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Colony  作者: Scherz
第五章 機械街 立ち向かう者
761/994

13-6-9.決意



 ラウドの強打によって意識を奪われた火乃花がグッタリと地面に倒れこむのを確認したフェラムは、ヒクついた笑いを浮かべる。


「参ったわねぇ。まさか火乃花の意識を奪われるとは思わなかったわぁ。…気付いたらチャンもやられてるし。これじゃあ本当に計画は半分しか達成出来てないじゃなぁい。」

「その計画とやら…詳しく教えてもらいたいものですね。」


 急に後ろから掛けられた声に振り向くと、其処にはスピルが腕を組んで立っていた。


「あらぁ。スピルじゃなぁい。私がそんな簡単に計画を話すと本当に思っているのかしらぁ?これでも闇社会の幹部を務めている自覚はあるのよぉ。まぁ…私の足腰が立たなくなるくらいに快感に溺らせてくれたら考えてもいいけどねぇん。」

「そんな卑猥な話に興味はありません。大人しく話して捕まるのと、拷問を受けて話すの…どちらが良いのかという選択です。」

「あらぁ…拷問って鞭で私の体を叩くのかしらぁ?ふふぅっ…いいわねぇ…ジンジンとした痛みが快感に変わっていくのを想像しただけで濡れちゃうわぁ…。」


 前にスピル、後ろにラウドがいるという窮地である事を理解しているのかしていないのか…フェラムはトロンとした表情をすると口の端から一筋の涎を垂らす。


「むぅ…取り合うだけ無駄ですね。」


 話しても話にならないと判断したスピルはフェラムを拘束すべく、一気に距離を詰める…が、ピタッと前進を止めると大きく後方に跳びのき、よろめいて片膝をついてしまう。

 その様子を見たフェラムは人差し指を口に当てると、前かがみになって胸を強調するポーズを取った。


「あらぁ。もう少し踏み込んでたら私の愛奴隷になれてたのにぃ。まだ恥ずかしいのかしらねん?」

「くっ…。」

「まぁいいわぁ。私はまだ捕まるわけには行かないのよねぇ。ここは1度引かせてもらうわぁ。」


 足下に鉄球を呼び寄せたフェラムはその上に乗り、宙に浮かぶ。


「あらぁ?ラウド…動かない方が良いわよぉ~?貴方の周りにも属性【魅了】をたぁっぷり広げてるわぁ。ハッタリかどうかは…試してみないと分からないわよぉ~?」


 この言葉を言われ、ラウドは1歩を踏み出す事が出来なくなってしまう。ハッタリの可能性は高いが、もし本当だった場合…ラウドが闇社会側として動く事になってしまう。それだけは避けなければならなかった。


「ふふ…。じゃぁまたねぇ。あ、一応言っておくけど、私達がここから居なくなったからって闇社会の外壁北端への攻撃が収まる事はないわよぉ。あとぉ、そこで気を失ってる霧崎火乃花にもお礼を言っておいてねぇん。彼女のお陰で私の属性魔法が1段階進化する事が出来たのよねぇん。じゃぁねぇん。」


 ニッコリと微笑んだフェラムを乗せた鉄球は、アパラタスの街中に向けて飛翔し…姿を消してしまう。


(…クレジとフェラムがアパラタスに侵入してしまいましたか。闇社会の狙いが分かればまだ良いのですが…。)


 闇社会構成員の外壁への攻撃は今現在も続いており、これを放置する事は出来ない。


(結局は魔導師団に頼らざるを得ない…という事ですね。)


 フェラムの属性【魅了】に支配されそうになって動きが鈍くなっていた体の感覚が戻ってきたスピルは、立ち上がると周囲の治安部隊に新たな指示を飛ばす。


「引き続き敵の攻撃を防ぎます!負傷者は後方で治療に専念して下さい!誰1人欠けることなくこの場を守り切ります!各人員の防衛担当時間もローテーションで管理しますよ!救護兵!ここに倒れている女性をお願いします!魔導師団の彼女が目覚めれば…この外壁北端で大きな戦力になる事は間違いありません!それとラウド!貴女はチャンを拘束していただいて、その後は自由に動いて下さい。先程のようにスナイパーライフルで牽制を続けてくれるのが望ましいですが、状況に合わせて頂いて構いません。」


 ラウドは無言でコクンと頷くと、壁にめり込んだチャンの元へ走っていく。

 闇社会の幹部の1人を拘束出来たという事実は大きい。何としても外壁北端を守り切り、アパラタス軍を勝利に導かなければならない。


(北端は何としても守り切ります。他の部分に人員を割く事が出来ないのは…かなり歯痒いですが、確実に出来ることをしていくしかないですね。)


