13-4-1.暴動
機械街北区…とある倉庫。
普段使われる事がないこの倉庫は、持ち主の業者がもしもの事態に備えて保有している倉庫である。故に、中には何も置かれていない。
そんな倉庫の中央部分に、普段であれば見る事が無い人影が動いていた。それも1つでは無い。何十…いや、何百単位での人が所狭しと集まっていた。
集まる者達に外見上の共通点は無い。ヤクザ風、サラリーマン、ギャング、学生…様々な環境で生活をする人々が集まっていた。ただ、彼らには1つの共通点があった。
「いいか!これから俺たちは一気に北区を混乱に陥れる!その為だったら何をしてもいいと言われている!俺たちの目的を達成する為なら…尊い命が失われる事すら許容されている!俺たちが、俺たちが機械街の主役になる為に…やるぞ!」
「「「おおぉぉぉおおお!!」」」
低い地響きのように集まる人々から雄叫びが発せられる。
そして…彼らは動き出した。
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スラム地区を訪れてから数日、龍人は機械塔でゆったりとした毎日を送っていた。東西南北地区のほとんどを見て回った為、特にする事が無いのだ。
正確に言えば、更なる情報収集など…する事はまだまだあるのだが、あまりやる気が起き無いのだ。
そんな龍人の隣には遼が疲れた様子で座っていた。まだ朝なのにも関わらず、フルマラソンを走りきったかの様に体力を消耗した顔をしている。
「遼…そんなに刻印解放って疲れんのか?」
「…うん。確かに使える属性が増えるのは良いんだけど、消費する魔力がね。」
「へぇ。そんで、刻印の意味も全部分かったのか?」
「それがさ、刻印解放をするとレヴィアタンとルシファーに俺の名前のイニシャルのRを崩した文字が光るんだけど、その他の刻印は光らないんだよね。ベルーグは刻印覚醒をしないと光らないんじゃないか…って言うんだけど、まぁ覚醒とか出来る気配全然無いんだけどね。」
遼がベルーグに教わった刻印解放の手順は、かなり複雑なものだった。刻印に魔力を流し続けたり、銃本体に魔力を溜めて自然と刻印に魔力が流れる様にしてみたり。更には属性魔法発動の手順と、刻印が刻まれた銃を同じ解釈の元に媒体を仮設定したり。属性【引力】を発動する時に銃のどこの部分が媒体として活性化しているのかの検証を行ったり。所有者として認められ、刻印が刻まれる時に頭に浮かんでくる刻印解放の条件をあらゆる角度から検証していったのだ。
その結果、刻印解放の条件を見つける事に成功したのだが…その条件は遼が1人で見つけるには難しいものだった。
(そもそも…発想があそこまでいかないよね。てか、魔法街で習った魔法の常識と少しズレてるし。)
魔法街において属性魔法は本人が持つ属性と同じ属性の魔具を媒体として用いるのが基本である。あくまでも属性魔法を使用するには魔具、呪文、魔法陣などの媒体が必須なのだ。
本人の持つ属性はあくまでも資質。本人のみで属性魔法を発動する事は出来ないとされている。
しかし、今回遼がベルーグから教わった方法はそれらの前提を覆すものだった。いや、正確に言えば魔具という存在があるからこその思い込みが…。
「龍人さん!遼さん!緊急事態です!至急機械塔の50Fに集まって下さい!」
思考を中断したのは、機械街に来た日に渡された腕輪型通信機器から発せられたニーナの声だった。何もそんな大声で言わなくても…と思い、周りを見るが…特に龍人達の方を見る人は居なかった。
(あら?……あ、そう言えば装着者にしか声が聞こえないとか言ってたっけ。)
1人で疑問に思い、1人で解決している龍人を他所に遼はニーナと会話を続けていた。
「え、何があったんですか?」
「あ、ちょっと待って。第8魔導師団全員との回線を繋げるから。」
一瞬ジジッという音が混ざった後に、通信機から聞こえてきたのは火乃花の声だった。
「何よ?もう少し練習したいんだけど。」
「そうは言いましても…緊急事態なので。」
「…しょうが無いわね。落ち着いたらまた部屋を借りるわよ?もう少し威力の底上げをしたいのよね。」
「もしかして…また部屋を壊すつもりですか?」
「そ…そんなつもりは無いわよ!部屋の壁とかドアが弱すぎるのが問題なのよ。」
一瞬火乃花が動揺した様子を見せたのは、多少なりとも罪悪感を感じている…という事だろう。
このままニーナと火乃花のやり取りを聞いていても良いのだが、一応緊急事態であるらしいので、龍人は口を挟む事にした。
