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Colony  作者: Scherz
第六章 終わりと始まり
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14-1-3.覚悟



 ラルフとジャバックが教室を離れてから1時間後、街立魔法学院のグラウンドには2年生上位クラスの学院生達が集まってきていた。

 集合時間よりも早めにグラウンドに到着していた龍人、遼、火乃花、レイラの4人はグラウンドに入ってくるクラスメイト達を見ていた。


「思ったよりもみんなの表情が明るいな。」


 クラスメイトの表情に注目していた龍人がボソッと漏らすと、横で火乃花が頷く。


「そうね。まぁ…元々強くなる為に努力をしてきたメンバーだしね。だからこそ2年生上位クラスにいるんだし。それを考えたら、あの程度の脅しみたいな文句で逃げる人は少ないと思うわよ。」

「…確かにな。」


 龍人の言った通り、上位クラスの学院生達の表情はなんらいつもと変わりが無いように見えていた。普通に談笑をしている。

 時間になると、転移魔法の光がグラウンドの中央に現れ…その中からラルフとジャバックが姿を現した。


「お…おぉ、全員いるみたいだな。」

「ほぉ…流石は街立魔法学院の上位クラスに居る者達という事か。」


 やや驚きの表情を浮かべるラルフと満足気に頷くジャバックの反応の違いが印象的ではあるが、これで2年生上位クラス全員で前期試験へ向けた授業を受ける事が決まった。

 クラスの全員が見つめる中、ジャバックが一歩前に出ると口を開いた。


「さて、お主らには謝らねばならぬ。あの時、我は敢えて厳しい言葉を掛けた。だが…、それでも全員がこの場に来た事、我は嬉しく思う。」


 謝罪と感謝の意を述べるジャバックに対して学院生達が意外感を示すが、当人は特に気にした様子も見せずに続けた。


「さて、まず魔獣との戦い方だが、基本的には対人戦とは大きく変わる事がない。大きく違うのは、殺傷能力に特化した自分固有の魔法を習得する事だ。誤解が無いように言うが、固有技ではないぞ。お主らが得意とする攻撃魔法を更に研ぎ澄ますという意味だ。これからの実践授業では、その魔法を習得する事、又は種類を増やす事を第一優先とする。それと並行して行うのが支援魔法の習得だ。この中で支援魔法に長けた者はいるか?」


 ジャバックが周りを見回すが、学院生達は誰1人手を挙げようとしない。


「…ラルフ。第8魔導師団の者達とも話して思ったのだが、魔法街では支援魔法を教えてないのか?」

「あぁ…それなんだけどよ、個人個人で無詠唱魔法を使って自分を強化するのが基本になってるから、支援魔法ってあんま需要がないんだよな。まずは攻撃と防御を使いこなせるようになって、そこから先、更に上を目指す奴を対象に教えるのが通例だ。」

「む…文化の違いというものは凄いな。では、全員が自分で自分を強化して戦っていると?」

「あぁ、その通りだ。俺達教師陣でも死ぬ気で戦うって時以外はあんま支援魔法は使わないぞ。」

「…成る程。魔法が当たり前の文化ではそうなるか。」


 なにやら難しい顔をしてジャバックは考え込んでしまう。

 今の2人の会話から推察するに、魔法街は全員が魔法を使えるから自分で自分を強化すれば事足りていて、機械街のように魔法を使える人物が限られる文化圏では魔法を使える者が使えない者への支援魔法を使う事が基本となっているという事だろう。


(…となると、支援魔法にどんだけの効果があるのかってのが論点になってくるよな。)


 龍人の考え通り、支援魔法の効果が無詠唱魔法による自身の強化と同じ程度なのであれば…正直な所、習得する必要性を疑ってしまう。どうやらジャバックも同じ事を考えていたようで…。


「うむ。それならば、実際に支援魔法を体感してもらう方が良いか。では、龍人と火乃花に実演してもらおう。」

「え、俺?」

「なんで私なのよ。」


 2人とも嫌そうな反応を見せるが、ジャバックによる無言の圧力でシズシズと前に出る事になる。


「まずは龍人に支援魔法を掛け、火乃花に攻撃をしてもらう。そうだな…火乃花は超高熱の塊を同じ威力で2回撃ってもらおう。龍人は属性付加をしない通常の魔法壁を可能な限り強化して火乃花の攻撃を受けてもらう。」

「げ…まてまてまて!火乃花が本気で高熱の塊を撃ったら、魔法壁じゃぁ防ぎきれないだろ!しかも…2回ってどういう事だよ?」

「それは簡単。1回目は支援魔法無し。2回目は支援魔法有りで受けてもらう。これで支援魔法の効果を視覚的に確認出来る。」

「…いやいやいやおかしいだろ!?」


 必死に逃れようとする龍人の肩にラルフの手が置かれる。


「龍人…。どんまいだ。」

「それならラルフが受ければ…。」

「俺は何かあった時に周りの生徒を守らなきゃならないからな。」

「龍人君いいじゃない。ここで無駄な時間を使うのは惜しいわ。まずは1発目…いくわよ?」

「…へ?」


 焦る龍人が振り向くと、真上に上げた右手の上に燦々と輝く熱の塊が浮かんでいた。ここで龍人は気付く。火乃花は楽しそうに笑顔を浮かべているが、これから放とうとしている魔法に込めた威力は…本気のそれである事を。


「…マジかよ。」


 気付けば逃げられない状況に追い込まれていた事に悔しい思いを抱きつつ、龍人は魔法壁を張るために魔法陣を展開、発動する。

 龍人の前方に魔法壁の特徴である球体の結界が現れる。しかし、今の強度では一瞬で破れられてしまう。龍人は可能な限り魔力で魔法壁を強化していった。


「そろそろだな。では火乃花、放つが良い。」

「分かったわ。」


 躊躇なく火乃花が熱の塊を龍人に放つ。同時にラルフとジャバック、その他の生徒達は五角形を繋ぎ合わせた結界…魔法障壁を張って身を守っていた。


(意味わかんないし!)


