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Colony  作者: Scherz
第五章 機械街 立ち向かう者
717/994

13-3-1.初任務



 5月1日。街立魔法学院2年生の生活が始まってから1ヶ月目のこの日。

 第8魔導師団である高嶺龍人、霧崎火乃花、藤崎遼、レイラ=クリストファーの4人は学院長室に集められていた。


「急に呼び出して悪かったの。実は、魔導師団としての任務が入ったのじゃ。」


 4人を席に着かせるなりこう切り出したのは、街立魔法学院学院長を務めるヘヴィー=グラム学院長だ。


「本当に急だな。任務内容は何なんだ?」

「む…?てっきり嫌だとか言われると思っていたのである。」

「一応、魔導師団に選ばれた時点である程度の覚悟はしてっからな。」


 今更何を言ってるんだ?と言わんばかりの表情で言う龍人の言葉に合わせて頷く他のメンバー。そんな4人を見たヘヴィーはほくほくと笑う。


「ほっほっほっ。頼もしくて良いのである。まぁ、そうでなければ敢えてお主らを選んだ意味が無くなってしまうのであるがな。」

「いいから早く任務内容を教えてくれないかしら?」


 ここ最近…特に龍人が禁句探索から戻って来てから、ヤケに機嫌が悪いままの火乃花が睨み付けるようにしてヘヴィーを急かす。


「ほほ。怖いのである。怖いからさっさと説明するでの。任務内容は機械街中心都市アパラタスにある機械塔の護衛なのである。」

「え…機械街って魔法街みたいな他の星ですよね?そんな所に俺達が行くんですか?」

「そうなのである。色々な任務を振り分ける中で、この任務に適任と判断されたのがお主達なのである。」

「何で適任なのかは教えてもらえるのかしら?」


 相変わらず不機嫌な態度の火乃花だが、今回はヘヴィーは怖さに負けたりはしない。


「それは秘密なのである。一先ずは機械街に向かって欲しいのである。」

「いきなり?何か準備するものとかないんですか?」

「ないのである!」


 自身の質問にズバッと言ってのけたヘヴィーを見て、遼は呆気に取られてしまう。それもその筈。初めて別の星に行くのに何も用意する物が無いというのは、流石に不安なるというものだ。


「あの…機械街で気をつけた方が良い事ってありますか?少しでも情報は知りたいです。」


 こう質問をするのはレイラだ。先日禁区を探索した際に情報の持つ力を実感したレイラは、少しでも現地に行く前に情報収集をしたいと考えたのだ。


「むむぅ。それは出来れば現地で情報集めをしてもらいたいんじゃがのう…。そうじゃな…では、1つだけ伝えるのである。機械街は今2つの勢力が争っておる。機械街街主エレク=アイアン率いる現政権勢力と、その政権に異を唱える者達…通称闇社会と呼ばれる者達じゃ。その争いが激化し始めておるらしく、街主勢力の中心地点である機械塔の護衛を頼みたいらしいのじゃ。これ以上は…言えんのである!」


 思ったよりも物騒な状況に龍人は考え込んでしまう。そして、幾つかの質問を投げかけた。


「治安がかなり不安定なのは分かったんだけどよ…それなら機械街街主に与する形で行く俺たちも当然狙われるよな?それを承知で行けって事だよな?」

「勿論なのである。ただ、堂々と狙ってくれという格好で行くのは良く無いのである。従って、お主達には魔法街出身だと分からない服装をしてもらいたいのである。つまりじゃ…適当に私服で行って欲しいのである。」

「適当でいいのか?」

「いいのである。 流石に制服だとモロ目立ってしまうのである。それに、私服で行っても闇社会の情報網に引っ掛かれば顔が割れて、狙われるのは変わらないのである。どっちにしろ狙われると思うのがベターなのである。」


 危険な場所に行くから覚悟をしろと言外に言うヘヴィーであった。

 他にも聞きたい事があった龍人は口を開こうとするが、横に座る火乃花が龍人の前に手を出してそれを遮る。


「いいわ。どっちにしろこの程度の事で拒否しててもしょうがないし。出発はいつなのかしら?」

「明日なのである。行政区魔法協会本部に機械街への転送装置があるのである。集合時間は11:00じゃ。」

「分かったわ。念の為確認しておくけど、魔導師団に配られたネックレス型の通信機は、機械街でも使えるのかしら?」

「うむ。基本的に機械街に居る者同士では使えるのである。機械街と魔法街では使えたり使えなかったりじゃの。余り期待はせん方がいいんじゃが、繋がれば情報交換も出来るから…何かあったら使ってみる事をお勧めするのじゃ。」

