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Colony  作者: Scherz
第五章 機械街 立ち向かう者
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13-2-6.禁区探索



 転送塔を出た龍人はのんびりと廃墟を歩きながら依頼について考えていた。

 そもそも依頼の目標が分からないのに、どうやって依頼を達成した事を確認すればいいのか。依頼を受ける時点で確認しなければいけない基本的な事を確認していないという事実に、今さっき気付いたのだ。


(やべぇ。どうすっかな。取り敢えずどう動けば良いのかもサッパリ分からん。)


 龍人は何気無くギルドカードを出すと、手の上でクルクルと回す。そして、魔力を込めると魔法協会ギルドと通話でも出来ないものか…と、何と無く魔力を流してみる。

 すると、ギルドカードから仮想モニターの様なものが広がり、依頼情報が表示された。


「おぉ!」


 前にギルドカードの説明を受けた時はこんな機能の説明は無かった筈。となると、何かがきっかけで機能が追加されたという事。


(まぁ…きっとギルドランクBになったからだろうな。)


 という龍人の予想。これはビンゴである。ギルドランクB以上になると、今回龍人が受けた依頼の様に不確定な依頼が増えてくるのだ。その為、追加情報を逐一確認出来るようにこの機能が自然と追加されるのだ。

 今回、龍人は特別措置でランクが上がった為、その説明を受けるタイミングを逃してしまっていたに過ぎない。

 ともかく、便利な機能が追加された事に間違いは無く、龍人はそこに表示されている情報を1つずつ確認していく。新たに更新されていた情報は1つ。


「風を操る魔獣である可能性が高い…ねぇ。」


 期待していたほど細かい情報ではないが、何も情報が無かった昨日よりはマシだと言えよう。他に何か新しい機能が追加されていないかとギルドカードをいじくり回す龍人は、周囲を何者かの気配に囲まれている事に気付く。

 龍人がいる場所は幹線道路の交差点。周囲の廃ビルの窓から覗くのは水色と緑の目である。その数…数十は下らない。ギルドカードを弄っている間に魔獣の狩場に迷い込んでしまったのだろう。


(さて…と、初退治の魔獣はなんでしょねっと。)


 龍人は魔法陣からもはや愛剣となった夢幻を取り出すと、体の横に脱力して構える。先ずは牽制の意味を込め、周囲一帯に鎌鼬を放った。荒れ狂う鎌鼬が水色の目や緑の目が輝く場所をピンポイントで攻撃していく。

 すると、周囲全方位から同じく鎌鼬が龍人目掛けて飛来する。鎌鼬は龍人が張った魔法壁に遮られて散っていく。威力は然程高くなかった。


(風を操る魔獣かな?なんか、都合良く出てきた気がしなくも無いけど…。)


 すると、次に龍人を襲ったのは大量の氷の礫だった。こちらも魔法壁の外側に物理壁を張る事で難なく防ぐ事が出来た。

 魔獣…という大層な名前が付いている割には。と思ってしまうレベルの低い攻撃に龍人は溜息をつく。


「こりゃあ…簡単に倒せるかな?」


 だが、其れは甘い考えであった。ビルの陰から龍人を囲んでいた魔獣達が姿を現した。その正体は…狼だった。水色の目をした狼がアイスウルフ。緑の目をした狼がウインドウルフと呼ばれている魔獣だ。当然、魔獣と呼ばれるだけあって姿形は狼とは多少異なる。尻尾が2尾生えているのがエレメンタルウルフの特徴でもある。

 単一の属性魔法を操る狼の魔獣は総称でエレメンタルウルフと呼ばれる。火を操るのならファイアウルフ、水を操るのならウォーターウルフと言った具合だ。

 単体では大した脅威ではないエレメンタルウルフだが、あくまでも単体なら…である。基本的に群れて行動をする習性があるエレメンタルウルフは、数の暴力で一気に獲物を仕留める事で有名だ。

 そして、龍人の前に現れたアイスウルフとウインドウルフも習性通りに大量で群れていた。…それも思わず龍人が動きを止めてしまう程の数で。


「…マジ?」


 見渡す限り狼…と言って差し支えない数のエレメンタルウルフが龍人を取り巻いていた。一瞬の隙から済し崩し的に攻撃を喰らってしまうであろう事はもはや必至。

 なんとかなる…という意識を改めた龍人が周りに魔法陣を展開した所で、エレメンタルウルフによる総攻撃が始まった。


「はは…魔獣を舐めてたわ。うしっ。いくか。魔剣術【一閃】。」


 絶体絶命…と思っても仕方がない状況で、不敵な笑みを浮かべた龍人はエレメンタルウルフの群れに真っ直ぐ突っ込んでいった。

 魔剣術【一閃】によって放たれた魔力の刃が容赦なくエレメンタルウルフ達を真っ二つにしていく。血飛沫が噴水の様に辺りに飛び散り、ヒビ割れたアスファルトや攻撃の範囲外にいたエレメンタルウルフの毛を赤く染めていく。

 風魔法や氷魔法がウルフから放たれるが、発動速度、発射速度、魔法密度、威力、どれを取っても龍人が今まで戦ってきたライバル達と比べて遥かに劣るものであった。問題があるとしたら数え切れないほどの数だが、それを気にしていては何も出来ないのもまた事実である。龍人は迫り来る鎌鼬、氷を防御壁を駆使して防ぎ、時にはギリギリ掠めるラインで避け…夢幻で着実にウルフの数を減らしていく。

