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Colony  作者: Scherz
第五章 機械街 立ち向かう者
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14-1-1.覚悟



 龍人達が機械街から魔法街に戻ったのは5月下旬。そこからは通常の学院生活を送る毎日が続いていた。

 勿論、魔導師団としての任務はあったが、機械街に行った時ほどの大きな任務は無く、第8魔導師団が所属する街立魔法学院がある魔法街南区の治安維持の為に駆り出される程度である。

 機械街で紛争という大きな節目となる事件を経験した所為か、のんびりとした日常は龍人達の傷付いた心を少しずつ癒していた。


「よしっ。今日も頑張るかー。」


 家を出て大きく伸びをした龍人は晴れ渡る空を見上げる。春が過ぎ、夏へと季節が移りつつある空はどこまでも青が広がり、風に流される雲が形を変えていく。

 日付は6月1日。8月から夏休みに入る街立魔法学院では、前期の試験に向けた授業が今日から始まる事になっていた。

 ラルフが言うには、複合属性と融合属性をどこまで使用できるようになっているかのテスト…との事だが、実は龍人にとって大きな問題があった。それは、複合魔法は元々使っていたからほぼ問題がないのだが、融合魔法を全く使う事が出来ないのだ。

 魔法陣を使って複合魔法を発動する場合、2つの属性の魔法陣を縦に重ねれば複合魔法として発動する事が出来る。一方、融合魔法を発動する為には…融合魔法を発動させるための魔法陣を組み上げる必要があるのだ。言うのは簡単だが、龍人にはその魔法陣の組み方がさっぱり分からなかった。ラルフや他の教師陣にも聞いたのだが、魔法陣以外で融合魔法を発動できる彼らには、龍人が求める知識を持つ者はいなかった。

 とまぁこんな訳で、街立魔法学院に向かう龍人の心はどこか晴れないものだったりもする。

 この問題に関しては試行錯誤を繰り返して、目的の魔法陣を完成させるしかない。もしくは図書館の蔵書から魔法陣に関するものを片っ端から調べていくか。…どちらにせよ根気のいる作業である事に間違いは無かった。

 家を出た龍人はのんびりと街魔通りを歩いていく。丁度通学の時間と被っているからか、周りには龍人と同じ様に街立魔法学院の制服を着た人が大勢同じ方向に向けて歩いている。


(にしても…何かこの平和な感じが微妙にまだ違和感なんだよな。まぁ、平和なのが1番なのは間違い無いんだけどさ。)


 両手をポッケに突っ込みながら歩く龍人は、突如後方から殺気を感じとる。

 何時もなら体を回転させて対処に移る龍人だが、禁区で得た龍人化【破龍】のお陰で、もっと簡単に対処する事が出来る様になっていた。

 一瞬だけ龍人化【破龍】を発動するのと同時に後方に魔法陣を構築、後ろから迫る殺気を放つ者を対象に重力場を形成する。ズンっという音と共に殺気が消え去った。


「よっ。今日は俺の勝ちだな遼。」

「うぅ…なんか龍人さ、反則的に強くなってない?」


 後ろを振り返った龍人は重力によって地面に這いつくばっている遼を見て笑う。重力場が消えると、遼は拗ねた顔をして立ち上がった。


「まぁ…この力を使える様になる為に、正直死にそうにもなったしな。」

「ん~なんか納得いかないなぁ。俺だって刻印の力を使える様になって、大分強くなったと思ったんだけどなぁ。」

「確かに…ってか、刻印の力をフルに解放して戦われたら、多分互角位じゃないか?」

「ん~1撃の重みで龍人に軍配が上がる気がするけど。」

「どうだろうな。今度試してみるか?」

「え…龍人と戦うと疲れるからなぁ…。」

「なぁに消極的になってんだし!」


 バンっと龍人が背中を叩くと、遼はむせる。


「いったいって!」

「わりぃわりぃ。」


 仲良しさ全開で笑いながら歩く龍人と遼である。2人はそのまま街立魔法学院に入り、2年生上位クラスへの転送魔法陣に乗る。

 転送魔法陣による転送が終わると、いつも通りの光景が広がっていた。

 机の上で突っ伏して爆睡するバルク。席に座って静かに読書をするスイ。ニコニコと笑いながらクラスメイトと談笑するルーチェ…話し相手は2年生から同じクラスになった杉谷ちなみだ。茶色のボブストレートにクリッとした瞳、アヒル口が可愛い火乃花と同じレベルの巨乳を携える女の子である。他にも1人で窓の外を眺めるサーシャ、ボケっと天井を眺めるタム、鏡を見ながら自慢の天然パーマをいじり続けているクラウン…と、比較的仲が良いメンバーは思い思いに授業までの時間を過ごしていた。

 龍人と遼が教室に入ると、ルーチェが右手を上げて龍人と遼を呼ぶ。


「龍人くん!こっちに来て欲しいのですわ~!」


 やけに元気なルーチェに呼ばれた龍人と遼は、朝の挨拶をしながら2人に近づく。


「おはよっさん。どうしたんだ?」


 これに大してルーチェは楽しそうにニコニコと微笑んでいる。


「実はですね、先程ラルフから聞いたんですが…今日からの授業は、試験に向けて2人1組で実践授業をするそうですわ!そして、その試験が楽しそうなのです!」

「え…私、絶対に大変だと思うんだけどなぁ。」


 不安を漏らすのはちなみである。胸の前で両手を組み合わせて不安そうにモジモジする姿は、見る人が見ればハートを射抜かれること間違い無しだ。

 とは言っても、龍人もハートを射抜かれそうになる1人だったりもするのだが、そんな事にいちいち突っ込んでいてもしょうがないので、その辺りはスルーする。


「どんな試験なんだ?」

「知りたいですの?」


 何故か思わせぶりな態度を取るルーチェ。ここまで楽しそうにするという事は、相当な試験が待っているのだろうか?


