまで休む事は許さぬぞ。」


 …2時間後。数え切れない程の魔法陣を展開し続けた龍人は軽度の魔力虚脱状態で訓練室の床に倒れていた。

 隣で足を組んで椅子に座っているジャバックは眠そうに欠伸をする。


「…龍人、お主は融合魔法の魔法陣を作るセンスがほぼ皆無に等しいな。」

「うっせぇし…。」


 魔力が枯渇している上に容赦の無い言葉を掛けられた龍人はもはや反応する元気すら無かった。

 何百回と融合魔法を発動しようと魔法陣を展開し続け、結果…1度も融合魔法の発動に成功していなかったのだ。

 魔力的にも精神的にも疲れるのは仕様の無い事である。


「これを使うが良い。」


 コロン…と龍人の顔の前に投げられたのはクリスタルだった。


「それで魔力を回復させたら次は我との模擬戦闘である。勿論全力で行くぞ?気を抜けば腕の1本くらいは簡単に吹き飛ぶと思え。」

「…まじ?少し休ませてくれてもいいんじゃないか?」

「ぬかせ。お主の身にいつ災厄が降りかかるか分からぬ以上、悠長な事は言えぬ。」

「それはそうなんだけど…。」

「何と言おうとも我は手加減せぬぞ?いつまでもそこに寝転がっているのなら、そのままお主に我が鉄槌を振り下ろしてくれる。」

「わ、分かったよ…!」


 何を言っても聞く耳を持ってくれないジャバックに根負けした龍人は慌ててクリスタルを握りしめて魔力を補充していくのだった。

 その後、龍人はジャバックとの模擬戦が終わる度にクリスタルを使い、合計で10個のクリスタルを使う事となる。

 この1日で1つだけ言えること…それは龍人は今まで経験した事がない位の戦闘と訓練を1日でこなした…これだけである。


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


 龍人がジャバックによる猛特訓を受けた次の日。

 街立魔法学院2年生中位クラスは1つの噂で持ちきりになっていた。


「なぁなぁ龍人聞いたか?統一思想とかってのが何かするらしいぜ?」


 ウキウキ口調で話しかけてきたのはバルクである。


「あぁ?そんなん知らん。」


 机の上に突っ伏してた龍人は少し顔を上げてバルクを見るが、一切の興味を示さずに再び机に頭をくっつける。


「おいおい。なんでそんなんなんだ?」

「…そもそも統一思想が何かも分かんないし、何かするらしいって曖昧すぎて良く分からんって。」

「だからよぉ、それは何かすんだって!」

「………。」


 イマイチ不明瞭な事しか言わないバルクと話すのが面倒臭くなった龍人は無視を決め込んでいた。

 このまま話が終わるかと思ったが、そうはいかない。何せ教室内はこの話で持ちきりなのだ。

 バルクが龍人に話しかけているのを見たルーチェがニコニコしながら近寄ってくる。


「お二人とも魔法街統一思想についてお話ししていますの?」

「お、ルーチェ!聞いてくれよ。さっきからそれについて言ってんのによ、龍人の奴一切興味ねぇんだよ。」

「あらあら。そんなに興味がないという話ではないと思うのですが。」

「…いやいや、統一思想って聞いてなんのこっちゃって思ってたけど、魔法街統一思想って…更に胡散臭いじゃんかよ。」


 顔を横にズラして片目だけ開けた龍人は面倒臭そうな態度を崩さない。だが、ルーチェはそんな龍人の態度を見てもニコニコとした笑みのままであった。

 恐らく、龍人が興味を示すと確信しているのだろう。


「龍人くん魔法街統一思想は、ただ魔法街を1つに纏めるという単純な思想ではありませんわ。」

「ん?そうなのか?」

「えぇ。この思想が実現するとなると、魔法街という星そのものの存在が大きく変わる事になりますの。」

「…どういう事だ?」

「ふふ…龍人くんはどんな思想だと思っていますの?」


 いつもみたいにすぐに説明せず、何故か勿体振るルーチェ。それ程の思想なのか?…と思考を巡らせる龍人だが、どうせ答えた後に教えてもらえると考え直し、素直に思った事を口にする。


