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Colony  作者: Scherz
第五章 機械街 立ち向かう者
769/994

13-6-17.紛争の終結へ



 魔砲弾の行く手に現れたのは魔法陣だ。そして、魔法陣は魔砲弾が触れると同時に光り輝き…魔砲弾の姿を一瞬でかき消した。


「なっ…転移魔法陣だとっ!?」


 ジャンクヤードに住まう者にとって転移魔法陣は高等技術を要する魔法である。それはジャンクヤードよりも魔法技術が劣るアパラタスにとっても同じはず。つまり、この魔法を使える者は限られる。ジャンクヤード軍指揮官の頭に一番に浮かんだのは、彼らの王…ジャバックであった。


(いや…しかし、ジャバック様が裏切るなんてことはあり得ない。ならば、誰が…。)


 そうこう考えていると上空に魔法陣が出現。転移魔法陣で転移させた魔砲弾がそこから吐き出され、上空で高密度の魔力爆発が発生する。これよって引き起こされた膨大な質量の爆風が上から襲いかかり、ジャンクヤード軍、アパラタス軍を問わずに兵士達を地面へ叩きつけた。

 すると、上空から1つの声が降り注ぐ。


「ジャンクヤード軍、アパラタス軍の両軍に告ぐ。これ以上の戦闘は無駄な命の削りあいだ。我の目的は達せられた。これ以上の戦闘は禁止する。」


 ブウンと魔法陣が展開され、そこから姿を現したのはジャバック=ブラッドロード。そしてマーガレットをお姫様抱っこした龍人だった。

 両軍の兵士達はその奇妙な組み合わせを理解出来ずにポカンと上を見上げる事しか出来ない。

 その状況を察知したのだろう。ジャバックは視線をアパラタス軍のエレクに向けると降下する。トンっと軽い音と共に着地したジャバックは腕を組むとエレクと向かい合った。

 まさかのトップ同士の戦闘が…と周りの兵士達はゴクリと唾を飲み込む。

 先に口を開いたのはジャバック。


「我の話を理解出来たか?」

「いや。分からんな。これも俺を倒す為の陽動だと判断したいが…龍人がお前と共にいるから判断しかねる。」


 気を失ったままのマーガレットを抱えた龍人に視線を向けながら話すエレク。


「うむ。そうであろう。そうだな…我の目的はアパラタスを落としたり、お主の命を奪う事ではない。とある力を持つ者を探す事だった。そして、それは達せられた。よってこれ以上の戦闘は無意味なのだ。」

「とある力…。もしや、それが龍人だと?」

「如何にも。」


 エレクが再び視線を送ると、龍人はジャバックが言っている事が真実であるという顔で頷く。


「…なるほど。では、闇社会と行動を共にした理由はなんだ?」

「それも至って単純。我がとある力を持つ者に会うには、この紛争を引き起こす必要があるとクレジが我に進言したのだ。そして、その紛争に参加する事が、奴らが情報提供をする条件であった。まぁ…我とは違う目的があるのだろうとは思うが。」

「…お前は1人の人間を見つけるために多くの人々を犠牲にしたというのか?」


 エレクの口調に怒りの感情がこもり始める。それも当然。ジャバック個人の目的を達するために紛争を引き起こし、多くの人々の命を失い、目的が達したから戦うのをやめろというのは…余りにも身勝手である。

 勿論、これ以上の犠牲を出す必要がないのであれば戦う必要はない。…無いのだが、エレクは納得が出来なかった。


「うむ。それは申し訳ないとは思っている。しかし、我はそれでもその力を持つ者を見つける事を優先する必要があると判断した。」

「何故だ。人を探していると俺に言えば良かった筈だ。交渉の使者を送るという方法もあただろ。そうすれば戦わずして龍人に会えたという可能性も高い。」

「それも考えた。しかし、クレジから聞いた話ではアパラタスの住民はジャンクヤードを憎んでいるとの事だった。今まで接触無しに過ごしてきた為にその情報が正しいかは判断出来なかった。そして、その真偽を確かめようと密偵を何人も送り込んだが…全員が四肢を引き千切られ、外壁のジャンクヤード側に捨てられていた。だからだ。平和的方法が通用しないと判断したのは。」

