13-4-5.機械塔の戦い
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ドガガガガガガッ!!
コンクリートが砕け散り…ガンッ…という音を響かせて天井に体を減り込ませた遼は、重力に引っ張られて床に落ちる。
チャンが放った突きと魔力の塊を飛ばす攻撃は、遼の予想を遥かに超えた威力を秘めていた。
「ぐっ…くそっ。」
軋む全身に鞭を打って体をどうにか起こした遼は、天井に激突した衝撃で手放してしまい…近くに落ちていたレヴィアタンに手を伸ばす。
(ルシファーは…。)
辺りを見回すと、2M程先にルシファーが落ちていた。
(すぐに追撃してくる可能性もあるし…早く取らないと。)
腹に受けた衝撃の余韻で震える足に力を入れると、遼はノロノロと歩き出す。だが、予想通りといえば予想通りなのだが…予想以上に早くチャンの追撃が行われる。
破壊された床から物凄い勢いで飛び出てきたチャンは、足を上に向けて天井に着地すると、そのまま遼目掛けて跳躍を行った。
間髪入れないチャンの攻撃。遼は横に大きく飛んで避けると、レヴィアタンを構えて散弾を連射する。
「…危ないアルね!」
難なく攻撃を避けたチャンは、クルッと一回転しつつ遼の愛銃ルシファーの近くに着地する。
「お前…思ったよりも弱いアルね。このまま一気に決めさせてもらうアル。」
「へへ…。そんな簡単にはやられないよ。」
「口で言うのは簡単アル。行動で示してみるアルよ!」
チャンはグンっと膝を屈めると、遼に向けて突進を開始する。相変わらずのスピードに遼の口元は軽くヒクついてしまう。
(これ…反則的な速さでしょ。そもそも俺はミドルレンジからロングレンジで戦うのが専門だから…接近専門みたいな相手は苦手なんだよね。しかも、あんまり広くない室内だし。まぁそう言っても戦わなきゃならない訳だし。まずは…ルシファーを取らなきゃだね!)
銃を1つしか持たず、中~遠距離がメインになる遼にとって戦いにくい室内。圧倒的に不利な状況であるのにも関わらず、遼は戦意を失っていなかった。以前の遼であれば、この段階で「勝てないかも」と思っていたはずである。
しかし、今は勝つ為にする事を考えている。これは遼にとって大きな進歩であり、戦闘において精神状態が勝敗を大きく左右する事を鑑みても同じである。…もちろん、だからと言って必ず勝てる訳ではないというのも現実である事は忘れてはいけない。
チェンの接近する速度は物凄く速く、遼が無詠唱魔法で身体能力強化と知覚能力の強化をしていてもギリギリで反応出来るレベルであった。とは言え、だから勝てないという結果に結びつく訳ではない。反応がギリギリなのであれば、それに合わせた戦い方を選べば良いのである。
遼はレヴィアタンの銃口を床に向け、着弾と同時に爆発を引き起こす爆裂弾に属性【重】を付与した爆裂重力弾を放つ。
爆裂重力弾は地面に着弾すると、加重効果を発生させる爆発を引き起こし…高速で詰め寄っていたチャンは、避ける事は叶わず爆発に突っ込んでしまう。
「む…!?」
爆発に突っ込んだチャンは、それが只の爆発で無い事を察知するが…時既に遅し。属性【重】による加重効果が発生し、チャンの全身に通常の4倍程度の重力負担がかかる事となる。
通常であれば、4倍の加重効果によって動きが鈍くなるのだが…チャンは爆発から逃れるように後方に飛び退くと、平然とした態度で不敵な笑みを浮かべる。
「お前…やるアルな。中々にいい判断をするアル。名前は何アルか?」
「俺は…藤崎遼。」
「遼アルね。ミーはチャン=シャオロン。魔法街の魔導師団なんて名前だけって思ってたけど、先入観だったみたいアル。」
「ははっ。そりゃどうも。ってか、何で俺達が魔法街の人間だって知ってたの?」
「それは教える訳にはいかないアルよ。ミー達…闇社会の情報網を舐めないアルね。」
チャンは再び構えを取ると、顔から笑みを消す。
「お遊びはここまでアル。ここからは…緩く無いアルよ?」
「それは…こっちの台詞だよ!」
遼も左手にレヴィアタンを持つと構えを取る。…しかし、チャンの様にしっかりと構えるのではなく、あくまでも自然体な構え…銃を持ったてをダランと下に垂らした構えである。
遼は変に力んでしまうと本来持つ力を発揮出来ないという悪い癖がある。また、その逆も然り。力まずに自然体で戦う時こそ、遼が本領を発揮する時なのだ。
チャンは自然体の構えを取った遼を見て、思わず口元が緩みそうになる。
(…これは思わぬ強敵アルね。力を抜いて構えた瞬間に全身を巡る魔力が一気に活性化したアル。気は抜けないアルね!)
