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Colony  作者: Scherz
第六章 終わりと始まり
785/994

14-2-2.魔法街統一思想



☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


 魔法街中央区は以前にも述べたとおり、特殊なルールの下に運営されている区である。

 その一番大きな特徴と言えるのが、中央区に出店されている店舗の場所が毎日ランダムに変わるという点であろう。これには行政区の許可を得た店のみが中央区に出店できるという背景を前提とし、それらの店間での立地差を無くす為という理由がある。

 また、中央区には行政区の許可があれば他星の業者でも出店できるのも、他区との大きな違いに挙げられる。

 魔法街では魔法学院に進学する者以外に他星の存在を知らせないという暗黙のルールがある。そもそも、何故このような暗黙のルールが出来たのか。それは、魔法街戦争が引き起こされた事に起因する。魔法街という街を守る為、そして魔法街という魔法が日常の生活の一部として存在している星だからこそ、生活する人々に誤った情報を与えないためにこのルールが作られたのである。

 そして、このルールがあるからこそ他星の業者が出入りする中央区へ立ち入るには、各区の魔法教会支部から通行許可証を発行してもらう必要があった。

 魔法街の様々な背景が絡んだ事によって制定された中央区のルールだが、一部例外も存在する。

 それが魔法教会中央区支部だ。この建物は中央区で行政関係の業務を引き受けている重要機関であり、毎回場所が変わってしまうのは大きな問題である。従って、魔法教会中央区支部は中央区の中心に常にあり、毎日ランダムに建物の場所が変わるルールは一切適用されていない。

 この魔法協会中央区支部の位置が固定というルールは、中央区で催される様々なイベントにとって重要なものとなっていた。毎日毎日建物の場所が変わる中央区では、イベントの場所を事前に指定する事が困難なのだ。つまり、魔法協会中央区支部がイベント会場として使われる事がとても多いのである。


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


 中央区に到着したマーガレットは目的の図書館の場所をどう探そうか悩んでいた。この中央区、数多くの店舗が立ち並ぶのは良いのだが…何せ毎日その場所が変わるので、目的の店を見つけ出すのが困難なのだ。

 魔法協会中央区支部にある掲示板に有志が場所を書き込んでいるので、目的の場所がそこに書き込まれていれば…なのだが。そもそも図書館は各区にある為、わざわざ中央区にまで足を運ぶ人が少ないのも事実。こういう背景から図書館の場所を書き込む人が殆どいないのである。


(このまま中央区支部の掲示板を見に行くのも良いですが、それよりは図書館を自分で探した方が早いかも知れませんわね。…でも、もし図書館の場所が掲示板に書き込まれていたら、後で後悔ですわね。先ずは掲示板を見に行きますの。)


 東区からの転送魔法陣前から中央区支部へ歩き出すマーガレット。


(そう言えば、前にお父様が中央区常連の店舗の位置を掲示板に反映させるシステムが開発されていると言っていましたわね。…確か、魔法学院対抗試合が行われた時に設置された巨大なモニター技術を輸入したのと同じ人が主導しているらしいですわね。しかも同時並行で機械街から自動車技術の輸入交渉もしていると言っていましたわ。…相当なやり手ですわね。1度会ってみたいものですわ。)


 つい最近父親から聞いた話を思い出しながら歩いていると、通りの向こう側から何やら怒鳴り声が聞こえてくる。


(…なんですの?野蛮ですわね。)


 面倒なものに遭遇した…と思いつつも野次馬根性で近づいていくと、そこでは4人の若者が2人と2人に分かれて言い争いをしていた。

 その剣幕は凄いもので、今にも魔法を駆使した喧嘩が始まりそうであった。


「んだこらぁ!?俺たち街立の事をそれだけで馬鹿にするってのかよ!?」

「はっは~ん。そうだろうが?なぁんにも考えないでボケっと歩いていて、人様の肩にぶつかるんだからよ。街立にいる奴らはどいつもこいつも腑抜けでこまるよぁ?」

「…ぶつかってきたのはお前達だろうが!こっちは避けようとしたのに、お前達がわざわざぶつかるように寄ってきたんだろ!」

「はぁぁぁ?何を言い掛かりつけてんだよ。こりゃぁ街立の名も地に堕ちてんなぁ?ったく…相手にしてるこっちが馬鹿馬鹿しくなってくんぜ。」

「…いい加減にしろよ!」


 街立魔法学院の学院生2人は我慢の限界に達した様で、1人は水魔法を、もう1人は風魔法を周囲に展開させる。


「お、街立様が怒りなさったぜ?先に手を出したのはあっちだから、ここで俺たちがこいつらをぶっ倒しても正当防衛ってことだな。」

「あぁ。街立の奴らは頭が悪いからすぐに手を出してくんのな。ちょっとした憂さ晴らしのつもりだったけど、こりゃぁいい感じに発散できそうだぜ。」


 悪い笑みを浮かべるダーク魔法学院の2人に対し、街立魔法学院の2人は単純に言い掛かりをつけられた事に対する憤りに満ちていた。

 間も無く始まりそうな喧嘩を察知した周囲の人々は、円を描く様にして遠巻きに眺めている。とは言え、止めようとする人は1人もいない。寧ろ街立とダークのどちらが勝つのかを楽しみにしている様な節さえあった。