「……待て。俺はそんな話は知らない。リーリー。治安部隊と戦闘部隊の長と部隊長を全員集めて確認を取れ。」

「…分かったんじゃのう。」


 真偽を確認しにリーリーが離れ、エレクは顎に手を当てる。


「その話が本当だとすると、アパラタスにジャンクヤードとの紛争を望んでいた奴がいたという事だ。」

「うむ。だが、それはあり得るのかという疑問が残る。我らとアパラタスは長年不干渉の間柄。紛争を望むほどの恨みを持った者が居るとは考えにくい。」

「となると、アパラタスにいる第3勢力がジャンクヤードの密偵を見つけ出して…殺したという事になる。」

「…うむ。しかし、第3勢力が我らジャンクヤードを憎む事があり得るのか?先も述べた通り、我らとアパラタスはこれまで不干渉だ。恨みを持つきっかけがあるとは思えない。」

「だが、それしか可能性は無いだろう。」

「あのさ…。」


 エレクとジャバックの話がループになりそうなのを見兼ねた龍人が口を挟む。2人から同時に向けられる視線の威圧感はかなりのものだが、最近強者と戦ってばっかの龍人は動じる事なく続ける。


「普通に考えたらクレジが主犯格だろ。アパラタスがジャンクヤードを憎んでるって情報を流し、ジャンクヤードが送った密偵をアパラタスの仕業に見せて始末する。そうする事で、俺をアパラタスから炙りだすために紛争が勃発だろ?つまりさ、クレジの目的は紛争を引き起こす事。それ自体に目的があるのか、その先に目的があるのかは分からないけど。」

「あ、そういう事なんですね!だからクレジは紛争を起こしてアパラタスに侵入したんですね!」


 龍人の後ろから声を上げたのはニーナだ。その言葉に反応するのはエレク。


「どういう事だ?クレジがアパラタスに侵入したという報告は受けていない。」

「え?外壁南端には北端からの伝令兵がきましたけど…。」

「む…南端に伝令兵が行って正門に情報が流れない訳がない。…正門に情報が流れないように伝令兵が始末された可能性が高いか。ニーナ詳細を。」

「あ、はい。クレジとフェラムが外壁北端からアパラタスに侵入したのと、ドックルーズが闇社会の構成員だった事…あと、火乃花さんがフェラムの魔法から解放されたみたいです。アパラタスに侵入したクレジは藤崎遼さが追跡してくれています。」

「そうか…。」


 ニーナの報告を聞いて考え込むエレク。火乃花の解放を聞いた龍人は、行動にこそ出しはしないが喜びを噛み締めていた。


(火乃花が解放されたか…ホント良かった。にしても、遼が1人でクレジを追ってるって…大丈夫か?クレジの強さはハンパないぞ。)


 そんな中、エレクはいつもより低い声を出す。


「クレジの狙いは…アンドロイド技術だと考えるのが妥当だ。実際にそれも狙って機械塔に襲撃を仕掛けてきたわけだからな。」

「アンドロイド技術ねぇ…それってどこに保管されてるんだよ。」

「それは…言えぬ。」

「待て…。アンドロイド技術と言ったか?」


 ズイッと身を乗り出したのはジャバック。


「アンドロイド技術は…このジャンクヤードでもその成功がほぼ諦められている技術だ。それを、アパラタスでは完成させているというのか?」

「いや、完成まではいっていない。とは言っても、人体の拒絶反応をどうにかすれば実用化できる段階までは進んでいるが。」

「そんな所まで…。我が軍にも体の一部を機械化させたサイボーグ部隊はいるが、それだけでも戦力としてかなりの補強となっている。アンドロイドが完成すれば、軍としての戦力は飛躍的に上昇するだろう。何故…アンドロイド技術を求める?」

「それは…。」


 エレクは周りにいる者達の顔を眺める。そして…断念したかの様に溜息を吐いた。


「それは、天地に対抗する為だ。奴らが世界規模で何かを画策しているのは掴んでいる。そして、この機械街を滅ぼそうとしているという情報も幾つか入っている。奴らの戦力は強大だ。1人1人の構成員が俺と同等かそれ以上の力を持っていると推測できる。だからこそ、奴らが攻めてきたときに対抗出来る戦力を手に入れるつもりだった。」

「なるほど…。我の目的と類似してはいるか…。」


 エレクがアンドロイド技術を求める理由を聞いたジャバックは、龍人に視線を送る。落ち着きをもった青年である龍人は、話が世界規模になりつつあってもそのスタンスを崩してはいない。まぁ、だからこそジャバックが里の力を有する者として認めたのだが。


