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Colony  作者: Scherz
第五章 機械街 立ち向かう者
733/994

13-4-6.機械塔の戦い



☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


「ちくしょう。ここも全滅か。」


 階段を駆け上がってフロアに躍り出た龍人は顔を顰める。


「ここも…。」


 後ろで小さく声を上げるのはレイラだ。口元に両手を添え、湧き上がる嫌悪感を必至に抑えている。

 龍人とレイラがロビーから転移したのは15F。そこからは敵との遭遇を懸念して階段での移動を行っているのだが…。15F付近のフロアはいつも通りの光景だったが、25Fから様子が一変していた。

 まず目に飛び込んできたのは…凄惨という言葉がピッタリな光景。その場に居たであろう治安部隊は一人残らず絶命しており、更に言うならば、人としての原型を留めている者もほぼ皆無に等しかった。

 その光景に遭遇した龍人は立ち竦み、レイラは吐き気を堪えてしゃがみ…少しの間動く事が出来なかった。見える光景もそうだが、フロア全体に充満する錆びた鉄の様な血の匂いも原因の1つであった。

 そんな光景が25Fからずっと続き、今龍人達がいるのは35F。各階で待ち伏せを警戒して、探知型結界を使って慎重に進んできたが…この階も敵の気配は全くしなかった。


「なんかさ、侵入した敵の目的が全然分かんないんだよな。」

「え?機械塔の壊滅…みたいな感じじゃないのかな?」

「んー…一人残らず殺すって事?まぁここまで残虐な事をしてるから、そうであってもおかしくはない…か。でもさ、それならもっと最大戦力で一気に攻撃してくる感じがするんだよ。今の状況って、敵の主要戦力が少数精鋭で乗り込んできてる感じしない?」

「って事は、これだけのひどい事をしたのが数人って事だよね?」


 レイラは眉を顰め、悲しそうな顔をすると周りを見回す。命を失った亡骸達は、意思のこもらない目で虚空を見つめ、ダランと四肢を投げ出すのみ。


「いや…多分これをやったのは全部同じ奴だと思うぞ。」

「え…これだけ大人数相手に1人で出来るものなのかなぁ?」

「俺もそこは疑問なんだけど、攻撃方法が全部同じ気がるするんだよな。強い力で一気に叩かれたみたいな感じでさ。」


 龍人の指摘通り、ほとんど全ての屍体は強い力によって弾け飛んだ様な殺され方をしていた。


「…なんか、怖くなってきちゃった。」

「大丈夫大丈夫。いざとなったら俺が守るよ。」

「龍人君…ありがと。」


 レイラの目がキラキラと輝くが、何故そうなったのかイマイチよく分からない龍人は、取り敢えずニコッと微笑んでみる。


「うし。早くこの犯人を捕まえないとな。少し進むペースを上げようぜ。」

「うん!」


 龍人とレイラは次の階に向けて歩き出す。その先に、かつて出会った事がない強敵が待ち受けている事を知らずに。


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆



「ふふふ…。若い女って、挑発に簡単に乗るから面白いわねぇ。」


 その女は、赤い髪の女性をお姫様抱っこの様に抱えると、ビルの奥に向かって歩いていった。


(な、なんなんだよ…!)


 ロビーの隅に置いてあるソファーの陰で縮こまる様にして身を隠していた男は、戦闘が終わったのを確認すると全身の力を抜いて盛大に溜息を吐く。

 ついさっきまで連続で起きた出来事は、正直なところ只の公務員である男にとって…非日常過ぎて思考回路が追いついていなかった。

 男はそもそも平穏な日常の中で過ごしていたに過ぎないのだ。

 何故ロビーに居るのかというと…溜まりに溜まった事務処理の量に辟易とした彼は、ほんの少しだけ息抜きをしようとしてロビーで珈琲を飲んでいたのだ。

 テレビでは各地区で暴動が起きたと報道されていて、レポーターの女性が緊迫した表情で現地での取材状況を報告していた。その背後では爆発によって車が吹き飛ぶ映像が差し込まれていて、事態の深刻さをアピールしている。

 こんな状況であっても、彼は事の深刻さをどこか他人事の様に感じていた。暴動なんて非日常の出来事で、例え自分が今居る機械塔が、もし、仮に、暴動に襲われたとしても…強者が集まった治安部隊によってすぐに鎮圧される。そう思って…いや、思い込んでいたのだ。

 だが、そんな思い込みは通りに現実の事態が進む事は無かった。

 珈琲を飲みきった男が立ち上がろうとした時だった。突然ビルが揺れ、ロビーの中央に中華服を着た男が降り立ち、正面玄関の内側にナイスバディな女が急に姿を現したのだ。

 その後に繰り広げられた赤い髪の女性と、ナイスバディな羽の生えた黒ドレスを着た女の戦いは、まるで映画やドラマを見ているかの様な熾烈さを極める。

 何よりも驚きなのは訓練室でドアをぶち壊して現れた赤い髪の女…その女と対等に戦う黒ドレスの女の存在だった。

 そして…赤い髪の女は何かをしようとした時に、急に体の力が抜けたかの様に崩れ落ち…黒ドレスの女がお姫様抱っこで連れ去ったのである。


(なんなんだこれ…。)


 最早まともな思考回路が働かない男は茫然として、誰もいなくなったロビーを見つめるのだった。

 そうしてロビーを眺めていた男の思考が、少しのインターバルを置いてまともに働き出す。現実を受け入れ、周囲の状況を把握し、分析する力が少しずつ戻ってきたのだ。


(…落ち着け。落ち着け。さっきの中華服の男は上の階に行った。黒ドレスの女も上の階に行った筈。それなら…上の階は危険って事だ。でも、この騒ぎになったって事は…皆はもう避難してるはず。それなら、ここに居るべきじゃない。逃げなきゃ!)


