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Colony  作者: Scherz
第五章 機械街 立ち向かう者
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13-1-3.スラム街のヒーロー


 機械街は《出来る者》が勝ち上がる社会構造となっている。出来る…とは何か。仕事ができる者、何かしらの他人には出来ない特技が出来る者、他人を出し抜いて自分だけが利益を得る事が出来る者、社会の闇に紛れて非合法な薬を販売する事が出来る者。善悪は問わない。ただ単に自身が勝ち上がる為に、ある一定のラインを踏み超える事が出来る者、もしくはラインを踏み超えずとも他人と一線を画す何かしら優秀な能力を持つ者が勝ち組としてのし上がっていく。

 呑気に生活している者はそこそこ以上の生活を手に入れる事は無い。貪欲に、他人の幸せまでも奪うつもりで行動できる者が勝ち上がるのだ。

 最初からこうだった訳では無い。だが、機械街では魔法を使える者は極少数に限られる。己の武器になるのは知識、狡猾さ、人脈…戦いにおいては銃器が殆どその全てと言える。

 魔法を使う能力を授かった者は有遇され、社会に於いて重要な地位に登っていく。そして、そうで無い者は…考えれば想像が付くだろう。只でさえスタートラインが違うのだ。その差を埋めるには普通に生きていては叶わない。機械街は自然と《出来る者》が勝ち上がる社会構造になってしまったのだ。

 今までこの社会構造について問題視がされ無かった訳では無い。寧ろ幾度と無く議論されてきた。だが、結局の所行き着くのは…この社会構造のお陰で機械街が成り立っており、今の技術が発展してきているという結論だった。誰にもこの実力による格差社会よりも良い社会構造の提案をする事が出来なかったのだ。

 しかし忘れてはいけない事がある。機械街のトップがその様な結論に至っているからといって、住民達がそれに納得しているかは別問題なのだ。格差社会に於いて底辺にいる者達が裕福層を羨むのは当然の理。その顕著な例が私設集団ヒーローズと言えよう。不当な手段で私腹を肥やす者から略奪し、それを恵まれない者や搾取された者にこっそりと施したり返すという活動をする集団だ。

 ヒーローズに所属する者達は、この社会構造によって底辺に落とされた者や、正直者が馬鹿を見る世の中に異議を唱える者が集まっていた。

 彼らの活動は決して大きいものでは無いが、それでもこれから成り上がろうとして不正を働く者達にとっては驚異の1つになり得る程度の実績は残している。


 機械街西側地区の外れにある倉庫。ここにも不正を働いてひと財産を築こうと画策する男が居た。

 男はイライラした様子で倉庫の奥にある小部屋を行ったり来たりと歩き回っている。


(大丈夫だ。大丈夫だ。ここまで念入りに準備もしてきたし、大金を払って情報操作もしてきた。外には50人の護衛を雇って待機させてるし、何かあればそいつらが片付けてくれる筈。基本的に失敗する訳が無い…!最近噂になってるヒーロー気取りの奴らだって護衛50人を相手に勝てる訳が無い。大丈夫…大丈夫だ。)


 次々に最悪な想像が浮かんでくるが、あくまでも想像に過ぎない。男はそうやって自分に言い聞かせながら取引相手が到着するのを今か今かと待っていた。

 そして、待ち侘びた瞬間が訪れる。ドアノブがガチャっと回り、押し開かれる。ドアには特殊な鍵を使用しており、この鍵を開けられるのは解錠に必要なパスコードを伝えた相手のみなのだ。男が雇った護衛であっても開ける事は不可能なのだ。

 ドアの隙間から滑り込む様にして中に入ってきたのは仮面を着けた男だった。

 真っ黒な仮面には緑のラインが彫られいて、全身を覆う様に着たローブがユラユラと揺れる。体型が分かりにくいローブであっても男は細身である事が分かる程にすらっとしていた。

 異形と呼ぶのが相応しい外見、雰囲気。普段であればこの様な人物に出会ったら嫌悪感に顔を顰めるのは間違いが無いだろう。だが、今回ばかしはその人物を待っていた為、部屋の中で待っていた男は表情を輝かせる


「…待っていたぞ!早く取引を済ませよう。ここにICチップの保管場所データが入っている!さぁ、早く金を渡してくれ!」


 このまま金を受け取りICチップの情報を渡し、今いる場所からすぐに姿を晦ます。そうすれば、生真面目に働き続けているだけでは手に入れる事が出来無い大金を得る事が出来る。…その筈だった。だが、男は甘く見ていたのだ。機械街の闇に君臨する仮面の男を。

 仮面の男は差し出されたUSBを見つめるとゆらりと身じろぎをし、クツクツと笑いながら肩を上下させた。


「クククク。君は私を馬鹿にしているのかなぁ?そのUSBに入っている情報が正しいという証拠はあるのかなぁ?私から金を騙し取ろうとしてるんじゃぁないのか?ふふふ。私は現物を持ってくるように言いましたよねぇ。その約束を守らない理由をお教え願えますかぁ?」


