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Colony  作者: Scherz
第五章 機械街 立ち向かう者
723/994

13-3-7.路地裏乱闘



 余りにも小さい…というか、下らない理由で狙われている事に、ビストは頭をポリポリと掻いてしまう。


「えっと…そこら辺でもどら焼きは売ってるんですな?」

「違ぇんだよ。あの時、あのタイミングでお頭はどら焼きを食べる事を楽しみにしてたんだ!今買えるかどうかじゃねぇんだよ。あの時にお頭にどら焼きを届けられなかった事が問題だっていってんだぁよ!…ってなワケで、てめぇはここでぶっ殺す!夜露死苦!」


 リーダー風の男の暴走族みたいな「よろしく」を合図に、前後にいるヤクザ風の集団がビストに向けて走り出した。


「…やるしか無いのですな!」


 幸運な事に前後で挟み撃ちをしている為、流れ弾で仲間が負傷しないようにヤクザ風の男達は銃を使わずに、ナックルなどの打撃武器を取り出していた。中には剣を取り出す者もいるが、狭い路地裏ではその本領を発揮する事は出来ないだろう。となれば、ビストの得意なインファイトでの戦いが基本になってくる。

 ビストは構えを取ると前方の集団に向けて突撃を開始した。

 まず、戦闘を走ってくる男が突き出す剣の切先を体の軸を右にずらして避け、下から掻い潜るように掌底を胸に叩き込む。


「ぐはぁ…!」


 唾を撒き散らしながら前のめりに倒れこむ男を盾にして後続の攻撃を避け、前方に向けて足払いを放つ。死角から放たれた足払いにコントのように倒れこむ男達。ビストは倒れた男達の体を踏んで跳び上がると、体を縦に1回転させて正面の男の額に踵落としを叩き込む。


「ぶへぇっ…!」


 武器に頼るヤクザ風の男達と、自身の力をフルに稼働して戦うビスト。狭い裏路地で自由に動けない中、戦闘スタイルの差が如実に現れていた。


(…この程度ならなんとか強行突破出来るかもしれないですな!)


 ヤクザ風の男達の戦闘能力が想像よりも高くない事を察知したビストは、攻め込む速度をさらに上げていく。


「ぐっ…こいつ…強いぞ!…挟み撃ちが仇になっちまったみてぇだな…てめぇら、何としてもあの餓鬼をぶっ潰すぞ!怯まず突っ込め!」

「「おう!」」


 裏路地で柄の悪い乱闘が繰り広げられる中、それを屋上から眺める1人の人物がいた。

 全身を真っ黒なローブが覆い、顔も緑の曲線が彫られた真っ黒な仮面で覆われている。頭から足の先まで黒尽くめの人物…クレジ=ネマだ。


「ふぅん。どうやらこの程度の相手なら金獅子の力を使わなくても良いみたいですねぇ。…思ったよりも力に依存してないんですねぇ。それなら…次は別の切り口で攻めてみますかぁ。ふふ…ふふふ、こういう奴はどん底に叩き落とさないとねぇ。」


 クレジは肩を小刻みに揺らしながら、眼下の乱闘を観察する。

 ビストの前に立ちはだかる男達は残り3人となっており、他の男は後ろから追いかけてくるのみだった。この3人を倒せば逃走路を確保する事が出来る。しかも、周りにいた仲間が一気に倒された事で戦意を失っているのか、怖じ気付いた顔をしていた。


「へへっ覚悟するんですな!」


 ビストは拳を固く握り締めると地を蹴り高速で疾走…しようとしたのだが、ガクンと左足が何かに突っかかってしまう。その犯人はビストが倒した男の1人。全員気を失わせていたと思い込んでいたが…その振りをしている者が居たらしい。

 足を掴む男は口の端から血を垂らしながら笑みを浮かべる。


「へ…へへ。てめぇの思い通りになんかさせるかってんだよ。」

(マジ!?前の3人が怯んでる隙に抜けちゃおうって思ってたけど…これは逆効果ってやつですな。)


 足元の男から、前の3人に目線を移すと…予想通り。やる気に満ちた表情に変わっていた。


「これは…ヤバいんですな。」


 ビストは足を掴む男の鳩尾に拳をめり込ませて意識を奪い、足の自由を確保する。この時点で真後ろには剣を持った男が2人。前からは鉄パイプや銃を握った男が3人。後1歩足を踏み出せば其々の男の攻撃範囲にビストが入る位置まで接近していた。

 前後から同時に攻撃が繰り出されるまでコンマ数秒。本来であれば絶対絶命の状況であるが、ビストにその焦りは無かった。

 その理由は単純。ビストに襲いかかる前後の合計5人が、軍隊の様に確実に相手を仕留める訓練をしていなかったからだ。故に、前方から襲いかかる男の1人が鉄パイプを斜め上に構え、その軌道に当たらないように横を走る男は少し隙間を空けて銃を構えていた。この鉄パイプが振られるであろう軌道と、隣の男の隙間を上手く抜ければ…攻撃を避ける事は可能な筈だった。

 唯一の懸念は銃を持つ男がどのタイミングで発砲するかだ。もし、仲間に銃弾が突き刺さる事を厭わずに発砲されれば…ビストが重傷を負う可能性は非常に高い。だが、先程のヤクザ風の男達の言動から、仲間を大事にしそうな事を感じ取っていたビストは一か八かの賭けに出る。


(一気に抜けるんですな!)