「ねぇ、その試験の内容、私も知りたいわ。」


 話に割り込んできたのは火乃花だ。機械街dから帰ってきてから、落ち込んでいるような雰囲気をたまに見せる彼女であったが、今はいつも通りの火乃花である。


「あら、火乃花さんも知りたいのですわね。では…お教えしますわね。」


 ふふ…っと笑ったルーチェが口を開こうとした瞬間である、大体こういうタイミングでラルフが教室に入ってくるのだが、今日もその期待に違わず大きな声を出しながらラルフが教室に入ってくる。


「よぉ~し!みんな席に座れ~!」


 ここまではいつもと同じ。だが、ラルフの後ろについて入ってくる人物がいる所がいつもと異なる点であった。

 ラルフの後から教室に入ってきたのは2人だ。

 1人はレイラ。両手に何かの冊子を抱えて歩いている。表情からそこそこに重たいのが見て取れる。普通なら男に頼むのでは…?と思うが、恐らく偶然見つけたレイラを強制的に連れて行ったのだろう。ラルフならそれくらいの事は平然とやってのける。

 ここまではまぁ…たまにあると言えばたまにある光景。

 だが、レイラに続いて入ってきた人物を見た街立魔法学院2年生上位クラスの学院生達は、図らずとも教室内をどよめきで埋め尽くす事となる。

 因みに、1番大きな反応を見せたのは…龍人だ。「……はぁ!!?????」と、大声を上げてフリーズ。

 クラスの学院生達がどよめいたのは、レイラの後ろに続いて入ってきた人物の風貌にあった。

 その人物は紺色の袴を履き、金が混じった白髪を揺らしていて、鍛え抜かれたムキムキの上半身は裸…という奇抜な、というか奇妙な?格好をしていた。一般的には考えられない格好だが、その人物が醸し出す雰囲気は何故かその格好でも納得出来るものでもあったりする。学院生達が驚いたのはこの格好だが、龍人が驚いたのは…その人物そのものに関してだった。

 つまり…顔見知りの人物。…そう。機械街で出会ったあの人物であった。


「…なんでお前がここに来るんだよ?…ジャバック!」


 動揺を隠せない龍人の叫び声が教室の中に木霊する。


「うむ。ただ魔法街に来ただけではつまらぬからな。他の星の魔法技術を学ぼうかと思い、入学させてもらうことにした。何を驚く事がある?」


 さも当然…といった態度のジャバックだが、その常識は龍人には…いや、他の面々にも全く通じていなかった。第8魔導師団の4人は予測不能なジャバックの行動に絶句し、金魚のように口をパカパカと開け閉めしている。

 そもそも、魔法街に着いてきたジャバックは「用事がある」と言って1週間近く姿を消していたのだ。それ以降音信不通だと思っていたら、いきなりクラスメイトとして現れるのだ。驚かないわけがない。


「なーんてな!はっはっはっ!いやぁ…第8魔導師団っていうエリートがそんな面すんなって!ぷっ…くく…ははは!あーウケた!」


 頬をタプタプ揺らしながら笑いまくるラルフについていけず、学院生達はフリーズしたままだ。しかし、次第に状況を理解し始めた学院生達は怒りの目をラルフに向け始めた。

 その中でも1番怒りを露わにしたのは、勿論火乃花…ではなく龍人だった。火乃花は何故か目線を逸らして溜息をつくに留まっていた。普段なら激昂しそうなものだが…それともセクハラではないから怒らないのか。

 …とにかく、ラルフの笑えない冗談(龍人にとって)に眉をピクピクと痙攣させた龍人は魔法陣を展開する。


「ラルフ…そーゆーおふざけは意味が分かんないぞ?」


 パチッと電気が弾け…雷で出来た巨大な手がラルフを掴まんと伸びる。しかし、ジャバックが放った雷によって相殺されてしまい、ラルフはニヤニヤと笑うのみであった。

 龍人としてはそこまで本気だったという訳ではないが、ここまで綺麗に相殺されてしまうと怒る気すら無くなってしまう。


「はぁ…ジャバック、今のはラルフが雷を受けて黒焦げになる場面だぞ?」

「む…?そうか。今のはラルフが被弾してウケる場面だったのか。お笑いというのは難しいな。」

「ん…?いや、お笑いっていうか…まぁいいや。んで、ジャバックがいる本当の理由は何なんだよ。」


 ジャバックと話していると、どうも調子がおかしくなるため、龍人はラルフに向けて問いかける。


「えっとだな…ジャバックがいる理由をちゃんと教えてくれ。」

「おう。ジャバックは街立魔法学院の臨時教師として力を貸してくれることになった。多分本気で戦ったら俺とどっこいか…それ以上の実力者だ。」


 これを聞いて教室の中が一瞬どよめきに包まれる。それもその筈…消滅の悪魔という凶悪な異名を持つラルフが、自分より強いかもしれないと認めたのだ。ジャバックの事を知らない生徒達は見た目は強そうなジャバックに懐疑の目を向ける。火乃花やレイラ、遼もジャバックが本気で戦っている姿を見ていないので、やや疑い気味である。

 逆にラルフの言葉を信じているのは、実際に戦った事がある龍人とマーガレットの2人だけだった。

 まぁ…生徒達が信じようと信じなかろうと、ジャバックが臨時教師として教鞭を振るうことに変わりは無いのだが。


 ともかく、夏休みを前にしてジャバックの臨時教師就任というサプライズを経て前期試験へ向けた授業が幕を開けた。


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