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Colony  作者: Scherz
第五章 機械街 立ち向かう者
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13-3-2.機械街へ



 魔法協会本部の中を右に曲がったり、左に曲がったり、ドアを開けて中に入ったと思ったら横のドアからすぐ外に出たり…と、完全に1人では出口に辿り着く事が出来ない位にクネクネと進むラルフ。迷った素振りを見せないのは、流石は魔導師団の先輩…なんて龍人が思っていると、人気が無い廊下を歩きながらラルフが口を開く。

 その口調はついさっきまでの明るい感じでは無く、真剣そのものであった。


「お前ら…機械街に着いたらくれぐれも周りには気を付けろ。確実に機械街以外の勢力が潜入してっからな。」

「機械街以外の勢力ってなんだよ?」


 この時、龍人の頭にはとある人物が浮かんでいたのだが、それが的中している事をすぐ知る事となる。

 ラルフはほんの少し口を開くのを躊躇する素振りを見せた後に、声を潜めて話し出した。


「いいか。魔法協会地下での事件とか、龍人と遼が住んでた森林街を滅ぼした銀髪の男…いるだろ?あいつらが所属してんのが天地って組織なんだ。正確な目的とかは分かってないんだが、確実に其々の星にとって非有益な事を裏でこそこそと行う連中だ。」

「ちょっと待って…。つまり、魔法街でもその天地って組織の連中が活動してたって事?」


 怪訝な顔をしながら口を挟む火乃花。そして、ラルフが答える前に遼が顎に手を当てながら更に口を挟んだ。宛ら探偵の様なポーズである。


「いや、火乃花。今の話だと…活動してた。じゃなくて…今も活動してるって考えるのが妥当じゃないかな?多分だけど、元魔商庁長官のラーバル=クリプトンも天地のメンバーって考えられるよね。それに、魔法協会の地下に居たレイラを監禁した白衣の男も…名前は…。」

「サタナス=フェアズーフだ。天地の目的を達成する為に様々な非人道的な実験をしてる…言わばマッドサイエンティストだな。まぁ…つまりだ、そういう連中の手先が機械街に潜んでると考えろ。特に気をつけなきゃいけないのが…龍人とレイラだ。」

「…俺は分かるけど、レイラもか?」


 意味がわからないといった顔で龍人がラルフに尋ねる。隣を歩くレイラは不安そうな顔でラルフを見つめていた。


「あぁ。龍人は魔法陣構築型魔法とかのレアな魔法を使えるだろ?レイラは魔法協会の地下に監禁された時に魔力を吸い取られたんだよな?まず、連中に顔が割れてんのが1つ。それにだ、魔力総量が多いとかで魔力を抜き取って検査するって言ってたって事を考えると…何かしらの理由で再びレイラを拘束しようとする可能性だってある。」

「それって考えすぎ…。」

「考えすぎって思うかもしれないが、その可能性が僅かにでもあるんなら…警戒はすべきだ。いいか。こういうい場合の物事ってのは、大体が自分達の想像の範疇に収まらないんだよ。甘く見てると、後悔すっからな。いいか?常に狙われてるって意識を持つんだ。


 凄みのある表情で龍人の言葉を遮って続けたラルフは、話し切ると全員の顔を見回す。

 流石にここまで真面目に言われたら「意味がわからない」なんて言えるわけもなく…実際に間違った事を言っている訳ではないので、意味は分かるのだが…4人とも無言で頷くのだった。

 それを見たラルフは真面目な表情からいつも通りのニヤニヤ笑いに切り替えた。


「ま、そうは言っても機械街に行くのは初めてだろ。マジで住む世界が全然違うから、存分に楽しんでこい。…と、着いたな。」


 ラルフに言われて前を見ると、転送課のドアが突き当たりに見えていた。


「よし。今俺が話した内容は他の奴らには秘密だぞ?一応話して良いとか言われてないからな。」


 ニヤッと笑うラルフはノック無しに転送課のドアを開ける。


「こんちわー。第8魔導師団を連れて来たぞ。転送の準備は出来てるかー?」


 部屋の中に入るなり無遠慮な感じで奥に声を掛けるラルフ。すると、職員が慌てて小走りで寄って来た。


「あ、こんにちわー。第8魔導師団の方々ですね。えっと…ちょっとお待ち下さい。」


 職員は脇に抱えたファイルを捲って何かの確認を始める。


「はい…高嶺龍人、霧崎火乃花……えぇっと藤崎遼とレイラ=クリストファー……うん。全員本人みたいですね。はい。ではこちらにとうぞ。」


 1人1人の顔と名前の確認を終えた職員は、奥の部屋へ案内をする。その部屋の中央にはには見た事のない装置が置かれていた。

 その装置は上と下に丸い透明板があり、それらの向こう側ではユラユラと光子が揺らめいている。光子の波…とでも説明すればいいだろうか。誰がどう見ても…魔法街にとってオーバーテクノロジーである事がひと目で分かる代物だった。