「…あのさ、今緊急事態なんだよな?」
「……!」
龍人のツッコミにニーナか火乃花は分からないが、息を呑む音が聞こえる。そんな分かりやすい反応に苦笑いをしつつ、遼が口を開いた。
「じゃあ、俺と龍人はすぐに50Fに集まるね。レイラから反応が無いけど…聞こえてるのかな?」
確かに…言われてみれば全員の回線が繋がってから、1度もレイラが言葉を発していなかった。もしかしたら緊急事態にレイラが巻き込まれているのでは…という懸念が龍人の中で高まる。
「あれ?私ならもう50Fにいるよ。ニーナさんに会いに来てた途中だったから。」
「え?嘘?…あ、レイラさん!いるなら言ってくださいよー。」
「ごめん。忙しそうに通信機で話してたし、話の内容も聞こえてたから割り込みづらくて。」
「あ、そうなんですね。逆に気を使わせちゃったみたいですね。それなら皆が来るまで…。」
プツン。と、通信がいきなり切れてしまう。
(なんか…女子トークが始まってる気がするのは気のせいかねぇ。)
龍人は遼と目を見合わせると、肩を竦めてエレベーターに向けて歩き出した。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
「…は?暴動?なんでそんな急に起きるんだよ。」
「それは分からん。ただ、暴動の発生の仕方からして計画的である事に間違いは無い。」
第8魔導師団が全員集まった所でエレクから聞かされたのは、アパラタスの東西南北地区4箇所で同時に暴動が起きたという話だった。それも、各地区に派遣している機械塔所属の治安部隊が昼休憩を回し始め、1日の中で唯一手薄になる時間帯を狙われたらしい。
腕を組んでどっしりと座った街主エレクは、焦った様子を微塵も感じさせずにニーナに視線を送る。
「はい。それでは私から現状を説明します。各地区の暴動を鎮圧する為に、4機肢のラウド=マゲネとスピル=スパークが北地区、南地区に分かれて出動しています。併せて機械塔に常駐している治安部隊の約半数を各地区に振り分けて出動中です。私の見込みでは遅くても明日の夜には鎮圧出来るかと考えています。」
ニーナの言葉に引っかかるものを感じた龍人が口を挟む。
「なぁ…各地区で同時に暴動が起きる程の計画的な暴動なのに、そんな簡単に鎮圧出来んのか?」
「はい。暴動が起きてすぐの情報では各地区毎に約500人程度の規模になっています。ラウドとスピルが出動している事を鑑みれば、比較的簡単に鎮圧出来ると思います。」
「…おかしいな。計画的な暴動の癖して人員配置が計画的じゃない。…一応聞くが、この暴動を裏で糸を引いてるのは誰だと考えてるんだ?」
「それは…。」
ニーナは言葉を続けるか躊躇すると、エレクに視線を送る。それを受けたエレクは腕を組んだ姿勢は変えずにゆっくり口を開いた。
「裏で糸を引いているのは間違いなく闇社会の者達だろう。彼らの目的は機械街の乗っ取りだ。そして、今現状として各地区に闇社会のメンバーに関する目撃情報は入っていない。つまりだ…この暴動自体が陽動の可能性がある。」
エレクが言った内容と、暴動に対して今現在治安部隊と4機肢の2人取っている対策を考えれば、一歩間違えれば機械塔が落とされてしまう危険性を孕んでいるのは…誰にでも分かる事実である。
そして、その事実に突っ込みを入れようとした龍人だったが、火乃花が先に口を開いていた。
「あのね…闇社会の人達が見えなくて、各地区の暴動が陽動だって仮定するなら…闇社会の本命は確実にこの機械塔に闇社会の人達が主戦力を当ててくるじゃないの。勿論、4機肢の残り2人は機械塔にいるのよね?」
「………。」
火乃花の質問に対して、エレクとニーナからは沈黙という答えが返ってくる。
「もしかして、居ないの?」
「実は…。」
後悔に苛まされた様な顔をしたニーナが何かを言おうとするが、エレクが「待て」という風に手を翳した為に口を噤んでしまう。
「4機肢で今動けるのは2人だけだ。残りの2人を期待するのは無駄だ。」
「じゃあここの警備は…そういう事ね。」
納得を示した火乃花に対して小さく頷いたエレクはゆっくり立ち上がる。
「第8魔導師団よ。街主エレクとして依頼する。先の話にあった通り暴動が陽動の場合、ここ機械塔に闇社会の者達が攻め込んでくる可能性が高い。主らは機械塔に駐屯し、防衛にあたるのだ。」
それは、機械街の依頼で来ている第8魔導師団にとって断る事が出来ないものであり、否応なく《戦場》に引きずり込まれる事を示すものでもあった。




