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Colony  作者: Scherz
第五章 機械街 立ち向かう者
753/994

13-6-1.機械街紛争



 通信機器の一切が使えなくなった知らせを受けたエレクは、ギリギリと拳を握りしめていた。


(くそっ。完全にしてやられたな。これでは北端の爆発後の状況を把握する事が出来ない。ラウドとスピルがいるから、そう簡単には突破はされないだろう。だが…各外壁の状況に合わせた戦略は取り難くされた。最初の一手はジャンクヤードに軍配が上がったか。)


 最初の爆発、ミサイルによるチャフ、そして本命と思われる通信妨害。この流れを断ち切れるチャンスがあったのにも関わらず、全てが後手に回り、全てが相手の思い通りに運んでしまっていた。

 恐らくジャンクヤード軍の作戦はここで終わらない。終わる筈がない。ここまでの行動はこれから仕掛けてくるであろう本命の攻撃を、より効率的に、より確実にする為の布石。そう考えるべきである。


(ならば…先手ばかり取られていてもしょうがない。こちらから仕掛けてみるか。)


 片手を上げて治安部隊の隊長を呼んだエレクはいくつかの指示を出す。そして傍に控えるリーリーに目線で合図をし、ゆっくりと立ち上がった。

 ここからアパラタス軍の反撃が始まる。


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


 場面は再び外壁南端へ戻る。ジャンクヤード軍が設置した大型の機械によって通信機能を奪われたアパラタス軍ではあるが、外壁南端では思った以上の混乱は起きていなかった。

 事態を察知したエレクがすぐに伝令兵を送ったのが大きな理由に挙げられるだろう。

 そして…龍人は混乱どころか完全にリラックスをしていた。周りの戦闘部隊が探知結界でジャンクヤード側を索敵する中、外壁に腰掛けて北端をボケェーっと眺めていたのだ。

 そもそも、エレクから何があっても南端から動くなという命令を受けた以上、南端に敵が現れたり、ミサイル等の攻撃を放たれない限りする事が無いのだ。勿論、命令を無視して敵が攻めてくるであろう外壁北端や、外壁正門に行く事も出来る。だが、不思議と龍人には命令を無視する気は全く起きなかった。エレクが何を考えているのかは把握できていないが、それでも信じてみようと思ったのだ。それは、機械街に来てからエレクと何度か話し、共に戦った中で…信頼できると龍人が自然と思えていたからでもある。

 まぁ、だからと言ってダラけて良いわけでは無いのだが…。


「龍人君ー。伝令兵の人が北端の状況を教えてくれたよ。」


 そう言って近づいてきたのはレイラだ。


「お、どんな感じだった?最初の爆発以降、全然動きが見えない気がするけど、やっぱそんな感じ?」

「うん。最初の爆発は何の前触れもなく起きたみたい。 爆発したのは外壁北端のジャンクヤード側の所みたいだよ。だから、外壁北端が壊されたとかは無いって言ってたよ。」

「そっか。ってなると、やっぱり一連の攻撃は通信妨害をする為って事だよな。」

「…うん。そうなると思う。」

「ん~…。通信妨害をした割には、それを活かした攻撃をしてこないのが気になるんだよなー。まぁ、杞憂で終わればそれが1番だけどさ。」

「そうだね…。私、なんか嫌な予感がするんだ。悪い事が起きそうな気がする。」

「あぁら!縁起でもない事は言うもんじゃ無いですわよ!」


 会話に割り込んできたのはマーガレットだ。豊かな胸を持ち上げるように腕を組んだ彼女は、顎で外壁正門の方を指し示す。


「アパラタス軍が動きますわよ。そろそろこちらも警戒が必要ですわ。」


 言われた方を見ると、外壁上に駐屯している治安部隊が何やら慌しく動き始めていた。

 そして、バシュッという音ともに次々と放たれるのは小型のミサイルだ。上空に大きな弧を描きながらジャンクヤード軍に向けて飛んでいく。相当量のミサイルが一斉に放たれているため、防ぎきるのは難しいのでは…と思ったのだが、事態はそう簡単には進まない。