 声を大にして抗議の声を叫びたい龍人だったが、熱の塊の着弾がそれを許さなかった。爆発と同時に渦巻く高熱の嵐が魔法壁をを軋ませ…砕き、龍人はマンガで出てくるコントの様に吹き飛んで行ったのだった。


「うむ。中々の攻撃だ。皆の者、今のが支援魔法無しの状態で受けた場合の結果だ。良く覚えておく様に。」


 龍人の安否を余り気にしていないジャバックの言葉に、全員が無言で首を縦に振ったのだった。


 数分後。

 グラウンドの隅まで吹き飛ばされていた龍人はラルフによって見つけられ、逃げられない様に拘束された状態でグラウンドの上に転がっていた。


「待て!解放しろ!俺が何をしたってんだ!」

「何をって逃げようとしただろ?そりゃぁ捕まって縛れるわな。」


 しれっと当然の様に言うラルフに対して、龍人の中に殺意が芽生える。…が、縛れている現状で何かが出来る訳も無く、睨みつける事しか出来ない。

 ここでジャバックが冷静に龍人に問いかける。


「さて龍人、1つ問おう。お主は今の攻撃を魔法壁の枠内だけで強化をして受け切れると言えるか?」

「…それは、例えば魔法壁【炎】とかの属性付加をしてもいいのか?」

「無論だ。」

「…耐えきれなくはないと思うけど、いや、多分厳しいと思う。魔法障壁とか遮断壁を使っていいならいけると思うけど。」


 龍人の回答は最もなものであった。魔法障壁は魔法壁の強化版であり、そこに属性付加を行えば火乃花の攻撃を防げる可能性は高い。更に属性防御に特化した遮断壁なら尚の事。遮断壁は展開する魔法使いが自身の扱える属性以外の属性指定が難しいという難点があるが、生憎龍人は殆どの属性を操る事が出来るので問題がない。

 さて、龍人の返答を聞いたジャバックが口端を持ち上げた。


「うむ。あの威力の攻撃ならばそうなるのは当然。では、次は我がお主に支援魔法を掛けよう。お主が最大強化状態で魔法壁を張った所に魔法強化と耐熱の支援魔法を掛ける。そして、その上で先程と同じ攻撃を受けてもらう。」

「…それ、本当に大丈夫なのか?」

「我としては大丈夫だと思うが。先程の攻撃を受けて死ななかったのだ。間違っても次に死ぬ事はあるまい。」

「死ぬ事はって…。」

「火乃花、準備をせよ。」

「分かったわ。」

「……はぁ。」


 龍人の意思を完全に無視されている状況に溜息しか出ない龍人であった。火乃花が高熱の塊を生成し始めたのに合わせ、龍人も魔法壁を最大強化状態で発動する。


「よし。では龍人に支援魔法を掛ける。」


 ジャバックから放たれた光が龍人に降り注ぐ。すると、思った以上の感覚が龍人を驚かせる。


(…マジか。)


 外見上大きな変化は無いのだが、その中身は大きく違っていた。まず、魔法壁を龍人が出来るの最大強化状態にしていたのにも関わらず、ジャバックの支援魔法がかかった瞬間に数段階強化状態が引き上げられていた。更に、属性【熱】の支援効果により魔法壁に耐熱効果が付与されていた。

 この効果は龍人1人でも出来るものだが、先程と同じ魔力しか使用していないのにも関わらず、ここまで性能が変わるとなれば支援魔法も馬鹿には出来ない。…と、龍人が分析している間にジャバックが爆弾?発言をしていた。


「火乃花。先程よりも強い攻撃を撃ってみるが良い。」

「え…。大丈夫なの?」

「無論。」

「…じゃあ、遠慮なくいくわよ?」


 火乃花の頭上に浮かぶ熱の塊が更に凝縮されて小さくなってから、再び質量を増していく。それに伴い熱量も比例して上がっていき、さながら小さな太陽のようになった。

 そして、それは容赦なく龍人に向けて放たれる。


(いやいやいやいやおいおいおいおい!これはまずいだろ…!こんなの魔法壁で受け止めるレベルじゃないって!)


 確かにジャバックの支援魔法で魔法壁の耐久力は上がっているが、正直なところ龍人は先程と同じように自分が吹き飛ぶ絵が頭に浮かんでいた。

 逃げたい気持ちで一杯の龍人だったが時すでに遅し。目の前に迫る熱の塊が正しく魔法壁に着弾しようとしていた。


(はは…なんか俺ってやられキャラじゃね?)


 自分の境遇を嘆きながら龍人は諦める。再び爆発に巻き込まれて吹き飛ばされる事を覚悟し、全てを受け入れる。

 そして、火乃花の攻撃が着弾し…高熱が荒れ狂う爆発が辺り一帯を呑み込んだ。



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