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Colony  作者: Scherz
第五章 機械街 立ち向かう者
720/994

13-3-4.アパラタス

 機械塔45Fの一室。部屋に設置されたベッドの上で龍人は大の字で寝転がり、天井を眺めていた。

 この部屋はニーナが第8魔導師団1人1人に用意してくれたものだ。

 豪華…とまではいかないが、キッチン、風呂、トイレ(ウオシュレット付)、ベッド、テーブル、ソファー、テレビ、ベランダ等々…。優雅に過ごす為に必要な物が最低限以上は揃っている部屋である。

 そんな贅沢とも言える部屋で龍人は今後の動きについて考えていた。


(機械塔の護衛っても、なにか拘束があるわけじゃないんだもんな。腕輪で連絡があるまで自由に過ごして良いっぽいし。何すっかなマジで。)


 魔導師団としてのチームワーク…連携力を高める為に特訓をするという案も考えたのだが、それは1年生後期から散々やってきた事なのだ。最近はむしろ個々の力をもっと向上させなければ、更に上はないという結論に達しており、チームワークの練習をするなら個人で特訓を…というのが4人での共通認識だ。

 それに、機械塔にある訓練部屋を借りたとして、そこに監視カメラが付いていないという保証はない。もし、機械街の人に訓練する姿を見られた事で…今後何かしらの不都合な状況に陥ったとなれば、悔やんでも悔やみきれないのだ。安易に力を見せる事の危険性が分かっている龍人としては、やはり皆での訓練は無しという結論に達するのであった。

 特にする事が無い龍人は勢いをつけてベッドから起き上がると、窓の近くに移動をする。

 窓から見える光景は異世界と表するのが1番しっくりくる物であった。。魔法街は様々な建物が比較的落ち着き目な色で街並みを彩っている。だが、ここ機械街は灰色が一面に広がっていた。勿論、灰色の中でも濃い薄いはあるにしても、道路から高層ビルなどはほぼ全てがコンクリートを基本として作られている。勿論、一面ガラス張りの様にデザインをされたビルもあれば、オシャレな色の建物もあるが。それらの建物が特段目立つ位には灰色が基本色となっている。

 そんな灰色が基調のアパラタスを彩るのは車…と言えるだろう。流石に車も灰色一色という事は無く、原色系の車や、パステルカラーの車まで色とりどりの車が走っている。


(…色々考えててもしょうがないか。街を歩いて見て回るか。もしかしたらそこで何かの情報を入手出来るかも知れないし。)


 方針を決めた龍人の行動は早い。部屋に備え付けのクローゼットに掛けた服に着替えると、街を歩くと決めてから2分後には部屋を出てエレベーターの前に立っていた。

 チン。と到着音が鳴り、エレベーターのドアが開く。そのまま1Fのボタンを押すと、音も無くエレベーターは下降を始めた。このエレベーターも魔法街では魔力を動力としているが、機械街では電気を動力としているらしい。そのエレベーターが街中動いている事を考えると、どうやってそれだけの電力を確保しているのかがきになる所ではあるが。

 そうこう考えている内にエレベーターは1Fに到着してドアが開く。

 エントランスではレイラとニーナが仲良く談笑をしていた。


(あら。何か意外な組み合わせだけど…。ってからニーナって街主の秘書としての仕事がどうたらこうたらで俺達の世話係がなんたらとか言って無かったっけ?…案外忙しくないのかな?)


 もしかしたら世話係になった事で、別の人物が秘書に抜擢されたのかも知れない。そうするとニーナは可哀想と言えば可哀想な立場な訳ではあるが…。ただ、レイラと話す表情に悩みは余り感じ取れないので、龍人はそのままスルーして建物の外に出ようと歩き出した。

 だが、ここでレイラが龍人の存在に気付いて声を掛ける。


「龍人君~。どこか行くの?」

「ん?あぁ。何かあった時に街の構造とかが全然分からないと、役に立てなさそうだからな。…っていうのは建前で、単純に暇だし、折角機械街に来たから街を見て回ってくるわ。」


 もしかしたらレイラが一緒に行きたいと言うかも知れない。なんてほんの少しだけ期待した龍人(スルーしようとしたクセに)だったが、レイラはにっこり笑うと龍人に向かって手を振ったのだった。


「いってらっしゃい。気をつけてね。」

「…おう。サンキュー。」


 ちょっと残念ではあるが、元々1人で行くつもりだったし…と自分自身を納得させる龍人であった。

 そのままレイラに手を振って歩き去ろうとした龍人にニーナが声を掛ける。


「龍人さん…街中で揉め事とかがあっても可能な限り介入しないで下さいね。とにかく目立つ行動を避ける事ですよ。」

「分かってるって。…俺ってそんなに信用無い感じ?」

「いや…あったばかりなので何ともなのですが、レイラさんから『龍人君はトラブルに巻き込まれやすい』と聞いたものですから。念の為です。」


 まさかレイラにそんな風に思われていたとは…と、ニーナからレイラに視線を移すが、レイラは「てへ。話しちゃった。」みたいに笑っていた。


「…ま、気をつけるよ。」


 龍人は片手を上げると機械塔から出て行くのであった。


(何か…俺ってそんなにトラブルに巻き込まれてたっけ?)