 こうして、闇社会構成員と外壁北端に駐屯する治安部隊の外壁攻略を賭けた攻防が続いていく。


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


 外壁南端では外壁北端と大して変わる事がない状況が繰り広げられていた。

 ジャンクヤード軍による攻撃を戦闘部隊とレイラが中心となって防ぎ、その他の治安部隊や遼が攻撃魔法や銃器で応戦する状況。どちらも決定打となり得る攻撃が無いため、一進一退の攻防が続いている。

 そんな中、外壁北端から到着した伝令兵が伝えた伝令内容が…ニーナを始めとする外壁南端の守備に就いている面々に衝撃を与えていた。


「そんな…クレジがアパラタスに侵入してしまったなんて…。その対応に魔導師団をとはいいますけれど……。そっか、龍人さんとマーガレットさんがどこかに行ってしまったのを知らないんですね。」


 対応に悩んでしまうニーナ。今この状況で遼かレイラを抜いてしまえば、パワーバランスが崩れてしまう可能性が高い。それにだ、クレジをどうにかするのならば、レイラではなく遼に行ってもらうしか無い。しかし、遼の使う魔弾は敵軍に効果的にダメージを与えている。例え、彼が相手の命を奪う事に躊躇っていたとしてもだ。

 そんな悩むニーナを困らせる情報が更に飛び込んでくる。最初の伝令兵を追いかけるようにして、もう1人の伝令兵が外壁北端から送られてきたのだ。全力で走ってきたのだろう。伝令兵は肩を大きく上下させながら片膝を付き、ニーナへ報告する。


「ニーナ様!スピル様よりです!闇社会幹部のチャンを拘束する事に成功。ただし、フェラムもクレジの後を追い掛けてアパラタスに侵入してしまいました!それともう1つ…フェラムに操られていた魔導師団の霧崎火乃花さんを解放出来たとの事です!現在は気を失っていますが、恐らく時間が経てば目覚めるだろうとの事です!」

「火乃花さんが…良かったぁ。ありがとう。」

「はっ!それでは…このままこちらで外壁の防衛に当たらせて頂きます!」

「えぇ。おねがいします。」


 伝令兵はビシっと一礼をすると、外壁で防衛を続けている治安部隊の下に走って行った。

 その背中を見送りながら、ニーナの胸中は複雑な思いで一杯であった。


(どうしましょう…。火乃花さんが解放されたのは本当に嬉しいけど、クレジとフェラムの2人がアパラタスに侵入しただなんて…。どうしたらいいんでしょうか。せめて…龍人さんかマーガレットさんが戻って来ればお願い出来るんですけど…。)


 悩むニーナ。だが、答えが見つからない。そんなニーナを嘲笑うかのように外壁南端の一部分で大規模な爆発が起きる。


「…!救護兵!すぐに向ってください!」


 ニーナの指示で救護兵が迅速に爆発地点へ向かっていく。


(なんとか…なんとかしないと…!)


 状況を打破する方法が思い付かなくて悩むニーナと同じく、外壁で防戦に従事している遼も悩んでいた。


(…俺、全然役に立ってないよね…。)


 先程から魔弾で敵の動きを奪ってはいるのだが、ジャンクヤード軍の連携も大したもので、負傷者は攻撃が当たらない後方へすぐに搬送され、救護兵による治癒が行われている。倒してもすぐに復活してしまうのだ。

 遼の横にいる治安部隊隊員や、戦闘部隊隊員は相手の動きを奪うのでは無く、命を奪う事を前提に攻撃をしている。勿論、ジャンクヤード軍も同じである。今この外壁南端で戦う者の中で、相手の命を奪う事に大して躊躇をしているのは遼だけなのだ。


(ニーナとかはそれで良いって言ってくれてるけど…。相手の命を奪わないなら、それなりの働きをしなきゃ駄目だよね。…奪ってしまうかもしれない覚悟は…しなきゃ駄目なのかな。)


 先ほどからこんな事をずっと考えているため、敵軍への集中が薄れている遼。だからこそ、遼は気付く事が出来なかった。敵軍のスナイパーの1人が遼を狙っている事に。

 遼が迷っているかどうかなんてジャンクヤード軍には関係が無い。奪える命は1つでも多く奪い、自軍を有利に導くのみである。従って、そのスナイパーは迷うこと無く照準を遼の頭に向け、風の流れ、重力、距離を考慮に入れた上でスナイパーライフルの引き金を絞った。パァンという乾いた音と共にライフル弾が空気を切り裂いて飛んでいく。

 誰も気付かない必中の攻撃だが、偶然にもその存在に気付いた者が居た。それは、遼の隣に居た戦闘部隊の1人だ。

 彼の役目は攻撃では無く、敵軍の動きを把握する索敵である。自身の身を守りながら探知結界を使って敵軍が何処からか迂回して来ていないか、援軍が後方から来ていないかなどを観察する役目を与えられていた。そんな彼だからこそ…偶然スナイパーが遼を狙っていることに気付いたのだ。ライフル弾が放たれた瞬間、彼の体は迷うこと無く動いていた。彼は家族のために、産まれたばかりの子供のために生きると誓っていた。だが、この場において…遼の命を助ける事を無意識に選択していた。

