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Colony  作者: Scherz
第四章 其々の道
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12-1-7.龍人と遼



 重轟弾。これが遼がキタルから教わった高密度重力球と引力場を同時発生させて組み合わせる事で創り出した魔弾の名前だ。キタルから新しい魔弾の名前を聞いた時は「またそんな大袈裟な名前を」と思っていた。キタルとの練習でも魔力をセーブしていた為、轟く感じは全く無かったので…やはり大袈裟な名前だと感じていた。

 だが、対抗試合で自分にとってギリギリ限界のラインまで魔力を注ぎ込んで創り出した重轟弾は…その名の通りに重力と引力のバランスが崩れた瞬間に轟き、ビル群を一気に破壊したのだった。その時は魔力の使いすぎで倒れてしまったが、今は違う。何度も重轟弾の形成や魔力の調整に関する練習を続けてきた。年明けから今日までの2ヶ月間の間、遼はこの重轟弾の制御に特訓の時間のほぼ全てを費やしてきた。

 だからこそ、この場面で使う覚悟を決める事が出来たのだ。

 重轟弾を双銃の銃口前に浮かべる遼と黒い靄を周りに浮かべる龍人。2人の視線は交錯し、互いに笑みを浮かべる。つい先程までの戦いは飽くまでも腕試し程度。ここからが…本気を出して戦うここからが本当の勝負である。

 先に動いたのは龍人だった。ビルの屋上から遼に向けて真っ直ぐ降下し始める。右手に持つ漆黒の夢幻は風に靡くように龍人の後方で構えられていた。向かい来る龍人が放つ圧倒的なプレッシャーに、遼は思わず逃げたくなってしまう。


(…駄目だ!気持ちで負けたらその時点で負けだよね。ここは強気にいかないと!)


 遼は龍人の動きを観察するが、龍人は一直線に向かって来るのみ。小細工なしの意がその姿勢だけでも伝わってくるものだった。ならば…受けて立つのみである。

 重轟弾が向かいくる相手の存在を感知したのかブゥンと揺れた…気がした。そして、遼は重轟弾を龍人に向けて放つ。

 高密度の重力球とその周りに均等に配置された6つの引力場が絶妙な重力引力のバランスを保ち、そのバランス関係が崩れた瞬間にグチャグチャに乱れる重力の力が周囲を呑み込み、かき乱し、次元を歪ませる勢いで爆発を引き起こす。この重轟弾に正面から立ち向かうのは無謀と言える。だが、龍人はそれでも遼が放った重轟弾に向けて真っ直ぐ進んでいく。

 夢幻の刀身を中心として10の魔法陣が直列展開される。更に夢幻の刀身を4方向から囲むように其々3ずつの魔法陣が並列展開し、その並列展開した状態で5つの魔法陣が直列に…つまり、6つの魔法陣が並列状態で直列展開した。総勢80もの魔法陣はそれだけで発動をしない。この状態から分解構築が進み、夢幻の刀身を囲い覆う刀身型の立体型魔法陣が構築された。


(…いける!想像以上に魔法陣の操作がやり易い!)


 龍人はすぐ目の前に迫った重轟弾に向けて夢幻を水平に薙ぎ払った。同時に立体型魔法陣が発動し、夢幻を斥力が覆う。斥力に覆われた黒刃が重轟弾に触れ、重轟弾を保つ力のバランスが崩れ…乱れた重力が龍人ごと呑み込まんと暴れ始めた。

 至近距離での重轟弾の爆発。普通であれば荒れ狂う重力に引き裂かれて大ダメージを受けるところ。…だが、漆黒の夢幻はその身に纏う斥力によって暴れる重力の暴走を受け止めていた。

 2つの魔法は均衡していた。少しでも威力が弱まれば、すぐに相手の魔法に押し負けてしまうだろうこの状況は…ほぼ遼の読み通りだった。龍人は解放された重轟弾の爆発を抑えるのがギリギリで、それ以上の攻撃を繰り出すことが出来る状況ではない。それに対して遼は重轟弾が爆発した時点でその制御は既に終えている。つまり、追加で攻撃を仕掛ける事が出来るのだ。龍人の後ろにでも回って散弾でも放てばあっという間に勝負がつく筈。


(でも…龍人の事だから何かしらの対策をしてる可能性もあるよね。それなら…。)


 遼が選択したのは背後に回って攻撃。…ではなく、もう1発の重轟弾を撃つ事だった。双銃に大量の魔力が流れ始める。

 そして、2発目の重轟弾を形成しようと双銃を構えた遼は荒れ狂う重力の中に一刃の煌めきを見た。それは、龍人が振り抜いた夢幻。斬り裂いた重力の隙間を抜けるようにして姿を見せた龍人は、ほぼ無傷の状態である。

 これが意味するところはかなり大きい。遼が今使う事が出来る魔法の中で一番攻撃力が高い重轟弾がほぼ通用しない…という事なのだから。あくまでも《同じ威力なら》という条件は付くが。


(これは…もう1発重轟弾を撃っても同じ結果になる…ね。)


 では…次に取り得る手段は…?遼は様々な選択肢を浮かべては切り捨てていく。そうして導いた1つの手段を実行するために双銃を握る手の力を更に強くした。


 重轟弾を切り抜けた龍人は外見はほとんど無傷ではあったが、実際にはそこそこの疲労を感じていた。重轟弾が引き起こした重力が乱れる爆発の威力は凄まじく、夢幻の刀身を包むようにして展開した斥力の力でも防ぐのがギリギリだったのだ。平時の龍人であれば、この時点で敵わない事を察知してすぐに避難に移っていたのだが…今は黒い靄の力を顕現させている状態だ。平時よりも倍近い魔法陣を操作することが出来る龍人は、重力の爆発をギリギリで食い止めながら、そこを文字通り切り抜ける為の魔法を発動した。