 イマイチ釈然としない思いを抱えながらアパラタスの街に繰り出すのであった。


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


 同時刻。遼は地図と睨めっこしながらアパラタスの中心地を歩いていた。目的はとある店。エレクがニーナに教えるように言った店である。

 ニーナが親切に地図まで用意してくれたのだが、アパラタスは表道路でもかなり入り組んでいる為、遼は迷子寸前であった。


(なんでこんなに入り組んでるんだろう?上にも下にも道があるとか…地図が見辛くてしょうがないよ。えっと…あそこを右かな?)


 アパラタスの道路が上下で入り組んでいるのには勿論訳がある。機械街の技術が発展するにつれて電車や車という交通手段が発達。利用者が増えることで渋滞が多発し、その解決手段として採用されたのが立体型道路という訳だ。

 地図を見ながら歩いていて、重なり合う道路のどの部分に立っているのか分からなくなるので、少しでも気を抜けばあらぬ方向に進んでしまうのだ。

 そんな諸々の事情が相まって、どうにかこうにか店の前に着いた時には出発してから2時間が経過していた。


「…着いた。」


 慣れぬ道を歩いてきたせいか、心身ともに疲れ切った遼は目的の店を見上げていた。アパラタスの南地区と西地区の境目の中心地点付近にあるこの店は、周りは夜しか営業しないBARが建ち並ぶ一角にひっそりと佇んでいた。

 その店の名前はガンズハンズ。ニーナから聞いた情報によれば、銃専門店とのこと。エレクがこの店で刻印が彫られた銃を見たことがあるらしいのだ。魔法街から来た自分…つまり部外者に何故ここまでしてくれるのかは不明だが、自身の銃に隠された秘密を解き明かす小さな鍵を見つけられるかも知れない以上、好意に甘えないという手は無かった。

 店のドアを開けて中に入る。そこで目にした光景に遼は軽く息を呑んだ。

 そこは、銃の楽園とも言える場所だった。多種多様な銃が所狭しと並べられている光景は、ガンマニアが見たら嬉しさの余り発狂する事間違いなしである。


(凄いや…。この銃は実弾系かな?あ…こっちは多分魔弾系…いや、実弾も撃てそうだね。実弾と魔弾両方撃てるってなると、やっぱりどっち付かずの性能になっちゃうのかな。)


 物色しながらそんな事を考えていると、奥でガタッと物音がする。とっさに身構える遼。そもそも、普通の店に来ているのだから警戒する必要は無いのだが、自分が魔法街から来た部外者である事が無意識に頭を過ぎり、反射的に反応してしまったのだ。

 だが、機械街の住人が遼を見て魔法街の人だとわかる訳もなく…物音がした方から出てきた人物も身構える遼を見て、当たり前の感想を持ったようだ。


「…何を身構えている。俺がそんなに怖いのか?」

「う…あ、いや、すいません。」

「…店の中を荒らすなよ。」


 それ程身長は高く無いが、鍛え抜かれたであろう筋肉質な腕が薄く汚れた白シャツから覗き、黒いズボンに茶色いエプロンを掛けた姿は職人を連想させる姿だった。ギロリと睨み付ける瞳の先には小さい丸メガネが掛けられていて、更に金髪の頭、加え煙草というヤンキー的要素が加わる事で威圧感が半端ない。

 ちょっとでも言動を待ち構えたら、即死のコースが待っていそうな雰囲気にビビる遼。


(エレクがニーナにわざわざ紹介させたんだから…きっと何かあるんだろうから…聞いてみるしかないかな…。うー怖い。)


「あのーすいません。」

「なんだ?」


 おっかなびっくり声を掛けた遼に対して、威圧感たっぷりの様相で振り向きざまにギロリと睨んでくる男。それにビビリまくる遼。


「…声を掛けておいて黙りか?」

「いや…えっと、特別な銃ってありますか?それについて話を聞きたいんです。」


 ビビりすぎた遼は、刻印が彫られた銃について聞きたいと言いたかったのだが、何故か曖昧な表現で話してしまっていた。


「…そんな銃はここには無い。あるのは実弾銃か魔弾銃のみだ。」

「う…。」


 それ以上の追求は許さないという頑な雰囲気に、遼は言葉を続ける事が出来ない。


「特別な物を探すなら、そういう店に行け。」


 最早殺気と勘違いしてしまいそうな威圧感に遼の心はノックアウト寸前である。


「う…すいません。……なんでエレクは俺にこの店に行けって言ったんだよ…。」


 ボソッと言った遼の愚痴を聞いた男がピクリと反応する。


「…待て。」


 街主の文句を言った事で怒らせてしまったのだろう。先程よりも更に低い声である。ビクッと動きを止めた遼は、恐怖に震えながら操り人形のように男の方を振り返った。


「エレクとは…街主の事か?」

「あ…はい…そうです。す、すいませんでした!」


 自身の住む星のトップの愚痴を聞いて穏やかに見過ごす訳がない。ここまで来たら素直に謝る以外の道は残されていなかった。頭を下げた遼は目をギュッと瞑り、許してもらえるという奇跡を願う。


「…何を謝っているのか分からないが、エレクがお前を寄越したのか。特別な銃と言ったな。となると…あの銃か。…そう言えばまだ名乗っていなかったか。俺の名はベルーグ=ガトルリフ。この店の店主をやっている。…付いて来い。」

「へ…?あ、はい!」


 何故急に店主…ベルーグの態度が変わったのかは分からないが、街主エレクの名を出したのが正解だったのだろう。内心でほっとしながら、店の奥に向かって歩き出したベルーグを慌てて追い掛ける遼であった。


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