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Colony  作者: Scherz
第五章 機械街 立ち向かう者
758/994

13-6-6.出逢い~分岐点~



 龍人とマーガレットが強制転移させられた先は、見た事のない場所だった。周囲には観客席の様なものが円形場に設置されていて、2人はその中心に立っていた。今いる場所が機械街のどこに位置するのか。何も情報が分からない。

 そして、2人の前には1人の人物が腕を組んで立っていた。

 上半身は裸で鍛え上げられた筋肉が陰影を作り、下半身は紺の袴を履いている。長い髪は白で所々に金が混じっていて、稲妻のようにクネっていた。

 筋肉質な露出狂…なんて評価する事も出来るが、その人物が出す雰囲気がそんな事は一切感じさせなかった。

 伝わってくるのは王者が纏うもの。全てを統べる紛う事なき指導者、先導者。前に立つだけで平伏したくなる威圧感。…明らかに只者では無かった。

 その雰囲気のせいで迂闊に動く事が出来ない龍人とレイラは、警戒しながら相手のアクションを待つ。

 そして、その人物は真剣な表情をしたまま遂に口を開いた。


「お主達がこの世界の運命を握るのか?…いや、そこの女は違うか。」

「…世界の運命?何を言ってるんだ?」


 言っている事が分からない、という龍人の反応にピクリ眉を動かすと、その人物は深く深呼吸をすると再び口を開いた。


「順序を追う必要がありそうだな。まず、我の自己紹介をしよう。我の名はジャバック=ブラッドロード。ジャンクヤードを統べる王だ。お主らの名は何という?」


 ジャバックの自己紹介を聞いた龍人とマーガレットは驚きを隠せなかった。まさか、今現在進行形で戦っている敵軍の総大将が目の前に現れるとは思っていなかったのだ。


「…俺の名前は高嶺龍人だ。」

「私の名はマーガレット=レルハですわ。」

「ふむ。龍人とマーガレットか。…さて、何から話すか。」


 顎に手を当てて考え込んだジャバックは、空を見上げて1分程動きを止め、再び視線を2人へ戻す。


「まずはお主らをここへ強制転移した理由だが、それは…里の因子を持つ者の気配をお主達から感じたからだ。正確には龍人…お前からだ。」

「…俺から。……。その里の因子ってのは何なんだ?」

「うむ。やはりその事実も知らぬか。…これから我が話す事は、お主らがこれまで学んできた事を大きく覆す可能性が高い。だが、我は真実と信じている。それを前提として話を聞いてもらおうか。」


 おふざけなど一切ないジャバックの雰囲気に、龍人とマーガレットは只々頷く事しか出来ない。

 2人の意思を確認したジャバックは語り始める。


「まず、我等が住むこの世界は数多くの星によって構成されている。そして、星々は圏という集合体に分かれている。都圏、京圏、街圏、藩圏、町圏。これらの圏がこの世界の全てだと教わってきただろう。だが、世界はこれだけではない。里圏という集合体が存在する。この里圏に住むのは、我等のような人間では無く、伝説上の生物と言われている。分かりやすく言えば、召喚魔法で召喚する者どもの様な存在だ。では、何故この里圏の存在が隠されているのか。それは、この里圏の各星に存在する力が世界を変える可能性を秘めているとされているからだ。」

「世界を変える?どういう事だ?」


 ジャバックの口から出た言葉のスケールが大き過ぎて、イメージが湧かない龍人は怪訝な顔をする事しか出来ない。だが、そんな龍人の表情を見てもジャバックの表情や態度が崩れる事は無く、龍人の質問に答える事すらせずに再び語り始める。


「では、世界を変えるというのは何を指すのか。それは…文字通り世界を変える…創り変えるという事だ。具体的な方法は一切明かされていないが、その力があるとされているのは事実。そして、世界を変える事が出来る可能性を秘めた力を里の因子と呼んでいる。」


 ジャバックがいう事が本当であるのなら、龍人の持つ真極属性【龍】が世界を変える力を有する里の因子という事になる。


「この里の因子は、それ単体で力を発揮するのか、それとも幾つかの因子の力が合わさる事で力を発揮するのかは解明されていない。だが…里の因子を求めて世界で暗躍する者共がいるのも事実。」


 龍人の脳裏に1つの団体の名前が浮かぶ。


「その中でも最も有名なのが…天地という組織だ。彼らは里の因子を持つ者を探して長年活動を続けている。勿論、それ以外の活動も幅広く行っているため、本当の目的がどこにあるのかは把握は出来ていない。」


 つまり、龍人は世界を変える事が出来る可能性を持つ里の因子を有しており、その力を天地が狙っているという事。確かに、過去に天地と接触した時の事を思い返してみれば、里の因子=世界を変える力として考えると辻褄が合う部分も多い。

 つまり…世界を変える力を持つ龍人を手に入れる、もしくは抹殺するのがジャバックの目的なのだろうか。


「ここまでは前提だ。」


 だが、違うらしい。あくまでも前提。となると、ここからが本題。


「いいか。この世界は1度…創り変えられている可能性が高い。」

「…!?」

「どういう事ですの…?」


 全身を駆け巡る衝撃。


「この世界は、古代から続いていた世界では無い。…と、我は判断している。ジャンクヤードに残る文献には機械街に存在する2つの国家の名前が記されている。メタトロンとアパラタスという国の名が。」


 アパラタスは今もある機械街の中心都市で間違いが無いだろう。では、もう一つのメタトロンとは…。


「もしかして、ジャンクヤードの前にあったのがメタトロンという事ですの?」


 マーガレットの言葉にジャバックは小さく、だか確実に頷いた。


「うむ。メタトロンはアパラタスとは対極にあるような都市であった。アパラタスは機械を中心に栄え、メタトロンは魔法を中心に栄えていた。今、機械街に於いて魔法が衰退したのは…このメタトロンという都市が消えてしまった事が大きな要因だ。まぁそれでもこの荒れ果てたジャンクヤードの土地で我々は力を蓄えてはきたがな。」

