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Colony  作者: Scherz
第五章 機械街 立ち向かう者
714/994

13-2-12.死化粧山山頂



☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


 龍人が風龍と戦い、ルーベンとカイゼがケルベロス希少種と戦い始めた頃…もう1つの事態が別の場所で進行を始めていた。

 その場所は…死化粧山山頂。そこに姿を現したのはレイラだ。吊橋で下からの暴風に襲われた後、出来る限りの速度で移動をしてきたお陰か…特に何かしらの魔獣と出会う事もなく到着する事が出来ていた。

 山頂に到着をしたレイラは、目の前に広がる光景を見て息を呑む。


「……綺麗。」


 思わず言葉が漏れてしまう程の光景が広がっていたのだ。山頂は一面にレイラが探していた無魔の花が咲き乱れていた。

 緑の茎に、薄っすらと虹色に輝く透明な花弁。まるでシャボン玉が一面に浮遊しているかの光景にレイラは感嘆の息を吐く。

 魔獣が出現する禁区の中に唯一ある楽園のように…ユラユラと揺れる無魔の花は幻想的な風景を作り出していた。


「あ…早く花を集めなくっちゃ!」


 楽園のような場所ではあるが、魔獣と遭遇する可能性がある事を思い出したレイラは無魔の花を手際良く集めていく。

 無魔の花は重さを感じさせない位に軽く、1度に大量の花を採集出来そうだった。

 15分程度だろうか。持てるギリギリ量の無魔の花を採集して息を吐いたレイラの頬を風が撫でた。

 ふと何かの気配を感じたレイラが横を見ると、そこには1匹の狼が立っていた。エレメンタルウルフ…では無い。明らかにエレメンタルウルフのサイズを大きく超えた巨体。その狼は静かに、真っ直ぐ瞳をレイラに向けていた。観察をされている…と言うのが近い表現か。


(え…この狼さん、私の事狙ってるのかな?)


 警戒して立ち上がったレイラを見て、その狼は徐に口を開いた。


「ほぅ…禁区にこれだけ集まっている時にこの山頂まで無事に来る者がいるとはな。人の子よ、名を何と言う?」


 魔獣が話した事で一瞬驚くレイラだが、予め調べた時に上位種が話す事が書いてあったのを思い出し、パニックに陥る事無く返事を返す。


「えっと…レイラ=クリストファーです。…狼さんの名前は何ですか?」


 レイラの返事を聞いたフェンリルは顔を下げ、肩を震わせた。


「ククククク…!このオレを狼さんと言うか!面白い。か弱い女だと思ったが、どうやらある程度の修羅場を潜り抜けているのか?中々に肝が据わっているな。いいだろう…オレの名はフェンリルだ。死化粧山山頂を守るモノとして此処に居る。」

「守って…何をですか?」

「ふん。それを教える義理は無い。さて、レイラといったか…目的は無魔の花の様だが、他にも目的はあるのか?」

「え?他には無いけど…。」

「……そうか。なら良い。」

「じゃ、じゃあ私はこれで…。」

「そうか。…いや、待て。退屈していた所だ。少し遊んでやろう。」

「……え?」


 レイラが声を出した瞬間には、荒れ狂う風の壁が目の前まで迫っていた。不思議な事に、無魔の花は直撃を受けてもそよ風に吹かれた程度にしか揺れない。


(え?いきなりなの!?)


 レイラは慌てて魔法障壁を張り衝撃に備える。

 風の壁は魔法障壁にぶつかった衝撃で渦を巻き、鎌鼬を発生させて回り込むようにしてレイラを襲う。1つの攻撃魔法からの派生攻撃。初めて見る技にレイラは完全に対応が遅れてしまう。


(間に合わない……でも!!)


 ここでレイラは耳に付けた魔具…金の星形イヤリングを介して魔法を発動するのを止め、昔の様に魔具無しで魔法を発動させる事を選択する。消費魔力は大きくなるが、魔具という媒体に魔力を注がない事で…ワンステップ短縮する事が出来るのだ。

 念の為補足するが、魔具はあくまでも属性魔法を発動する際に媒体として使う物。だが、レイラが持つ星形イヤリングは無詠唱魔法…つまり結界系の魔法等を発動する際にも補助能力を有している。レイラは普段、魔法壁や物理壁といった防御壁を使う際は、魔力節約を兼ねて魔具を利用しているのだ。だが、発動時間では間違いなく魔具を介さない発動の方が早い。…という理由で、魔具を使わない選択をしたのである。

 こうしてギリギリのタイミングで鎌鼬を防ぐのは反射障壁【風】だ。反射された鎌鼬がレイラを襲う鎌鼬と相殺していく。


「ほぅ…。中々の発動速度だな。ならば…。」


 続いてフェンリルの周りに4つの空気が圧縮されていく。そして、超圧縮された空気砲弾が1発放たれる。


(反射障壁で反射されたのに同じ属性を撃ってくるって事は…ないよね。それなら…少し不安だけど、これ!)


