13-4-11.引き寄せられる強者達
バズーカから砲弾が一斉に発射された瞬間、ヒーローズの面々は相手の狙いを理解する。広がるような陣形になっているため、英裕に向けて突き進む砲弾への対抗策を取りようが無いのだ。全員がある程度集まっていれば、特殊防護シールドで全員をカバー出来る。だが、今の広がりようではそれを持っている者が自分を守る事しか出来なかった。それは後方で銃弾を放っていたケイトにも同じ事が言える。
(今から魔弾で全部を撃ち落とすのはキツイ…!)
それでも、英裕に向かう砲弾の数を少しでも減らそうと銃を構えるケイトだったが、英裕が「待て」とばかりに手を向けている事に気づき、銃の構えをすぐに解いた。
この状況で英裕が仲間の援護を止めるというのは、ある事を意味していた。
(…遂に、英裕が本気で動くか。)
今まで何があっても能力を使う事がなかった英裕が、遂にその力を行使するのだ。ケイトは英裕が能力を使っても勝つ事ができないという万が一の事態に備えつつ、相手を全滅させた後…次にどうやって動けば良いのかを判断する為に周囲の情報を正確に把握すべく、意識を広く全方位へ向けた。
バズーカから放たれた砲弾が目の前に迫る中、いつの間にか身幅が広く、反り返った形をした剣…カットラスを構えた英裕は、それを横一直線に振った。
「な、なんだと!?」
英裕の一振りによって目の前で起きた現象に、ヤクザ風軍団のリーダー格と思われる男は目を見開いて驚きを隠せない。
それもその筈。砲弾の速度が途轍もなく遅くなったのだから。まるでスローモーションのようにゆっくり動く砲弾は、そこだけ別の時間が流れているかのようであった。
「へっ。一気に倒すぜ!」
英裕はヤクザ風軍団がどよめいている間に、一気に勝負を決めるべく駆け出した。
カットラスが素早く煌めかせ、英裕は砲弾の間を縫うように駆けていく。そして、砲弾が乱立する地帯を抜けた後…砲弾の速度が徐々に戻り、砲弾は英裕によって切られた切断面からズレ、次の瞬間には強大な爆発が辺り一帯を飲み込んだ。爆発を背に受け、カットラスを肩に乗せて立つ英裕の姿は、ヤクザ風軍団の面々に格の違いを思い知らせるのには十分だった。
だが、強者が目の前にいるからといって逃げるようでは、暴動を起こす意味もない。それを理解しているヤクザ風軍団のリーダーはバズーカを再び構えると、震える声を必死に隠しながら仲間に向けて叫ぶ。
「て、てめぇら!たった1人に怖気付くんじゃねぇ!あんな化け物みてぇな芸当が何度も出来るわけねぇだろ!連続で攻撃すれば突破口がぐぅえええぇ…!」
気づけば、目の前に接近していた英裕のカットラスの柄が鳩尾にめり込んでいた。リーダーの男にとって、動きを追う事ができなかった為、不意打ちと言っても過言ではないダメージの受け方をしてしまう。鳩尾から体の内部に突き抜ける衝撃は、肺の空気を押し出し、瞬間的に酸欠状態へと追い込む。
意識が朦朧とするリーダーの男の耳に口を近づけると、英裕は小さく呟いた。
「まぁ、お前の観察は間違ってねぇよ。大した判断力を持ってるぜ。ただ…実力だけが足んなかったな。」
「?…え…。」
リーダーの男は何かを言おうとして口を動かすが、肺の空気が押し出されているせいでまともな声にならない。
英裕は柄を鳩尾にめり込ませたまま、カットラスを大きく横に振りぬく。その動きに合わせて吹き飛んでいくリーダーの男。
カットラスの切っ先をヤクザ風軍団に向けた英裕は、獰猛な笑みを浮かべ、楽しそうに叫んだ。
「さぁ!一気に叩き潰すからな!逃げんなよヤクザ共!」
…一方的な殺戮劇が開幕したのだった。
約10分後。今までの拮抗した戦いは何だったのだろうか…と思いたくなるほどにあっさりとヤクザ風軍団は壊滅していた。因みに殺戮劇と表したが、実際はヤクザ風軍団の面々で命を失っている者は誰1人とて居なかった。これも、英裕がヤクザ風軍団と圧倒的な差の実力を有していたからこそ…の芸当である。
