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Colony  作者: Scherz
第五章 機械街 立ち向かう者
703/994

13-2-1.街立魔法学院2年生



 龍人は2年生上位クラスの教室前で腕を組んで立っていた。1年生の初登校日も、1年生後期の初登校日もドアを開けた瞬間に遼から銃撃を受けたのを思い出していたのだ。恐らく、今回も何かしらの攻撃があるだろうが…同じ方法で攻撃してくる可能性はかなり低い。

 となると…という所から先が分からずにドアの前で考えているのだ。


(…いやぁ、サッパリ分かんないな。出たとこ勝負しか無いか。)


 いつでも攻撃に対応出来るように両の掌に魔法陣を展開した龍人は、気を張りつめらせながら教室のドアを開けた。と、同時に目の前に広がったのは黒い布。赤とか銀がチラリと見えた事から、恐らく街立魔法学院の制服だろう。そして…ムニュッとした感触が龍人の顔を包み込んだ。


「?…!」


 男なら嬉しい筈の感触に包まれた龍人はくぐもった呻き声を出して後ろに倒れこむ。そのまま体の上には柔らかい…女性の体が乗ってくる。勿論、顔に当たるムニュムニュ感は継続中だ。


「いたたた………きゃっ!」


 龍人の上に乗る人物は数秒してから、自身の胸が龍人の顔に乗っている事に気付いたらしく…バネ仕掛けの人形のように飛び跳ねると、胸を両腕で覆うようにして涙目を浮かべて龍人を見る。

 完全に「変態痴漢馬鹿野郎」的な言い掛かりを付けられる状況。反論しても良いことは無いと分かっている龍人は、言われる言葉を受け入れようと覚悟を決めて上体を起こす。

 …だが、胸を守るようにして立つ女性から出た言葉は龍人が考えていたのとは違う言葉だった。


「あ、あの…ごめんなさい!私ドジですぐに転んじゃうんです…。」


 確かにドアを開けたら突っ込まれたのだから、龍人は被害者だ。しかし、大体こういう場合は被害者なのに加害者のような扱いを受ける筈である。特に火乃花のように強気の女性との付き合いが長いと、そう考えてしまうのだが…。逆にしっかりと謝られると、何故か対応に困ってしまう龍人だった。

 無言の龍人を見て、怒っているのかと勘違いした女性は、おずおずとした態度で涙を浮かべる。


「えっと…ごめんなさい!」


 目をぎゅっと瞑って謝る様子はどうにも男心を擽られる気はするが…。龍人は改めて目の前に立つ女性を観察してみる。

 クリッとした目。茶髪のボブストレートで前髪は眉の上くらい。チャーミングなあひる口。そして、何よりも特筆すべきなのは巨乳だろう。火乃花が張りのある巨乳だとするなら、目の前にいる女性は柔らかさが売りになるであろう巨乳だ。身長は155cm辺りだろうか。平均的な女性の身長くらいだろう。


「あーっと、別に気にしなくていいよ。むしろ、ドアに顔をぶつけたりしなくて良かったんじゃないかな。」

「…ありがとうございます!あ…名前を言ってませんでしたね。私は杉谷ちなみです。えっと…よろしくお願いします!」

「おう。俺は高嶺龍人だ。…ん?」


 龍人はちなみが頭を下げつつ両手を龍人の方に差し出しているのに気付く。話の流れから推察するに「よろしく」の意味を込めた握手なのだろう。特に拒否をする必要もないと思った龍人はちなみの両手に右手を差し出した。


「よろしくな。」

「…!はい!」


 ちなみは龍人の右手をぎゅっと握ると、目尻に涙を煌めかせながら満面の笑みを咲かせた。パァァァッと擬音が付いてきそうなレベルの眩しい笑顔に龍人は思わず見惚れてしまう。


「あ、龍人!お前また女の子とイチャイチャしやがって!そんなに俺の事を馬鹿にしたいのか!」


 校門前にある転送魔法陣から移動してきたバルクは、龍人とちなみが手を繋いで見つめ合っている(と勝手に解釈した)場面に遭遇するなり龍人に詰め寄る。


「え…怖い…。」


 バルクが無駄に怖い剣幕で近づいてくる為、龍人の手を握っていたちなみは恐怖を覚えて教室の中に逃げていく。


「あーあ。初対面でそれは無いだろ?」

「は?俺が悪いってのか?」

「いや、どう考えてもそうだろ。大体なんであの場面でイチャイチャしてるとかになるんだよ。」

「手を握って見つめ合ってんだから、イチャイチャ以外の何でも無いだろ!」

「アレはよろしくお願いしますの挨拶みたいなもんだ。ちょっと普通じゃない流れでの握手だったから、あんな感じだったけど、イチャイチャ要素は無いぞ?」

「………え。マジか?」

「あぁマジだ。」


 初対面でいきなりちなみに怖がられるという失態を演じてしまったバルクは、何とか取り返そうと教室の中に居る筈のちなみを探す。すぐに見つける事は出来たが…ちなみは火乃花の後ろに隠れていた。


