13-4-9.機械塔の戦い
機械塔50F…4機肢の間。そこで監視カメラの映像を切り替えながら機械塔内部の状況を確認していたエレクは、映像に移る1人の人物の動きを確認すると徐に立ち上がった。その動作でフルプレートアーマーが擦れ合い、金属音がガチャガチャと室内に響く。
突然、バチィッという激しい音が室内に響く。部屋の中心に光の塊が生まれ、消えそうになり、生まれを繰り返し…再びバチィッという音ともに消え去った。
異常な事態な筈なのだが、エレクはその現象に少しも反応を見せずに入り口に向けて歩いて行く。そして、入り口の前に立つとドアを開ける。そこに立っていたのは…龍人だった。
「今から2秒だけ結界を解除する。その間に中に入れ。」
「やっぱ結界か。転移した瞬間に弾かれたからマジで焦ったわ。」
「いいから早く入れ。」
「…お!」
急かされた龍人が慌てて4機肢の間に入ると、すぐに後ろで結界が再生成される。
「さて。仲間の所に行かず、わざわざこの場に来た理由を聞かせてもらおうか。」
「…察しが良いんだな。」
「当たり前だ。そうでなくては機械街街主さ務まらない。」
「…まぁ、率直に言って機械塔で起きてる戦いの状況を1番正確に把握できるのがここだからだな。」
「ふむ。…それは、言葉通りだけか?」
意味深なエレクの言葉だが、龍人はその内容を理解したのか…苦笑いを浮かべていた。
「はは。話の流れで聞こうと思ってたんだけど、そう言われたらストレートに聞くしかないな。」
「それで良い。」
「えっと、そしたらだ…この機械塔には何がある?敵が本気で機械塔を攻め落とすつもりなら、わざわざ少数精鋭で乗り込んでくるとは思えないんだよな。」
「…高嶺龍人。思ったよりも推察力に優れているみたいだな。」
「そりゃどうも。」
エレクは龍人に背を向けると、部屋の中央に向けて歩き出す。
「ついてこい。」
何をするのか検討が付かないが、質問に対する答えが分かるのだろう…と、龍人は無言で後に付いていく。
部屋の中央に到着したエレクが掌を床に向けると、放電現象が起き…続けて床の中央部分がスライドして階段が現れた。
(隠し階段か?下に何があるんだ?)
顔を龍人の方に半分だけ向けるエレク。
「本来であればお前ごときが知り得る事では無いが…その推察力を評価して特別に見せてやる。」
多少鼻に付く言い方ではあるが、ここで反発をしたとして…良い事がある訳でもない。首肯した龍人は無言でエレクの後に付いて階段を下りていく。
そして、下の階に到着した龍人はとある物を見て首を傾げるのだった。
「…なんだこれ?何かの装置か?」
部屋の中央には上部に窪みがある台座が2つ置かれていて、その窪みには其々2つの透明な球が設置されている。そして、台座からはケーブルが伸びて地面に吸い込まれていた。
「これは魔電変換動力器だ。魔力を電気に変換する事が出来る魔具だ。」
「魔力を属性に変換すんのか??その属性を持ってなくても?」
「もちろんだ。この魔電変換動力器を使って結界を張り、これ自体を護っている。」
「…そんな魔具があんのか。」
龍人が驚くのも無理もない。通常、魔法を使う者は自身の属性とマッチした属性を持つ魔具以外を使用する事は出来ないのだ。例外があるとすれば、上位属性を持つ者が下位属性の魔具を使用する事が出来るくらいだ。
つまり、誰でも魔力を電気に変換出来るというこの魔電変換動力器は…これまでの魔具に関する常識を覆すものであった。
「こんなもんをここに置いといてどうすんだ?」
「機械塔が何かしらの脅威に襲われた時に、機械塔自体を護るために置いている。まぁ、悪用されないように保管しているというのもあるがな。」
「だったらなんで今使わないんだよ?4機肢の間を護るためだけに使ってる意味が分かんないぞ?」
「勿論…出力を最大にすれば機械塔を外敵から護る事は可能だ。だが、現状として敵の主戦力が把握できているだけで3人が機械塔内部にいる。これでは使っても意味がない。」
「…3人って、ロビーに居た2人とクレジって奴か?」
「そうだ。女の名前はフェラム=ルプシェール。もう1人の男はチャン=シャオロンだ。そして、お前が先程まで戦っていたクレジ=ネマ。この3人は闇社会を主導する幹部連中だ。奴らが乗り込んできたという事は、この魔電変換動力器を狙っている可能性が高い。もしくは…俺の首だな。」
「…もし、この魔電変換動力器が奪われたらどうなる?」
「魔電変換動力器は魔力を蓄積させた分だけ無尽蔵に電気を生成できる。下手をすれば…一瞬でアパラタスが吹き飛ぶ。」
「マジか…。」
「だからこそ、お前にこの存在を知らせた。闇社会の連中が魔電変換動力器を狙っている可能性は高い。是非、奪わられるのを阻止するべく動いて欲しい。」
「…それは良いんだけど、そもそも結界を張ってんなら誰も侵入出来ないじゃないか?」
「そうであって欲しいのだが、暴動が起きてからすぐ結界を張り続けている。結界に攻撃を受ければ消費魔力も増える。それらを鑑みて、正直な所…結界が保つのは長くて今晩だけだと思っている。」
「マジか。まぁ…分かった。だけど…俺にも仲間がいるんだよ。」
「そうだな。…その辺りを確認するか。」
エレクは再び階段を上って4機肢の間に向かう。そして、パソコンの前に移動するとキーボードをカタカタと操作し始めた。
その後ろで龍人が次々と切り替わる画面を眺めていると、1つの画面で映像が切り替わるのが止まった。
…其処には、胸元が強調された黒いドレスを着た女性にお姫様抱っこをされる火乃花の姿が映っていた。
「火乃花!?マジかよ。」
「…どうやら敵の手に落ちたみたいだな。」
「助けに行かないと!」
「…それは難しいな。」
「なんでだよ?画面に映っている場所に行けば…。」
「いや…そうではない。」
「じゃあ…。」
ドガァァァァァァン!!!ドガァァァァァァン!!ドガァァァァァァン!!ドガァァァァァァン!!