「ん~っと、魔法街統一ってんだから3つの魔法学院を1つの魔法学院にして、魔法教育を更に高度なものにする…って感じかな?」

「いい線いってますわ。それだと…そうですわね、半分正解といった所ですわね。」

「…今ので半分?」

「そうですわ。」

「ちょっと…その話私も気になるわ。」


 横から会話に割り込んできたのは火乃花である。


「私がさっき聞いたのは龍人君が言った内容だったわ。小さな喧嘩とかが絶えない3つの魔法学院が手を取り合い、互いの魔法教育技術を公開して魔法街の魔法教育を発展させる。それによって魔法使いのレベルが向上される。って言うのが皆が話している内容よ。…他にもあるっていうの?」

「ん~そうですわね、言ってしまうなら…その魔法学院を1つに纏めるというのは、魔法街統一思想の結果として存在するものの1つに過ぎないのですわ。彼らの目的はあくまでも1つなのです。それは…」

「お~いお前ら!ザワザワし過ぎだ!座れ座れ!」


 まさしく本題に移ろうとしていた時に教室に入ってきて大きな声を出したのはラルフ。機嫌が悪いのか頭をガシガシ書きながら教室の前まで歩いていく。

 いつもと違う様子のラルフに学院生達はシン…と静まり、自分の席へ移動すると全員がラルフが口を開くのを待つ。

 そんな様子の学院生達を見回したラルフは長い溜息をつくと、気怠そうに口を開いた。


「あぁっと…そうだな、今日は忙しいんだわ。悪りぃんだけど今日は休講だ。みんな勝手に過ごせ。じゃぁな。」


 一方的に告げたラルフは転移魔法を発動させるとすぐに姿を消してしまう。

 まさかの展開に学院生達全員がポカン…とラルフがいた場所を眺めるしか出来なかった。


(なんだ…?いつものラルフと比べると…面倒臭そうってよりも余裕が無い感じがしたな。あの面倒臭がりのラルフがねぇ…。ちっと気になるな。)


 ラルフが消えて少ししてからざわつき始めた学院生達を余所に龍人は椅子から立ち上がると教室を出るべく歩き始めた。


「あれ、龍人どこいくの?」

「ん?あの調子だと授業は無しだろ?だったらここにいてもしゃぁないから、特訓室でも行ってくるわ。」

「あ、俺も一緒にいこうかな。」

「え…そんなに俺と一緒に居たいのか?」


 嫌そうな顔で言う龍人にカチンと来たのか、遼は頬っぺたを膨らませる。…女の子の反応かい!というツッコミは置いておいて…。


「んなわけあるか!勝手に特訓室行けばいいじゃん。」

「ははっ。じゃぁそうするわ。」


 遼がムクれても大して気にした様子を見せない龍人は、笑いながら手をヒラヒラと振って教室から出て行く。

 ドアを後ろ手に閉めた龍人はヘラヘラした表情を消し去ると、真剣なそれへ変えた。遼をからかう言葉を口にしたのは、1人で教室から出るためである。罪悪感が無いと言えば嘘になるが、それでも龍人は1人で行動する事を選んでいた。ほぼ推測を根拠にした行動なので無駄足になる可能性が高いというのが理由だ。

 ともあれ、1人で教室を出る事に成功した龍人は特訓室には向かわず、教室の前にある転送魔法陣に乗ったのだった。

 転移の光に包まれ、視界が開けると…そこは街立魔法学院の正門すぐに描かれている魔法陣の1つだった。


(嘘つくのは忍びないけど…なんか嫌な予感がすんだよな。一先ずラルフがどこに行ったのか調べるか。…あの様子だと魔導師団関連か、ヘヴィー学院長絡みの何かだろ。)


 腕を組んで考え込む龍人の思考につい先程の会話がリフレインする。


(魔法街統一思想が何かする…か。もしかしたらそれ関係かもしんないな。ん~、何かするってなると…魔法街統一なら中央区かな。うし…外れてなんぼって事でまずは行ってみるか。)


 ルーチェは魔法街統一思想の本当の目的を知っていそうだったが、完全に聞くタイミングを逃していたため、あくまでも推測に基づく行動しか出来ない。しかし、決めたら即行動あるのみ。転移魔法陣を展開した龍人は、中央区に向かう為に魔法協会南区支部へ転移するのだった。


パチッ


 転移魔法陣に反応したのか、正門に一瞬電気が走る。

 そこに現れたのは…ルーチェだった。


「あらあら。龍人さんは勘が鋭いのですわ。では、私も行きますわ。」


 近所にお散歩にでもいくかの様に歩き出すルーチェ。その後ろ姿にはラルフの様なイライラした様子はなく、あくまでもいつも通りだった。





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