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Colony  作者: Scherz
第五章 機械街 立ち向かう者
751/994

13-5-4.紛争への序章



☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


 ジャンクヤードの侵攻に対する防衛準備が本格的に始まってから7日。緊張状態は依然続いているが、未だに外壁の向こうに大きな動きが見られる事は無かった。

 数日前の会議で防衛時の人員の配置が発表されてはいるが、敵方に動きが見えるまでは、各々の自由に行動をして良い事になっている。因みに、人員配置は以下の通りだ。


【外壁北端】

スピル、ラウド、治安部隊


【外壁正門】

エレク、リーリー、戦闘部隊、治安部隊


【外壁南端】

第8魔導師団、ニーナ、戦闘部隊


 外壁の老朽化が激しく、敵の攻撃が集中すると考えられる外壁北端にはには4機肢の2人が配置。そして、外壁の向こう側が平原となっていて、大規模部隊による攻撃が行われる可能性が高い正門には街主エレク自らが人頭指揮を取る事となっていた。

 ここまでは納得の人員配置。だが、第8魔導師団が外壁南端に配置されると発表された時、多くの者から反論が噴出した。そうなるのも仕方が無いと言えよう。機械塔での戦いは第8魔導師団の面々が居なければ、もっと悲惨な事になっていたはずなのだから。

 しかし、そんな反論に対してエレクは「決定事項だ。」と応じる姿勢を見せない。それに加えて4機肢全員がエレクの人員配置に異議なしの立場を表明した事で、他の者の意見が通らない状況を作り上げられてしまった。

 龍人としては正直な所どこに配置されてもいいので、問題は無い。与えられた場所で出来ることを全力でするだけなのだから。何故かマーガレットは「私達が居るのに活躍する場所に配置しないなんて…采配が下手くそなのですわ!!」と憤っていたが。

 外壁南端のジャンクヤード側は谷となっている為、他の外壁部分に比べると警戒度が幾分か低い。その為、敵襲に備えた常駐で警戒する人員の数も他の場所に比べると少ない。

 そんな事情が相まって、龍人は…レイラとデートをしていた。

 きっかけはレイラの「そういえばアパラタスを全然見て回ってないなぁ。」のひと言である。確かに機械街に来てから機械塔での戦いが始まるまで、レイラはニーナと女子トークをひたすら繰り広げたり、機械街の文献を読むしかしていなかったのだ。その言葉を聞いた龍人が「俺、結構見て回ったし何と無くなら案内できるよ。」と、何となしに言った瞬間にレイラの瞳が輝く。そして「じゃあ案内して欲しいな。」と言われ、デートが実現したのだ。

 因みに遼はアパラタスの武器店で刻印の練習をすると言って、朝イチで出発していた。マーガレットは朝から姿が見えず、機械塔の中を探しても見つからない事から、出掛けたのだろうと2人は勝手に考えていた。

 朝から龍人とレイラがデートをする為の場が用意されていた感じがするのは偶然か必然か。

 ともあれ、龍人とレイラは仲良くアパラタスの東地区を歩いていた。何かが起きた時に外壁に行けるようにと、1番外壁に近い地区を選んだのは言わずもがな。


「ほんっと物々しい雰囲気だよな。最初来た時はこんなんじゃなかったのに。」

「これからジャンクヤードとの紛争が始まりそうだもんね…。きっと街の人達も不安なんじゃないかな。」

「だろうな。前みたいにチャキチャキ歩く仕事人みたいな人が全然いないし。紛争勃発寸前で仕事になんないのかもな。」

「なんか…私もちょっと怖い。こういう大規模な武力戦って初めてだし…。」


 手を体の前で組んで視線を落とすレイラ。その姿は可憐な天使のようで(龍人の主観)、守ってあげたいという気持ちを強く駆り立てるものだった。


「ま、やる事はいつもと変わんないよ。大事なのは自分の命を最優先する事じゃないかな?いざとなったら俺が守るよ。」


 サラッと言った「守る」という言葉にときめいたレイラの瞳がキラキラと輝く。


「ありがとう。…龍人君って優しいね。」


 ほんのりと頬を染めながら言うレイラの笑顔は、それだけで龍人の心を悩殺する破壊力を秘めていた。ゆっくり歩きながら見つめ合う2人。その視線は共に熱く、隣を歩く2人の手が触れ合いそうになる。そして2人の手は自然と近づき…。