「火乃花さん…あの人怖い。」

「…ちなみが怖がってたのはバルク君なのね。…はぁ。バルク君!ちなみに謝りなさいよ。」


 バルクとしてはすぐにちなみに謝ろうと思っていたのだが、火乃花に謝れと言われた事でプライドが邪魔をしてしまう。


「なんで火乃花に謝れとか言われなきゃなんねぇんだ?」

「なんでって、ちなみを怖がらせたのはあんたでしょ?何も考えないですぐに行動するからいけないのよ。」

「ぐぬぬ…!うるせぇ!」

「なによ?何か文句あるの?」


 火乃花の周りにユラユラと熱が現れる。対するバルクも両手に魔力が集まり始めていた。


「あらあら。新学期早々喧嘩ですわね。今日も賑やかで楽しい1日になりそうなのですわ。」


 そう言ってのほほんと教室に入ってきたのは、金髪のショートカットを揺らすルーチェ=ブラウニーだ。


「ルーチェ、離れてろ。俺は火乃花をぶっ飛ばす。」

「あら、物騒ですわ…」

「いい度胸してるじゃない。私に勝てると思ってるの?」

「喧嘩はやめた方がいいと思いま…」

「いつまでも自分が一番強いとか思ってんなよ?」

「あの、私の話も聞いてほしいのですわ。」

「何言ってるのかしら?私は自分が1番強いとかは思った事ないわよ。勝手に人の事を決めつけるの止めてもらえるかしら?」


 仲裁をしようとするルーチェを完全無視しながら、段々とヒートアップする火乃花とバルク。2年生上位クラスにいる面々は止めるのを既に諦めて眺める事に徹している。この2人がここまでヒートアップしていると、止めるのはほぼ不可能だと大体の面子は理解しているのだ。

 教室の入り口近くで火乃花とバルクの喧嘩勃発危機を座りながら眺めている龍人の隣に、レイラがちょこちょこと近寄ってくる。


「龍人君…さっきの大丈夫?頭打ってたように見えたけど…。」

「ん?あぁ大丈夫だよ。咄嗟に頭の後ろに物理壁を張って衝撃吸収したから。」

「そっか、良かった。火乃花さんとバルク君…大丈夫かな?」

「ここまできたら止められない気がすっけどね。」

「やっぱりそうだよね…。」


 レイラは胸の前で両手を組み、喧嘩を始めそうな2人を心配そうに見つめている。不安の色が浮かび上がるレイラの瞳は微かに揺れ、それを見る龍人は素直に可愛いと思ってしまう。

 さて、龍人がそんな色ボケ中であっても火乃花とバルクの喧嘩が止まることは無い。むしろ加速の一途を辿っていると言えるだろう。


「火乃花…。お前だって彼氏いないだろうが!」

「…はぁっ?なんで今そういう話になるのよ?」

「お前だって寂しいんだろ!?」

「…意味わかんないことを叫んでるんじゃ無いわよ。」


 流石に我慢の限界に達した火乃花は焔鞭剣を創り、バルクに切っ先を向けて構えた。バルクは焔鞭剣を向けられても怯む事は無い。


「へっ!俺の拳でお前の寂しさを認めさせてやる!」


 恐らくバルクの中ではある程度話が繋がっているのだろうが、周囲のギャラリーや火乃花からしたら「火乃花が寂しい」にどうしたら繋がるのかが分からなかった。唯1つハッキリしているのは…ここまで来たら後には引けないという事だ。

 火乃花とバルクが教室の床を蹴って動き出そうとした時だった。


「もう止めて!私の為に……私の……えぇぇぇん…。」


 自分が原因で火乃花とバルクが喧嘩を始めそうな事に耐え切れなくなったちなみが泣き始めてしまう。

 ピタリと動きを止める火乃花とバルク。この状況で喧嘩をおっ始めるのは流石に気が引けるというものだ。


「おいおい。なんだこの状況?」


 丁度いいタイミングで部屋に入ってきたのは、短い金髪をポリポリと掻きながら眉根を寄せるポチャ男、ラルフ=ローゼスだ。街立魔法学院の教師であり、魔法街戦争においては消滅の悪魔の異名で呼ばれた人物でもある。そして、バルクの初恋の相手である癒し系教師リリスを妻に持つ幸せ者でもあったりする。

 ラルフは切っ先を向ける火乃花と睨み合うバルク、入り口近くで座ってその様子を見る龍人とその隣にしゃがむレイラ、わんわん泣くちなみを見るが、いまいち状況を把握しきれない様だ。教室の中を見回してルーチェの方を向くと、面倒臭そうに言った。


「取り敢えず、授業だからなんとか収めてくれ。」


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


 その後、ルーチェの手腕で上手く場が落ち着いた所で、座って様子を見ていたラルフが立ち上がった。


「ったく…なんでお前らは授業初日から教室の中で喧嘩してるんだよ。もう少し大人になれって。…な?」


 珍しく大人の意見を言うラルフだが、火乃花はムスッとしたジト目で何も言わずにラルフを睨み付けている。バルクは何故か他人事のようにウンウンと頷くのみ。


(おいおい…。初日から雰囲気悪いな…。取り敢えず普通に授業するしか無いか。)


 どうにも教室内の空気を変えられなさそうな事を悟ったラルフは、授業をするという教師として当たり前の行為に逃げる事にしたのだった。


「よし、2年生1発目の授業をするぞ。初っ端から高度な話をしていくから、しっかりとメモ取れよ?」


かくして、街立魔法学院に於ける龍人達の2年目の生活が始まった。

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