その英裕は、リーダーの男の首元にカットラスの切っ先を突き付けて尋問をしていた。
「さーて。お前達の目的を教えてもらおうか。」
「だ…だれが言うかよ…!」
「ははぁん。まぁ言わないなら言わないで辛い思いをするだけだぜ?」
カットラスの切っ先が男の首に1mm程度突き刺さる。皮が破れ、切断された毛細血管から血が滲み出始めた。
「?…ぐ…。」
「お、案外根性あんじゃん。ま…話すか死ぬかだけどな。」
カットラスの切っ先は、少しずつ…だが確実にリーダーの男の首に突き刺さっていく。首元から発せられる痛覚信号は段々大きくなり、リーダーの男の意識は痛覚に支配されていく。そして、痛みは痛みへの恐怖を生み出し、男の心を支配していった。
「わ、分かった!話す!話すからやめろ!」
「ん?やっと話す気になったか。じゃあ…さっきも言ったけど、目的を教えてもらおうか。」
「お、俺たちの目的は機械塔の戦力を各地区に分散させることだ。そうして手薄になった機械塔に闇社会の幹部が乗り込んで、一気に制圧する…それが今回の目的だ。」
「…ちっ。そういう事か。」
暴動の目的を理解した英裕は、カットラスをリーダーの男の首から引くと、忌々しそうに舌打ちをした。
「よし。皆!闇社会の思い通りにはさせねぇ。機械塔に向かうぞ!」
「「「おぅ!」」」
機械塔に向かって歩き出すヒーローズの後ろで、ヤクザ風軍団のリーダーはクツクツと笑いを漏らし始めた。その笑いがヤケに癇に障った英裕は殺気を漏らしつつリーダーの男を睨み付ける。
「てめぇ。何がそんなに面白いんだよ?」
「くくく。てめぇらの金獅子は…元気かよ?」
「…ビストの事か?あいつなら…」
「くくくくく…。俺達がスラム地区を襲った時のあいつの顔…俺は忘れねぇ。あいつの全てを失ったような顔…傑作だったぜ?」
「てめぇ…何をした?」
「あ…?ただ俺はあいつの今までの所業を包み隠さず餓鬼達に話してやっただけだ。」
「……!!……てめぇ。」
「その時のあいつらの顔と言ったら…傑作だったぜ!俺はよぉあいつに復讐する為に…ぎ、ぎゃぁぁぁあああ!!」
嫌らしい笑みを浮かべて話していたリーダーの男は、突然右肩を抱えて転がり始めた。そこには…有るはずの右腕が無くなり、肩から血が噴き出していた。近くには血が滴るカットラスと、その下に転がる主人を失った腕。英裕は今までと打って変わった雰囲気でカットラスの切っ先を男に向ける。
「てめぇ。俺の仲間に下らねぇことしやがって。死んで詫びろ。」
「ぎぃぃぃいい。う…や、やめろぉぉ!ヤメデグレェ!グブッ…。」
喚く男の首にカットラスが切っ先を水平にして突き刺さり、男の口は永遠に言葉を発する事が叶わなくなる。そして、グラリと揺れた男の首は主から離れ…ボトっともゴトっとも言い難い鈍い音を立てて地面に転がった。
男の生死を気にする者はその場に1人もいない。居たとしても、その者は自身の命を守る為に気を失っているフリをするだろう。そうしなければ、次に自分が狙われると思わせるだけの殺気が英裕からは発せられていた。
英裕はカットラスを勢いよく振って血糊を吹き飛ばすと、アパラタスの中心に聳え立つ機械塔に視線を送る。
(くそっ。俺が思っていた以上にやべぇ事態だな。ビストの事も気になるが、まずはあの機械塔をなんとかしねぇと、機械街自体が闇社会に乗っ取られちまう。ここまでほぼ後手後手になっちまってっからな…。ここから何とか取り返してみせる!)
英裕は先に向かったヒーローズのメンバー達に追い付くべく、瓦礫だらけとなった道を走り始めた。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
遠くで爆発の音が響く。体は柔らかい毛布に包まれ、まるで周りで起きている暴動が嘘のように……。
次第に覚醒していく意識の中で、遼はついさっき自分に起きた出来事を思い出していた。
(確か…チャンの掌から魔力が放出されて、機械塔の外に吹き飛ばされたんだっけ。それで…今はベッドの上か………ん?じゃあここはどこだろ?)
