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Colony  作者: Scherz
第五章 機械街 立ち向かう者
752/994

13-5-5.紛争への序章



 まさかの3人共が同じ願いを思っていたという事実は、もちろん龍人にとっても衝撃的な事実であった。


「マジか。すっげー偶然だな。」

「あら?偶然じゃ無いんじゃないかしら?」


 こう提言したのは女露天商。面白そうな笑みを浮かべる彼女は次のように続けた。


「今現在アパラタスでは紛争の危機感が高まってるわ。その中であなた達は敢えて楽しく過ごしている。それは、真に平和を求めるからこそ。悪い言い方をすれば今の状況からの現実逃避ね。でも、だからこそ、心の底から同じ事を思っているから、この非常事態に楽しく過ごしている事に反感を覚えないのよぉー。良くも悪くもね。…あなた達、素敵な仲間ね。」


 褒められているような貶されているような…微妙な感じではあるが、3人が心の底から争いのない世界を望んでいるという事実は、少なからずとも龍人の心を温かくしていた。


「まぁ…じゃあ、さっさと紛争を終わらせようぜ。」

「そうですわね。私がいるから大丈夫なのですわ!」

「うん!私も…守るだけじゃない戦い方、頑張ってみるね!」

「あぁーら、やっぱり良い仲間じゃない。」


 3人の気持ちがひとつになり、皆が照れ臭いような笑顔を浮かべた時であった。けたたましく警報が鳴り響いた。

 笑顔を浮かべていた3人はハッとして表情を固くする。


「マーガレット、レイラ…敵さんが動き出したみたいだ。行くぞ。」

「勿論なのですわ。」

「うん!みんなを守ろうね!」

「ふふっ。頑張ってね。」

「おう。サンキューなお姉さん。」


 爽やかに親指を立ててニヤッと笑った龍人は、転移魔法陣を発動し、レイラとマーガレットと共に転移光の中に姿を消していった。


「ふぅん。良い男じゃない。こんな時じゃ無かったら、全力で逆ナンするんだけどねぇー。」


 女露天商は警報と共に慌しく動き出したアパラタスの人々を見ると、大きくあくびをする。


「じゃ、私も避難しようかしらね。…頑張ってねお兄さん達!」


 こうして、機械街における紛争が動き始めたのだった。


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


 転移魔法陣で龍人達が外壁南端に到着すると、そこでは戦闘部隊の面々が慌しく走り回っていた。


「龍人!まずは状況把握が優先ですわ。ニーナを見つけて報告を聞くのですわ。」

「んだな。敵方が動き出したのを確認しての警報だと思うけど、出来るだけ早く状況を確認しなきゃだな。」


 龍人達は外壁南端で指揮をとっている筈のニーナを探しはじめる。程なくして、外壁南端の中央地点で戦闘部隊にテキパキと指示を出しているニーナを発見する事が出来た。


「ニーナ!状況はどうなってんだ?」

「あ、龍人さんとレイラさん!…とマーガレットさんも!」

「ニーナさん指示を出してる姿…かっこいいね。」


 レイラが有名人でも見るような憧れの視線をニーナに送ると、ニーナは照れたように自分の頭を触る。


「エレクさんの下で秘書として色々な業務を同時並行して行っていましたので、状況判断とかは得意になっちゃったんです。秘書時代の経験がしっかりと活きていて…私嬉しいです。」

「なるほどですわ。きっとこんな時の為にわざとあなたを秘書として使っていたのですわね。そして、わざと複数の業務を同時並行して行わなければいけない状況を与えていたのですわ。エレクに感謝するべきですわね。」

「え…そうだったんですかね。それなら感謝しても感謝しきれません。」


 紛争が始まりそうというのに、何故か感激モードになりつつある女子軍を見て龍人はため息を吐いてしまう。


「おーい。そろそろ本題に移ろうぜ。こういう時は時間の1秒でも勿体無いと思うんだけど。」

「あ…すいません!えっと、状況としましては、外壁正門の向こうに隊列を成した敵方の姿が確認されました。北端と南端ではまだ相手の姿を確認する事は出来ていません。ここ南端は外壁の向こう側が谷なのでまだ良いですが、北端は木々が生い茂っているので、今後は常時奇襲に対する警戒を行うとのことです。」