(…………我も覚悟しよう。)


 ジャバックは後ろを振り向くと、ジャンクヤード軍本軍の指揮官に命令を下す。


「指揮官。今すぐ通信妨害機器の作動を止めるのだ。これより我が軍はアパラタスと協力関係を築く。」

「……はっ!」


 指揮官の指示のもと、数人の兵士が通信妨害機器に向けて走っていく。


「…どういうつもりだ。」

「どうもこうもない。我らが戦ったのは間違いであった。それだけだ。そして、その全ての根源はクレジにある。ならば、アパラタスとジャンクヤードが協力してクレジを取り押さえるべきだと判断した。」

「だが…それでは今までの犠牲者が報われない。」

「復讐を望むのか?それをしてどうなる。復讐は新たな復讐を生むだけだ。ならば、ここで全員が己が心に住まう黒い感情を御するべき。そして、ジャンクヤードとアパラタスは…1つの国家として機械街に君臨すべきだ。」


 ジャバックの提案にその場にいる全員が驚きを隠す事が出来ずに目を見開く。シン…と場が静まり返る中、口を開くのは当然エレクだ。


「…ジャバック、本気か?」

「勿論。」


 再びの沈黙。周りにいる人々は口を出す事が出来ない。前触れが全くなく起きた国家間交渉の場なのだ。言ってしまえば、今この場でエレクとジャバックがどんな判断をするのか。どんな言葉を発するのかで…機械街の未来が左右される場面なのだ。

 ジャバックの提案が良い事なのか、それとも悪い事なのかは分からない。前例がないのだから当然だ。だからこそ、簡単に答えが出せる問題でも無かった。

 それを分かっている…のだろう。だからこそ、ジャバックは次の言葉を発したのかも知れない。


「エレク。我の目的は機械街を守る事。世界を守る事。その為に天地を潰す事にある。それ以上でも以下でもない。」


 そう言って、ジャバックは右手を差し出す。するとエレクは今まで組んでいた手を下ろす。そして、自身の愛用武器であるハルバードを構えると…ジャバックの首元に突きつけた。


「ジャバック。俺の目的は機械街を天地から守る事。それに尽きる。いや、あらゆる敵から機械街を守る事だ。お前がその障害になるのであれば、俺は迷わずお前を斬る。」

「ふん。ならばお主が我を斬ることは未来永劫無いと言える。」


 緊迫した空気が両者の間に張り詰める。…が、それも束の間。


「くくくくく…。」

「はっはっはっはっは!」


 ジャンクヤードの王と街主は突然笑い出す。そして、がっちりと互いの手を握り合った。


「いいだろう。共に行こうでは無いかジャバックよ。」

「勿論だ。機械街は我らの故郷。だからこそ我らがここで耐えていく必要がある。」


 この瞬間…今まで機械街をを2分していたアパラタスとジャンクヤードの2つが1つの国家として歩みを始める。歴史的瞬間に誰もが感激し、涙し、喜びを分かち合う。…とはならなかった。

 ジャバックとエレクは手を離すと後ろを向き、同時に指令を飛ばし始めたのだ。


「リーリー!先の確認はどうなった?」

「待たせたのう。どうやら我が軍はジャンクヤードの密偵の存在に気付きもしておらんのじゃのう。」

「よし。それではこれより全軍帰還する。これよりアパラタスに侵入したクレジとフェラムの捜索に全力を注ぐ。」


 アパラタス軍がエレクの命に従って即座に動き出す。


「指揮官!通信妨害機器は止めたか?」

「はい!只今完了いたしました!」

「よし、エレク…外壁北端との連絡が取れるようになった筈だ。状況の整理を頼もう。」

「あぁ分かった。」

「ジャンクヤード全軍に告ぐ!これより我らは外壁北端から南端まで全ての場所を封鎖する。目的は闇社会幹部のクレジとフェラムの逃亡を阻止する事だ!」


 ジャンクヤード軍もジャバックの命に従って迅速な行動を開始した。


「龍人!」


 ジャバックが龍人に声をかけて近くに歩み寄ってくる。


「なんだ?」

「主の力に関しては、クレジの一件が片付いてから能力向上の方法について伝授してやろう。まずは、今直面している問題を解決する。」

「勿論だ。俺達の仲間の遼が1人で追跡してるなんて…不安すぎっからな。」

「うむ。では、我は主と共に行動しよう。」

「…へ?軍の方はいいのかよ?」

「構わぬ。我がどう動くは我が決める。早く仲間を集めよ。」

「お、おう。」


 ほぼ強引にジャバックの同行が決定したが、遼の下に急ぐ必要がある事に変わりは無い。龍人はすぐにレイラとマーガレットを近くに呼び寄せた。気を失っていたマーガレットは意識を取り戻しており、ジャバックに対して警戒心を露わにしている。