「ん?ちょっと待て。メタトロンで魔法が盛んだったら、機械が中心のアパラタスに負けるって事があり得んのか?そもそも、そのメタトロンの衰退と世界が創り変えられたってのが全然繋がらないぞ?」


 龍人の質問にジャバックは自嘲気味の笑みを口元に表す。


「我が見つけた文献に記れていたのはこういう内容だ。世界が創り変えられる時、機械街は1つの都市を残す選択を迫られた。2つの都市の長は存亡を掛けて戦い、メタトロンは滅する事となる。かくして…世界は彼の思いのままに変わり、彼が望むべく世界へ向けて動き出した。…とある。」

「…それって、世界を創り変えたのはたった1人の意思によるものって事かよ?」

「そうとも取れる。しかし、我が見つけた文献に書かれているのはコレだけだ。この文献の真偽も分からぬ。…だが、ジャンクヤードの各地には、今の技術では到底再現不可能な物が多数見つかっている。例えば…魔法を組み込む事を前提とした機械などだ。メタトロンでは無いにしても、何かしらの文明都市がジャンクヤードに在った事は間違い無いだろう。」

「その古代文献からジャンクヤードに何かしらの都市があり、それが衰退…もしくは消滅した可能性がある事は分かりましたわ。それと龍人の力にどういう関係がありますの?」


 話の本題である里の因子。これについての話が中々出て来ないからか、マーガレットはややイライラした様子を見せている。


「そう焦るな。つまり…世界が創り変えられた事実。これがある以上、世界を創り変える力である可能性が高い《里の因子》を見逃す訳にはいかないという事だ。」


 この一瞬、龍人とマーガレットの思考が停止する。ジャバックの言っている事のスケールが大き過ぎて、本気で言っているのか、冗談で言っているのかが理解出来なかったのだ。

 強張ったような、肝を抜かれたような表情を見せる2人を見てもジャバックは顔色一つ変えない。里の因子について知らなかったのだから当然の反応と思っているのだ。


「理解したか?龍人…お主が里の因子を持つという事は、世界を変える力を有している可能性があるという事だ。だから俺はお前の力を試す為にここへ転移させた。」

「…試すってどういう事ですの!?」


 マーガレットは意味が分からないという顔でジャバックに食って掛かるが、その横で龍人は頭の中で色々なピースが組み合わさっていた。


「成る程な。世界を変える可能性があるって事は、その力を求める奴らに狙われる可能性があるって事か。それが天地。奴らが世界を創り変える事を真の目的としている場合、俺が天地の手に渡れば…世界の創り変えが引き起こされる可能性が高くなる。だからこそ、俺が里の力を本当に有しているか、有しているなら…その力を有するだけの実力があるかどうかを見極めるって事か。実力不足だと判断したら…どうするつもりだ?」


 ジャバックの口の端がニイッと持ち上がる。


「話の理解が早いようだ。ならば率直に言おう。実力が足りないと判断した場合、潔く死んでもらう。」

「…やっぱそうか。」


 想像していた通りの答えに、龍人は納得の意を示すが…隣にいるマーガレットはそうではなかった。


「龍人は何で納得しているのですか?特別な力を持っているだけで命を奪われる事を許容するなんて…おかしいのですわ!」


 怒りを露わにするマーガレットから魔力が溢れ出す。


「龍人を殺すというなら…私が相手になりますわ!私を倒してからにすると良いのですわ!」

「おい、待てって…!」


 マーガレットの剣に赤い光が現れる。彼女が得意とする融合魔法【光火】だ。龍人の制止を聞かず、彼女はジャバックの返事も待たずに剣を下段に構えると、姿勢を低くして文字の通り光の如く駆け出した。


「その程度で我を倒せるはずもなかろう。」


 ドンッという形容詞が相応しい位にジャバックの体から魔力が発せられ、突撃していたマーガレットは魔力に押されて体勢を崩してしまう。


「こんなので…押し負ける訳にはいきませんの!」

「ヌルい。」


 気付けば…ジャバックはマーガレットの目の前に移動しており、横から振り抜いた拳に付加された魔力の塊に撃ち抜かれてしまう。


「きゃっ!」


 短い悲鳴と共にマーガレットは錐揉み回転しながら吹き飛び、観客席に激突するとグッタリと動かなくなった。


「マーガレット…!」

「安心しろ。死なぬ程度には力を抜いてある。…それよりも、自分の命を心配したらどうだ?中途半端な戦いではお主が死ぬだけだぞ?」


 先程までとは違う闘う気全開のオーラが龍人に向けて放たれる。その圧力…魔法街禁区で戦った風龍を彷彿とさせるレベルであった。否が応でも警戒せざるを得ない。


「…俺が戦えばマーガレットには手を出さないか?」

「ほぅ…。あの女はお前の想い人か?」

「そんなんじゃない。マーガレットは大切な仲間だ。その仲間が俺の為に殺されたりするのが我慢ならないだけだ。」

「…その想い、危険である事を理解しているのか?」

「…?どういう事だ?」

「……まぁ良い。我はお主の力を把握できれば良い。それ以上の余計な口出しは避けておこう。では、高嶺龍人…里の力を有する可能性がある者よ。その力が本物かどうかを…そして、生きるに足る力を持つ事を我に証明して見せよ。」


 ゆっくりと持ち上げられたジャバックの手から圧縮された魔力の塊が撃ち出される。


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