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Colony  作者: Scherz
第五章 機械街 立ち向かう者
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13-5-2.紛争への序章



 機械街アパラタス。普段は規則正しく時間通りに仕事を行う人々が、せかせかと歩く都市。表通りは治安が良く、裏通りに入った瞬間に治安が一気に悪くなるという特徴を持つこの都市は、かつて無い緊張感に包まれていた。

 表通りを隊列を成して歩くのは機械塔所属の治安部隊。普段は数人で警備に当たっているのだが、今は10人単位で歩いている。

 治安部隊の数が増えただけで物々しい雰囲気なのだが、アパラタス全体の雰囲気を変えているのには、もう1つの部隊の存在があった。それが…かつてビストが所属していた機械街の戦闘部隊である。普段は表舞台に出てこないはずの戦闘部隊が表通りを警備しているのだから、今の異常事態がよっぽどであるという事だ。

 治安部隊と戦闘部隊は外見の雰囲気が全く違う。治安部隊は全身が灰色一色の装備を着込んでいて、武器は小銃とマシンガンが基本装備だ。個人個人で得意な武器が違う為、他の武器を持つ者が居るが、基本装備を持たない者は居ない。故に10人規模で歩いていても集団として統一感があった。

 そして、戦闘部隊は全身が黒一色の装備が特徴である。治安部隊と大きく違うのは、服装が統一されているだけで、所有する武器が個人個人で異なる事だ。中には武器を持たずに両手をポケットに入れて歩いている者もいる。

 同じ機械街に所属する部隊でありながら、治安部隊と戦闘部隊の装備に大きな違いがあるのは…其々の部隊への入隊条件が異なるからだ。

 治安部隊に入隊する為には一定以上の銃器を扱う能力が求められる。魔法街と違って魔法を扱える者が少ない為、戦うとなると銃器等の武器に依存した戦いになるのだから、当たり前といえば当たり前。

 一方、戦闘部隊に求められるのは魔法を扱う能力…この1点に限られる。この為、銃器を必要としないのだ。

 機械街に少ない魔力を操る者達が集められた戦闘部隊は人数こそ少ないものの、戦闘能力は魔力を持たない人々と比べて格段に高い。そんな彼らが歩いているだけで、アパラタスの住人にとっては恐怖の対象として成立していた。

 そして、アパラタスでは更にもうひとつ…今までにない事が起きていた。それが徴兵だ。強制的な徴兵ではでは無いが、闇社会と戦う為の人員を公的に広く募集していた。闇社会との戦いは熾烈を極める事が予想される。それらを乗り越える為にも、1人でも多くの手が必要とエレクが判断した結果だ。

 隠される事の無い紛争の雰囲気。だが、その甲斐があって他人事と考える人は居なかった。全員が自分の身に降りかかるであろう現実として認識し、戦わずとも出来る事をするべく動き出していた。

 隠す事の無い紛争への準備。これが少なからずとも街圏の他の星に影響を与えるのは当然の事実。だが、それはまた別の話でもある。


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


 アパラタスの中心にある機械塔。クレジが放った電磁砲によって半壊し、無残な姿を晒していたのだが…数日経った今は物凄いスピードで復旧作業が行われていた。

 エレクが属性【鉄】の能力で辺りに散乱していた鉄素材を再び機械塔の骨組みとして再構築したお陰で、作業が一気に進んだのが大きな理由のひとつである。

 その機械塔に設けられたとある部屋に、エレク、スピル、ニーナ、ラウド、リーリーの5人が集まっていた。街主と4機肢…機械街アパラタスの最高意思決定機関の面々である。


「…と言いますと、ニーナの力を使う可能性があるという事ですよね?」

「あぁ。」


 スピルの問い掛けにひと言で答えたエレクは沈黙する。対するスピルは顎に手を当てると、難しそうな顔をする。


「確かに今回の戦闘で闇社会幹部達の実力が想像以上に高い事が判明しました。クレジの操る震動波の威力、フェラムが使うチャーム効果のある魔法…現に魔導師団の1人が操られていますし、チャンの身体能力の高さは異常といっても良いでしょうね。それに、今回表に出てきた3人だけが闇社会の主力とも限りません。それらを鑑みるのであれば、少しでもこちらの戦力を増強する事は大事です。しかし…ニーナ、制御出来るのですか?」

「正直な所、そこまで自信がある訳ではありません。昔に比べたら大分制御出来ているのは間違いないです。」

「つまり…問題点は何ですか?」

「それは…。」

「感情に左右され過ぎる。落ち着いていれば問題無い。」


 言いにくそうに目を泳がせたニーナの横からエレクが見解を述べ、それを聞いたスピルは溜息を吐くとスーツの襟を下に引っ張って皺を伸ばす。因みに、スピルは縦にストライプが入った紺色のスーツに黄色いネクタイがトレードマークである。普通にその辺りを歩いている時にエリートサラリーマンに間違えられる事も少なくは無い。