2人は互いに相手の目を視線で射抜き、少しの間そのまま視線のみでの牽制が繰り広げられる。そして…遼が先に動く。
レヴィアタンを持つ手が予備動作無しに跳ね上がり、銃口をチャンに向けて魔弾を発射する。真っ直ぐな軌道を描きながら進む魔弾を軽く体を動かして躱したチャンは、怪訝そうに眉を潜めながらも遼に向かって跳躍をする。
だが、飛び上がったチャンは遼の動きを見て更に怪訝そうな顔をする羽目になった。遼はチャンが跳躍すると同時に、チャンの方向に向けて走り出していたのだ。
明らかに自分から攻撃を喰らいに来ているかの様な動きに、そのまま攻撃をして良いのかという迷いがチャンの中に一瞬生まれるが…その考えを振り払い、遼に向けて膝蹴りを放った。
遼は体を捻る様にして背中を下にしてチャンの体の下に潜り込む。そして…膝蹴りを躱されたチャンの視界に移ったのは、いつの間にかもう一つの銃を握りしめ、2つの銃口をチャンに向けて構えていた遼であった。
(…いつの間に!?そんな一瞬で物を移動させる事が出来るわけが無いアル!)
繰り出されるであろう攻撃に備え、チャンは魔力で一気に身体自体の強度を上げる。そして…そこに2つの魔力の塊が襲い掛かった。
遼が放ったのは螺旋重力弾。着弾と同時に属性【重】の螺旋状衝撃波を放つ破壊力に特化した魔弾である。
チャンは属性【重】の衝撃波を受け、天井に向かって吹き飛ぶ。そして…天井を突き破って姿が見えなくなってしまう。
「ふぅ…。何とか上手くいったかな。」
遼がルシファーを手元に戻した方法は、最初に放った魔弾が引力弾だったというカラクリである。地面に落ちたルシファーの手前に引力弾を着弾させ、遼の方向に引っ張られる様に引力場を形成。そして、銃が引っ張られて飛んだ軌道に合わせて遼が飛び込んだのだ。
(今の攻撃で倒せたとは思え無いけど、このまま戻ってくるのを待つ必要もないし…龍人達を追いかけてみようかな。あ、火乃花のサポートをした方がいっか。)
呑気に考えながら歩き始めた龍人は、上から物凄い魔力を察知し…反射的に魔法障壁を展開する。そして次の瞬間…魔力の塊が魔法障壁に着弾した。
強大な魔力と魔法障壁が鬩ぎ合いをする余波に、周囲に散らばっていた瓦礫が一気に吹き飛び、周りの壁床天井に亀裂が入り始める。
(う…さっきよりも全然強い…!)
魔力の塊はものの数秒で消え去り、それに合わせる様にして天井の穴からチャンが飛び降りてくる。
「さっきのお返し…中々に効いたアルよ!ミーがした攻撃と同じ方法でやり返すなんて、遼は思った以上に負けず嫌いアルね!」
「へっ?別にそんなつもりじゃ…。」
「謙遜する必要は無いアルよ!ミーはそういう負けず嫌いな人と戦うの好きアル!