 舐め回す様な話し方をする仮面の男だが、発せられる雰囲気は明らかに怒りの感情を伴っていた。男のUSBを持つ手が恐怖に震える。


「ち、違うんだ!だって、量を考えてくれ!あの量を持ってくるなんて…1人では無理だろう!?」

「………ふふふ。表に居た大勢の護衛達に運ばせれば良かったんじゃないかぁ?」

「そ、それは…。分かった。じゃあ保管場所に一緒に行こう!それで現物を見たら金をくれ!この為に危険な橋を幾つも渡ったんだ!それなりの報酬を貰えて然るべきなはずだろ!?」


 仮面の男はスーッと男の前に近付くと覗き込む様にして仮面を被った顔を近づける。仮面の顔はギギギギと横に傾いていく。そして、低い声が紡がれた。


「君は何か勘違いをしているようだねぇ。私は取引をする前に伝えた筈だ。取引をするに当たっての遵守事項をねぇ。ひひひひひひひ。分からないのかなぁ?君は私との約束を破ったんだよ?それでいて現物の場所に一緒に行くだって?その場所に行った途端に伏兵が現れそうだねぇ。そして私の身柄でも拘束するのかなぁ。」

「そ、そんな事をするか!俺はお前に逆らったりはしない!」

「逆らわない…だってぇ?君はまだ理解が出来ないのか。私との約束を守れない奴が、将来的に私を裏切らない、私に逆らわない…と確信出来るのかねぇ?ふふふ…。君は人生でただ1度のチャンスを棒に振ったんだよぉ。」


 スーッと仮面男の右手が伸びて男の顔に伸びていく。「ひぃっ」と、情けない声は出せるのだが男は動く事が出来ない。自身にこれから降りかかるであろう災難は予想できるのだが、金縛りにあったように体は男の制御から離れてしまっていた。

 仮面男の掌が視界を覆い尽くしていき、闇が男の意識を刈り取った。


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


 夜の公園での鬼ごっこをビストの逃げ切りという結果で終えたビスト、ケイトの2人は西側地区の外れに位置する倉庫の前まで来ていた。

 倉庫の周りには人1人おらず、本当にここで取引が行われるのかという疑問すら浮かんでくる。日が暮れて暗い影を落とす巨大な倉庫は、それだけで不気味な雰囲気を醸し出していた。


「なぁ…。本当にここで取引あんのかな?全く人の気配もしないし…。なんかきな臭いな。」

「んーどうですかな。ICチップの保管場所とお金の交換って可能性もあるんですな。」

「いや…その可能性は低いだろ。ICチップの闇取引なんて完全に宜しくない目的で使う為の電子機器だろ?そんな物の隠し場所と金の交換なんてリスキーな事をする訳がないだろ。ICチップを売りたいのが小物で、買うのが機械街の闇にどっぷり浸かってる奴ってトコだろ。そう考えるなら尚更あり得ないだろうな。」

「んー…それだとこんなに静かな説明が付かないんですな。」

「あぁ…。だから気を付けて行くぞ?」


 ビストとケイトは出来る限り気配を押し殺して倉庫の裏口へと進んで行く。ヒーローズに提供された情報には倉庫の詳細な見取図と、取引が行われるであろう部屋まで記載がされていた。どうやってそんな情報を得ているのかと気になるが、物事には足を突っ込まないほうが良い事があるのをケイトは分かっているので気にしないようにしている。隣にいるビストは気になって仕方がないようだが…。

 2人は何かに遭遇する事なく倉庫の裏口に到着する。ケイトはドアに耳を当てて中の様子を探るが…物音ひとつしない。

 普段、こういった闇取引を潰す任務をする時は、護衛がわんさかいるのがスタンダードなのだが…。特に小物になれば小物になるほど護衛の数は増える傾向にある。

 これ程までに静けさが支配しているとなると、既に取引が終了してしまったのか、それともケイト達が想像もしない位に大物達の取引だったか…である。

 ケイトはビストと目を合わせると頷き合い、裏口のドアノブに手を掛けてゆっくりと回していく。小さな物音ですらも警戒する相手には気付かれてしまうものだ。最新の注意を払いながらドアノブを回し切るとカチッと小さな音が鳴ってしまう。しまったという顔をしてケイトは動きを止める。だが、幸いな事に中にいる相手に気付かれなかった様である。捻ったドアノブを固定したままゆっくりとドアを押していく。この時にドアの軸が錆び付いているとギィィィという音がするのだが、このドアはメンテナンスがされている様で、何の抵抗もなく無音で開いていった。

 まずビストがドアの隙間をすり抜ける様にして中に侵入して安全を確認。続いてケイトも中に滑り込む…予定だったのだが、中に入ったケイトは立ち尽くすビストの背中にぶつかってしまう。

 普段であれば文句の1つでも言うのだが…ケイトはビストが立ち尽くす理由を瞬時に理解し、同じ様に立ち尽くしてしまった。

 倉庫の中は生臭い血の匂いが充満していたのだ。


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