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Colony  作者: Scherz
第五章 機械街 立ち向かう者
757/994

13-6-5.動き始める闇社会



☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


 外壁正門の正面に駐屯しているジャンクヤード軍の後方には、闇社会の幹部3人が集まっていた。クレジ=ネマ、チャン=シャオロン、フェラム=ルプシェール。第8魔導師団の面々と戦っても引けを取らないか、上回る実力を持つ者達だ。

 彼等の後方にはアパラタスに潜んでいた闇社会の構成員達が隊列なんかを気にせずにごちゃごちゃと集まっている。ヤクザ風の男達。一般市民としか見えない者達。そして、髑髏が描かれた青バンダナを頭に巻く筋肉質な男達ベスト状の防護服…ボディアーマーを着ている者がほとんど)である。

 この髑髏青バンダナを着けた者達…ドックルーズという警備や護衛を生業とする集団である。活動拠点はアパラタスで、決して悪事に手を染めないという事で有名な非公認の団体だ。アパラタス住人からの信頼も厚く、何かあればドックルーズに頼れば大丈夫と、皆が皆口を揃えて言う。アパラタスの治安を守っているのは、ドックルーズの活躍があるから…というのは、誰もが知っている事実でもあった。

 それ位にアパラタスの住民ら信頼されているドックルーズが、何故ジャンクヤード軍の…それも闇社会の構成員と共にいるのか。

 答えは単純。ドックルーズも闇社会の構成員だからだ。決して悪事に手を染めないというルールを遵守する事で住民の信頼を勝ち取り、アパラタスにとって欠かせない存在へと成長させる。その上で、闇社会が活動しやすい様に様々な場面で暗躍していたのだ。勿論、悪事に手を染めないというルールを守った上での暗躍である。だからこそ、治安部隊や4機肢の監視の目でもドックルーズをあやしいとは見破ることが出来なかったのだ。

 このドックルーズがジャンクヤード軍にいる意味は大きい。機械街紛争が始まる前にアパラタスで行われた作戦会議では、ドックルーズを外壁正門の守備につかせるという案も出ていたのだ。それだけ戦力になると誰もが考えていたという事。そんな集団が敵として現れた時に、アパラタスの面々が何を思うかは容易に想像することが出来よう。


「ふふふふ。間もなく私達の出番ですよ。一気に、容赦なく、全てを壊しましょう。」


 肩を震わせながら楽しそうに呟くのはクレジ。アパラタスの全てを破壊し尽くさんという…強い意志。


「間も無く…間も無くですよ。私が機械街の覇権を手に入れるのは。そこから始まるんですよねぇ。私を中心に回る世界がねぇ…!」

「ふふっ。いいわねぇ。いい女といい男は私が貰うわよぉ?性奴隷として私の欲を満たして貰うのよぉ~。あぁ…想像しただけでも涎が止まらないわぁ。」


 快感を想像して身悶えするのはフェラム。


「ミーはコロシアムを作るアル!毎日毎日拳で闘って、更に高みを目指すアルね!闘う相手に困らない毎日…想像しただけで体が震えるアルよ!」


 闘う事しか考えてないチャン。

 一見、全く違う目的の為に動いている様にしか見えない3人だが…1つの共通点があった。

 それは自分の欲求にただひたすらに真っ直ぐであること。

 クレジは機械街を支配するという欲求。

 フェラムは性欲を満たすという欲求。

 チャンは強くなりたいという欲求。

 欲求を満たす為だけに動くからこそ、ブレず、真っ直ぐで、他の犠牲を厭わない。だからこそ、闇社会の幹部3人に賛同する者が現れ、アパラタスを脅かす巨大な組織となり得たのだ。

 欲望を叶える為の最前提として必要であるアパラタスの掌握。この悲願を成す為に…彼らは動き出す。


「皆さん良いですかぁ?正攻法での戦いはジャンクヤード軍の皆さんが引き受けてくれています。私達はアパラタス軍の意識の隙間を狙って攻撃を仕掛けますよぉ~。ふふふふふ…本命の攻撃と同時に外壁北端を攻めますからねぇ。間も無く、間も無く動く時がきます。抜かりない準備をお願いしますねぇ?」


