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Colony  作者: Scherz
第六章 終わりと始まり
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14-2-5.レイラとマリア~テングの苦悩



「じゃあ…早速私の魔法の使い方について教えるわよ。なんて、教師みたいなことを言っちゃう私ね。」


 自嘲気味の台詞を良く言うマリアだが、レイラはその辺りは気にしない事にしていた。元々そんな感じの話し方をするのは知っていたし、つい先程中央区で会ってから今に至るまで、同じような発言を何度かしているからだ。

 そういう口癖なんだろうな…程度の認識でいる事にしていた。それに、教えてもらう立場なのに余計なことを言って怒らせたら元も子もない。


「お願いします。マリアさんの防御結界の使い方…本当に凄いから楽しみだなぁ。」

「ありがとう。じゃあ…先ずは防御結界の基本である空間固定を外す方法ね。」

「うん!でも…難しいんだよね?」

「それがなんとも言えないのよ。私はすぐに出来ちゃったんだけど、今まで教えた人で私みたいに防御結界を動かせる人はいなかったわ。」

「え…そうなんだ。じゃあ出来ないつもりで頑張らないとダメかなぁ。」

「始める前から気を落とす必要は無いわ。先ずは試しましょう。」


 そう告げるとマリアは右手の前に物理壁を展開する。その物理壁はマリアが手を動かすと、それに合わせて移動する。

 なんら特別な事をした様には見えないが、これだけで防御結界の基本概念である空間固定が外されている事が分かる。


「何回見ても凄いなぁ。どうやって動かしてるの?」

「そうね…通常の防御結界は空間に発生させるイメージじゃない?それに対して今のは右手に装備するとか、エンチャントするイメージなのよね。」

「エンチャント…。やってみるね!」


 マーガレットの説明で何かを掴んだのか、レイラはやる気満々で右手を前に出して物理壁を展開した。

 そして、右手をゆっくりと上に持ち上げていく。すると物理壁がレイラの手に合わせて移動を…なんて事にはならなかった。


「…あれ?全然動かないね。」

「ん~そうね。私の教え方が悪いのかしら?エンチャントっていう考え方で駄目なら…自分に接している空間に展開するっていうのだとどう?」

「やってみる!」


 集中してマリアの言った通りのイメージをして物理壁を展開するレイラ。そして、恐る恐る手を動かすと。すると…魔法壁はレイラの手に合わせて動かずにその場に佇むのみ。


「…あれ?イメージは出来てるんだけど、なんか展開するとすぐに空間に固定されちゃう感じがあるよ。」

「やっぱり空間に固定発生させるっていう防御結界の基本概念は覆せないのかも知れないわ。」

「ってなると、マリアさんが防御結界を動かして攻撃に転用してるのって、マリアさんの属性の特性って事なのかな?」

「それはあり得るわね。同じ属性を持ってる人とあまり一緒になった事がなかったから比べる機会がなかったけど、レイラさん位の防御結界の使い手が出来ないとなると…そうかも知れないわね。」

「あ、そう言えばマリアさんの属性って何なの?」

「私の属性は極属性【鉄壁】よ。」

「そっか。防御に特化した属性だからこそ…なのかも知れないね。」

「かも知れないわね。そういうレイラさんはどうなのかしら?」

「あ、私は極属性【癒】だよ。」

「あら…!」


 レイラの属性を聞いたマーガレットは驚きを隠す事が出来ない。眉を上にあげ、両手を口元にもっていくという分かりやすい反応を見せていた。


「レイラさんって本当に珍しい属性を持ってるのね。私の属性【鉄壁】もかなり珍しいけど、【癒】はそれ以上よ。」

「え…そうなの?」

「えぇもちろん。私の属性は解釈の幅が狭いの。それこそ防御結界の空間固定っていう基本概念を解釈で覆すとかが限界なのよね。だって、守る事が基本だし。」

「それでも十分凄いと思うけどなぁ…。」

「そうなんだけどね、レイラさんの属性は私より凄いわ。防御結界が空間固定だとしても、そこら辺の魔法使い以上の防御結界を使えるし、何より属性の解釈の幅が物凄く広いわ。それこそ、別の属性と間違うんじゃないかっていう程にね。」