周りで起きているはずの事態と、毛布に包まれて寝ているという自分の状況の乖離に気付いた遼はガバッと体を起こす。
「ここは…いててててっ。」
勢い良く体を起こしたせいか、全身を激痛が駆け巡る。
「これこれ。無理をするんじゃぁないよ。大怪我を負っているんじゃからのう。今は無理をしないのが1番じゃのう。」
「いてて…おばあさん…誰?」
「ふふふ。そう言えば初めて会うんじゃのう。私はリーリー。スラム地区で孤児院を営むしがない婆さんじゃよ。」
「……?なんでその孤児院をやってるお婆さんがここにいるの?暴動の中心地のここにいたら危ないと思うんだけど…。」
遼の質問にリーリーは困ったような笑顔を浮かべる。背中が曲がり、丸い鼻におちょぼ口。そして白髪が混じって灰色に見える髪型。どこをどう見ても、こんな戦闘の場に似つかわしくない普通の老婆である。
「私はもうこの歳じゃが、それでも大切な人がおるんじゃよ。その子が気になってのぅ。機械塔に居るはずなんじゃのう。どうしても会わねばならんのじゃ。そしたら、お主が空から降ってきたんじゃよ…藤崎遼よ。」
「…!何で俺の名前を?」
「歳を取るとそれだけ耳は広くなるからのぅ。大方闇社会の幹部連中とやり合ったんじゃろ?お主が降ってくる前に強力な魔力波が機械塔の内側から放出されおったから…相手はチャン=シャオロンあたりじゃのう。」
「お婆さん…本当に何者?」
闇社会の情報に精通していない限り不可能な推測を並べるリーリーは、遼が警戒心を表しながら何者かを問いただしても微笑みを浮かべるのみであった。
「…その内分かると思うんじゃのう。それよりも、今はここでのんびり話しをしている時間の余裕は無いんじゃのう。遼や…立てるかのう?」
「あ…うん。多分。…いててて。」
戦闘が今も尚続いている事を鑑みれば、確かにここでのんびりと話しをしている場合ではない。遼は毛布から痛む体に鞭を打って上体を起こす。周りを見回すと、そこは機械塔と道路を挟んで向かい合っているビルの一室であった。
「…ここまで運んでくれたの?」
「ん?…ほっほっほっ。私にそんな力は無いよ。遼がここに吹き飛ばされたのを見て、この部屋に来たんじゃよ。部屋に入ったらお主が倒れていたからね。別の部屋から毛布を見つけて解放していただけなんじゃのう。」
「そっか…ありがとう。」
「ほほ。照れるじゃあないかい。さて、行くよ。闇社会の思い通りにさせる訳には行かないからね。」
「あ…うん。分かった。行こう。」
「頼りにしてるんじゃのう。老いぼれを守ってくれのぅ。」
楽しそうに微笑んだリーリーは部屋の外出て、ビルの入り口に向けて歩いていく。その足取りから迷いや恐怖心を感じることは出来ず、むしろ後ろ姿を見ていると頼り甲斐があると思ってしまう程だった。
(…不思議なお婆さんだね。)
未だに何者かという疑問は残るが、一先ずリーリーの後についていくことにした遼は、置いていかれまいと後を追いかけて行った。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
各勢力の主要メンバーが自ずと機械塔に集まりつつある頃、その機械塔では由々しきならぬ事態が進行していた。
「くくくく。久しぶりですねぇエレク。ここで会うのは何年ぶりですかねぇ?」
場所は機械塔50Fにある4機肢の間。黒マントで全身を覆い、緑のラインが彫られた黒仮面を付けた人物…クレジ=ネマは部屋の中央に立って体をゆっくり揺らしていた。
「久しぶりとかそういうものでは無いだろう。あの時はお前がいきなり侵入してきたんだろう。」
「ふふふふふふ。そうでしたかねぇ?」
肩を揺らしながら笑うクレジに対し、エレクは腕を組んだまま直立不動の構えを崩さない。
「暴動まで起こして…何が目的だ?」
「分かってるんじゃ無いですかねぇ?私は圧倒的な力でこの星を手中に収めたいんですよぉ。その為に必要な物がここにはあるんですよぉ。」
「…魔電変換動力器か。」
「その通りです。さぁて、どこに隠してあるのか教えてもらいましょうか?」