 レイラは魔法障壁を最大強化状態で発動する。発動とほぼ同時のタイミングで着弾する空気砲弾。物凄い圧力が魔法障壁に掛かるが、防げないレベルではなかった。これならば…と油断したレイラの気が緩んだタイミングで、空気砲弾に変化が現れる。

 魔法障壁を押し潰さんと圧力を掛けていた空気砲弾が、竜巻に変化したのだ。

 最大強化をする為に前面にのみ魔法障壁を張っていたのだが…それによる防御の隙を狙われた形だ。何よりも1つの魔法が、別の形の魔法に変化する派生攻撃に慣れていないせいか、全てが後手後手に回ってしまっている。

 竜巻はレイラと魔法障壁を包む様に発生。そして切り裂かんと猛威を奮う。何とか防ごうとしたレイラの頭にシェフズとのやり取りが過る。


(あ、シェフズさんの陳列棚を直した時の【癒】の解釈を使えば…。)


 レイラは星形イヤリングに魔力を流し、極属性【癒】を発動する。但し、治癒魔法を発動するのでは無く《治癒=元に戻す》という解釈による属性魔法の発動。レイラの手から金色に輝く光が現れて竜巻に触れる。

 その直後に起きた現象を見てフェンリルは目を見開いていた。


(オレの派生攻撃で完全に潰れると思ったが…。この魔法を使う者とここで出会うとは思わなかったな。龍の系譜に連なる者と時の女神に同じ日に逢うとは。…さて、本人に自覚があるか確かめる必要があるな。)


 そうこう考えている間にも、竜巻は力を弱め…漂う空気へと戻っていく。圧縮し、解放して竜巻にした空気が在るべき姿に戻されたのだ。

 フェンリルは残りの空気砲弾を周りに浮かべたままレイラに問いかける。


「レイラ…お前は時の女神を知っているか?」


 突然攻撃が止み、真面目なトーンで投げ掛けられた質問にレイラは戸惑ってしまう。


「…え?時の女神…?」


 だが、その反応だけで十分だった様だ。フェンリルは目を瞑ると頭を振る。


「知らぬのなら良い。…全く。世界の在り方に関わる力を持っていながら、其れを知らぬとはな…。あの男も、お前もだ。」

「あの男って…。」

「本来であればお前の様な無謀な人間は、この場で喰い殺すべきだが…そんな事も出来ん。お前にその力が授けられた運命に感謝するがいい。さぁ、去れ。」

「…?み、見逃してくれるの?」

「そういう事になる。」

「…なんで?」

「それを知る必要は無い。知るべき時に自ずと答えが分かる。」


(…これ以上聞いても答えてくれなさそうだよね。これ以上ここにいる必要が無いのも本当だし。そしたらシェフズさんのくれたクリスタルで…。)


 レイラはポケットから転送塔への転移魔法陣が記憶されたクリスタルを取り出し、発動した。輝き始めたクリスタルから魔法陣が現れ、レイラを転移の光が包んでいく。

 転移されゆく景色の向こうで、どこか哀愁が漂う目付きでレイラを見ていたフェンリルと目が合った気がしたが…直ぐに目の前の景色は転送塔の外観に変わっていた。


「…終わったんだ…よね?」


 フェンリルという上位種と遭遇したのにも関わらず、無傷で生還したという事実が現実感を薄めていた。

 ほぼ無意識に採集した無魔の花に手が触れる。そこには確かに死化粧山の山頂で見つけた、透明の花弁を持つ花々が入っていた。


(これで…依頼は達成ってことだよね。…もう1人で禁区に来るのは止めようかな。ちょっと怖すぎるよね…。)


 フェンリルに襲われた瞬間の映像がフラッシュバックし…思わず身震いしたレイラは逃げる様にして転送塔の中に入って行った。


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


 死化粧山では…レイラが転移したのを見届けたフェンリルが空を見上げていた。

 禁区の空は相変わらず黒い雲で覆われ、雲の切れ目も一切無い。

 フェンリルの眼に映るのは昔の光景。過去と現在。


「因子を持つ者達が目覚めつつあるのなら、やはり俺はここにいなければならないか。次こそは奴等の思い通りにはさせない。」


 この世界を激変させた出来事を思い出したフェンリルは、低く唸ると無魔の花が咲き乱れる山頂をゆっくりと歩き始めた。

 2度と同じ失敗を繰り返さないという決意を込めて。


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