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Colony  作者: Scherz
第五章 機械街 立ち向かう者
715/994

13-2-13.龍の系譜に連なる者


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


「龍人化【破龍】。」


 黒い靄の力を貸してくれる内なる声の名前を聞いた瞬間に、自然と浮かんできた単語《龍人化【破龍】》を口にすると…今まで感じた事がないレベルの力が内側から溢れ出てくる。


(…すげぇ。俺に扱いきれるのか不安になるレベルの力だわ。)


 龍人に纏わり付く黒い靄は、気付けば黒い稲妻へと変化していた。勿論、変化は稲妻だけではない。見える世界が一変していた。

 黒い靄の時はなんとなく魔力の流れが見えていたのだが、今は魔力の流れから魔力に与えられた指向性迄もが読み取れる様になっているのだ。

 風龍の周りに集められた風が切り裂く刃となって龍人へ放たれる。

 物凄い数の風刃だが、龍人の眼には魔力のライン…これからどの様に進んでくるのかが予知の様な形で映っていた。


(これなら…抜けられる!)


 龍人は風刃の群れに僅かに出来た隙間を狙って走り出す。僅かな隙間に体を滑り込ませ、避けきれない所は魔法障壁で最小限の被弾になる様に調節していく。

 嵐の様な風刃が通り過ぎた後、風龍の前に立つのは無傷の龍人だった。


「その力…覚醒したか。」

「ん?これを覚醒って言うのか?」

「そうだ。里の因子を受け継ぐ者はその身に稲妻を纏う。お前の力…破龍に起因するものか?」

「あぁ…多分な。内側から俺に話しかける声は破龍って名乗った。んで、固有技名が浮かんできたんだ。」

「ふむ。どうやら本物の様ではあるが…。龍人化した者と戦うのも久し振りだ。力量の確認をさせて貰おうか。」


 楽しそうに笑みを浮かべた風龍の周りに風が吹き荒れる。また先ほどと同じ様に強烈な攻撃が来るのかと身構える龍人だったが…次の瞬間、風が止んだ。


(……!?)


 龍人は咄嗟に体を左にズラす。眼で視認するのが難しい程の高速で何かが通り抜けていった。


(今のは…風の球か?)


 龍人化していなければ確実に避けられなかったであろう攻撃。魔力のラインが自分に向かって伸びているのを感知し、そこから体を動かしたからこそギリギリで避けられたのだ。


「やはり…魔力の流れが見えているな。ならばこれはどうだ?」


 続いて風龍から放たれたのは荒れ狂う風が凝縮された風の壁だ。それは谷底の右から左まで埋め尽くして龍人に襲いかかる。

 例え魔力の流れが分かったとしても、逃げる事が出来ないのは明白。攻撃魔法で突破するか、防御魔法で防ぎきるしか選択肢が無い。


(龍人化で攻撃魔法に関しては強化されてる気がするけど、防御魔法はあんま強化されてる気がしないんだよな…。普通なら防御壁の魔法障壁とかを使って耐えるのが無難だけど、この場合は攻撃魔法で突破する方が良い気がする。)


 一か八か…の賭けにはなってしまうが、龍人は自身の直感を信じる事にした。風の壁に向けて右手を伸ばし、展開構築を同時に進め…鎌鼬を発動する魔法陣を完成させる。

 そして…魔法陣が光り輝き、竜巻を周りに伴う圧縮風弾が撃ち出された。ここでも龍人の魔法に今までと違う現象が起きていた。発動した魔法の周りに黒い稲妻が走っているのだ。


(おぉ。なんかカッコいいかも。)


 中二じみた感想を抱く龍人の視線の先で圧縮風弾は風の壁に喰い込み、突き破っていく。圧縮風弾の周りの竜巻も風の壁を切り裂き…遂には風の壁自体を霧散させ、風龍に向かって突き進む。


「ほぅ。あの魔法を蹴散らすとは…。思った以上だな。」


 高威力の攻撃魔法が迫っているのにも関わらず、風龍は冷静…そして余裕の表情を崩すことは無かった。

 4枚の羽がバサッと動くと4つの竜巻が発生し、圧縮風弾を迎え撃つ。ガガガガガガ!っと風同士が削り合う音が響き、谷底に物凄い音を反響させる。

 2つの風魔法の攻防が始まってすぐ、龍人は次の行動に映っていた。風龍が放った4つの竜巻が有する魔力が桁外れに強かった為、圧縮風弾では勝てないと読んでの行動だ。

 右手の先に展開した魔法陣から抜き放つのは龍劔。3匹の龍が絡まった様な刀身は、1つの龍が黒に染まっていた。そして龍劔の周りにも黒い稲妻が走る。

 龍人は圧縮風弾と鬩ぎ合いを続ける4つの竜巻へ向かい、龍劔を横一文字に振り抜く。


「龍劔術【黒閃】!」


 黒い稲妻が走る黒く巨大な魔力の刃が龍劔の軌道に合わせて形成。竜巻へ向かっていく。そして、激しい音を響かせながら竜巻を上下に斬り裂き霧散させる。

 そのまま風龍の下へ飛ぶのがベストだったが、流石に4つの竜巻を全て斬り裂くのは難しかった様で、4つめの竜巻にぶつかると相殺する形で龍劔術【黒閃】の刃は消えてしまう。

 竜巻を打ち破られた事で感心した様に頷いていた風龍は、消えた竜巻の向こうから弾丸の様に向かってくる龍人の姿を捉えて驚きを隠す事が出来なかった。


(まさかここまで使いこなすとは…。破龍は攻撃特化の力を授けていた筈。攻撃力の劇的な向上に加え、移動速度もかなり向上しているか。あとは…魔法陣の使い方の固定概念をどれだけ取り払えるか…だな。だが、これは俺の役目では無いな。…もう十分か。)