 突然、何の前触れも無くミサイルが空中で 爆発をしたのだ。爆発の炎がジャンクヤード軍に届く事は無く、不自然に球状に区切られている。


(ありゃあ…物理壁がジャンクヤード軍の上空に大きく展開されてんな。…アレだけの規模だ。恐らく相手には相当数の魔法使いが居る筈。それか…めっちゃ強い魔法使いが数人か、その両方かってとこか?けど、そもそも機械街に魔法を扱える人って少ないんじゃなかったけな。もしかして、アパラタスに少ないだけでジャンクヤードには沢山いんのか?)


 両軍の攻防からジャンクヤード軍の戦力を分析していく龍人。隣ではマーガレットが厳しい表情をして外壁の向こうを見ている。レイラは何かを言いたそうに2人を見るが、真剣な表情の龍人とマーガレットを見て口を噤む。


(…もう、弱音を言ってる状況じゃないよね。私もしっかりしなきゃ!)


 レイラはギュッと拳を握ると、ジャンクヤード軍の動きから少しでも何かを得ようと龍人の隣で観察を始めた。

 魔導師団の3人が両軍の成り行きを見守る中、アパラタス軍のミサイルを防いだジャンクヤード軍が動きを見せた。…大胆にも、外壁正門前に駐屯していたジャンクヤード軍の一部の部隊が進軍を開始したのだ。

 歩幅が合ったり等、軍隊のようにキチキチとはしていない。それでもある程度の隊列を保ったまま着実に外壁へ近づいてくる。

 対するアパラタス軍は外壁の上からミサイルを散発的に撃ち、進軍速度を少しでも遅めようと躍起になっていた。

 だが、ミサイルは先ほどと同じようにジャンクヤード軍に直撃する前に空中で次々と爆発していく。


「リーリー、戦闘部隊を外壁の向こうに送る。ミサイルが放たれた時に手を上にあげた奴らが物理壁を張り巡らせている筈だ。そいつらを叩かせろ。」

「分かったんじゃのう。」


 エレクの命を受けたリーリーが右手をさっと上げると、外壁の上から20人の戦闘部隊が飛び降りた。進軍するジャンクヤード軍はおよそ500人以上…どう考えても不利な人数である。

 しかし戦闘部隊の面々は着地するなり、迷うこと無くジャンクヤード軍に向けて駆け出していた。

 彼らが狙うのは物理壁を張る魔法使いだ。目には目を…の言葉通り魔法使いは魔法使いで倒すという戦法である。

 戦闘部隊の面々が接近するのをジャンクヤード軍が黙って見ている訳もなく、構えられた銃器群が次々と火をふく。

 鉛玉を物理壁で防ぎながら接近した戦闘部隊から放たれるのは、複数の属性による攻撃魔法だ。【火】【水】【風】【土】等の基本属性が多いのは、魔法を不得手とする機械街の特徴故か。だが、そんな基本属性であっても30人の魔法使いによる一斉攻撃はそれなりの質量を伴う。当然、ジャンクヤード軍に紛れている魔法使いによる魔法壁で防ぎきれる筈も無かった。

 戦闘部隊の魔法攻撃に蹂躙されるジャンクヤード軍。程なくして全員を倒した戦闘部隊は拳を上げて鬨の声を上げるのだった。

 この様子を外壁正門の上に移動して眺めていたエレクは…違和感を感じていた。


(あの闇社会の連中が仕掛けた攻撃にしては味気ない。)


