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Colony  作者: Scherz
第五章 機械街 立ち向かう者
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13-8-2.魔法街への帰還



 男の子が首を傾げた理由が分からない龍人は、男の子の動きを反復するようにして首を傾げる。


「えっと…何か分からない事があったか?」

「え?龍人の兄ちゃんは何を言ってんだ?龍人の兄ちゃんはビスト兄ちゃんの友達だよな?」

「あ、あぁそうだけど…。でも、ビストは自分で望んで機械街を出て行ったんだよ。」

「…?龍人の兄ちゃんは何を言ってんだ?ビスト兄ちゃんが出て行ったのはいいんだ。でも…僕達、ビスト兄ちゃんが守ってくれてたことを知ってたのに…裏切っちゃったんだ。」


 この言葉を聞いて、龍人は男の子が言いたい事を理解する。男の子は言葉にした事で感情が昂ぶったのか下唇を噛み締め、俯き、ワナワナと肩を震わせ…それでも涙を堪えて気丈に龍人の顔を見上げた。


「だから…だからさ、ビスト兄ちゃん…きっと苦しんでるんだ。僕達がビスト兄ちゃんを怖がって裏切っちゃった時、ビスト兄ちゃんを…凄い顔してた。ビスト兄ちゃんは、僕達の為にしてくれてたのに…僕達は分からなかったんだ。だから…だから…龍人の兄ちゃんはビスト兄ちゃんの友達だろ!?だから、ビスト兄ちゃんを助けて!僕じゃ…ビスト兄ちゃんを裏切った僕じゃダメなんだ…。」


 瞳から零れた思いが、後悔が男の子の頬を伝う。


「なぁ…1個だけ言っとくぞ?」


 普通であれば慰めの言葉を掛けるのだろう。だが、龍人はその選択を敢えて選ばなかった。


「お前達がビストを裏切って、ビストが傷付いたんなら…その傷を癒せるのはお前達しかいない。幾ら友達の俺が頑張った所で意味が無いんだよ。俺が出来るのは精々苦しみを和らげる程度だ。ビストの苦しみを本当の意味で消せるのは、ビストに苦しみを与えたお前達だ。」

「う…でも、でも、でも!ビスト兄ちゃんはどっかに行っちゃったんだ。もう、僕には、僕達には会えないんだもん!うぇぇぇええん…!」


 男の子は龍人がビストを助けてると言ってくれると思っていたのだろう。予想外の言葉を返され、泣き崩れてしまう。


(ごめんな。でも、人に頼ってちゃダメなんだ。自分で何とかするって思ってないと…何も変わらないし変えられないんだ。)


 機械街に来る前の龍人であれば、男の子の望む答えを返したかもしれない。だが、ビストとの出会いや別れ、そしてクレジという異質な存在との出会いを経験した龍人は、男の子の願いを快諾する事が出来なかった。

 口で言うだけ言って男の子を安心させる事は出来たかも知れない。だが、口約束で安心さ、せ、期待させ…それを守れなかった時、男の子は今以上の負の感情を抱いてしまう。それは、なんとかなる、なんとかしてくれると思ってしまうから。

 だからこそ…男の子には現実をありのままに話したのだ。嫌われるかも知れない、憎まれるかも知れない。それでも、龍人は自分の選択を信じる。…信じるしかない。


「泣いたって何にもならないぞ?」

「うえぇぇ…。ひっく…グス…だって…だって…!」

「だってじゃない。ビストは困ったら泣けってお前達に言ってたのか?泣いていれば解決するって言ってたのか?」

「あ……。」


 男の子はハッとして動きを止める。そして、服の袖で涙と鼻水をゴシゴシと拭き始めた。


「龍人の兄ちゃん…。僕、ビスト兄ちゃんがずっと教えてくれてた事…忘れてたよ。龍人の兄ちゃん、僕…頑張るから、頑張るから…一緒にビスト兄ちゃんを助けて!」


 男の子の言葉を受けた龍人は優しい笑みを浮かべる。ビストが子供達に教えていた事は分からない。だが、男の子が思い出して変わったのを見る限り…何があっても前に進めという事に類するのだろう。