 クレジの言葉に湧きあがることなく、静かに頷く闇社会の構成員達。そこに秘めたる意志、確固たる意志を感じる事が出来る。さっきまで騒いでいたフェラムやチャンですらも、いつの間にか引き締めた表情を見せていた。

 闇社会は静かに、移動を開始する。

 ジャンクヤード軍の兵士達が気味悪そうに視線を送ってくるが、それを気にする者は居ない。

 何故ならば…。


(ふふふ。全て私の思惑通りに動いてますよぉ~?機械街を手に入れるこの紛争という盤面において、ジャンクヤード軍は駒に過ぎません。全ては…この私が機械街手に入れる為の布石に過ぎないんですからねぇ!)


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


 外壁正門に立つエレクは、ここまで沈黙を保っていたジャンクヤード軍が動き出したのを確認すると、素早く指示を飛ばし始める。


「外壁上の部隊は銃器と魔法による攻撃の準備。後方部隊は物理壁と魔法壁の防御壁で攻撃を防げ。敵が強力な攻撃をしてくる事を考慮して、障壁を張る準備も進めろ。今は攻撃には転じず、防御を基本とした戦法で動く。後方部隊に属する攻撃部隊は、命令を出すまで待機だ。外壁北端と南端の状況次第ではすぐに攻める可能性もある。準備を抜かるなよ。」


 各部隊の隊長はビシッと敬礼すると、自身の部隊に向けて走り去っていった。


(昨日は外壁北端の後に正門。今日は南端とかぶせる様にして正門。同じ様な攻め方に見えて、その実は違う。この攻撃の裏に何かしらの動きがある筈だ。そして、それを隠す為に正門への攻撃は昨日より激しいはず…。耐えてくれよ。)


 正門に向かって前進するジャンクヤード軍は、縦の陣形を選択していた。その陣形から分かる通り、狙いは正門の一点突破だろう。

 縦陣は前の者が倒れても後ろにいる者がすぐに穴を埋められるという利点がある。軍隊と軍隊の衝突の場合は、攻撃範囲や一斉攻撃という点において火力不足がデメリットに挙がるが、今回ジャンクヤード軍が向かうのは外壁正門。正門前の幅がある程度決まっているため、その幅をカバーした上で、絶え間なく攻撃が出来る縦陣を敷いたのは当然と言える。

 ジャンクヤード軍を観察していたエレクは、とある事実に気が付くとすぐに指示を飛ばした。


「敵軍は最前列に防御部隊を敷いている可能性が高い!攻撃は直線と空中からの曲線に分けろ!直線の攻撃で前進を止めつつ、打撃は曲線の攻撃で与える!」


 今現在取りうる選択としては最もベターな戦法ではあるが、これが上手くいけば戦闘を有利に進める事が出来る。

 両軍はほんの少しの間だけ無言で動いていた。大規模戦闘が始まる前の不自然な静寂。響くのは行軍する足音のみ。

 そして…同時に両軍から雄叫びが上がり、先頭の火蓋が切って落とされた。


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


 外壁正門側でジャンクヤード軍が動き出し、防衛に当たっているエルクが指揮するアパラタス軍と衝突を開始する直前。

 外壁南端ではジャンクヤード軍との激しい攻防が繰り広げられていた。

 敵軍から飛来する高速回転をかけた鉄の矢を防いだ遼は、隣にいるレイラに声を掛ける。


「レイラ…龍人とマーガレットの姿が見えないよね?」

「…うん。遼君が重轟弾を放つ直前に、龍人君がマーガレットさんと一緒に転移魔法を使った所までは見たんだけど…きゃっ。」


 隣の戦闘部隊員が敵軍から放たれた火球を防ぎ切れずに直撃を受け、吹き飛ぶ。その余波がレイラと遼に襲い掛かる。とは言え、防御の訓練をひたすらに続けてきたレイラにとって、この程度の余波を防ぐのはお手の物で、声を上げてしまったのは単に驚いたからである。