 そう。余りにも手応えがなさ過ぎるのだ。この違和感…すぐにその正体がエレク達の目の前に現れる事になる。

 前頭部隊によって戦闘不能となったジャンクヤード軍の兵士達が蒸発するように姿を消したのだ。


「…!?そうか。戦闘部隊各位に告ぐ!全力で魔法壁を張り巡らせろ!」


 エレクが指示を出すのと同時に、ジャンクヤード軍の中心に光が生まれ…外壁正門に向けて放たれた。

 光の正体は電磁砲だ。魔法壁に激突した電磁砲の余波で、魔法壁に覆われていない外壁が削れていく。その強烈な威力に魔法壁を張る戦闘部隊の面々は苦痛の表情を浮かべるが、それでも倒れる事はない。彼らのリーダーであるエルクが電磁砲の正面で堂々と立ち、魔法壁を張っているからだ。

 大規模な戦闘の場面で、全員の士気を保つ重要さを知っているからこその行動。それによって、アパラタス軍は何とか電磁砲を防ぎきる事に成功したのだった。

 外壁に多少の被害は出たが、仲間の被害はゼロ。見事な攻防と評価する事が出来よう。

 大きな攻撃を防ぎきった事で、アパラタス軍に安堵の雰囲気が流れる。…が、それも束の間。ジャンクヤード軍の次なる部隊が動きを見せていた。


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


 外壁正門の正面に駐屯するジャンクヤード軍の中で、電磁砲を放った人物はゆらりと体を揺らすと肩を上下に動かし始めた。周りにいる兵士達が気味が悪そうに見ているが、本人にそれを気にする様子は一切見られない。


「くくく。良いですねぇ。あの攻撃を防ぐとは…中々にアパラタス軍も骨がありますねぇ。それにしても、この電磁砲…魔力の消費が少し大き過ぎますねぇ。これでは実践向きとは言えませんねぇ。」

「よく言う。アレだけの威力だ。其れ相応の魔力を消費するのは当然だ。これ以上何を求めるのだ?」

「ふふふふ。私が求めるのは、もっとコンパクトで威力が高い攻撃なんですよぉ。あんなのを毎回放っていては、実用的では無いんですよねぇ~。という訳で…私は少しばかし調整に戻らせてもらいますよぉ?」

「好きにしろ。お前1人が抜けた所で戦況に大きい変化は現れん。重要なのはもう少し後だ。それまでにしっかりと準備を整えておくんだな。」

「分かってますよぉ。」


 会話を続ける2人の人物をやや遠巻きに眺めるジャンクヤード群の兵士達は、2人が何を言っても口を挟む事はしない。それもその筈。1人は闇社会を束ねるクレジ=ネマ。もう1人はジャンクヤード軍を統べるジャバック=ブラッドロードなのだ。一般兵士である彼らに意見を言う事が許される訳もなかった。


「クレジ…我はお主の提案に乗ってやったに過ぎん。その事実を忘れるな。その対価として我が求めた事…忘れるなよ。」

「くくくくく。分かってますよぉ。だからこそ、今さっき試し撃ちをしたんですよぉ?それにぃ、私はあなたに殺されそうになるのなら、全力でこのジャンクヤード軍の兵士達を殺し尽くしますよぉ?私は生きなければ、ならないのですからねぇ。」


 クレジの物騒な発言にジャンクヤード軍の兵士達から殺気が放たれる。だが、同時にジャバックから放たれた闘気によって全ての殺気が掻き消された。


「クレジ…冗談は寝てから言え。」

「おぉぉぉ怖いですねぇ。私は自分の命が1番大切ですからねぇ。そんな私が敵に回ったら1番の脅威であるあなたに歯向かうと思いますかぁ?くくくく…信用が無いですねぇ~。それでは、失礼しますよぉ~?」


 そう言うとクレジはジャバックの方を向く事無く、兵士達隙間を縫うようにして姿を消した。


「…ふん。食えん男だ。次の攻撃に移るか。」


 ジャバックは横に控える兵士を見ると小さく頷く。兵士は敬礼のポーズを取ると、大声量で命令を飛ばす。


「イケェ!!!機械兵を送りだせえぇ!!」


 この機械兵が、アパラタス軍にとって多大なる脅威となる事をまだ龍人達は知らない。



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