 約5分後…。血溜まりの中央に立つ龍人は、攻撃を止めたエレメンタルウルフに向けて夢幻の切っ先を向ける。


「どうした?もう終わりか?」

「グルルルル…。」


 今まで散々聞いてきたエレメンタルウルフの唸り声よりも、更に低い唸り声が龍人の鼓膜を刺激する。

 エレメンタルウルフの群れが割れたと思うと、ビルの陰から姿を現したのは一際大きな狼だった。

 逞しい四肢に青みが掛かった黒い毛。そして睨む相手を竦み上がらせる刺す様な眼光は、龍人の全身に鳥肌を立たせるレベルであった。


(前に本で見た事あんな。確か…フェンリルだっけ?)


 フェンリル。ロキと女巨人アングルボザとの間に産まれたとされる巨大な狼だ。ラグナロクでは最高神オーディンを飲み込んだとされる、強力な神獣である。

 …というのが本に書いてあった内容だった筈だが、その神獣が禁区なんかに居るわけが無い。


(ま、でっかく育ったエレメンタルウルフってトコかな?)


 こう結論付けた龍人は巨大なエレメンタルウルフに向けて炎の矢を連射し、一気に勝負を決めるために走り出した。


「待て。人の子よ。」


 急に聞こえた声。其れは龍人が放った炎の矢をいとも簡単に弾いた巨大エレメンタルウルフから発せられたものだった。

 その予想外の出来事に龍人は思わず動きを止めてしまう。

 魔獣が人の言葉を自分達と遜色が無いレベルで話すという事実を初めて知った龍人は、混乱する思考を無理矢理落ち着けていく。その龍人の様子を見た巨大エレメンタルウルフは、顎をクイッと上げると龍人を見下す視線の送り方をした。


「人の子よ。何を黙っている。オレが話しかけているのだ。反応くらいしたらどうだ?」


 再び掛けられる言葉に、やっと思考が動き始めた龍人は必死に言葉を探しながら口を開く。


「えーっと、そもそも俺を包囲してきたのはそっちだろ?それなのに待てってどういう事だ?あと、お前はエレメンタルウルフでいいのか?」


 まだ混乱が収まっていないようで、質問ばかりになってしまっているが、龍人はそこにすら気付く余裕は無い。この会話如何では、再びエレメンタルウルフの群れとの戦闘が再開される可能性があるからだ。

 巨大なエレメンタルウルフはフンと鼻を鳴らす。


「包囲をしていただけだろう。そもそも縄張りに無防備に入ってきたのもお前。先に攻撃をしたのもお前だ。オレ達は攻撃されたから応戦したに過ぎない。あとは…オレがエレメンタルウルフだと?こいつらみたいな下位種と同じにして欲しくないな。オレはフェンリル。本来ならばお前のような小僧と話す義理もない。」


 どうやら本当にフェンリルであるらしい。となると…ランクは恐らく上位。1体だけならまだしも、下位のエレメンタルウルフは周りに犇めいているのだ。絶体絶命に近い状況と言えた。

 ここは会話を続けてどうにか活路を見出すしかない。だが、追い詰められている事をはっきりと自覚した龍人の思考は落ち着き、いつもの冴えを取り戻しつつあった。


「その上位種のフェンリルが俺なんかに何の用だ?」

「ふむ…。お前からオレがかつて戦った奴と同じ魔力を感じたもんでな。お前…龍の系譜に連なる者か?」

「へ?龍の系譜ってなんだし?」

「…ふむ。そうか。となると違うのか?………面白いな。龍の系譜でも無いのに。ならば戦ってみるか。」

「へ?」

「惚けていても良いが、気を抜いたら命を落とすぞ人の子よ。」


 為す術無く戦う事になってしまった様だが、何故そうなったのかが龍人には理解出来なかった。

 フェンリルの言う龍の系譜が何を意味するのかも分からない。

 現時点で分かる事と言えば、龍人が使ったのは展開型魔法陣であり、フェンリルがそれに関する何かを知っているという事である。そして、そこから何かを確かめる為に戦うとなった事。

 こうなっては、逃げる事は叶わないだろう。既にフェンリルの周りからはエレメンタルウルフが捌け、大きな円を描くようにして龍人とフェンリルを囲んでいた。


(やるしかない…って事だよな。)


「人の子よ。お前の全力を見せてみよ。」


 フェンリルから圧倒的な魔力圧が発せられ、その衝撃で周囲の廃ビルの壁にヒビが入る。

 龍人は夢幻を握り締めながら、フェンリルから発せられるプレッシャーを受け止めていた。額を一筋の汗が流れ落ちる。

 「全力で戦え」というフェンリルの言葉だが、龍人の全力は黒い靄と龍劔を使わなければ発揮出来ない。ギルドの依頼を受けて来た者が禁区に出入りをしている以上、全力で戦う…特に黒い靄を出して戦うのは憚られる。

 だが、目の前にいるフェンリルという上位種に属する魔獣を相手に力をセーブして勝てるとは…とても思えない。

 そして、動きを見せない龍人に痺れを切らしたフェンリルが先に動き出した。


「来ないのならオレから行くぞ?」


 強靭な四肢が血を蹴り、龍人へと襲い掛かる。


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