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Colony  作者: Scherz
第五章 機械街 立ち向かう者
712/994

13-2-10.ケルベロス



 カイゼは目の前に広がる獰猛な牙が並ぶケルベロスの顎を…覚悟を持って見ていた。自身の無謀な突撃による結果がこれである。魔導師団に選ばれ、ある程度の実力を持っていると自負していたが…それが良く無かったのだろう。最早どうにもならない状況であった。

 顎がカイゼの上半身を飲み込み、閉じられていく。このまま胴体が半分に噛みちぎられ、絶命する事は容易に想像できる結果である。

 死を受け入れる覚悟。だが、その覚悟は幸運にも無駄となる。

 視界の隅に映る黒い影。次の瞬間、カイゼの視界に映るのはケルベロスの首の切断面であった。

 切断したのは…ルーベンだ。ルーベンはニヤリと獰猛な笑みを浮かべると振り上げた大剣を水平に構える。


「慚龍剣【大断閃】」


 大剣が物凄い勢いで振り抜かれる。巨大な刃はケルベロスの残る2つの頭を捉え、まるで柔らかい物を切断するかのように2つの頭を胴体から切り離した。

 断末魔も無くゆっくりと横に倒れていく巨体。ドシンと鈍い音を立てながら横たわったケルベロスの体に、足を乗せたルーベンはワイルドな笑みをカイゼに向けた。


「危なかったな。ま、俺もさっき助けてもらったし…これで貸し借りは無しだ。怪我はねぇか?」

「あ、あぁ…。それにしても…今の固有技凄いねっ。あんな簡単に切断しちゃうなんて、流石だよ。」


 差し出されたルーベンの手を取って立ち上がりながら、カイゼはルーベンを賞賛する。実際、カイゼは自身が放った舞刀術【迅雷凍炎】でケルベロスを倒す事が出来なかった。それこそ下位種の魔獣であれば、細切れに出来るはずの威力を秘めた固有技なのである。これを鑑みれば、ルーベンが使った慚龍剣【大断閃】の威力の高さが分かるというもの。

 流石は魔獣討伐専門のチーム【ブレイブインパクト】のリーダーを務めるだけの事はある…という事だ。

 頭を失って倒れたケルベロスの鬣から生える蛇が弱々しくも睨み付けて来るが、流石に脅威にはならない。ルーベンの一振りで残った蛇も一瞬にして狩られ、ケルベロスは完全に沈黙した。

 ボウッとルーベンの胸元が光る。


「お、西側地区に行ったメンバーから通信だな。」


 そう言って取り出したのは、六角形のクリスタルが付いたネックレスだ。魔導師団が支給される杖のネックレスと同じようなものなのだろう。


「…そうか。分かった。…あぁ。こっちも同じだ。…じゃあ北側地区で待ち合わせだな。」


 ルーベンはネックレスを仕舞うと、通信前より真剣味の帯びた表情でカイゼを見た。


「どうやら西側地区にもケルベロスが居たらしい。なんとか討伐はしたみたいだが…。長年魔獣討伐をしてるが、西側地区と東側地区の2箇所同時にケルベロスがでたのは初めてだな。」

「…って事は、やっぱり北側地区に何かしらの異変が起きてるって事だねっ。」

「あぁ。こういう先が読みにくい事態ってのは、心が躍ってくるわな。うし。さっさと北側地区に行って何が起きてんのか確かめるぞ。」

「分かった!行こう!」


 ルーベンは大剣を背中に掛けると足早に歩き始めた。カイゼも両手に持っていた短刀を仕舞い、ルーベンの後を追い掛けて歩き始める。

 後に残された首無しケルベロスの死体は、時間を早巻きしたかの様に風化し、霧の様になって消えていった。


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


 ルーベンとカイゼが東区でケルベロスを倒していた頃、龍人は禁区北側地区に到着していた。


(さてと…どうすっかな。風を操る魔獣ねぇ。やっぱ…あの山には何かしらの魔獣が居そうだよな。無駄に白くなってるし。よし、取り敢えずあの山に行ってみるかな。)


 ほぼ直感で少し先に聳え立つ白みを帯びた山…死化粧山へ向かう龍人。ここに来るまでの道中、全く魔獣と出会わなかった龍人は、やや退屈と感じでいた。途中、後ろの方から爆炎が上がる光景は見たが…またフェンリルの様な強力な魔獣だった場合、本当に死が見えるので引き返す事はしなかった。ちょいビビっていた事は否定出来ない。


 死化粧山に到着した龍人は、山頂に続く山道と山の割れ目…谷底へ続く道の分かれ道に立っていた。


(どっちに行くかな。ってか、このまま1人で進んでいいのか?次、フェンリルに会ったら勝てる気がしないし。…でも、フェンリルに全力で戦った姿を見せなきゃいけない気もすんだよな。直感だけど間違ってない気がする。それなら…フェンリルが居そうな方に進むべきか?あそこまで色々含みを持たせた事ばっか言われたら、流石に突き止めてみたい。狼が居そうなのは山頂だけど…流石に上位種が堂々と山頂にはいないだろ。なら…谷底か。)


 再びフェンリルと戦うという選択。これは、例えフェンリルが未確認魔獣討伐依頼の対象でなかったとしても…だ。もしかしたら自分の真極属性【龍】について何か分かるかも…という希望があるのだ。フェンリルに言われた《龍の系譜》という言葉。この言葉と真極属性【龍】が無関係だとは、例え誰であっても思わないだろう。何かしらの関連があると考えるのが普通だ。

 それならば、自分自身の本当の力と向き合うには…逃げずに立ち向かうしかないのだ。


「よし。」


 自分の中で《立ち向かう》と結論付けた龍人は、谷底へ続く道を選択する。そして…谷底の入り口で、《其れ》と出会う。

 谷底の奥へ進もうとした龍人の目の前にヒラリと降り立つ巨大な影。警戒して後方に飛び、構えた龍人が見たのは…ケルベロスだった。

 3つ頭に鬣から生える蛇。見紛う事のない姿。だが…体表は燻んだ銀色。蛇は黒く、尾は棘のように先端が鋭く尖っている。龍人が知っているケルベロスとは明らかに違う姿であった。


(これって…転送塔で会ったカイゼが言ってたケルベロス希少種じゃないか?)


