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Colony  作者: Scherz
第四章 其々の道
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12-1-6.龍人と遼



 3月1日。昇学試験の結果が発表される日の朝。龍人は魔法学院教員校舎の廊下を歩いていた。目的地は教員校舎にある訓練室だ。何故1年生校舎の特訓室ではないのか。各学年校舎にある特訓室は受付をすれば誰でも特訓目的で使う事が出来る部屋だ。但し、風紀的な観点から部屋に入れるのは生徒1人のみと決められている。若い男女が2人で部屋に篭るのを防ぐ為である。プライバシーの観点から特訓室内の様子は一切見る事が出来ないようになっている為、特訓室を不純な目的で使用されないように…というのが主な理由だ。

 それに対して教員校舎特訓室は教師の同伴があれば複数人での使用が許されている。外から中の様子を見られる心配が無い為、プライバシーの問題もクリアだ。

 念の為プライバシーに拘る理由について言及しておこう。対人戦闘に於ける際、相手の属性や特徴を知っているのと知っていないのでは、有利不利に大きな差が出てくる。その為、自身の持つ属性の1つを切り札として周囲に隠している者も存在するのだ。そんな彼らが通う魔法学院に、その切り札の属性を練習する場所が必要なのは自明の理。つまり、プライバシー保護がしっかりしている特訓室となるのだ。

 さて、龍人が教員校舎訓練室に向かっている理由。それは、とある人物との待ち合わせをしている為である。

 訓練室の前に到着した龍人は中に入り、受付のお姉さんに声を掛けた。


「ども。ラルフってもう来てます?」

「はい。突き当たりの部屋ですよ。お連れの方も一緒ですね。」

「ありがとうこざいます。」


 受付のお姉さんに見送られながら龍人は言われた通りに突き当たりの部屋に入る。 部屋の中は決勝戦と同じような高層ビル群が立ち並ぶ近代都市といった光景になっていた。


「よぉ龍人。時間通りだな。」


 そう言って近くのベンチに座って手を挙げるのはラルフだ。


「そりゃあ時間は守るっしょ。それより、遼は?」

「ん?遼ならこのフィールドの正反対の位置で待機してもらってる。」

「え。って事は、いきなりスタートか?」

「あぁ。ところで…本気で戦うのか?」

「もちろん。そういう約束だしな。それに意識が飛びそうになることも今は無いし。多分。」

「ったく…多分とか不安な事言うなよ。特訓室を壊すなよ?」

「いやーそれは何とも言えないかな。あれ以来使ってないから。」

「はぁ。まーいいか。じゃ、始めるぞ?」

「おうよ。」


 龍人がこの場所に来た理由は簡単だ。遼と1対1で戦う為である。共に滅ぼされた森林街からヘヴィーに連れられて1年。2人は共に数多くの経験をしてきた。楽しい事も、辛い事もだ。だからこそ、2人は互いがどれだけ強くなったのかを確かめる為に戦う事にしたのだ。

 森林街では的を倒す勝負でほぼ遼が勝つという成績だった。だが、2人が直接本気で戦うことは殆ど無く、どちらが強いのかは昔から分からないのだ。しかも魔法街で様々な事を経験した今では、互いの実力に差が付いているのか….それとも差は開いていないのか。戦ってみなければ分からない。

 ラルフによるスタートの合図を待つ龍人はワクワクしていた。親友である遼と戦う。こんなに楽しい事は無い。

 そして、ラルフが空高く次元球を打ち上げて破裂させた。…龍人と遼の対戦のスタートである。


(うしっ。一先ず遼は居場所がバレるまでは潜伏しながら狙撃してくるはず。そんなら俺は…一気にやらせてもらうかな。)


 龍人は魔法陣で身体能力、知覚能力を向上させ、更に自身の周囲20mの広範囲に球場の探知結界を張り巡らせる。そして、遼がスタート地点として居たであろう方向に向けて走り出す。ビルの壁を風魔法を巧みに操る事で一気に屋上まで駆け上がり、隣のビルの屋上へ飛んでいく。

 敢えて姿を隠さないでの行動。遼の攻撃から居場所を特定するのが目的だ。そして、8つ目のビルの屋上に飛び移ったときだった。右方向からの攻撃を感知した龍人は直ぐに建物の陰に姿を隠す。

 ガガガガガガッ!