突然、大きな爆音が聞こえたと思うと…4機肢の間が衝撃に震え始めた。
「…こういう事だ。」
エレクが映し出した画面には、結界に向けて連続で震動波を放つ黒仮面…クレジ=ネマの姿が映っていた。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
機械塔21F。住民課と印字された札が吊るされたこのフロアは、そこかしこが凍結し…室内の気温もかなり冷え込んでいた。
ビキビキ!という音が響くと同時に新たに凍結する部分が増えていく。同時に、ブゥゥゥンという音が響き宙に舞う氷片を吸い込んでいく。
「やるアルな!」
「…そっちこそ!」
凍結を生み出すのは中華服を着たチャン。氷片を吸い込む重力球を生み出すのは遼だ。
2人は違いに攻撃を放ち、相手の動きを先読みして牽制を掛けていく。チャンは遼の隙を見つければ近距離まで接近し、強打を叩き込もうとし、遼は重力場や引力場を巧みに操って不規則な移動を実現し…チャンの攻撃を躱し、様々な種類の魔弾を叩き込み、チャンはそれらを軽やかな体捌きで避けていく。
結果として、周囲の壁や机が凍結していき…極寒の室内が出来上がっていた。
遼は重力場と引力場を巧みに展開し、チャンは歪んだ重力にバランスを崩してしまう。そこを狙って双銃が物凄い勢いで魔弾を吐き出し始める。
ランダムに発射された飛旋弾と爆裂弾、拡散弾が襲い掛かる。どんなに素早い体捌きをしたとしても避けきることが難しい程の弾幕だ。
(よしっ!これで有効打を…!)
倒す事が難しいとしても、ある程度のダメージを与えられる…と思い、遼は追撃を加えるべく双銃に属性【重】の魔力を溜めていく。
だが、弾幕の向こうに見えるチャンの表情が余裕感を感じさせる笑みを浮かべているのを確認し、瞬時に防御へと行動を切り替えた。
そして…チャンは両手の手首の内側を合わせ、指を開き、掌を遼の方向に向けて突き出した。次の瞬間、掌から放出された莫大な量の魔力が遼の視界を埋め尽くしす。
(な…これは!?)
咄嗟に魔法障壁を前面に張った遼だが、チャンの放った魔力は魔法障壁の耐久力を遥かに超えていたようだった。1秒ともたずに魔法障壁は砕け散り、遼は魔力の波に呑まれ、魔力の波が突き破った壁の穴を通り、機械塔の外に吹き飛ばされた。
宙に浮く体。ほんの少しの停滞の後、全身を落下感が包み込む。そして…遼はダメージの衝撃で満足に動かす事のできない体と、まともに働かない思考という最悪な状態のまま地面に向けて落下していった。
魔力の放出を終えたチャンは、腕で額の汗を拭うと大きな溜息を吐く。
「…やっと終わったアルね。彼程実力者を失うのは残念アルけど…ミーにはやる事があるからしょうがないアル。…出来れば敵対せずに、良きライバルとして出会いたかったアル。」
チャンは身を翻すとスタスタと歩き始めた。
遼が負けた事で、機械塔内部の戦力バランスは大きく変わってしまう。
闇社会のクレジ=ネマ。チャン=シャオロン。フェラム=ルプシェール。
機械塔のエレク=アイアン。秘書のニーナ=クリステル。
第8魔導師団の高嶺龍人、レイラ=クリストファー。
人数比で闇社会と機械塔がほぼ同じになりつつあった。
そして、ここから誰もが予想し得ない結末へと物語は動き始める。




