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Colony  作者: Scherz
第五章 機械街 立ち向かう者
755/994

13-6-3.機械街紛争



 機械街紛争初日…夜。パッタリと動きを見せなくなったジャンクヤードの影を眺めながら、龍人はスープを啜っていた。警戒をずっと続けていて疲れているだろうとニーナが作ってくれたのだ。コンソメ仕立てのスープは優しい味で、体の芯に温かさが染み渡るようである。

 最後の一口を飲んだ龍人の隣に、コン。という音を立てて1人の人物が近寄り、無言で座る。チラッと視線を送ると、真剣な顔をした遼が同じ様にスープを啜っていた。


「そんな真剣な顔をしてどうしたんよ?」

「ん…。今日1日の話をレイラとマーガレットから聞いてきたんだけど、どうも気に掛かってさ。」


 武器店ガンズハンズのベルーグ=ガトルリフの下で刻印の練習をしていた遼が外壁に到着したのは、陽が落ちてからだった。状況を説明するのが面倒臭かった龍人は、ニーナと共にスープを配るマーガレットとレイラに聞いてくれと丸投げをしたのだ。遼は素直にレイラとマーガレットから話を聞き、龍人の所に戻ってきた事となる。


「なにがそんなに気になるんだ?」

「え…。だっておかしいと思わない?通信妨害をしてアパラタス軍のデジタルな連絡手段を機能停止にしたのに、その後の攻め方が凄い中途半端だよ。外壁の北端、正門、南端を同時に攻めたら押し切られてた可能性も十分にあると思うんだ。」

「…確かにそうだな。つまりだ、正面から総力戦で挑むってことは互いに大きな損害がでる。ジャンクヤード軍は自軍の損害を極力抑える何かしらを仕掛けようとしてて、その為の布石が今日1日の行動だったって事になるか。」

「…うん。そうだね。つまり…。」

「ジャンクヤード軍の本命の攻撃を予想出来ない限り、下手な行動を打つとその隙を突いて大打撃を受ける可能性が高いって事だな。」

「ちょっと、俺のセリフ取らないでって。」

「ん?あ、わりぃわりぃ。」


 謝りはするものの、ほぼ言葉だけで気持ちが全然こもっていない龍人を見て、遼は思わず笑みを浮かべてしまう。


「ん?何笑ってんだし。」

「え?いやぁ…龍人って本当にどんな時でも龍人のままだよね。」

「…?俺はいつでも俺だぞ?」

「まぁ、そういう事で大丈夫だよ。じゃ、俺は明日に備えて少し休むね。刻印の練習で結構魔力を消費しちゃったから。」

「なんか納得いかないけど…まぁいいか。ゆっくり休めよー。」

「うん。じゃあね。」


 クイッとスープを飲みきった遼は、勢いよく立ち上がると軽い足取りで去っていった。

 遼の後ろ姿を見送った龍人は、外壁の向こうに広がる闇夜に視線を送る。

 ジャンクヤード軍の陣営からは一切の光が放たれていなかった。まるでそこに何者も存在しないかのように…。その静けさが龍人の中の不安心を煽るのだ。これからアパラタス軍が進む先が、まるで目の前に広がる闇に向かっているかの様な錯覚。

 龍人の直感が静かに警鐘を鳴らしていた。


(多分だけど…明日、戦況が大きく動く気がするんだよな。何が起こるか分かんないけど、出来る事をやるしかないか。)


 スープカップを持つ手に力が入る。冷たい風が吹き、スープで温まった体を少しずつ冷やしていく。


「よし!寝るか。」


 龍人は勢いよく立ち上がると、外壁南端の中央に設けられたテントに向けて歩き出した。


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


 翌朝。テントの中で熟睡していた龍人は、外から聞こえる慌ただしい雰囲気によって目が覚めた。寝足りないのか不機嫌な顔でテントの入口を開けて外を見ると、戦闘部隊隊員達がドタバタと外壁の縁に向けて走っている。