 龍人の予想は見事に的中していた。ケルベロスの中でも特に珍しい特徴を持った希少種。原種が上位種に分類されていて…希少種が上位種に分類されない訳がない。フェンリルに勝るとも劣らない強敵である。

 ケルベロス希少種は静かな眼で龍人を観察する。


「……!?」


 次の瞬間だった。ケルベロス希少種から物凄い魔力が発せられる。恐ろしいのは大技を使う様子は無く…むしろ何か魔法を使おうとしている素振りすら見えない事か。


(やべぇ…フェンリル並に強いだろこの魔力!)


 龍人は反射的に構築型魔法陣で魔法障壁を2重展開して攻撃に備える。ケルベロス希少種の口が開き攻撃が放たれる…と思ったのだが

、攻撃魔法が龍人を襲う事は無かった。


「………なんだ?」


 気付けばケルベロス希少種から発せられていた魔力は消え去っていた。そして、6つの眼が細められ…龍人を見極める様に観察し、低く唸ると谷の上に向かって跳躍して姿を消してしまう。


(え?なんで攻撃してこなかったんだ?ただの脅し…いや、そんな事をする意味が無いよな。……まぁ、強そうなのと1対1で戦わなくなってラッキーって事にしとくか。)


 完全に不可解な事態だが、ここで勘繰り続けて立ち止まっていたが故…に戻って来たケルベロス希少種と遭遇したらアホみたいである。早急にこの場を離れるのが吉と言えた。

 龍人は谷底へ続く道を今度こそ本当に進み始めた。


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


 龍人が谷底に進んでから数十分後。

 死化粧山の麓…谷底と山頂へ続く分かれ道にルーベンとカイゼの姿があった。彼らの目的は勿論…ケルベロス希少種だ。


「山頂と谷底か…。まぁ、イメージ的に谷底だろ。」


 と、ほぼ直感で道を決めたのはルーベンだ。カイゼは魔獣討伐歴が長いルーベンの直感に反論するつもりは無いのか、軽く頷くと素直に付いて行く。

 そして…彼らは出会う。目的の魔獣に。

 谷底に入ろうとしたルーベンとカイゼの前に上から軽やかに降り立つのは、燻んだ銀色の3つ頭を持つ魔獣…ケルベロス希少種。

 待ち望んだ目的の魔獣との遭遇に、ルーベンはギラギラと歓喜に満ち溢れた戦闘欲の濃い目付きで睨み付ける。カイゼもケルベロス希少種から発せられる圧倒的な存在感に、感心した表情をしながらも…どこか楽しそうであった。

 龍人を見逃したケルベロス希少種だったが、今回はそんな気は無い様で…3つの頭は口を開くと火炎放射を前触れも無く2人に向けて放った。


「はっ!こんな程度でやられっか!……こちらルーベン。ケルベロス希少種を見つけたぜ!」


 魔法壁でなんなく火炎放射を防いだルーベンは、同時に【ブレイブインパクト】のメンバーに首から下げたネックレス型の通信機で連絡を取っていた。

 もうすぐ着くであろう仲間達が合流すれば…人数の暴力でケルベロス希少種に対して優位に立てることは確実。犠牲者を出さずに勝つためにも、仲間達の合流は必須事項と言えるのだ。

 だが…通信機の向こう側から伝えられた内容は、長年魔獣討伐を専門にしてきたルーベンからしても、かなりのイレギュラーな事態であった。


「マジか…。分かった。こりゃあお互いにどうにかするしかねぇな…。おいカイゼ!」

「何!?」

「ブレイブインパクトのメンバーが死化粧山の麓で3頭のケルベロスと遭遇したらしい!多分こっちへの加勢は期待できねぇな。」

「へっ?3頭って…なんでそんな大量発生してるのさ!」

「んな事俺が知るか!とにかく…こいつを全力で倒すぞ!」

「…分かった!」


 一気に戦闘態勢に移ったルーベンとカイゼを見て、ケルベロス希少種は口元を歪ませる。


「この私を2人だけで倒そうと言うのですか?甘いですね…。実力差を見誤るとどうなるのか教えて差し上げましょう。」

「はん!やってみろ!」


 大剣を構えたルーベンと短剣を両手に構えたカイゼに向け…ケルベロスの尾が振られ、荒れ狂う風が襲い掛かった。


 同時刻、谷底の奥へ進んでいた龍人は、谷の遥か上に吊り橋らしき物が見える場所に到着していた。


(流石にここら辺まで来ると真っ暗に近いな。…周りに光球でも浮かべて視界を確保するしかないか。)


 禁区は一年中黒い雲に覆われている為、陽の光が差し込む事もない。よって、こういう場所が暗くなるのは必然と言える。

 光球を周囲に浮かべた龍人は、目に飛び込んできた光景を見て動きを止める事となる。

 そこには…光球がボウッと照らした先には、巨大な魔物が鎮座していたのだ。

 

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