「…警報が鳴ってからこの短時間でそれだけの情報収集が出来るなんて、凄すぎますわ。」


 ニーナが話した正確でリアルタイムな情報に、マーガレットは腕を組んで唸ってしまう。


「あ、大した事は無いんですよ。龍人さんとレイラさんにも渡してるんですが、この腕輪型の通信機器でリアルタイムに情報を交換しているんですよ。魔力を使う必要が無いんで、誰でも使えるのが大きな利点ですね。」

「…腕輪型で、しかも魔力を使わないなんて凄いですわね。流石は機械街なのですわ。」

「まぁ確かにな。でもさ、これはバッテリーが切れたら使えなくなるし、そこはデメリットだろ。俺たちの魔導師団のネックレスなら魔力が尽きない限りずっと使えるぞ?」

「ん~確かにそうですわね。…そう言えば、今思ったのですが…ネックレスで火乃花と連絡が取れないのですか?もし、相手の操る魔法の効力がきれてれば…。」

「…確かに!やってみるわ。」


 何故その事に気付かなかったのか、という後悔がややあるが、一先ずはトライする。

 首からぶら下げている魔導師団のネックレスに魔力を集中すると、龍人の目の前に仮想デスクトップが表示される。それを目線と魔力で操作し、火乃花を選択…通信を開始した。

 龍人の目線が仮想デスクトップを追ってキョロキョロと動くのを見ているニーナには、龍人が何をしているのかが分からず、首を傾げるのみ。レイラとマーガレットには何をしているのかは分かるが、仮想デスクトップは彼女達の目にも映っていない。使用者本人にしか見る事が出来ない仮想デスクトップ。これこそが、魔導師団を有する魔法街の英知の結晶と言う事が出来る。


「…ダメだ。全然繋がんないな。」

「ん~不思議ですわね。話を聞いた限りだと、火乃花は操られていても…元々の知識はあるはずなのですわ。魔導師団のネックレスが通信を告げているのなら、出ない理由がありませんわ。となると、出れない状況にあるのか、ネックレスを奪われているのか…ですわね。」

「だな。取り敢えず、今火乃花が何処にいるか分からない以上、これ以上話してもしょうがない。まずは目の前の状況に集中しよう。ニーナ、この後の俺たちの動きについて教えてくれ。」

「分かりました。」


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


 ニーナから今後の方針を聞いた龍人は、外壁に腰掛けてジャンクヤード側を眺めていた。ジャンクヤードとアパラタスを隔てる外壁は、綺麗に真っ直ぐ伸びていて、南端から北端を望む事が出来る。

 そして、今龍人が見ているのは外壁正門の向こうに隊列を成したジャンクヤード側の軍隊だ。遠目から見て装備が統一されている感じがしないので、軍隊…と言って良いのかは微妙であるが、とにかく数千は下らない人数が大きな塊となって近づいて来ていた。


(もうすぐ…始まるな。)


 否応なしに高まる緊張感。周囲にいる戦闘部隊の面々も緊張の面持ちで外壁正門の方を見守っている。

 現在、レイラとマーガレットはニーナとあれこれと作戦立てをしていて龍人の側にはいない。龍人は状況を見て即座に動けるようにと、自ら外壁の警備を志願していた。そして、何故か遼がまだ外壁の南端に到着していなかった。魔導師団のネックレスで連絡をとった所、「もう少しだけ時間が欲しい」と言っていたので、恐らくは刻印に関して何かを掴みかけているのだろう。

 現状として即座に戦力を欲している訳ではないので、龍人は納得がいったら南端に来るように遼に伝えていた。


(…動きが止まった?)


 外壁正門に近付いていたジャンクヤード軍は、外壁から1km程度の距離をあけて進軍を止めていた。その場に駐屯して何をするのか…と、誰もが思った時、外壁北端の方向から巨大な爆発が上がる。

 かなり距離が離れている南端からでも見える程の爆発、そして爆音。相当強力な攻撃を撃ち込まれた事が伺える。

 ジャンクヤード側の動きは続く。全員の意識が北端に集中した瞬間に、外壁正門の先に陣を敷いたジャンクヤード軍から数十発ものミサイルが放たれたのだ。

 その存在に気付いて対応に移るまで…意識が北端に向いていた事が原因となって、通常よりも数秒遅れてしまう。この数秒程度であれば大きな支障はない筈なのだが…。

 ミサイルの存在を確認したエレクは、外壁正門に配置した治安部隊に指示を飛ばす。


「迎撃ミサイルを放て!」


 エレクの指示に治安部隊は声を上げて応じ、外壁上に設置した砲台から迎撃ミサイルを次々と発射する。視認による発射の為、ミサイルとミサイルをぶつけると言うよりも、爆発範囲が広くなるように設定された迎撃ミサイルの爆発によって、敵方のミサイルを誘爆するのが目的だ。

