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Colony  作者: Scherz
第五章 機械街 立ち向かう者
710/994

13-2-8.禁区探索 レイラサイド 死化粧山



 死化粧山に足を踏み入れたレイラは、白化粧山がいつの間にか死化粧山と呼ばれるようになった理由をすぐに理解した。

 山の其処彼処に点在する白い物…それは骨であった。動物、魔獣、時には人の骨までもが山肌を白く見せる程に転がっているのだ。時折足元から伝わるパキッという骨を砕く感触がなんとも気味が悪い。

 山の中には魔獣の姿は無く、シンと静まり返っている為…気味の悪さが倍増していた。


(うぅ…やだなぁ。なんか、お化けが出てきそうだよ。)


 背筋をゾクッとしたものが走り、思わず身震いをするが…特に周りに何かが居るという事も無い。気味が悪いのは確かではあるが、レイラは順調に登山を進めていた。

 暫く進むと、吊り橋が掛かる谷が目の前に現れる。吊り橋はボロボロ…なんて事は無く、しっかりと丈夫に作られていた。


「これなら…落ちる心配とかは無さそうだね。良かったぁ。」


 不安しか感じる事の出来ない死化粧山だが、こういった目に見えてしっかりした物があると安心出来るというものである。既に山は5合目に差し掛かろうかという所。山頂までもうひと踏ん張りである。


「よしっ。」


 と、気合を入れ直したレイラは吊り橋を渡り始める。

 …吊り橋を半分以上渡った辺りで異変は起きた。耳を劈く様な咆哮が谷底から聞こえたかと思うと、強風が一気に下から吹き上がり…吊り橋がグワンっと持ち上げられたのだ。


「きゃっ!」


 急に吊り橋が持ち上がった事で、レイラは体勢を崩しながら飛ばされてしまう。ギリギリの所で吊り橋の手すりを掴み、谷底へ落下するのは防ぐが…レイラの胸元からキラッと輝くものが零れ落ちた。


「あ…護風石が…。」


 レイラを心配したシェフズが渡してくれた護風石は、キラキラと輝きながら谷底へ落下していく。

 持ち上がった吊り橋が下がり、自重の負荷によって軋みをあげる中…レイラは護風石を呑み込んだ谷底を覗き込んでいた。


(どうしよう…折角シェフズさんが渡してくれたのに…。)


 後悔は幾らでも出来るが、どれだけした所で…護風石が戻ってくる事が無いのもまた事実。それよりも、レイラは気にしなければいけない事があった。

 耳を劈く咆哮。強力な風。上位種の魔獣が現れたと考えて間違いが無い状況だ。


(よく考えてみたら…これだけの骨が転がってるんだもんね。この山に何かしらの魔獣が住んでいてもおかしくないよね。)


 シェフズが護風石を渡してくれた事から、風を操る魔獣の存在を危惧していた事は容易に想像が出来る。つまり、その魔獣が現実に出現したという事に他ならない。

 咆哮が谷底から聞こえたとは言え、恐らく相手は上位種。本気で追い掛けられれば数分で捕まってしまう可能性だってあるのだ。時間に猶予は無い…と考えるのが妥当な状況である。


(無事に帰るためにも…急がなくっちゃ。)


 最早この死化粧山に安全地帯は無い。レイラは厳しい目で山頂を見据えると、吊り橋を走り始めた。


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


「くそっ…!」


 ドォォォン!!

 低い地響きが辺りの廃ビルを揺らしてパラパラと砕けたコンクリが降り注ぎ、地面から舞い上がった砂埃が視界を遮る。その砂埃を切り裂きながら再び圧縮された空気の塊が龍人を襲う。

 ドォォォン!!…再びの低い地響き。

 フェンリルとの勝負を余儀無くされた龍人だったが、大人と赤子…と表現してもおかしくないレベルで翻弄されていた。

 放つ魔法の殆どがフェンリルが身に纏う強力な風によって弾かれてしまう。逆にフェンリルが放つ魔法の1発1発の重さが尋常では無く、魔法障壁を2重にしてギリギリ防げるレベルだ。


(くそっ…このままじゃやられちまう…!黒い靄をここで使うのは…だけど、使わないと負けるのは確実。……逃げるか?いや、周りに居るエレメンタルウルフが逃がしてくれねぇ。)


 全力を出すか、出さないかの堂々巡り。この余計な思考が龍人の動きを鈍らせていた。


「人の子よ。展開型魔法陣を使えるから、もしや…と期待したが…どうやら違った様だな。」

「何が違うってんだよ。」

「ふん。そんな事…わざわざ説明する価値もない。」


 フェンリルは纏う風を圧縮して圧縮風圧弾を龍人に向けて放つ。


(…そう何度も同じ魔法にやられるか!)