「なるほどね。予想通りだわ。じゃ、準備するから行くわよ?」

「当然じゃ。 万全の準備を頼むのである。」


 にこやかに話すヘヴィーを軽く睨んだ火乃花は立ち上がると学院長室を出て行く。無礼と言えば無礼な火乃花の態度を不審に思いつつも、残る3人も後を追いかけた。因みに…龍人、遼、レイラはしっかりと部屋から出るときにお辞儀をした。

 その後、スタスタと早歩きで街立魔法学院正門を出て街魔通りを歩く火乃花を追い掛ける3人。

 火乃花に追い付いたところで龍人が声を掛ける。


「火乃花。何でそんなに機嫌悪いんだ?」


 龍人達が追いかけてきている事にここで気付いた火乃花は、溜息を吐くと歩く速度を下げる。よくよく見てみると、ついさっきまでの不機嫌さは少し影を潜めているようでもあった。


「龍人君はヘヴィー学院長の話を聞いてて何も思わなかったの?」

「ん?そりゃ突っ込むかどうか悩んだよ。でもさ、俺たちが知らないと不利になる情報を隠しはしないだろ。」

「そうかしら?そんな簡単に信じていいの?」

「あの…どういう事?」


 龍人と火乃花の会話を横で聞いていたレイラが口を割り込んできた。どうやらレイラは話の内容を把握出来ていないようである。因みに遼は会話に参加するつもりが無いのか、周りをキョロキョロ見ながら歩いている。

 火乃花と龍人は互いに目線を合わせると難しい表情をする。確証が無い話を無闇矢鱈に話してレイラを混乱させるのが、良い事なのか判断しかねているのだ。

 すると、周りをキョロキョロ見ていた遼が口を開く。


「つまりさ、闇社会との抗争が激化しているからと言って魔法街に護衛要請をする理由が不明確なんだよ。普通、それ位の戦力は確保している筈だし。考えられるのは不測の事態が起きて戦力が大幅減になったか…魔法街に機械塔の護衛をさせる事自体に何か裏の目的があるのか…って所だと思うよ。」

「え…じゃあ私達ってヘヴィー学院長に騙されてるかも知れないの?」

「んー、騙されてるというか…不確定な情報は余計な情報と同義になる事もあるから、現地で実際に収集した情報を元に動いて欲しいんだと思うよ。ま、つまりヘヴィー学院長も機械街の護衛要請が字面通りだと思ってない筈って事だね。」

「そっか…。機械街に行くの楽しみだったんだけど、ちょっと怖くなってきちゃったかも。」

「なーに言ってんの。レイラも1人で禁区にギルドの依頼で行ったんだろ?あそこ程危険な所はそうそう無いだろ。」

「ん…そうだとは思うけど。」

「いやいやいや、ちょっと待って。レイラ….1人で禁区に行ったの?」


 驚きを隠しきれないのは火乃花である。父親が執行部役員を務める関係上、禁区の危険性をある程度は知っている火乃花からして…レイラが1人で禁区に行ったという事実は衝撃なのだ。


「え…うん。魔導師団で少しでも活躍したいから、経験にって思って行ったんだけど…やっぱ怖かったよ。魔獣の上位種にも合うし…。」

「え…ちょっと…なんでそんな危険な事するのかしら…。詳しく教えなさい。」


 本気で心配しているのか、真剣な顔で詳しい説明を求める火乃花にレイラは気圧され気味である。助けを求めてチラッと龍人を見るが、龍人は困ったように首を横に振っていた。どうやら、ここまで喰いついた火乃花を止めるのは無理だと思っているのだろう。

 だが、餌食となったのはレイラだけではなくて龍人もであった。この後、禁区の話を延々と根掘り葉掘り火乃花に聞かれまくったのである。


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


 翌日の朝…10時45分。行政区魔法協会本部の入り口前に第8魔導師団の4人は集まっていた。其々私服で来ている為、パッと見では魔法学院の生徒だとは分からないだろう。火乃花とレイラは動きやすさを重視したのか、スカート等々のヒラヒラした服ではなく、ボーイッシュな服を華麗に着こなしている。


「よし。行きますか。」


 龍人の声に頷いて全員が魔法協会本部内に向けて歩き出す。龍人と火乃花は緊張を一切感じさせない通常の表情で、遼とレイラはほんの少しではあるが表情が強張っていた。特にレイラは他の星に行くのが初めてなので、かなり緊張している様だ。森林街に居た遼はそのレイラに比べれば平静と言って問題はない。