 後方から放たれる攻撃は一切無視し、ビストは振り下ろされる鉄パイプを外側に身を捻って躱していく。更に下半身を捻って銃を持つ男の胸に足を付けて踏台とする事で、相手の体勢を崩し…銃を発砲する迄の時間を稼ぐ算段だ。

 

「こ、この餓鬼ぃ!」


 包囲網からの攻撃を上手く抜け出したビストを見て、リーダー風の男の額に青筋が浮き上がる。


「てめぇら!逃がすな!撃て!撃てぇぇぇぇ!!!」


 再び銃弾がビストを目掛けて放たれ始めるが、その時点で既に路地の曲がり角に姿は消えていた。

 リーダー風の男は不甲斐ない失態に体をプルプルと震わせる。


「この人数で追い込んでも逃げるのか…。あの餓鬼…おい!てめぇら!ボケッとしてんじゃねぇ!さっさっと追いかけろ!」

「分かりやした!」


 ヤクザ風の男達はドタバタとビストの後を追いかけて路地裏に姿を消して行く。

 1人残ったリーダー風の男は忌々しそうに唾を吐き捨てると、近くに転がっていた男の頭に足を押し付ける。


「あの餓鬼…お頭がどれだけどら焼きを楽しみにしてたのかも知らねぇで…。たかがどら焼き。然れどどら焼きって事を一生忘れられない位に体に叩き込んでやる。」

「ぐ…あぁぁぁあああ!い、いだい…!や、やめでぐれぇ!」


 リーダー風の男はギリギリと足で男の頭に圧力を加えていく。どれだけ男が苦痛の悲鳴を上げても、リーダー風の男の耳には入って来なかった。ビストへの怒りを真っ直ぐ足に籠めていた。


「いぎぎぎ…!やべでぐれぇ!じぬ…じぬぅ!」


 倒れる男の頭の形が次第に歪み始める。だが、リーダー風の男は其れを気にする素振りは一切見せなかった。むしろ、今の怒りをぶつける《物》がすぐ足下にある事に感謝をしている位であった。

 …そして、足下でなんとも形容し難い音が響き、苦痛に漏れる呻き声がピタリと止む。リーダー風の男はチラリと足下を見ると、忌々しそうに舌打ちをした。


「畜生…。靴が汚れたじゃねぇか。」


 イラつきをぶつけるように《男であった物》を蹴飛ばす。水が跳ねるような音を立てて吹き飛んだ《物》は近くの壁に当たると、べチャリと地面に崩れ落ちた。

 リーダー風の男は、自身が行った行為を何とも思わない。地面に転がった《其れ》を見ても、一切感情が揺らぐ事すら無かった。


「ちっ…お頭とあの人になんて報告しろって言うんだ。餓鬼…許さねぇ。」


 何人も転がる仲間を一切気にかけず、リーダー風の男は裏路地をゆっくりと歩み始めた。ビストを如何にいたぶるか。ビストへどんな復讐をするか。…其れだけを考えて。


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


「…で、機械街の方はどうなんだい?」

「ふむ。機械街はまぁ順調といった所だ。テングからの情報では、闇社会の活動が活発になってきているらしい。これは僕達の活動を上手く隠してくれると思う。後は…あのバトルジャンキーがどれだけまともに仕事をするか…だな。」

「ははっ。まぁ、彼の戦闘に掛ける想いは特別だからね☆でも、だからこそトバルは今回の任務に適任だと思ってるんだ。只の戦闘狂じゃなくて、自然と人の心を動かす事が出来る。彼なら、俺の期待通りの結果を出してくれると信じてるさ☆」

「ふむ…。貴方がそう言うならそうなのかも知れないな。僕には彼に任せるのはやや不安な気はするが…。」

「まぁ今回は他の星でも一気に任務を進めてるから、他の人員を避けないのが痛い所だけど。それでも機械街自体の優先度は其処まで高くないからね。失敗しても幾らでも取り返しが付くんだよ☆後は…街主エレク=アイアンがどこまであの実験を進めてるか…だね。進捗具合では、一気にその技術を貰いたい所だけど。」

「それについては、まだ調査中だ。僕としてもあの実験が進んでいるのなら、僕の実験を更に飛躍させるための第2の手段として…是非技術提供を受けたいと思っている。」

「…技術提供ね。盗む癖に良く言うよ☆」

「モノは良いようだ。実験を開始しているという不確定の情報もあるから、こちらに関しても確実と言える情報を入手するつもりだ。」

「うん、頼んだよ☆あの実験の道筋は立ってるけど、保険として別の方法を確立する事も大事だからね☆」

「ふむ。任せてくれ。その辺りは抜かりなくやる。…では、他の星に行ってる者達から報告が来る時間なので失礼する。」

「うん。頼んだよ☆」


 白衣を着た男…サタナスが部屋を出て行くと、部屋に1人残った人物はテーブルの上に置かれた資料を捲り始める。


「うんうん。良い調子だね☆俺の計画に狂いはない。…狂わせない。何があってもやり遂げてみせるさ。…父さんを軽んじたこの世界なんか…消し去ってやる。」


 その人物の独り言は、明るい声質であったが途中から別人の様に変化していった。それこそ何年も何年も何年も何年も何年も何年も何年も何年も何年も何年も何年も何年も何年も何年も何年も恨み続けた相手が目の前に突然現れたかの様に。

 目に燻るのは怒り、恨み、怨み、嫉み。

 薄暗い部屋でその人物は策謀を練り続ける。悲願を成し遂げる為に。世界への復讐を遂げる為に。

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