 龍人は風の魔法陣を大量展開し、同時に分解構築…渦巻く風刃を発動する。

 2つの風魔法が激突し、余波が周囲の瓦礫を破壊していく。


「…今のは…。そうか…成る程な。ここに居たのか。」


 フェンリルの口角がクイっと上がる。フェンリルは血を蹴ると、未だにぶつかり合う2つの風魔法を顎で引き裂いた。乱された風は力なく消えていく。


「人の子よ。その力…どこで手に入れた?」


 質問が指し示すのがどの力なのか判断しかねる龍人は、夢幻を構えたまま動かない。


「……今一度問おう。その、構築型魔法陣。どこで…いや、誰と契約して手に入れた?」

「…この力は元々持っていたものだ。誰かと契約とかはしてない。」


 ピクリと反応したフェンリルは下を向き、低い声を漏らし始める。


「ククククク…。成る程な。人の子よ…お前の背負う運命は大きいぞ?」

「…何を言ってるんだ。」

「分からないのも無理は無い。まだ、知らぬのだからな。この世界の真実を、この世界の行く末を。いずれ…知る時が来る。だからこそ、敢えて言わせてもらおう。人の子よ。お前のその力…そんなモノではない。そんな程度の力で満足する様では運命に食い殺されるぞ。」

「…どういう事だ?運命って…。」

「…さて、どこまで力を使いこなしているか見せてもらおうか。先程までのように力を抑えていては…死ぬぞ人の子…いや、龍の系譜を受け継ぐ者よ!」


 途端、フェンリルを中心として強大な風の渦が吹き上がる。強力な風圧に体が持っていかれそうになるのをギリギリで堪える龍人は、風の渦の向こうに凛とした姿勢で立ち、龍人を真っ直ぐ見据えるフェンリルと目が合う。

 そして、その視線に射抜かれた時…龍人の中からあの声が聞こえたのだ。


《我が主よ…我の力を使え。奴は…フェンリルは魔獣の域に収まる生き物では無い。遥か古代、神獣の名を冠した生き物だ。奴の本気に対抗出来るのは…今の段階では我の力しかない。》

(…どういう事だ?そもそも、何でフェンリルは構築型魔法陣を見て俺を龍の系譜とか言うんだ?)

《…其れに答える事は出来ない。今は其れを知るべき時では無い。とにかく…我の力を使え。死ぬぞ。》

(…くそ。どうしようもないのか…。)


 龍人に黒い靄の力を与えた内なる声。其れが初めて自分から力を使えと言った状況…。もしこれで使わなければ、死…もしくはそれに近い状況まで追い込まれてしまうのだろう。


(しょうがない…か。覚悟を決めるか。)


 目の前では風の渦を操り、鎧の様に身に纏うフェンリルが今にも龍人へ襲い掛かろうとしていた。

 龍人は手の先に魔法陣を展開し、龍劔の柄を握る。同時に内なる声に話し掛ける。


(じゃあ…いくぞ?)

《あぁ…。全力でいけ。》


 体の内側に力が漲る。

 龍人から発せられる魔力の質が変わった事に気付いたフェンリルは薄っすらと獰猛な顔に笑みを浮かべていた。

 そして、黒い靄が顕現する…その瞬間だった。フェンリルの後方で爆発が起きる。後ろを振り返ったフェンリルは目を細めると、忌々しそうに舌打ちした。


「……ちっ。邪魔が入ったか。人の子よ、お前の力…無闇矢鱈にそこらの者に見せるわけには行かぬ。その力を試すのは別の機会にさせてもらう。」


 そう言い残すと、フェンリルは爆発が起きた方向の反対側…龍人の後方に向けて駆け出した。一瞬で通り過ぎるフェンリルに全く反応が出来なかった龍人は、エレメンタルウルフの群れが爆発地点に向けて駆け出したのを見て…思わず脱力してしまう。


(助かった…のか?……取り敢えずフェンリルと戦ってるのはギルドメンバーっぽいし、ここに居るのにエレメンタルウルフに狙われてないのを見られたら厄介か。俺も姿隠すかな。)


 龍人の考え通り、周囲のエレメンタルウルフは何故か龍人を獲物として見ていない様であった。これではエレメンタルウルフを使役している様に見えなくもない。…魔獣を操り、ギルドメンバーを襲う者…なんて思われたら厄介だ。

 フェンリルが居なくなった安心感で力が抜けそうな脚を奮い立たせ、龍人は北の方角に向けて走り出した。


 暫く走った後、禁区の西側地区に移動した龍人は半壊した一軒家の中で休んでいた。

 崩れた屋根の合間から黒い雲が埋め尽くす空を眺める龍人は、フェンリルに言われた言葉が頭の中をリフレインしていた。


(龍の系譜に、世界の真実…か。話がデカすぎてイマイチ実感が無いけど…そこら辺の訳分かんない人に言われるよりも、魔獣に言われるってのはかなり信憑性がある気もすんな。…こりゃぁマジで調べる必要があるかもしんないか。)


 ふと、現実的な問題が頭をよぎる。


(…ん?そういや、未確認魔獣討伐に風を操る魔獣の可能性ってあったよな。…え、フェンリルが討伐対象だったら確実に無理なんだけど…。)


 先程の戦いで、龍人はフェンリルにほぼ一方的に押され続けていた。もし、フェンリルもう1度挑むのであれば…同じ第8魔導師団のメンバーと挑みたいというのが本音である。

 出来れば別の魔獣が討伐対象であって欲しいと願うばかりだが、風を操る上位種が何体も禁区に現れるという都合の良い事態は早々起きないだろう。


(確か…フェンリルが走って行ったのは北の方角だったよな。…とにかくそっちに行ってみるか。)


 普通であれば、この依頼を1人で行う危険性の高さからチームを組む相手を探すのだが…。龍人には試してみたい事があったのだ。


(他に誰かが来る可能性がゼロに近い場所で、黒い靄を使って戦ってみたいな。)


 龍人はフェンリルに言われた「全力で戦え」と言われた言葉が頭に引っかかっているのだ。今出来る全力を見せた先に何かを得られる。そんな予感めいた確信。


「よしっ。一先ず北側地区に向かうか。」


 軽くストレッチをすると、龍人は廃屋を出て歩き始める。

 その先に待つものは…。


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