「ん?なんだ?」


 只事ではないのは分かるのだが、詳細が分からない為…動こうと思えない龍人は、もう一度寝ようとテントの入口を閉める。と同時に、入口の隙間からニュッと伸びた手が龍人の首根っこを掴み、テントの外に引きずり出した。


「いててててて!離せって!」

「何を言うんですか!のんびりしてる場合では無いのですわ!」


 首を掴んでいるのはマーガレット。真剣な表情である事を見ると本当に只事では無いらしい。


「ジャンクヤード軍が谷の向う側に布陣しましたわ。いつ攻撃されるか分かりませんの。」


 このマーガレットの言葉で、龍人の眠気は一気に吹き飛ぶ。


「…そりゃあ寝てるわけにはいかないか。よし、行くぞ。」


 急にシャキッと立ち上がって歩き始める龍人を見て、最初はポカンと後ろ姿を見ていたマーガレットだが、すぐに笑みを浮かべると早歩きで龍人を追いかける。

 外壁の縁に到着した龍人とマーガレットが目にしたのは、谷に沿って横一列に長い布陣を敷くジャンクヤード軍だった。その数は圧巻の一言。


「おぉ。一気に仕掛けてきそうだな。」

「ジャンクヤード軍の数が、昨日よりもかなり増えていますの。」

「確かに。こりゃあ上手く策略に嵌められたかもな。」

「ですわね。とにかく、いつ攻撃を仕掛けられるか分かりませんわ。」

「あぁ。」


 龍人はチラッと外壁正門の方に目線を送るが、正門前にはジャンクヤード軍の姿を見てとる事は出来なかった。

 つまり、北端が攻められていないのであれば、今敵軍が攻めようとしているのは外壁南端のみ…という事になる。


(にしても、ここで外壁南端を破壊してもこの谷を越えてってのはリスクが高すぎるだろ。そもそも遠距離攻撃以外で破壊出来ないし。何かしらの機械とか魔法で谷を越える位なら、同じ戦力を正門の方に向けた方が確実だし。…ジャンクヤード軍の考えが読めないな。)

「マーガレット。通信機器は復活してるのか?」

「してませんわ。あの機械を壊さない限り通信妨害は続くと考えるべきですわね。」

「そっか…。他の場所の情報がわからない以上、目の前の敵に集中するしか無いか。」

「ですわね。」


 覚悟を決めた龍人の視線の先でジャンクヤード軍は動きを見せる。ロケットランチャーを構え一斉に放ち始めたのだ。敵軍の中に魔法使いもちらほら混ざっているようで、ロケット弾と同時に高威力の攻撃魔法も放ち始める。属性は【火】【水】【土】の3属性がメインだ。

 圧倒的火力が迫る中、外壁南端に立つ戦闘部隊を始め、龍人達魔導師団、ニーナ全員が動じることなく余裕の表情で立っていた。それぞれ反撃の攻撃を放つ準備はしているが、どれだけ攻撃が接近しても迎撃しようとはしない。そして…ロケット弾と属性魔法が外壁南端に激突すると思われた時、外壁の上部に魔法陣が一斉に現れ光り輝き、巨大な防御壁を発生させた。

