4-1-1.授業
街魔通りでの爆発事件の翌日、ぎこちない動きで教室に入ってきた遼は、机に突っ伏している龍人の隣に座る。
「おはよー。もう身体中が筋肉痛だよ。」
龍人は首だけギギギギと遼の方へ向けた。その動きはゾンビの様である。朝だというのに疲労が色濃く滲み出た顔は、完全にやる気を失っていた。
「おはよ。俺はもう動けない。シェフズの手伝いはもうしないぞ。」
「俺もごめんだよ。体を動かすのは大切だから、魔法を使わないで片付けるなんて言うとは思わなかったね。」
「ラルフが嫌な顔をする訳だよな。ったく、遼が手伝うなんて言うからだぞ。」
「それは悪かったって思ってるってば!」
龍人と遼は揃って溜め息をつく。
2人は昨日の事故の後、夜遅くまで魔法の台所の復旧を手伝わされたのだ。ラルフが言ったシェフズの人使いが荒いという言葉通り、容赦なくこき使われた2人の体は限界寸前だった。
龍人は机に突っ伏し、遼は椅子にもたれかかり天井を仰ぐ。
賑やかな教室の中でこの2人の周りだけ時が止まったかの様だ。
そしてもう一人、どんよりとした雰囲気で教室に入ってきた男がいた。バルクである。その顔は疲れと言うよりも何かを失った表情をしていた。眼も泣き腫らしたのか赤い。
扉をゆっくりと開け、ゆっくりと閉める。フラフラと歩きながら、自分の席へと着くと、生気の籠らない虚ろな目で黒板を見つめ、動きを止めた。
そんな普段と真逆の静かさを携えたバルクの様子に気付いたクラスメイト達は、段々と静かになり、ヒソヒソ声へと変わる。普段、元気一杯の馬鹿丸出しのバルクなだけあり、違和感がクラスを包み始めた。
バルクの目は赤く腫れ、毎日ソフトモヒカン気味にセットされている髪もボサボサである。
「おい、あいつ相当ショック受けてるよな。」
「うん。そっとしといてあげようよ。こーゆーのは、自分で折り合いをつけないと、中々吹っ切れないからね。」
クラス中の視線がバルクに集中し、沈黙が訪れた。