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Colony  作者: Scherz
第五章 機械街 立ち向かう者
731/994

13-4-4.機械塔襲撃



 その女はシナっと身をくねらせて、前かがみの体勢をとると両腕を寄せる様にして胸を強調する。

 敵である筈なのだが、妖艶さしか感じさせないその外見と仕草に、龍人は思わず目を奪われてしまう。

 紫の髪は緩やかなウエーブを描き、男を誘う様なエロい目付きにぷっくりとした口が更に男の情念を掻き立てる。スタイルは抜群。胸は巨乳…いや、爆乳で、ウエストラインはキッチリとくびれ、肉付きの良いヒップがプルプルと揺れて男を誘う。

 生まれつき持ったのであろう外見に加え、奇抜な…と言っていいのだろうか。彼女の服装もエロさを強調するのにひと役買っていた。上から下までほぼ黒で統一された服。頭にかぶる帽子は左右の上方に横へ垂れ気味の耳の様な造形をしている。さらに胸元から上を露出したドレスは背中の部分から伸びた布が羽の形を模していた。

 黒のドレスは腰の辺りでウエストラインにピッタリ沿い、白いラインがギザギザに走る。その下から伸びるスカートは薄く透けていて、魅力的な太ももから、ほぼ丸出しと言っても過言ではないヒップが薄っすらと見えている。ティーバックが薄っすらと見える辺りもエロさを強調している。

 妖艶という言葉がピッタリのその女性は、人差し指を下唇に当てると…ニッコリと微笑む。


「ふふ…あなた、良いわねぇ。あなたの身体を舐めまわしたいわぁ。」


 完全にエロモードに入っている女の視線の先にいるのは…勿論、龍人である。


「いやいや…てか誰だし?」

「ふふ…その冷たい態度…快感を覚えてもそのままで居られるかしらぁ?私はフェラム=ルプシェールよ。名前…覚えてね。」


 フェラムと名乗った女性は胸を強調した体勢のまま腰を振り始める。前かがみの体勢で腰を振る姿は、さながら発情期の肉食動物だ。


「はぁ…。フェラム!良い加減真面目に働くアル!」

「あらぁ?私は好きな様に男を漁って良いって言われてたんだけどぉ?それに、私が何もしなくても…あの人が先に行ってるじゃなぁい?」

「…それでもアル!こういう戦闘の時には何が起きるか分からないアル!その為に、少しでも失敗の芽を摘むのがミー達の役割アルよ!」


 妖艶な女をフェラムと呼び、言い合いを始めたのは…ロビーの中央に現れていた人物だ。

 龍人と同じくらいの身長で、後手一本に纏めた三つ編みが特徴的。襟の立った朱色の上着を身につけ、裾は長くひらひらと揺れている。金色のボタンが光を反射し、腰のあたりは細いベルトで締めている。そして、紺色で緩めのサイズのズボンを履いた姿は…絵に描いたような中国人であった。性別は…体型と声からするに男性。外見上は女と言われても疑わない位に整っているが、それ以外は男と言える様相であった。


「チャン…貴方は強者と戦うのが好きかもしれないけどね、私は…戦うのが好きじゃないのよぉ。男と裸で互いの身体を弄りあって…ふふ…あぁん…興奮してきたわぁ。」


 チャンと呼ばれた中国人風の男は、ガックシと頭を下げる。何を言っても下ネタ話しになってしまうフェラムとの会話に疲れたのだろう。


「ともかくアル!ミー達は最低限すべき事はするアルよ!ここに居る魔法街第8魔導師団を倒すってのは、最低でもやり遂げるアル!」


 チャンの言葉に龍人達はピクリと反応する。


(…俺達が魔法街の人間って事がバレてる?機械街の一部の人しか知らないはずだと思ってたけど、闇社会の情報網もそんなに甘くは無いって事か。)


 相手の雰囲気が戦闘モードに移行しつつあるのを感じながら、火乃花が龍人のそばに寄ってきた。


「龍人君、さっきあのエロ女…『あいつが先に行ってる』とか言ってたわよね?多分、他にも機械塔に侵入した奴がいるわ。」

「そうだろうな。…そっちにも誰かしらが向かった方がいいだろうな。」

「そうね。でも、そんな簡単に私達をこの場から動かしてもらえるとも思えないわ。だから…上の階に行くのは転移魔法が使える龍人君が適任よ。エロ女の相手したいかもだけど…我慢してね。」