「見つけましたわ!」


 という声が聞こえ、龍人に横から衝撃が加わる。勿論2人の手の距離は必然的に離れ、龍人の左腕には衝撃と共に柔らかい感触が押し付けられる。


「うわっ!…ってマーガレットか!」


 何事かと思い確認すると、そこには龍人の腕に抱き付いて嬉しそうな顔をするマーガレットがいた。


「デートに誘おうと思って下見をして戻ったら居ないんですもの!それで探していたらレイラとデートですわ。…レイラ!私は貴女には負けませんのよ!」


 片手で龍人の腕に抱きつきながら、もう片方の人差し指をビシィッとレイラに突き付けるマーガレットに、レイラはポカンとした表情だ。だが、状況をすぐに理解したレイラは頬をぷぅーっと膨らませる。


「わ、私だって負けないもん!」


 ほんの少しの逡巡の後、思いきったように龍人の空いている方の腕をチョコンと両手で掴むレイラ。どうやらマーガレットみたいに抱き付くまでの大胆行動には移れなかったようだ。

 かくして、両手に美女をくっつけたハーレム男…高嶺龍人が完成した。


 それから小1時間。龍人は完全にマーガレットとレイラに振り回され続ける事となる。

 女性用の服飾店。アクセサリー店。スイーツ店等々。もはや女2人で買い物に行けば良いのではないか?と龍人が心の底から思ってしまう位に、あちらこちらの店に連れ回された。

 とは言え、そんな事を思いながらも、龍人に嫌だと思う気持ちは無かった。レイラとマーガレットが楽しそうに笑っていたからだろう。恋のライバルである事に間違いは無いが、マーガレットとレイラは2人で龍人を取り合う行動を楽しんでいる節もあった。

 機械街にきてから張り詰めた日々を送っていた龍人としては、心休まる時間であり、無闇にこの時間を壊したいとは思わなかったのだ。


「次はあの店に行きますわよ!さっき前を通った時に、ボリューム満点なパフェが見えたのですわ!」

「えぇ。私はあっちのアイスクリームが食べたいな。自然素材って書いてあったし美味しいと思うなぁ。」


 マーガレットとレイラが次に行く店を話し合い?している最中に、横を見た龍人はフと足を止めた。

 それに気付いたレイラが龍人の方を振り向く。


「あれ?龍人君どうしたの?」


 ナチュラルに首をかしげるレイラが可愛い。


「龍人!早く次の店に行きますわよ!アイスからのパフェですの!」


 ナチュラルに腕を組んで強調されたマーガレットの胸は男のロマン。

 いつもなら男らしく2人に見惚れるのだが、龍人はそこまで視線を奪われること無く、とある店を指差す。


「なぁ、あの店で売ってるのってなんだろ?腕輪?ヤケにカラフルだけど。」


 龍人が指し示した先には、色取り取りの腕輪のような物が大量に陳列された露天商があった。色のバリエーションがかなり多く、綺麗なグラデーションとなって棚を彩っている。


「あら。龍人はアレが何かも知りませんの?…ふふ、じゃあ私が教えてあげますわ!行きますわよ!」

「うわっ。」

「あ、待ってよー!」


 大胆にも龍人の手をしっかり握って走り出すマーガレット。龍人は引っ張られるままついていき、レイラは離されまいと追いかける。モテない男達からしたら歯軋りをして悔しがる状況である。


「はぁーい。いらっしゃい!これに興味あるのかしらぁ?」


 露天商のギャルっぽいお姉さんがウインクをしてくる。


「そうなのですわ。龍人がこれが何か知らないみたいだから、連れてきたのですわ。」

「あらぁ。ま、男ってこういうのにあんまり興味無いものねぇ。」

「…悪かったな。」

「ん?拗ねちゃったのぉ?案外可愛いとこもあるのねー。そーゆー男…好きよー!」

「駄目ですわ!龍人は私のものですわ!」

「あら?あ、なるほどね!ザンネーン。…ん?もしかして後ろの女の子…妬いてるんじゃない?」

「えっ…!?」


 露天商のお姉さんにいきなり話を振られたレイラは、顔を赤面させる。


「えっと…え?…や、ヤキモチなんて妬いてないもん!」


 顔を赤くしたままプイッと横を向くレイラを見た露天商のお姉さんが「プププ」と笑う。


「可愛いじゃない!こーゆー恥ずかしがる女の子って男がキュンってしちゃうのよねぇ~。」

「えっ!?それは聞き捨てならないですわ!では、私みたいな女は男をキュンっとさせられないのですか!?」

「ん~。」


 露天商のお姉さんは人差し指を口に当ててマーガレットの体を下から上へと観察していく。


「あなたは素敵なプロポーションしてるし、ちょっと胸の谷間が見える服でも来て前かがみになれば、それだけで男の視線を釘付けに出来るんじゃないかしら?胸が嫌いな男ってそうそういないわよぉ~。」