 転送装置の前に立った職員は龍人達の方を振り向くと口を開く。


「この転送装置がオーバーテクノロジーだとか、どういう原理で動いているのだとかの質問は一切受け付けません。という訳で、早速諸注意をお伝えしますね。」


 丁度聞こうと思っていた事を先に答えられないと釘を刺されてしまい、龍人はムッとしてしまう。横を見ると火乃花も同じ様にブスッとしており、遼は興味深そうに転送装置を覗き、レイラは体の前で手を組んで不安そうな表情を浮かべ、ラルフは相変わらずニヤニヤと笑っている。

 そんな全員の様々な態度に対して、職員は一切反応をせずに説明を続けていた。


「まず、転送先…今回で言うと機械街から魔法街に戻ってくるには、機械街の許可が無いと帰ってくる事が出来ません。まぁ、あくまでも基本的には…と言っておきましょうか。転送装置以外でも戻る手段は秘密裏に用意されていますが、それが確実に使用できる状況が整うかは皆さん次第なので、今は言及しません。実際にそのような状況に陥った際に魔導師団専用通信機…つまり、あなた達が身に付けているネックレスを通じて魔法街に戻る方法をお伝えします。まぁ…そうならない事を祈っていますが。」


 淡々と説明をする職員に対してもはや突っ込む気も起きなくなった龍人達は…いつの間にか学生の様に話を真面目に聞いていた。

 そして、職員の説明は機械街の情報に移っていく。だが…悲しき事かな。大雑把に纏めればラルフやヘヴィーから聞いた情報と大差が無い為、全員が右から左に聞き流す事態に陥っていた。

 暫くの間、淡々と説明する職員の言葉を淡々と聞くラルフ4人。因みにラルフは近くの椅子で欠伸をしながら、別の女性職員に声を掛けて楽しそうに話をしていた。


「…と、いう訳なので、くれぐれも軽はずみな言動は避けて下さい。それでは…転送に移ってもよろしいですか?」


 最後の質問はラルフに向けたものだ。女性職員と楽しそうに話していたらラルフは、質問を受けて忌々しそうに舌打ちをした…かなり小さい音だったので、恐らく…ではあるが。


「あぁ。転送しちまってくれ。どっちにしろ俺はこいつらについて行く事は出来ないしな。本人たちがOKならいつでもいいぞ。」

「成る程。まぁ確かに魔導師団に選ばれたのだから、それ位の自己判断は出来ないと駄目ですね。これは私が聞く相手を間違えました。申し訳ありません。」


 素直に自身の過ちを認めて頭を下げる職員。相変わらず淡々としているので、心が篭っている感じは全く無かったが。

 職員は頭を上げると龍人達の顔を見回す。


「それでは、改めて尋ねましょう。機械街へと転送する諸々の準備はよろしいでしょうか。」


 龍人達4人は互いに目を合わせると、小さく…だがしっかりと頷き合う。そして、火乃花が4人の意思を代表して返答を口にする。


「えぇ。準備は出来てるわ。転送をお願い。」

「いい表情ですね。それでは、転送装置に全員乗ってください。」


 職員の促し通りに全員が転送装置に乗ると、職員は何やら転送装置の操作を始めていた。


「では、間も無く転送が始まります。」

「じゃ、楽しんでこいよ~。可愛い子を見つけたら連絡先を聞いておけよ?」

「全くあなたは…。もう少し魔導師団の先輩らしい言葉を掛けられないのですか?」

「あ?別にいいじゃんよ。これが俺のスタイルなんだって。そもそもさ…。」


 ラルフと職員があれこれと言い合っている間にも転送の準備は進んでいき、転送装置が低い稼動音を奏で始める。

 上下で揺らめいている光子が渦を巻き始め、下からは登るように、上からは降りるようにゆっくりと龍人達の体を包み込み始めた。それと同時に周囲の景色が薄れ始め、ラルフと職員が言い合う声も少しずつ聞こえなくなっていく。

 そして…視界が1面輝き踊る光子に埋め尽くされた無音の世界に吸い込まれていった。

 全身を包む感覚に龍人は感心して周りを見渡す。


(すげぇ。転送魔法陣と似てるけど、なんて言うか…光子そのものに同化したみたいな感覚だな。そもそも移動してる感覚が全然ないし。…ん?何か見えてきたか?)


 踊る光子が少しずつ薄れていき、その他の5感が体に戻ってくる。まず視覚が捉えたのは…つい先程まで居たのと同じ様な部屋の光景だった。次に聴覚が戻り、全身の感覚が復活する。


「ようこそ機械街へ。第8魔導師団の皆さん…お待ちしておりました。」


 出迎えたのは…巨乳を揺らしてお辞儀をするナイスバディな童顔気味の、しかし大人な雰囲気も携えた、身体のラインを強調するかの様にビシッとスーツを着こなした女性だった。

 この時、全員が同じ事を思ったという。


(ラルフが居なくてよかった。)


…と。

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