 それは、この戦いに勝たない限り…家族の安全を守る事が出来ないから。その為に遼の力が必要だと直感で感じたから。…なのかもしれない。

 遼の肩を掴み引き寄せるようにしながら前に覆い被さった彼は、突然の行動に驚きの表情を見せる遼に向けて微笑み…頭をライフル弾に貫かれて絶命した。

 弾ける頭を見ながら…遼は何が起きたのか理解する事が出来なかった。脳漿が、血が飛び散り遼の顔や服を汚していく。

 汚い、気持ち悪い…そんな感情は一切浮かんで来なかった。命を助けられたという事実…それだけが遼の頭を支配していた。命を散らす前の彼の微笑み…その意味を考えていた。そして…遼は気付く。自分の甘さが他人の命を奪う事になってしまったという事実を。


(俺は…俺は甘い。甘すぎる。命のやり取りをする場で命のやり取りをする事を躊躇い続けて…。それで他の人の命を代償にして俺が生き延びて…。甘い。甘い。…甘い!命を奪えないなら、奪わないなりに全力でするべきだった。相手が俺たちの命を奪う事が出来なくなる位に、徹底的に叩きのめす位の覚悟が必要だった。…俺は……。)


 遼を守った彼に押し倒される形で仰向けに倒れ込んでいた遼は、空を見上げ自身の甘さを反省していた。彼の上には、頭の半分以上が欠損した、遼を守った戦闘部隊隊員の亡骸が乗っている。人の重み。命の重み。

 ふと、昔の思い出が蘇る。かつて森林街に住んでいた時の思い出。今と同じ様に空を見上げていた頃の記憶。平和な生活。穏やかな生活を送っていた中で、何かがあったら、自分が姉を守るんだと漠然と決意した記憶。…その姉は命を失った。天地のセフによって一方的に、理由も分からずに。


「…同じ事があっちゃ駄目だよね。」


 遼は上体をゆっくりと起こすと、命の恩人である戦闘部隊隊員の亡骸をそっと横たえる。そして、力のこもった目でジャンクヤード軍を見据え…レイラが居る外壁南端の中央部分に向けて移動を開始した。

 外壁南端中央部分は、ジャンクヤード軍による攻撃が1番集中する場所で、その攻撃を防ぐのにレイラが大きな役割を果たしていた。龍人が外壁に施した魔法陣による魔法壁と物理壁もあるが、それだけでは防ぎきれない圧倒的な攻撃が押し寄せているのだ。銃弾、ミサイル、属性魔法攻撃。これらの攻撃をレイラと戦闘部隊が防ぎ、治安部隊が銃器で、防御に従事していない戦闘部隊が魔法で応戦を続けている。

 終わりが見えない攻防。何か打開策はないのか…とレイラが悩み始めた時である、ポンと肩を叩かれ、振り向くと…血塗れの遼が立っていた。


「…遼君!大丈夫!?怪我してるの!?」

「あ…大丈夫だよ。俺は…怪我してないんだ。」


 一瞬遼の表情が翳った事で何かがあった事を悟ったレイラだが、その部分に触れない事を選択した。


「そっか。ここに来たって事は…何かあるんだよね?」

「うん。俺さ、決めたよ。人の命を奪う事は出来ないけど…俺の行動がきっかけで誰かが相手の命を奪う事も嫌だったんだけど…それでも、俺はこの戦場にいる意味ってのを理解してなかったんだ。だから、俺は全力でジャンクヤード軍を行動不能にしようと思うんだ。でね、レイラにちょっとだけ頼みたい事があるんだけどいいかな?」


 迷いを見せながら紡ぐ遼の言葉は、だからこそ彼が決断をした事が理解出来るものであった。それが伝わったレイラはニッコリと微笑む。


「うん。任せて!ただ、ここの防御壁は維持しないとなんだ。龍人君の魔法陣で展開してる物理壁と魔法壁がこのままだと壊されちゃいそうで…それが無くなったら相手の攻撃を防ぎきれるか分からないんだ。」

「大丈夫。そんなに難しい事は頼まないよ。これからやりたい事なんだけど…。」


 遼の説明を聞いたレイラは、驚いた顔をし、次に納得の表情をし、最後にニッコリ微笑んだ。


「遼君…凄いね!それなら一気にいけそう!」

「だよね。俺を守ってくれた彼の為にも…絶対に成功させる。」


 目に宿る力強い意志。遼は双銃…ルシファーとレヴィアタンを取り出すと、クルクル回しながら敵軍が見える位置まで移動を開始した。


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