 魔弾が龍人が居る場所の近くを削り取っていく。遼が放ってきた魔弾の種類は…。


(飛旋弾か…。弧の描き方からしてあっちの方向か?…いや、そもそも飛旋弾ってどんだけ曲げられるんだ?もし180度曲げられるなら、俺のすぐ近くにいる可能性も十分にあり得るな。そすっと、別の魔弾を撃たせないと正確な位置は特定出来ない…か。)


 飛旋弾は龍人の正確な位置に撃ち込まれてはいない。となれば、遼は大体の位置しか把握していない事になる。ならば…、先ずは遼が居るであろう方向に範囲攻撃を放ち、居場所の特定をするのが先決である。

 龍人は両手に大量の魔法陣を展開構築して、強力な魔法を放とうと飛び出す。…つもりだったのだが、龍人の近くに直撃していた飛旋弾が着弾と同時に爆発を引き起こした。


「なっ…!?ぐっ!」


 全くの無防備だった龍人は爆発の衝撃をモロに受けて吹き飛ばされてしまう。飛旋弾が正確なポイントに着弾をしなかったのはブラフ。この飛旋爆裂弾を当てるためだったのだ。そして、運の悪い事に吹き飛ばされた先は…下にビルの屋上では無く道路が広がっていた。

 空中では地上に比べて速い移動が出来ないのが通説である。そして、龍人の姿は周りのビルから見やすい位置にあった。格好の標的とはまさにこの事。当然の如く龍人に向けて高速の回転が掛かった弾先が鋭い魔弾…貫通弾が放たれていた。

 直撃必至の龍人だったが、爆発の衝撃で頭がクラクラしてはいるものの平常心を保っていた。遼と戦うのにこの程度の事で動揺していては勝てるわけがないのだ。空中で落下を始めた龍人は確かに格好の餌食。だが、龍人にとっても攻撃をするチャンスだった。貫通弾が放たれたのは…丁度真南。


「…いくぜ!」


 龍人の手先に魔法陣が展開。そして次の瞬間には銀色に輝く剣…夢幻が握られていた。龍人の魔力が通う事で銀の輝きが増し、キラリと存在を主張する。

 そして、龍人の周りに魔法壁が連続で展開されて貫通弾を防いでいく。魔法壁の内側には止めどなく魔法陣が展開され、分解、そして新たな魔法陣を構築していく。新しく構築される魔法陣はプレ対抗試合で筋肉男達に向けて放ったもののアレンジバージョンだ。

 大きめの岩を大量に生成し、炎を付与、更に竜巻状の風を付与し、岩自体にも高速の回転を掛ける。

 龍人はニィッと笑うと右手を龍人から真南の方向に向け、岩の嵐を解き放った。


(おいおいマジかよ。プレ対抗試合でメテオストライクもどきの次は…メテオストームもどきか?古代魔法に似た魔法を使えるってのはマジで魔法陣構築魔法ってのイカレてんな。)


 遠くから戦闘の様子を見ていたラルフは、龍人が発動した魔法を見て思わず溜息を吐いてしまう。


(ったく、威力が劣るのにそっくりな魔法とか…勘弁してほしいわな。まぁ…本物の古代魔法を使われたらそれはそれで困るけど。ってか、龍人って古代魔法の魔法陣を覚えたら簡単に使いそうで怖いな。…いや、複雑すぎる上に大量の魔力を消費するから大丈夫か?複数人の魔法使いが協力して発動するレベルの魔法だし…実際に古代魔法を見た事がないから何とも言えねぇか。)