 受付に座るお姉さんに声をかけるのは龍人。


「すんません。魔導師団の任務で来たんだけど…転送装置ってどこにあるんだ?」


 ほぼタメ語の龍人に対して、受付のお姉さんはほんの少しピクリと眉を動かしたが…魔導師団の言葉を聞いた瞬間にその気配は一気に消え去った。


「はい…この地図を見てください。今いるのがここになるので…ここを曲がって、次にここを曲がって、このドアを入ったら左側の……。」

「ちょ、ちょっと待った。複雑過ぎて覚えらんないかも。」

「…ですが、転送装置は機密度がかなり高い装置になります。あまり簡単に辿り着ける場所には置くことが出来ないんです。」

「うげ…火乃花、覚えられるか?」

「…ちょっと怪しいわね。」

「だよなぁ。」

「なーに暗い顔してんだ!緊張してんのか?おっ?」


 困る龍人達に元気良く声を掛けてきたのはラルフだ。相変わらずテプテプの顎を摩りながら相変わらずのニヤニヤ顏で片手を上げながら近寄ってくる。


「転送装置までの道順が分かんねぇだろうと思って待ってたんだ。感謝しろよ?」

「あ、そう言えばラルフも魔導師団だったわね。」

「そう言えばとは何だそう言えばとは!歴とした第1魔導師団だわ!」

「何か魔導師団って感じがしないのよね。セクハラばっかしてるからかしら?他の星に行っても色んな女にセクハラしてるんでしょ?」

「それは否定出来ないが、任務はほぼ完璧にこなしてっぞ?」

「いやいや。否定出来ないとか自信満々に言うところじゃないでしょ。」


 自身のセクハラに対して割り切った様子のラルフに対して、火乃花は呆れて首を傾げてしまう。だが、火乃花に呆れられたところで大して痛くも痒くも無いラルフは、楽しそうに歩き出した。


「うしっ。行くぞー?1回で道順は覚えろよ?」


 片手を上げるとガイドツアーの様に歩き出すラルフであった。龍人達4人も特に着いて行かない理由が無い為、素直に後を追いかける。

 こうして、魔法協会本部の迷路の中に5人は進んでいくのだった。

 後に残された受付のお姉さんは、頬に片手を上げると小さく溜息吐く。


(あの子達第8魔導師団ってことは…機械街に行くのよね。転送装置の場所を聞いてたから、それは間違いないと思うけど…。受付嬢の私ですら機械街の不安定な状況を知ってるんだから、実情はもっと複雑で厄介な筈。…大丈夫かしらね、あの子達。第1魔導師団のラルフ=ローゼスが来てるのも、きっと心配だからよね。普通初めて魔導師団として転送装置を使う場合、本部の転送装置担当が迎えに来るわ。それなのに来てないって事は、ラルフが其れを止めたって事になるわね。となると…)

「あのー…すいません!」


 突如掛けられた大きな声にビクッとする受付のお姉さん。目の前にはサングラスを掛けた強面のお兄さんが立っていた。スーツをビシッと着こなした姿は、パッと見インテリヤクザ的な雰囲気を醸し出している。


「は、はい!何でしょうか?」

「いや…さっきから何度か声を掛けてたんですが、何かを真剣に考えていたのか全然反応が無かったので、大きな声を出してしまいました。すいません。」

「あ、い…いえ、こちらこそボーッとしていて申し訳ありません。」

「あ、いえいえ。今日はこの要件で来たんですけど…。」


 強面だが優しそうな雰囲気にホッとする。タチの悪い客であったら、ここでガミガミと文句を言われる可能性があったからだ。

 男から差し出された紙を見た受付のお姉さんは首を傾げた。


(あれ。こんな面会の予定って入ってたかしら。)


「ちょっとお待ち下さいね。確認しますので。……もしもし。はい実はクリスタルの売り込みの要件でお客様が。はい、えっと魔商庁では無くて本部で…あぁ成る程。今日は申請と審査なんですね。はい。分かりました。」


 受付のお姉さんは強面の男を見ると笑顔を見せた。


「確認が取れました。本部の魔道具審査課にお進みください。そちらで担当者が待っておりますので。」

「あ、良かったです。場所を間違えたのかと思いました。えっと、魔道具審査課の場所は…あぁ、はい。すいません。分かりました。」


 見取り図をみて道を覚えたのか、きっちりと受付のお姉さんに頭を下げた強面の男は、ゆっくりと受付から歩き去って行った。


(ほんと、人って見かけによらないものね。って、また人が来たわ。今日は忙しいわね。)


 受付のお姉さんは次の来客に笑顔を向ける。


「こんにちわ。本日はどんなご用件ですか?」

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