 ロケット弾や攻撃魔法が一気に防御壁にぶつかり、爆炎と上げる。


「龍人…流石ですわね。念の為にといって昨日設置していた魔法陣がいきなり大活躍ですわ。」

「ま、お陰で一気に攻撃を仕掛けられるだろ?」

「えぇ、流石としか言いようがありませんわ。」


 防御壁にぶつかって爆煙を上げ続ける敵の攻撃を眺めながら話す龍人とマーガレットの傍に遼とレイラが近寄ってくる。


「龍人!もう少しで相手の攻撃が途切れると思うよ。」

「これからが勝負だよね。私も頑張る…!」


 2人とも気合は十分なようである。ここで、龍人はいつもより低めの真剣な声を出す。


「なぁ、一応聞くけどよ…ここから先は最悪、人の命を奪う覚悟が必要だと思うんだ。その覚悟はみんなあるか?」

「人の命…。」

「私…それは出来ないかも…。」


 龍人の問いかけに対して遼とレイラは当然の反応を返す。


「龍人、私は人の命を奪う覚悟がありますわよ。魔導師団に入るというのは…そういう事ですから。むしろ、遼とレイラはその程度の覚悟も無かったのですか?」

「私は…正直そこまで考えてなかったな。」

「俺も命のやり取りまでは想定してなかった…。」

「それなら、ここから先どこまで覚悟を持って戦うかですわ。因みに、龍人にその覚悟あるのかしら?」


 話を振られた龍人は、苦笑いを浮かべる。


「正直な所、そこまでの覚悟は出来てないな。ギルドの依頼で禁区に行った時も、魔獣は1匹も殺してないし。そもそも命を奪うって事にまだ躊躇いがあるのが本音かな。」


 遼とレイラは龍人が自分と同じ意見を言った事で安堵の表情を見せる。これで龍人が人を殺す覚悟があると言いだしたら、どうすれば良いのか分からなかったのだ。しかし、龍人の言葉はここで終わっていなかった。


「だけど…この紛争はお遊びじゃない。ジャンクヤード軍は本気でアパラタスを潰そうとしてる。つまりだ、俺たちが目の前に現れたら容赦なく殺しにかかってくると思うんだ。そんな中で人を殺せないっていう…中途半端な覚悟しか無い俺たちが戦っても、どこかで隙が生じるんだよな。それが原因で殺されちまう可能性もあると思う。」


 現実が重くのしかかる。命を奪るか奪られるかの攻防。その中に入っていく恐怖が龍人達の中に芽生える。あとは…その恐怖に勝つか負けるか。

 そんな話をしている内に、ジャンクヤード軍による遠距離攻撃の第1波が収束を見せる。爆発が起きる回数が少しずつ減っていき、煙に覆われていた視界も少しずつ晴れてきていた。

 次の動きまで長くて30秒程度だろう。命を賭けた攻防が間もなく始まる事実がのし掛かる。

 シャン。という音ともに龍人は夢幻を取り出すとコキコキと首を鳴らす。


「よし。みんな覚悟はいいか?」


 力強く頷くマーガレット。不安に瞳を揺らしながら頷くレイラ。迷いを断ち切れず頷きもしない遼。


(まぁ…普通はそうだよな。)


 レイラと遼の反応が普通なのだろう。逆に、最悪の場合は相手を殺さなければいけないという覚悟をしている自分の方が異常なのかもしれない。

 それでも、龍人は逃げない。

 森林街が壊滅させられた時の事を覚えているから。同じ事を繰り返させたく無いから。

 今回の相手であるジャンクヤード軍が悪なのかは分からない。ただ、アパラタスを壊滅させるのだけは防がなければならない。そこに住む人々がいるのだから。闇社会という悪者たちによって引き起こされたこの紛争を、龍人は自分の方法で解決させる覚悟をしていた。


(目指すのは闇社会を全員拘束する事。そして、ジャンクヤードのリーダーと話をする事。…やってやる。)


 自分の考えを無理強いするつもりは一切ない。だからこそ、龍人は次の言葉を続けた。


「よし。レイラは外壁上で防衛と負傷者対応。遼も外壁上で不審な動きをする奴を探して行動を阻害。俺とマーガレットは…転移魔法て敵陣に突っ込むぞ。」

「あら。大胆な作戦ですわね。」


 両刃剣を取り出したマーガレットは、不敵な笑みを浮かべる。


「俺とマーガレットの目標は敵軍を撤退させる事だ。それ位に打撃を与えないと意味が無い。さっき覚悟とか言ってなんだけど…マーガレット、出来る限り気絶させる方向で行こう。状況次第ではあるけどな。」

「分かりましたわ。」

「俺もOKだよ。」

「私もみんなの援護頑張るね!」


 龍人は3人の顔を眺めるとニヤッと笑う。


「俺たちの力を見せてやるか!」


 龍人とマーガレットの足下に転移魔法陣が構築され、発動。2人はジャンクヤード軍が布陣する所へ転移していった。


 後に高嶺龍人が機械街の英雄と呼ばれる所以の戦いが…今ここに始まる。


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