 そして、男の子の変わり方は龍人にとって好ましく思えるものだった。


「あぁ、それなら俺も手伝うよ。」

「…ありがとう!僕、龍人の兄ちゃんに負けないくらい強くなって、ビスト兄ちゃんをたすける!」

「そうだな。頑張ろうな。」

「うん!」


 男の子は笑顔を見せるとパタパタとリーリーと子供達の所へ戻って行く。


「龍人…少し意地悪なのですわ。」

「やっぱり?でもさ、気休めで嘘を言っても何も解決しないだろ?」

「…その通りだとは思いますが、もう少しオブラートに包んでも良かったかと思いますの。」

「…う、それはまぁそうだとは思うけど。」


 困った顔をする龍人を見てマーガレットは口元を綻ばせる。


「ふふ。」

「…ん?」

「なんでもありませんわ。」


 マーガレットが笑う理由が分からない龍人は怪訝な顔をするが、マーガレットは龍人の疑問に答えるつもりは無いらしく…龍人の腕にサワッと触れると転送課の係員の所へ歩いて行ってしまう。


(ん?なんだ?今のって…俺の男の子に対する接し方が悪いって言ってたんだよ…な?ん?)


 イマイチ理解出来ずに首を傾げていると、スーツをビシッと着こなしたスピルが転送課受付の前に進み出た。


「第8魔導師団の皆さんお待たせしました。魔法街への転送準備が整いました。」


 相変わらず丁寧な口調であるが、チャンへの拷問は相当酷いものだったらしい事を考えると…この丁寧な口調は外向けの顔なのだろうと邪推してしまう龍人だった。

 実際に拷問を受けたチャンは、その激しさに耐え切れずに廃人のようになり…ブツブツと何かを呟き続けているらしい。拘留されている犯罪者収監所では、近くの牢屋に入っている犯罪者がチャンの呟きの所為で悪夢を見ているとか。


「どうしたの龍人?みんな待ってるよ?」


 遼に声を掛けられてハッとなると、魔導師団の面々は転送の準備に入っており、機械街の者達は龍人が動くのを見守っていた。


「あ、あぁ悪い。すぐに行くよ。」


 恥ずかしさを抑えながら小走りで転送魔法陣の上に乗る龍人。

 すると、リーリー孤児院の男の子が叫ぶ。


「龍人の兄ちゃん!僕、絶対に強くなってビスト兄ちゃんを助けに行くからな!その時は手伝ってよ!」


 4機肢は軽く頭を下げ、エレクは腕を組んだまま動かない。しかし、エレクから送られる強い意志のこもった視線は、昨夜の忠告を思い出させるには十分であった。

 転送魔法陣が発動し転送の光が龍人達を包み始めた時、2人の人物が転送課に駆け込んできた。

 ヒーローズの朱鷺英裕とケイト=ピースだ。英裕は転移魔法陣が発動しているのを確認すると、すぐさま龍人に向かって駆け寄ってくる。その表情は焦った感情を浮かべていた。

 英裕は龍人の肩を掴み、引き寄せ、耳元で1つの思いを囁き…龍人に託した。


「龍人…テング…テング=イームズを助けてやってくれ。あいつは…」


 だが、全てを聞く前に転移の光が強くなり、龍人と英裕は弾かれるようにして離されてしまう。


(テング?…確かルフトが戦ったって言う天地のメンバーだよな。蒼い炎がなんちゃらってのは覚えてるけど…なんで機械街の、しかもヒーローズのリーダーがテングの事を頼むんだ?)


 膨らむ疑問。しかし、その疑問を解決する術はない。英裕はまだ何かを伝えようと口を開いているが、タイミング的に転移を止める事が出来ない段階まで進んでしまっていた。

 英裕が龍人に伝えたかった事…考えど考えど、龍人が知りうる情報では真実に辿り着く事は出来ない。

 ビストという問題に加え、最後の最後で解決が難しいと思われるお土産をもうひとつ貰った龍人であった。


 転移の光は龍人達の視界を真っ白に染め上げ、魔法街へ向けて転送を始めたのだった。


 龍人達の姿があった場所を見ながら、機械街街主であるエレク=アイアンは小さな…それでいて周りにいる人々全員の耳に届く声をはっした。


「彼等への恩は決して忘れてはならない。」


 龍人達の活躍は、彼等が思っている以上に機械街の人々の心に根付いていた。ここでの出会いは彼等にとって、知らぬうちに大きな財産となっていた。


 こうして、龍人達…第8魔導師団の機械街における任務は終わりを迎えた。

 機械街での経験は龍人たちの心を、考え方を変え、近い未来に彼等の将来を大きく変える選択をする際の指標の1つとなる。


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