 男は立ち上がるとロビーの正面玄関に向けて走り出した。暴動が起きている時点で、正面玄関から出入りする事自体が危険な行為ではあるのだが、どうやらそこまで正常な判断をする所までは至っていないようだ。今、彼が考えているのは《己の保身》のみであった。

 正面玄関の前まで走り寄った男は、もう少しで出れるという所で足を止める。…止めざるを得無かった。

 正面玄関の向こう側に2人の男が立っていたのだ。

 1人は細身で黒髪の男。俯いたその顔から表情を読み取る事は出来ないが、佇まいから感じられるのは負のオーラ。自殺する直前…と表現するのが適切と言っても過言ではない。

 そして、その男の少し前に立つのは逆立った赤髪、額に巻いた赤バンダナが目立つ長身の男だった。負のオーラを出している男とは違い、楽しそうな、ワクワクした顔で立っている。

 明らかに異様な雰囲気の二人に危険を察知した男は身を翻し…受付の奥に向けて走るべく一歩を踏み出した。 その瞬間、赤髪の男は手の平を正面玄関のガラスドアに付け…爆発が延長線上にあるものを巻き込んだ。


(ひぇぇぇ…!)


 声にならない声を心の中で叫びながら、逃げようとしていた男は爆発に巻き込まれて壁に激突。その衝撃で意識を手放したのだった。


 砕け散ったガラスドアの破片を踏みしめながら、赤髪の男と黒髪の男は機械塔の中に足を踏み入れる。

 周りを見回し、ロビーに誰もいない事を確認すると、赤髪の男は楽しそうに笑った。


「ははっ。少しばかし出遅れちったかな?まぁ、まだまだ戦いが楽しくなるのはこれからだろ。行くぞ。」

「…うん。」


 2人はロビーに設置された、上階へ続く階段に向けて歩き始める。


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


 魔法街南区。街立魔法学院学院長室。この部屋で2人の人物が真剣な表情で話し込んでいた。

 伏し目がちな切れ目に、短い白髪が特徴的な初老の男…ヘヴィー=グラム学院長と、短い金髪に太った体型が目立つ男…ラルフ=ローゼスだ。


「…という訳なのである。早急に南区の裏組織の動きを確認する必要があるのである。」

「分かりました。出来る限り早く実情の調査を終えます。」

「ところで…なんじゃが、第8魔導師団の事で一応報告しておこうと思うんじゃが…聞くかの?」


 ラルフの眉がピクリと反応する。


「…なんかあったんすか?」

「うむ。それがの…、予想に反して機械街で暴動が起きたらしいのである。」

「………はっ?」


 ヘヴィーの口から発せられた予想外の言葉に、ラルフは自分の顎をプニプニとして遊んでいた右手を止める。


「いやいや。意味分かんないすけど。あいつらを機械街に向かわせたのは、他の星に行かせて見聞を広めるのが目的っすよね?」

「うむ。そうだったんじゃが。事前の調査でも闇社会の活動がそこまで活性化する兆候は無かったのである。」

「……マジか。闇社会の幹部連中の実力は、正直言ってあいつらの手に負えるレベルじゃないですよ。そんな急に暴動とか意味が………。ヘヴィー学院長。もしかしたら、第8魔導師団が機械街に行ったのが引き金になったんじゃないですかね?」

「ふむ…。その可能性は否定は出来ないのであるが、彼らが機械街にいる時に暴動を起こすメリットはなんであるのかな?」


 ラルフは再び自分の顎をプニプニさせながら、目線を上に向けて自分の知り得る情報整理していく。そして…ひとつの可能性に思い当たった。


「…あくまでも仮定っすけど、第8魔導師団で考えられるのは龍人の属性がバレたって事ですかね。機械街の連中にバレるのは考え難いので…まぁ、天地にってトコかなと。そんで、奴らが龍人を拉致する為に裏で手を回して闇社会に暴動を起こさせたとか。最悪のパターンとしては、闇社会のトップが天地のメンバーってトコですかね。そうなると、天地の意志で動く巨大組織が相手って事になるわけで。それに第8魔導師団だけで対抗するのはほぼ不可能でしょう。」

「…それはマズイのである。唯一の救いは、あのエレク=アイアンが一応ではあるが、第8魔導師団側に付いている事なのである。」

「機械街街主のエレクですね。…そんなに頼りになんすか?それに、一応って…。」

「うむ。実力はピカイチなのである。私と戦っても、どちらが勝つかは分からないレベルで強いのである。ただ、彼は機械街の人間なのである。機械街を守るために第8魔導師団を差し出す可能性だってあるのである。」

「いやいや!それじゃあ魔法街との信頼関係が…。」

「助けようとしたが間に合わなかった。そう言えば良いだけなのである。」

「そんな事って。」

「そんな事はざらにあるのである。…このまま放っておくのは不安であるな。………うむ。ならば、レインの承認が必要じゃが、あの者を機械街に送ってみるのである。」

「誰ですか?」


 ヘヴィーの目の奥が怪しく光る。そして、機械街に送る者の名前を聞いたラルフは…思わずポカンと口を開けるのだった。

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