「不確定要素が高すぎると思いますね。ニーナには悪いですが、制御出来なくなって味方に被害が及ぶのだけは許容できません。」

「…そんな事にならないようにします。私だって機械街を、アパラタスを守る為に4機肢になったんです。いつまでも隠れて守られている訳にはいきません。」

「…その気持が非常に素敵で心強いのは間違いないありません。しかし、先程も言いましたが同時に仲間を危険に晒す可能性がある事を認識してください。その上で…力を制御出来なくなった時、どうやって止めるつもりですか?ここが解決され無い限り、俺はニーナが力を使う事に反対です。」


 あくまでも理論的に納得する回答を求めるスピル。ここでもまた悩み、エレクが助け舟を出すのかと思っていたが…存外ニーナは強い意志の籠った目をスピルに向けていた。


「私が力の制御が出来なくなった時は…殺して頂いて構いません。」

「……!」


 予想を大きく超えた覚悟のある答え。ここまで言い切られてしまえば、仲間としてその意志を尊重するしかなかった。スピルは口元を緩めるとニーナからエレクへ視線を移す。


「エレク。ニーナが戦う事…認めましょう。但し、本当に力を使わなければならない時だけとするべきです。

「そうだな。スピルの言う通り、無闇矢鱈に力を使うのは禁ずる。」


 口を横一文字に結び、深く頷くニーナ。これにてニーナが戦いに参加するか否かの討論が終わったと判断したエレクは、後ろの壁1面に取り付けられている巨大モニターの電源を入れる。

 そこに映っていたのは機械街を上から見下ろした地図だった。


「次の話に行くぞ。闇社会の侵攻予想と、それらの対応策だ。基本陣形と応用のパターンを幾つか共有しておく必要がある。」


 4機肢全員の視線がモニターに集中する。

 機械街は星として長方形の形をしている。丁度正方形を2つ横に繋げた形だ。星の左側半分が、ここ機械塔がある機械街の主要都市アパラタス。そして、右側半分が廃機械が散乱していると言われるジャンクヤードだ。

 アパラタスとジャンクヤードの境目には外壁が存在する。アパラタスの東地区に当たる部分…つまり、スラム地区を抜けた先に外壁が存在する事となる。アパラタスがスラム地区に手を付けないで放置していたツケがここで回ってきていた。

 外壁は長年手付かずで治安部隊が確認に行った所、相当数の場所が老朽化をしているとの報告があがっていた。


「ニーナ。説明を頼む。」

「あ…はい!」


 ニーナは説明をエレクに任せてもらった事に喜びを感じ、スピルに問い詰められていたときよりも元気な様子で話し始めた。どこか街主の秘書としての雰囲気を出しつつ、ニーナは説明を始める。まぁ、元々秘書として普段の生活を送っていたのだから、こちらの方が慣れているし性に合っているのかも知れない。


「まず、外壁に関してですが現在の状態は治安部隊の報告にあった通りのものです。急ピッチで補強を行っていますので、後は闇社会が攻めてくるタイミング次第…ではあると思います。出来るところまでやってあとはどうにかするしかありません。そして、これが今回の防衛ポイントです。」


 ニーナが巨大モニターをポンっと触ると、外壁部分に3つの丸が表示される。外壁北端、外壁中央、外壁南端の3箇所だ。


「この外壁についてもう少し詳しくご説明します。外壁北端は劣化が1番激しく、敵が集中攻撃をしてくる可能性が非常に高くなっています。ジャンクヤード側が林になっているので奇襲に対する警戒が必要です。外壁中央…正式に言うと外壁正門は、老朽化はそこまで進んでいません。ジャンクヤード側が平原なので、大規模な戦力でもって攻撃される事が予想されます。外壁南端は老朽化が進んではいますが、ジャンクヤード側が深い谷になっていますので、攻撃手段が限られてきます。また、外壁を壊されても侵入する手段が限定されるので…防衛の重要度としては3箇所で1番低いです。」

「なるほど…。こうして見ると、敵が攻めてくるであろうポイントは北端と正門で間違いなさそうですね。ではあとの問題は人員の配置ですね。」

「はい。人員配置ですが…すでにエレクが決めています、」


 ニーナが再びモニターに触れると小さな丸が幾つも現れる。


「……!?エレク…この配置は不可解すぎませんか?」


 人員配置が理解出来ないスピル。隣にいるラウドも理解が出来ないのか、僅かに首を傾げていた。


「これには理由がある。今から説明しよう。」


 エレクの説明を聞く内、4機肢の表情は怪訝なそれから驚き、納得へと移っていった。

 そして、話を聞き終えると今まで沈黙を保っていたリーリーが口を開いた。


「なるほどじゃのう。それなら確かにこの人員配置も納得じゃのう。…じゃが、他の者たちをどうやって納得させるのじゃ?お主の言う通りに物事が運ぶとも限らないのが現実じゃ。なによりあの者達がこの配置に異を唱えると思うんじゃのう。」

「それについても問題無い。次の議題に移るぞ。」


 リーリーが何を言ったところでエレクに人員配置を変えるつもりはなく、そのままサラッと受けながすと次の議題に移ってしまう。


(これは…エレクの仮設が正しいのであれば、とんでもない戦いになる事か間違い無いんじゃのう。)


 次の議題を聞きながらも、不安を拭いきれないリーリーであった。



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