 そんな事を悶々と考え続けるラルフの視線の先では、隕石の嵐が大都市のビル群を破壊し始めていた。

 隕石群は風の渦で抉り石の回転で削って破壊し、炎で周囲を焼き尽くす。1つのビルが瓦礫と化すまで約10秒程度。龍人の前方にあるビル群は次々と地に沈んでいく。


「…?おかしいな。遼が出てこない。」


 龍人が居た位置から前方20度の角度にあるビル群は全て破壊されたのだが、そこに遼が居なかったのか人影を見る事は出来なかった。

 …と思ったのだが、どうやら龍人の読みは当たっていたようで、ビルの瓦礫の一部が内側から弾けると中からムスッとした顔の遼が出てきた。


「ちょっとさ、殺す気!?流石に焦ったよ!」


 どうやらご立腹の様子だが、それでもほぼ無傷で立っているので問題は無い。と判断した龍人は、遼の文句に付き合わずに次の魔法陣を展開する。発動するのは…濃霧。一瞬にしてあたりが霧に包まれて視界が遮られる。

 龍人は後方のビルの屋上まで移動して魔法陣を展開、ストックしていく。今さっきの隕石群の魔法で半分以上の魔法陣を使ってしまったのだ。この後も強力な魔法を使わなければならない可能性が高い以上、半分に減ったストック量で戦うのは些か不安があった。


(さて、どすっかな。遼がどう攻撃をしてくるかだけど…ん?)


 急に強力な魔力圧が遼がいた方向から押し寄せる。そして、この魔力圧はつい数ヶ月前に感じたものと良く似ていた。

 建物の陰から覗き見た龍人は思わず乾いた笑い声を上げてしまう。


「ははは…。まじか。あれは…遼が対抗試合の時に使った魔法だよな。……全力で逃げねぇと。」


 しかし、龍人は逃げるという考えをすぐに改める事となる。遼が撃っていた建物の壁にめり込んだ魔弾が、引力場と重力場に変化したのだ。龍人の周囲は歪んだ重力が形成され、とてもじゃないがその中を通って逃げ切る事は不可能だった。


(…転移魔法で逃げるか?だけど…遼のあの魔法は相当な威力だから、そのせいで辺りの次元が歪められてる可能性も十分にあるよな。ラルフだったら上手く転移出来そうだけど…俺なら失敗する可能性も有り得るか。ってなると、転移もベストじゃないか。)


 龍人は取り得る選択肢を探していくが…どれを考えても行きつくのは1つだった。


(しゃーねぇか。おーい!力貸してくれー。)


 龍人が選んだのは、内なる声が貸してくれる力…周りに黒い靄が出現する力だ。少し前のラルフとの特訓で黒い靄を出しても意識が飛びそうになる事は無くなっているはず。…というのも、それ以来黒い靄の力を使っていないので確かな事が言えないのだ。


(あれ?おーい。)

《…久々だな。我の力を求めるのは。》

(頼りすぎるのも良くないからな。)

《我が主は都合がいい。…まぁ良いだろう。我の力、使うが良い。》

(サンキュー!…おっ。)


 龍人の周りに黒い靄が出現し、体の内側からどんどん力が溢れ出てくる。そして右手に握る夢幻は銀から漆黒へと染まり、視覚にも変化が訪れる。


「おっ。見える。」


 龍人に見えたのは…魔力の流れだ。遼が双銃の前に形成する6つの引力場を周りに浮かべた高密度重力弾の、飛んでくるであろうルートが何となく見えていた。

 だが、逃げない。あくまでも立ち向かうことを選んでいた。遼が全力の魔法を使ってくる以上、逃げてしまってはいけない。と、ついさっきまで逃げようとしていた龍人は考える。逃げずとも凌げる…いや、打ち破れると思えたからこその心境の変化。この際良いのか悪いのかは置いておこう。

 黒い靄を出している間に、遼の攻撃魔法は完成を迎えていた。地上で双銃を構えて重力を操る遼と、ビルの屋上で黒い靄の力を顕現し、それに反応して漆黒化した夢幻を握る龍人。

 小細工無しの力勝負が始まる。



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