 レイラの属性をべた褒めするマリアだが、レイラはキョトンとした表情のままだった。

 どうやら本当に自分の属性が凄いという事に気づいていないらしい。

 まぁ、それもしようのない事ではある。何と言っても、レイラは自分が攻撃魔法を使えないというジレンマに長年苦しんできたのだから。

 最近になって漸くその苦しみから解放されつつあるレイラとしては、自分の持つ属性がそんなに凄いとは思えないのだった。


「…?レイラさん、あなた自分の属性が凄いって思ってないでしょう?」

「うん。みんなを守る事しか出来なくて…。」

「?…もしかして、レイラさんって魔導師団で戦うときに防御結界中心の防御専門なのかしら?」

「そうだけど…?」


 この答えにマリアは再び驚きのポーズを取る。


「えっと…そうね、なんて言ったら良いのかしら。レイラさんの属性なら防御も大事だと思うけど、仲間に支援魔法を効果的に使うのが良いと思うんだけど…。」

「え、それって…マリアさん!」

「えっ…な、なに?」


 いきなり大きな声を出すレイラにマリアはビクッと反応する。だが、彼女を驚かせた事に気づかないレイラは真剣な眼差しでマーガレットを見つめていた。


「マリアさん、無理なお願いかも知れないんだけど…私に戦い方を教えてくれないかな…?私ね、皆の力になりたいの。」

「……。」


 突然言われたお願い。それは、防御結界の使い方を教えるとかそういうレベルでは無く、根本的な戦い方に於ける考え方で、防御結界の効果的な使い方、支援魔法をどう使うか…と言った様々な要素を伝える必要があるとても難しいものであった。

 普通なら断るレベルのお願いである。何と言ってもマリアも魔法を学ぶ学院生の1人であり、正直に言えば他人に時間を割く必要は無いのだ。


「…良いわ。私が色々教えてあげる。ただし、レイラさんの防御結界の使い方とか、私も盗ませてもらうわよ?」

「ありがとう!私、頑張るね!」


 しかし、マリアが出した答えはレイラに教えるというものだった。

 勿論慈善的な意味合いだけで承諾したのではない。レイラが扱う防御結界は、防御のスペシャリストであるマリアから見ても素晴らしい使い方をしている事があるのだ。

 レイラに自分の知っている知識を伝えつつ、レイラの技術を自分のものにするというギブアンドテイクの関係が成り立っているのだ。


「じゃあ…そうね、防御結界の効果的な使い方を教えるわよ?」

「うん!」


 こうして、いがみ合う2つの魔法学院生の学院生が中央区にて交流を深めていくのであった。


 手を取り合う異なる魔法学院の学院生。

 いがみ合う異なる魔法学院の学院生。

 彼らが選択する道は、彼らがこれまで…そしてこれから選択する道が重なることで1つの道を形作っていく。


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


 魔法街行政区にある魔法協会本部星間交易課。ここはその名前の通り、他の星との交易を中心に取り扱う部署である。

 魔法街の技術を他星へ提供したり、他星から技術を輸入したりしながら、魔法街の発展をリードする重要な部署である。

 この部署で1番の新人でありながら、その仕事ぶりに1番期待されている人物がいた。

 パッと見はおぼっちゃま育ちかと思う外見…前髪を下ろした黒髪短髪に、左目の下にあるホクロが目立ち、眼鏡…の男。彼の名をテング=イームズという。


「いやぁ…まさかここまで話が一気に進むとは思いませんでした。」

「何を言う。テング君がこれまで地道に続けてきた努力が実ったという事じゃないか。流石はモニター技術を輸入して行政区の中枢に引き抜かれた逸材だよ。」

「ありがとうございます。でも、今回は第8魔導師団の活躍のお陰で両星の信頼関係が築かれたのが要因です。これが無かったら、多分ここまでの話にはなっていないはずです。」

「謙虚だねぇ…。まぁそういう事にしておくか。じゃあ、この後の交渉も確実に頼むよ!」


 テングと話していた上司はポンっと肩をたたくと自分のデスクに戻っていく。その背中に向かって軽い一礼をしていたテングは、上司の姿が見えなくなったところで自分の椅子に座り、溜息を吐いた。


(確かに僕の任務としては大きな前進なんだけど…この交渉を続ける意味がね。)


 テングが進めていた交渉とは…機械街から自動車技術を輸入するというものである。

 元々、魔法街からクリスタル技術を輸出し、機械街から液晶技術を輸入するという星間交渉には成功していたので、ある程度のパイプは繋がっていた。

 しかし、自動車技術に関しては機械街にとっても主要技術の1つであり、中々対価として見合う技術が見つからずに交渉が難航していたのだ。

 そんな最中…第8魔導師団が機械街での紛争において活躍し、機械街街主の信頼を得た事で交渉が一気に進んだのだ。

 機械街が自動車技術の代わりに要求してきたのが魔法陣技術である。正直なところ、見合った技術の交換か微妙なところではあるのだが…どうやら龍人が使う魔法陣のインパクトが強かったらしく、機械街でも取り入れてみようという大きな動きがあるらしいのだ。


「困ったなぁ…。」


 機械街との交渉が進み、自動車技術を輸入できるのは魔法街にとって大きな進歩であった。

 しかし、テングは手を放して喜ぶ事が出来なかった。周りからの期待は大きく、誰しもがテングが交渉を成功させて自動車技術を輸入する事を待ち望んでいた。

 そのプレッシャーに押しつぶされそうなのだろうか。浮かない顔をしたテングがは席を立つと、通信室に向けて歩き出したのだった。


 通信室に到着したテングは、機材を操作し…目的の相手と通信を開始する。前に置かれたモニターに映し出されたのは、機械街の外交官。では無く、ヒーローズのリーダー朱鷺英裕だった。



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