 力試しをするつもりだった風龍は、龍人のある程度の力量を確認出来た事で満足をしていた。だが、龍人がそれに気付く訳もなく…全力で攻撃を仕掛けている最中である。

 風龍の目の前まで迫った龍人が繰り出すのはもう1つの龍劔術。下段後方に龍劔を構えた龍人はその固有技名を小さく呟く。


「龍劔術【龍牙撃砕】。」


 龍劔の両横に黒の稲妻を纏う牙の様な刃が3本ずつ出現し、風龍へ襲い掛かる。


「甘い!」


 風龍は合計7本の刃に対して巨大な風弾を発射し、龍劔を弾いた。龍人は両手を上に上げる形で仰け反り、そこに向けて風龍から数多の鎌鼬が放たれる。必中の攻撃。風龍はそう認識していたのだが、龍劔術【龍牙撃砕】はこれでは終わらない。斬り上げから斬り下ろしの2連撃がこの固有技の特徴である。


「ま…だだぁ!」


 吹き飛びそうになる龍劔を必死に掴み、龍人は叫びながら2連撃のもう1撃を放つ。振り下ろされる7本の黒い牙が、鎌鼬を砕き…風龍へ迫った。

 だが、一陣の風が吹いたかと思うと…気付けば風龍は龍人の間合いの外に移動をしていた。


「まじか…。今のタイミングの攻撃を避けるんね。」


 格が違う動きに龍人は最早苦笑いを浮かべる事しか出来ない。あの距離で攻撃を避けられては、今の自分には風龍に当てる事の出来る攻撃があるとは思えなかった。


「中々にいい動きだ。この俺に軽微とは言え攻撃を当てるとはな。」

「…へ?」


 斬撃が当たった気はしなかったのだが、上から数枚の羽根がユラユラと舞い落ちていた。

 確かに攻撃が当たった事にはなるのだが…それでも羽根が数枚切り落とされた程度。手傷と呼ぶには程遠いレベルであった。


(さ~てと、どうすっかな。多分俺が使える他の魔法を使っても、攻撃力が足りなくて風龍の防御を貫通するのは難しそうだし…。かといって、龍劔術は当たんないしな。完全に詰んだかも。)


「まだ分かっていない様だが、俺にはこれ以上戦う意思は無い。お前の実力はもう把握したからな。高嶺龍人よ、強くなる事を怠るな。…うちなる力に呑み込まれない事を祈っておこう。」

「呑み込まれるって…?」

「では、さらばだ。」


 一方的に話を進める風龍の周りに巨大な魔法陣が展開される。そして、光り輝いたと思うと…次の瞬間には風龍の姿は消えていた。


(今の馬鹿デカイ魔法陣は…転移魔法陣か?それにしても…力に呑まれるなってのが気になるな。確か破龍も同じ事を言ってたし。)

《そうだ。我が力は強大。故に力に込められた意志に呑み込まれれば主の意識は呑み込まれる。》


 突然話し始めた内なる声…破龍の声に龍人は眉を顰める。


(って事はアレか?何かがきっかけで俺の自我が呑み込まれちまうって事か?)

《その可能性がある…というだけだ。》

(まぁ…今の段階で特に呑み込まれそうって事は無いけどな。)

《…油断は付け入る隙を与えるぞ。》

(はいよ。力に頼りすぎ無い様にはするよ。)

《それで良い。我が力は万能では無い。我が主の体にも、精神にも多大なる負担を掛ける。本当の意味で力を受け入れ無い限り、それが変わる事は無いと思え。》

(…どういう意味だ?)

《…。》

(ん?聞こえてるか?)

《…。》


 もう話す事は無い…とばかりに沈黙した破龍に対して溜息を吐きながら、龍人化【破龍】を解除した龍人は谷底から空を見上げる。

 相変わらず黒い雲で隙間なく埋め尽くされた空が谷底の割れ目から縦に長く続いていた。まるでどこ迄も暗い道程が続いていく事を暗示しているかの様に…。


「さて…と、もう風龍は居ないし、1度谷底から出るかな。…と、その前に。」


 龍人はギルドカードに魔力を流して依頼情報を確認する。


「げ…マジ?」


 そこには、「該当魔獣の反応が禁区から消えた為、この依頼は強制的に取り下げとなります。」…の文字が書かれていた。

 つまり、討伐対象は風龍だったという事になる。


「完全に1人じゃ勝てないヤツじゃん…。今度からは1人で来るのは止めるか…。」


 ギルドの依頼という点に関しては完全に徒労に終わってしまった為、龍人のモチベーションは一気に下がる。

 まぁ…それでも新たな固有技を習得した事、自分が龍の系譜に連なる者である事…等、意図せずではあるが…真極属性【龍】の秘密に少し近づけたのは大きな収穫とも言える。

 テンションはダダ下がりだが、この場所に他の魔獣が出ないとも限らない。龍人は気を引き締め直して谷底の入り口に向けて歩き出した。


(…あら?)


 数歩歩いたところで龍人はよろめいてしまう。どうやら龍人化【破龍】から龍劔術【黒閃】【龍牙撃砕】といった大技を連発したせいで、大分魔力を消費してしまっているらしかった。


(こりゃぁ…龍人化【破龍】でどれだけ戦えるのか試しておく必要があんな。)


 フラつくとは言え、安全で無い場所で休むわけにもいか無い。龍人は再び歩き出す。ゆっくりと。一歩一歩着実に。


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