「…へっ?」


 いきなり火乃花からのブッコミを受けて、龍人は戸惑ってしまう。それを見た火乃花は横で笑みを浮かべる。


「ふふっ。冗談よ。」

「こーゆー時に冗談はいらないしっ。」

「ま、良いじゃないの。少しは緊張ほぐれたでしょ?」

「あ…まぁな。」

「遼君、レイラ、話は聞いてたわよね。エロ女はヤバイ気がするから、同じ女の私が相手するわ。遼君は中華服の男、レイラは…龍人君と一緒に上ね。」

「分かったよ。」

「うん、分かった。」

「うしっ!じゃあいきますか!」


 龍人の合図で全員が一気に動き出す。火乃花はは焔鞭剣を生成してフェラムに斬りかかり、遼は拡散弾をチャンに向けて連射、龍人は転移魔法陣でレイラと共に転移をした。


「あぁん!あの男の子行っちゃったじゃない!って…あら、危ないわねぇん!」


 フェラムは転移した龍人が居た場所を名残惜しそうに眺めるながら、接近する火乃花の斬撃を防ぐ。

 ガギィン!という金属音が響き、斬撃を止められた火乃花は、フェラムの扱う武器を見て眉を顰めた。


「…珍しい武器を使うのね。鉄球?」


 焔鞭剣の向こうでフェラムは妖艶な笑みを浮かべる。


「ふふ…さぁ何かしらね?私はそんな簡単に手の内をバラしたりはしないわよ。」


 火乃花の見る限り、焔鞭剣を防いでいるのは鉄の球体だった。何を原動力としているのかは分からないが、空中に浮いている。

 フワっと心地よい香りをが火乃花の鼻を撫でる。


「ふふっ。あのイケメン君を逃しちゃったのは残念だけど…、まぁ貴女でもいいわよぉ?私ね、女の体を弄るのも好きなのよ。あぁ…男ってこんな気持ちで私の身体を触ってるのかしら…って考えると興奮するじゃなぁい?」

「…何くだらないことを!」


 火乃花は距離を取ると焔矢をフェラムに向けて連射する。


「その強情な態度もいいわねぇ…。強気な子が快楽に身を委ねる瞬間も私、好きなのよぉ。」


 飛来する焔矢を宙に浮かぶ鉄球で迎え撃とうとするフェラム。それを見た火乃花は口の橋をクイッと上げる。


(ただの鉄球で防げる程甘くはないわよ!)


 だが、火乃花が思う程フェラムも甘く見ているわけでも無かった。

 焔矢が激突する直前、鉄球から焔が噴き出たのだ。空中を自由自在に動き回る炎を纏った鉄球は、焔矢を正面からではなく…側面から叩き折る。

 矢はその形状上、先端に全ての力が集約される。だからこそ、側面からの衝撃には滅法弱いという特性も持っているのだ。その特性を正確についたほぼ完璧な対応に、火乃花は相手への評価を改めざるを得ない。


(ただのエロいだけの女だと思ってたけど…そうでもないらしいわね。)


 火乃花の視線の先でフェラムは両手を広げると、全ての男を堕落させるサキュバスのような妖艶な笑みを浮かべる。


「ふふ…甘美な世界へ誘ってあげるわぁ。」


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


 遼とチャンの戦いも火乃花とフェラムが戦い始めたのとほぼ同時に動き出していた。

 高速で飛来する魔弾を最小限の動きで避けていくチャン。時折交ざっている不規則な弾道を描く魔弾が掠めていくが、それでもチャンに直撃することはない。


「ははっ!甘いアル!ミーはこの程度の攻撃に当たる程弱くないアル!」


 弾幕の嵐が一旦落ち着いたところで、チャンは遼から更に距離を取ると腕を組んだ。


「お前では相手不足アルね!」

「どうかな?まだ本気を出してるなんて言ってないよ?」

「ふふん。それはこっちも同じアル。ミーはまだ攻撃すら仕掛けてないアル。今までは様子見…ここからが本番アルよ!」


 腕を解き、構えを取ったチャンから強烈な魔力が発せられる。


(ん…?思ったより強い気がする………!)