最早何を言っても意見を変えなさそうなチャンの様子に、遼は困ったように頭を掻くしかなかった。
「さて…と、遼は強いアルね。ミーは久々に楽しいアルよ!銃を使う相手は大体懐に潜り込めば勝てるけど、ここまで吹き飛ばされたのは初めてアル。接近戦も対応する銃使い…いいアルね。それなら…その逆を見せるアルよ。」
「…逆?」
「そうアル。ミーのこの力を見る人は本当に久々アル。見てすぐに倒されないように、しっかりと頼むアルよ!?」
チャンはニカっと笑うと、右手を後ろに引き…前に突き出した。
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機械塔1Fロビーフロア。拠点攻めで鍵となる出入口を巡る2人の女性による戦いは、見る者が居たとしたら…思わず目を奪われるものとなっていた。
その主な原因はフェラムにある。胸元と背中が大きく開いたドレスは、フェラムの深い谷間や横乳が丸見えの仕様となっていて、彼女が激しい動きをするたびに…見えそうで見え無いという、男心を擽るギリギリでライン彼女の豊満な身体を強調していた。
また、対する火乃花もフェラム程ではないが一般的に言って巨乳の部類に属する。
つまり、巨乳と巨乳…いや、爆乳と巨乳による乳揺れバトルとなっているのだ。
とは言え、もちろんの事2人はただ胸を揺らしているわけではない。あくまでも真面目に戦っており、その副産物として胸が揺れているだけだ。
フェラムに焔鞭剣を弾かれて、地面に着地した火乃花は焔鞭剣を焔に変化させ、4本の焔の竜巻としてフェラムに向けて放つ。其々蛇のようにランダムな軌道を描く焔の竜巻はフェラムを飲み込まんと伸びていく。
「ふふっ。甘いわぁ。その程度の攻撃私が避けられ無いとでも思ってるのかしらぁ?」
空中に浮いていたフェラムが足で何かを蹴るような動作をすると、通常の浮遊魔法では不可能な鋭角な方向転換をして竜巻を避けていく。
「ちっ…。またあの鉄球ね。本当に厄介だわ!」
全ての竜巻を避けたフェラムは、その激しい動きに胸がポロリをしそうになるのを一切気にせず右手を火乃花に向ける。すると、周りに浮いていた鉄球が炎を噴き出しながら火乃花に向かって飛翔する。その数…全部で10。厄介なのは、鉄球が物理、炎が魔法に類するという事だ。
このまま魔法壁や物理壁で防御に徹して攻撃を防ぎきる事は可能。だが、それではいつまで経ってもフェラムに有効打を与えられ無いというのは、これまでの攻防から明らかになっている。
フェラムが操る鉄球は、攻撃にも守備にも優れた性能を発揮する武器である。自由自在な軌道を描けるという性能がその大元だ。
(…防御に徹されている限り、その防御を抜けるのは難しいわ。それなら、攻撃をしてきている時なら少なくても防御力は半減するはず!ここは守らないで攻めるわ!)
火乃花は再び焔鞭剣を生成する。複数の刃が1本のワイヤーで連結されたこの剣は、通常の剣として振るう事も出来るし、鞭のように伸ばしてしならせながら相手に襲いかかる事も出来る。刃付き鞭というのが分かりやすいか。
焔鞭剣を振り回し、鉄球を弾きながら火乃花はフェラムに向けて走り始める。だが、そう簡単にフェラムに近づく事は叶わない。鉄球は弾かれてもすぐに火乃花に向けて反転して飛翔をする。
鉄球のとめどない攻撃に、火乃花がフェラムに近づく速度が少しずつ遅くなっていく。そして、いつの間にか攻めていた筈の火乃花は防戦に回っていた。
(やっぱり強いわね…!この鉄球をどうにかしないと。)
鉄球の嵐をどうやって切り抜けるか。それがフェラムに勝つ為の鍵となるのは間違いが無いのだが…。
「ふふふ…。あなた、まだまだ戦い方が甘いわねぇ。相手の攻撃に合わせて戦術をもっと変えていかないと、勝てないわよ?魔法街の魔導師団として活動しているのに、その程度の戦い方しか出来ないのかしらぁ?」
フェラムの手の動きに合わせて自由自在に動く鉄球は、火乃花の動きを先読みし、動き始める前にその動作を阻害していく。
(…ここで使うしか無いのかしら。それとも、プロメテウスを召喚する?…でも、今の状況は明らかに高いの序盤よね。その状況で一気に魔力を使い過ぎちゃうのは…。)
鉄球が火乃花の頬を掠めていく。その時…フワッと何かの香りが火乃花の鼻を擽る。
「あらぁ?何かを迷ってるのかしらぁ?そんな迷いを抱えている状態で、私に勝てるわけないわよぉ?」
「…うるさいわね!」
小馬鹿にしたような言葉を掛け続けるフェラムにイラっとした火乃花は、大きく後方に飛び退る。
「そこまで言うなら…私の本気見せてあげる…わ…。……え?」
魔力を一気に解放しようとした火乃花の視界が急に揺らぐ。全身から力が抜けていき、グルッと世界が周り…火乃花は深い闇に落ちていった。
「ふふふ…。若い女って、挑発に簡単に乗るから面白いわねぇ。」
力の抜けた火乃花の体を左手で抱えたフェラムは、右手を火乃花の胸にそっと当てる。そして…大きく揉みしだき始めた。
「あぁん。いいわぁ。若い体。…この娘、しっかりと利用させてもらうわよおぉ。ふふふふふ。」
フェラムは火乃花をお姫様抱っこをすると、ビルの奥に向けて歩き始めた。