 ダークの2人は周囲に闇魔法を展開しながら嫌らしい笑みを浮かべている。

 誰がどう見てもダークの2人が悪者なのは間違いない…が、今回は…である。今回はダークから言い掛かりを付けたのだろうが、それは時によっては街立にも、シャインにもなるのだ。そして、この大した事のない小さな喧嘩は中央区で頻発している問題でもあった。

 各学院共にホームルームで他学院と揉めない様に言っているのだが、今の所効果は余り出ていない。喧嘩の度合いも日々激化していて、中央区の警察による取り締まりも以前よりも厳しくなっていた。

 現に今も野次馬の外側から警官が様子を眺めている。その数4人。白い制服は縁が黒と赤の刺繍で彩られ、白い帽子には金の杖が刺繍されている。遠目からでも目立つ格好なので見間違いはない。

 つまり、ここで周りを巻き込む様な喧嘩に発展してしまえば、この4人の学院生は警察の厄介者になってしまうという事だ。


(…全く、私のいるシャイン魔法学院も含め、どこにでもどうしようも無い人ばかりですわね。ここまで学院同士が諍いを起こす意味が分かりませんの。とにかく、このまま喧嘩が始まって警察に捕まるのを見ているのは気分が悪いですわね。)


 マーガレットは野次馬を掻き分けて4人の学院生に近付いていく。野次馬の輪を抜けると一触即発の状況になっていた。殺気立った学院生達にもはや周りの野次馬達は目に入っておらず、このまま喧嘩が開始されれば周囲の野次馬が巻き添えになり、4人が逮捕されるのは確実であった。


「ちょっとあなた達!今の状況を恥ずかしいと思いませんの!?」


 突然大声を出して割り込んできたマーガレットに、街立とダークの学院生4人は殺気立った目線を向ける。


「あんだよこら?因縁を付けてきた街立の奴らの性根を叩き直してやるだけだよ。」

「はぁ!?因縁つけてきたのはそっちだろ!何調子に乗ってんだよ!」

「あぁん?そもそもてめぇらがぶつかってきて…」

「それこそお前達が始まり…」

「うるさいですの!」


 再び始まりそうになった口論を一括したマーガレットは、バンっと胸を張って見回す。


「あなた達!街立魔法学院とダーク魔法学院の学院生ですわよね?その学院生とあろう者が、この往来で喧嘩だなんて…恥ずかしいと思いませんの!?」

「はぁ?何言ってんだし。」

「そうだそうだ!こんな喧嘩、しょっちゅうある事だろ?」


 恥ずかしさゼロの学院生達にマーガレットは盛大に溜息を吐かざるを得なかった。


「…だから、こんな事ばっかだから3つの魔法学院が仲良くならないのですわね。」


 ボソッと感想を漏らし、首を横に振り、目を瞑り…次に目を開けた時、マーガレットは猛獣の様な視線を学院生達に向けていた。


「あなた達、ここで喧嘩をして周りの人を巻き込んだら警察に捕まりますわよ?野次馬の外側に4人程警察官がいますわ。」

「あ?…んなの関係無いな!こういう生意気な奴らは1回叩き潰さないと分からねぇんだよ!」

「んだと!?性根が腐ってんのはてめぇらだろうが!」


 何を話しても聞く耳を持たない学院生4人に対し、マーガレットの我慢も限界を迎える。下を向いて爆発しそうな怒りをどうにか抑えた彼女は、いつもよりも大分低い声で宣告する。


「そうですわね。言っても聞かない性根の腐った人達は1回叩き直すのが1番ですわね。」


 ブワっとマーガレットの周りに赤い風が出現する。融合魔法【風火】だ。風をベースにし、火の属性を追加する。つまり、発火効果のある風という事になる。


「さぁてと、言っても分からないあなた達…覚悟しますのよ?」


 …5分後。同じ場所に黒焦げの学院生4人が仲良く並んでいたのは、当然の結果であろう。


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


 中央区にある図書館。ここには他区にはないマニアックな書物が置かれている事で有名だ。いや、正確に言えばマニアックな蔵書しかないのだ。だからこそ需要が少なく、日々多くの人で賑わう中央区において人の少なさに定評があるスポットでもあった。

 その図書館にある読書スペースで、マーガレットは大量の本を横に積み上げて机に突っ伏していた。


「…ありませんの。」


 図書館の蔵書を片っ端から調べていたのだが、どうにも魔法街の統一に関する思想が載った書物が見つからないのだ。

 その他の思想に関する記述はあるのだが、何故か統一に関わる記述が全く無い。それこそ…意図的に消し去ったかの様に。


「意味が分かりませんわ。そこまでマイナーな考え方だとは思いませんの。それが文献としてないっていうのは…」

「それは行政区が魔法街統一思想を疎ましく思ってからだな。…つっても、一部の超保守派が強硬してんだけどな。」

「………!?」


 いきなり思考を埋める様に言葉を挟まれて、マーガレットは驚きと共に顔を上げる。すると、そこには真っ黒な鎧を着た大男が威厳のある笑みをたたえて座っていた。



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