 遼がチャンの魔力圧に感心した隙に、チャンは一瞬で遼の懐に潜り込んでいた。


「油断したら即死アルよ!」

「ぐっ…!」


 下から抉るようにしてチャンの拳が突き上げる。遼は咄嗟に物理壁を展開するが、チャンの突きはいとも簡単に物理壁を砕き…遼の腹にめり込んだ。


「かはっ…。」


 強烈な突き上げによって遼の肺から空気が絞り出されていく。常人が喰らったのであれば、ほぼ確実に1発KOとなる威力を秘めた攻撃に銃を離しそうになるが…、遼はギリギリでそれを耐え切ることに成功する。

 物理壁を展開するのと同時に無詠唱魔法による肉体強化を行っていたのだ。

 このまま相手が接近している間に、至近距離で属性【重力】の攻撃を…と思い、銃を握る手に力を込める遼。…だが、まだチャンの攻撃は終わっていなかった。


「このまま終わらないアル!そのまま…吹き飛ぶアルよ!」


 ブワッとチャンの拳が光り…魔力が収縮し、魔力の塊が拳から放たれた。それは遼の体を真上に押し上げ、天井を破壊しながら突き進んで行く。あっという間に遼の姿は上階へと消えて行った。

 破壊された天井からパラパラと瓦礫が降り注ぐ中、チャンは上を睨み、続いて同じフロアで戦闘を繰り広げるフェラムと火乃花の様子を眺める。


「フェラムの方は大丈夫そうアルね。…それなら、ミーはあの双銃ボーイが動けなくなるようにトドメを刺すアル。」


 チャンは身を屈めるとグンっと足に力を入れ、自身の攻撃によって穴が空いた天井に向けて跳躍する。真っ直ぐ弓矢の様に飛び上がったチャンは、天井の穴に姿を消していった。


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


 これらのロビーでの戦いをモニターで観察していたエレクは、頭を軽く横に振っていた。


(思ったよりも闇社会の幹部連中の力が強い。それに、25Fに侵入した黒フード…。アレがあやつなら…この戦い厳しくなるな。)


 戦闘状況を分析しながら殆ど身動きをしないエレクの横で、ニーナはハラハラした様子でモニターを食い入る様に見ていた。


「エレクさん…。このままでは。」

「まだだ。」

「しかし…やはり私が…。」

「まだだと言っている。」

「それでは、それでは…第8魔導師団を見捨てるというのですか?」

「…お前は、あの者達をどう見ているのだ?」

「え…?」


 ニーナにはエレクの問いかけの意味を正確に解する事が出来なかった。どう見ているか…どういう対象として見ているのか、それともどういう存在として見ているのか…それとも全く別の…。

 言葉を発することが出来ないニーナを一瞥し、エレクはモニターに視線を戻す。そこにな、龍人と共に機械塔の中を走るレイラが映し出されていた。


「ニーナ。お前がレイラ=クリストファーと懇意にしているのは知っている。そうであるが故の気持ちも分かる。だが、この緊急事態に於いての優先順位を間違えるなよ?」

「やはり…それならば、私が…!」

「それは許さん。」

「う…。」


 エレクの他意を一切許さない姿勢に、ニーナは二の句を継ぐ事が出来ない。エレクは座ったままではあるが、堂々とした雰囲気を一切崩す事なく口を開く。


「お前が動けば、一気に状況が変わるだろう。だが、それはギリギリまで許さん。今動けば…これまでの努力が無駄になる。」

「……分かりました。」

「それで良い。」


 ニーナの眼はまだ諦めている様には見えなかったが、エレクはそれ以上の言葉を紡ぐ事はしない。彼女が分かっていると信じるからこそ。

 そして…彼女がかつてエレクを支えた2人の人物の想いを無駄にする事は無いと信じて。

 エレクはモニターを操作して映し出す階層を切り替えていく。そして、30Fのフロアを映したところでエレクの指が止まる。


「やはり来ていたか。…クレジ=ネマ。」


 画面に映っていたのは、上から下まで漆黒のローブを着て…顔には緑の曲線があしらわれた黒の仮面を付けているクレジだった。画面上のクレジは何かを探す様に周りを見回し、グリンっと顔をカメラの方に向ける。そして徐に右手をカメラに向けると…画面がブレてブラックアウトした。


「闇社会のトップとしての実力は健在のようだな。ニーナ…治安部隊をクレジの行く手を阻む様に動かせ。勝てる見込みはないから、あくまでも足止めに徹しさせろ。高嶺龍人とレイラ=クリストファーが追い付けば、状況が変わる筈だ。」

「はい。分かりました。」


 ニーナは腕輪型通信機器を使って迅速に指示出しをしていく。


(よもや第8魔導師団にここまで頼る事になるとはな…。)


 壊されていないカメラ映像にモニターを切り換えたエレクは、ニーナの指示で動き出した治安部隊を見ながら小さく溜息を吐くのだった。

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