 可能な限りの魔法陣を分解構築し、自身が通り抜けるだけの隙間を作るため、次元を切断したのだ。切り裂かれた空間…いや、次元は重力の爆発を上下に押しやり龍人を遼の下へ誘う一本の細い道を形成した。

 こうして重轟弾の爆発を切り抜けた龍人の目に飛び込んできたのは、双銃を構える遼。ほんの少しの硬直の後に遼は重力球を銃口の前に出現させた。


(なんだ?周りに引力場が無いから、重轟弾では無いよな。となると、あの重力球を撃ってくるのか?…だけど、それなら簡単に避けられる気がすんな。そんなのは遼も分かってる筈だし…。このまま突っ込むか?…魔法陣のストック数は些か心許ないけど、まだあと2回位なら強めの魔法が撃てる。ここで引くよりも攻め切る方が大事か。)


 遼がどういった攻撃をしてくるのかがイマイチ予想できない現状で、無駄な魔法を使う事は出来ない。魔法陣のストック数が少ないのなら尚更だ。ストックが切れた瞬間に龍人の負けは確定してしまう。それを防ぐ為にも、龍人は夢幻を構えて遼に向かって進みながらも、魔法陣のストック作業を同時並行で進めていく。

 龍人と遼の距離が50Mまで近づいた時だった、巨大な重力球を制御していた遼が攻撃に移る。


(…うぉいマジか!)


 遼の攻撃は、今まで龍人が見た事が無いものだった。

 重力球から大量の飛旋重力弾が斉射されたのだ。尾を引きながら肉薄する飛旋重力弾の群れは様々な弧を描きながらも、龍人へ正確に向かってきていた。


(マズイ…!重力弾は対象物に加重をするのが基本だけど…もしこの重力弾が着弾した地点を中心とした対象空間への加重だったら…。この量だろ?加重の力が何乗にも膨れ上がるよな。そしたら防ぎきれるか微妙だな。)


 龍人は可能な限り被弾を少なくするために、自身を中心として2Mの距離を置いて1番内側に魔法障壁を2つ、その外側に魔法壁を多重展開する。距離を置いて展開したのは対象空間への加重を懸念しての事だ。

 そして、遼へ一気に接近する為に防御以外の魔力操作を無詠唱魔法による身体能力強化と、自身を対象として包み込み移動させるという方法での飛行魔法、更に急な制動を可能にする為に風魔法を発動する。

 防御と移動に全ての魔力操作を分配し、龍人は遼に向けて一気に移動を開始した。

 飛旋重力弾は龍人の魔法壁に衝突し、衝突地点を対象とした約半径1メートルの空間に加重をかけていく。龍人の予想が当たった形だ。


(うしっ。このまま一気に突っ切る!)


 遼の攻撃を切り抜けられると確信した龍人は、疾走スピードを更に上げる。次なる手を打たれる前に遼へ攻撃を当てる必要があった。遼がこの攻撃をフィニッシュにするはずがなく、飛旋重力弾の嵐はあくまでも本命の攻撃を放つための時間稼ぎだと予想をしていた。そして、飛旋重力弾の大元である重力球を夢幻で突き破った龍人が見たのは、予想通りといえば予想通りの…だが、想像以上のやばい光景だった。

 約10M先に立つ遼は双銃を真っ直ぐ龍人に向けて構え、其々の銃の前に巨大な重力球が浮かんでいた。その重力球の周りには6つの引力場が展開されている。…そう、遼は2つの重轟弾を同時に魔弾形成していたのだ。しかも、重轟弾の大きさは先程の1発目を超える大きさである。

 遼は辛そうな顔をしながらも、楽しそうに口を開く。


「龍人!これが今の俺の全力だよ!これを破られたら俺の負けだと思う。でも…破らせない!」

「おうよ!まさかここまでだとは思わなかったわ。…俺も、本気でいくぜ。」


 瞬間、龍人から発せられる魔力圧が一気に膨れ上がる。その強力な魔力圧に危機感を感じた遼はすぐに攻撃へ移った。ここで待つ必要も義理もない。1発目の重轟弾が放たれる。

 先程よりも巨大な重轟弾のプレッシャーは強大で、龍人を押しつぶそうと迫る。斥力と次元切断という同じ方法で切り抜けることは…不可能だと龍人の直感が伝えていた。恐らく、今放たれた重轟弾の威力は先程の倍近くあるはず。…大きさが倍程度あるのだから。


(そんなら俺も…特訓の成果を出すしかないよな。)


 龍人は夢幻を魔法陣の中に仕舞うと、空いた右手の先に魔法陣を展開して1振りの剣を取り出した。その剣は3匹の蛇が絡み合った様な刀身をしていた。いや…蛇ではない。ドレッサー=アダルツによって名前を教えられた所から察するに、3匹の龍と考えるのが妥当だろう。

 右手に握った龍劔と名を与えられた劔を龍人は迫り来る重轟弾に向けて真っ直ぐ構える。


「いくぜ…!」


 龍人に纏わり付く黒い靄が龍劔へと伸び、吸い込まれていく。そして、龍劔の刀身を形成する3匹の龍の内、1匹の龍の色が銀から灰色に染まった。


(マジで年明けから練習しといて良かったわ。これ、練習して無かったら多分勝てないな。)


 右手から物凄い勢いで龍劔へ魔力が流れていく。すると、龍劔の刀身を黒いオーラが包み込んだ。龍人は右手の龍劔を体の左側に持っていき抜刀の構えを取る。そして、重轟弾に向けて横一線の居合斬りを放った。



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