 レイラの張った魔法壁に守られながら、遼は言葉を続ける。


「俺さ、やっぱ相手の兵士を殺すなんて無理かも。人の命を奪うのは覚悟出来ないや…。」

「そうだよね。龍人君とマーガレットさんも、相手の兵士さんを気絶させてただけみたいだし…。そんな簡単に人の命を奪う覚悟なんて出来ないよね。」

「うん。でもさ…相手は俺たちの命を奪おうと攻撃してきてるじゃん?こんなんじゃ、負ける事が無いとしても勝つ事は出来ないよね。」

「…でも、それでもどうしたらいいのか…分からないよ。私、人の命を奪って手に入れる平和っておかしいと思う。」

「………。危ない!」


 巨大な風刃が遼の右側5mの所に向かって飛翔する。そこに居るのは…2人の戦闘部隊員。先程から防御壁を使わずに攻撃に専念していた事をみると…防御魔法が苦手なのだろう。そした、そんな2人が防げるレベルの風刃ではなかった。

 遼は密度を高めた重力ビームを放ち、風刃に横から直撃させて爆散させる。


「ありがとうございます!」


 遼に助けられた戦闘部隊員は、軽く頭を下げると…直ぐにジャンクヤード軍への攻撃を再開した。

 遼もすぐに攻撃を開始するが、遼が放つ魔弾は全て敵軍兵士の脚を狙うものだ。どの攻撃が命中しても相手の命を奪う事が無い攻撃。相手を殺さずに制するという考えによる行動である為、問題は無いように見えるが、実の所そうでは無い。遼が意識をして脚に攻撃をしていたのであれば良いのだが、全て無意識なのだ。

 2日目の戦闘が始まる前に龍人が言った「人を殺す覚悟があるか」という言葉が、遼の動きを確実に鈍らせていた。これは、遼にとっては良い事でもあるだろう。相手を殺すという覚悟が無い状態で、もし殺してしまったら…恐らく遼は自身の中に芽生える罪の感情に押しつぶされてしまうだろう。

 だが、今まで遼が使ってきた強力な攻撃は人の命を奪った事が無い。つまり、全力で戦っても問題無いだろうと考える事も出来る。しかし、ここにはある前提があった。それは、戦っていたのが全員魔法を使える者達だった事だ。

 しかし、いま戦っているジャンクヤード軍には魔法を扱えない者も混じっている。つまり、当たりどころが悪ければ…初級の魔法で命を奪ってしまう可能性があるのだ。遼が扱う魔法は遠距離攻撃が主体。それらの状況が重なる事で、自然と足元しか狙えなくなっていたのである。


「…レイラどうしよう。このままだと押し切られそうな気がするんだよね。」

「…うん。なんとか踏ん張らないと。」


 ジャンクヤード軍が放つ攻撃は絶え間なく続き、人の数で劣るアパラタス軍は少しずつ負傷者を出し始めていた。このまま同じ状況で攻防が続けば…負けが見えてしまう。


(遼君がいつもみたいに攻撃をしてくれれば…状況は変わると思うんだけど。…やっぱり人の命を奪っちゃうかもしれないのは怖いよね。でもこのままだと、私達が…。)


 この時、レイラの中にも葛藤が生まれていた。このまま防御壁を使って相手の攻撃を防ぐ事に従事するのか。それとも…反射障壁を使って相手の攻撃を利用するのか。敵軍が使う銃弾やミサイル弾は反射障壁【物理】を張れば…恐らくだが反射が可能である。

 しかし、それらの魔法を使うのには…レイラにも覚悟が必要であった。その覚悟をする勇気があるのか。ないのか。するのか。しないのか。


(龍人君…私どうしたらいいんだろう…。)


 外壁南端の中央で指示を出し続けているニーナは、遼とレイラが奮闘する姿を見て苦い顔をしていた。


(やっぱりそうですよね。幾ら凄い実力を持ってると言っても…この場でその実力を遺憾無く発揮するのは難しいですよね。…私も覚悟をしなければなりませんね。……私の魔法を使う覚悟を。)


 覚悟を決められない者達の後ろで1人の人物が覚悟を決め、外壁南端の攻防は続いていく。


 そして、転移魔法陣によって強制転移させられた龍人とマーガレットは、とある人物と対峙をしていた。

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