 アパラタス側から放たれた迎撃ミサイルは天高く飛び、次々と爆発する。そして、爆発に巻き込まれたジャンクヤード軍のミサイルが次々と爆発していった。位置としてはアパラタスの外壁の上空といった所。もう数秒早く対応に入っていれば外壁の向こう側で迎撃出来た筈ではあるが…結果的には迎撃が成功した為、問題はない筈だ。

 だが、不思議な現象が起きる。上空から何かキラキラしたものがゆっくり舞い降りてきたのだ。それは南端にいる龍人達の所にも広がり、外壁上空…更にはジャンクヤード軍の方にまで響いているように見える。


「なんだこれ?」


 特に害があるようには見えないのだが…。すると、ニーナが慌てて駆け寄ってきた。


「龍人さん!これはチャフです!紛争が始まる前に大気圏上空に打ち上げていた人工衛星によるレーダーが、これで妨害されてしまいました。」

「チャフ…こんなんでレーダーを妨害出来るのか。」

「はい。金属が電波を反射する性質を利用した妨害兵器です。レーダーで敵方の動きを把握していたのですが…これは先手を取られました。ジャンクヤードとアパラタスを大きく覆うように散布されていますので、奇襲部隊を見つけるのは視認以外の方法がありません。」

「なるほどね。…でも、何か腑に落ちないんだよな。このまま一気に仕掛けてくんのかな?」

「そうとも言えない気がします。まだ外壁正門前に陣取ったジャンクヤード軍に動きはありませんし。」


 タタタタっという走る音とともに戦闘部隊の1人が駆け寄ってくる。


「大変です!一切の通信機器が使用不可になりました!チャフが散布されたのとほぼ同時ですが…今の所原因は不明です!」

「え…!?おかしいですね…。チャフで通信の妨害は難しいはずです…。何か他に原因があるはずです。」

「多分…あれじゃないか?」


 そう言って龍人が指し示した先には、ジャンクヤード軍が陣を敷いた場所。そこに何やら大きな物体が等間隔で並んでいた。

 スゥゥゥっとニーナの目が細められる。


「…そうですね。通信機器が使えなくなった原因はあの機械みたいです。これだけの距離で並べられていることを考えると、あの機械からこちら側の外壁全箇所で通信が使えなくなったと考えていいと思います。」

「…それってさ、結構マズイよな?」

「そうですね…。他の外壁地点の情報は伝令役を使うか、視認による状況確認しか方法がありません。もしくは…魔導師団の皆さんに其々の地点に1人ずつ分かれてもらう事も出来ますが…。」

「あぁ、確かに魔導師団のネックレスは魔力で作動するから通信は可能な筈だな。」

「では…その方向でエレクさんに聞いてみましょう。」


 ニーナが伝令役を外壁正門へ送るために指示を出そうとした時である、正門側から治安部隊の1人がニーナ達の元に駆け寄ってくる。


「外壁正門に配置されている治安部隊の者です!エレク様よりの御伝言です!何があっても魔導師団は外壁南端から動かないようにとの事です!」

「…何があっても?」

「はい!」

「ニーナ…どういう事だと思う?」

「…正直、分かりません。けれど、エレク様が意味もなくこんな事を言う筈がありませんので、ここは信じて従ってみませんか?」

「んー…まぁそうするか。まだ遼も来てないみたいだし。」

「はい。私も南端に相手が攻めてきた時のために準備を進めておきます。」


 ニーナは踵を返すと南端の中央地点に向けて戻っていく。


(エレクさんは…本当にアレを信じているのでしょうか?)


 南端中央へ戻るニーナの頭には、事前にエルクから聞かされていたとある話が蘇っていた。それが本当に起きるのなら、魔導師団がここにいる理由は確実なものであるが、起きなければただの無駄駒である。

 機敏に歩いていくニーナに戦闘部隊の者達が敬礼をする。彼等の目線が大きく上下に揺れる胸に注がれている事に全く気付かないニーナは、これから起きうる最悪の事態に向けて思考を巡らせるのだった。


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