「龍人…この人…信頼出来ますの?」

「ん~、大丈夫だと思うぞ。全力で戦ったらから間違い無いと思う。それに、今の俺よりは全然強いから…クレジと戦うときに力になってくれるだろ。」

「む~…。確かに私もあっという間に気を失いましたが…ついさっきまでの敵が仲間というのは抵抗がありますの。」

「そう警戒するな。マーガレットと言ったか?お主も中々の素質があると見える。鍛錬がまだまだ足りぬが、努力を積み重ねていけば、魔法使いとしても、女としても成長していけるだろう。」

「女としても…。分かりましたわ。同行を認めるのですわ。」


 何故警戒していたマーガレットがジャバックの同行をあっさりと認めたのかイマイチよく分からないが、取り敢えず問題解決という事で、深く考えるのを放棄する龍人。


「レイラはいいのか?」

「ん?私は…龍人君が大丈夫っていうならそれを信じるよ。」

「ふむ。良い女子ではないか。主にしっかりと仕えるタイプと見える。龍人…中々に良い女共を周りに侍らせているな。」

「へ?侍らせるって…誤解だから。」

「良い男ほど謙遜する…というものか。」

「いや、待てって。」


 ジャバックのせいでレイラとマーガレットの雰囲気が何故か微妙なものになりつつある事に…龍人は危機感を覚えて制止する。一応…レイラからもマーガレットからも好きと言われているのだ。2人が互いの事を知っているかは分からないが…今この状況で三角関係的な修羅場に発展するのだけは回避する必要があった。

 だが、流石はジャンクヤードの王…なのだろうか。言う事のスケールは龍人の想像を超える。


「何を迷っておる。気に入っているのならば、両名とも娶れば良いであろう?自身を気に入った女全てを幸せにするのが男の務め。」


 ピキィンと空気が凍る。実際にそんな音はしていないのだが、レイラとマーガレットの間にある何かが確かに凍ったのを龍人は聞いていた。例え幻聴だったとしても、そのまま聞かなかった事には出来ない。


「ま、まぁその話は後でな。一先ずアパラタスの…外壁正門の少し先まで一気に転移するぞ。」

「む…。まぁ良い。女の価値観など、男それぞれであるかな。」

「龍人…私、少し不愉快ですわ。」

「あ、マーガレットさんも?私もなんだよね。」

「と、とにかく転移するぞ!」


 龍人は慌てて転移魔法を展開し、4人は転移の光に包まれて姿を消した。

 一連の流れを見ていたエレクは、隣に立つリーリーへ声をかける。


「リーリー。龍人は…女難の相でもあるのか?」

「特には見えないんじゃのう…。ただ、大変そうなのは間違い無いんじゃのう。」

「女の子2人の心を掴んで、答えを出さないなんて…龍人さんは罪な男ですね。でも…私もあんな男性に1度は恋をしてみたいです。」


 いつの間にかエレクの横に立っていたニーナの独り言に、エレクとリーリーは薄い目線を向ける。


「…あっ…。い、今のは独り言…独り言です!何も言っていません!忘れて下さい!」


 顔を真っ赤にしたニーナは両手で顔を覆うと兵士の群れに隠れるようにして走り去っていった。


「リーリー。軍規が乱れそうな予感がする。」

「同感じゃのう。アパラタスとジャンクヤードが1つになった時に、しっかりと見直す必要があるみたいじゃのう。」

「あぁ、頼んだ。」

「全力で任されたんじゃのう。」


 こうして、機械街におけるジャンクヤードとアパラタスの両軍がぶつかった戦い…後に機械街紛争と呼ばれる…は、無事に終結を迎えた。

 そして、機械街紛争を引き起こした人物…クレジ=ネマへと物語の流れは集束していく。


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