「なるほどですの!」

「いやいや!なるほどとかそーゆーもんじゃないって!」


 話が変な方向に進みそうな予感がした龍人が、話を逸らそうと口を挟む。…が、時すでに遅しであった。


「ん?おにーさんは胸嫌いなの?」

「へ?」

「龍人!もしかして私のこの胸が嫌いなのですか!?」


 ニヤニヤする女露天商。何故か胸を寄せるようにしながら龍人に縋り付くマーガレット。自分の胸とマーガレットの胸を順番に見比べるレイラ。

 もはや後には引けない状況に、マーガレットにくっ付かれた龍人は思わず空を仰ぐのだった。


 …10分後。男をキュンキュンさせる方法についての話題がやっと落ち着いた所で、龍人は女露天商に売っているものについて教えて欲しいと要求する。…そもそも、話が大きく逸れたのも女露天商がきっかけではあるが。


「良いわょ。これはミサンガって言ってね、願いを込めながら手首とか足首に着けるのよ。そして、願い事が叶う時に自然と切れるって言われてるわ。」

「へぇぇ…素敵だね。」


 ミサンガの説明を聞いたレイラは物欲しそうな目で手に取って眺め始めた。


「まぁ…こんなのを着けるっていうのま悪くはないかもですわ!」


 と、言いながらマーガレットは腕を組んでチラチラと龍人とミサンガを交互に見る。何故か頬が紅潮していたり。

 つまり…であるが、レイラとマーガレットはミサンガが欲しいのだろう。直接は言ってこないが、欲しそうな雰囲気をバンバン出しているのだから間違いない。


「…折角来たんだし、買ったげよっか?」

「え!…ありがとう龍人君!」

「流石は私が認めた男ですわ!」


 とても嬉しそうに笑顔を見せる2人。マーガレットはレイラの横に移動すると、2人であれやこれやの物色を始めた。

 ニコニコ…というかニヤニヤと笑っている女露天商を見ていると、買う方向に上手く話を誘導された気がしなくもないが…気のせいと思うのが1番である。


(…なんかどれにするか決まるまで時間掛かりそうだな。)


 この龍人の予想通り、どのミサンガにするか決まるのに丸々15分程度の時間を要したのだった。

 龍人が言われた金額を女露天商に払うと、レイラが嬉しそうな顔で龍人を見る。


「龍人君左手出してもらってもいい?」

「ん?良いよ。」


 自分がミサンガをプレゼントする代わりに、こっそり何かを買ってくれてたのかと思い、龍人は手のひらを上にして左手を出す。すると、レイラが優しく左手首に白い物を巻き付けた。


「ん?これって…。」


 それは、龍人がレイラとマーガレットにプレゼントしたのと同じミサンガである。


「3人で一緒だよ。」


 恥ずかしそうに言うレイラ。


「感謝しなさい!特別にお揃いにしてあげたのですわ!」


 顔を朱に染めながら腕を組んで横を向いて言うマーガレット。


(まぁ…買ったのは俺だけどな。)


 とは言え、2人が自分の事を考えてくれたのは素直に嬉しいものである。


「2人はどんな願い事したんだ?」

「それは秘密なのですわ!…あ、でも龍人が教えてくれるなら教えてもいいですわよ!?」


 むしろ何をお願いしたのか言え…という感じの勢い。特に隠す必要の無い龍人は、渋ることもなく自分の心に自然と浮かんでいた願い事を口にする。


「俺の願い事は…争いがなくなりますように。かな。」

「えっ?」

「本当ですの!?」


 何故か同時に声を上げるマーガレットとレイラ。2人は互いの顔を見て、目をパチクリさせ、同時に龍人を見て口を開いた。


「同じお願い事だよ!」

「同じお願いですわ!」


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