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Colony  作者: Scherz
第四章 其々の道
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12-1-5.とある組織の者達



 とある星にある、とある建物。その一室では数人がソファーに腰掛けていた。1人が口を開く。


「ふむ。という事は、魔法街は魔導師団を8師団揃えたのか。…今までよりは動きにくくなりそうだな。」

「そんなに気にする必要は無い。実力はまだまだ低い。頭数が揃っただけでは俺達の脅威にはなり得ない。」

「ふむ。甘いな。僕は魔導師団のメンバーの実力を気にしてるんじゃないんだよ。魔法街の犬となって動く者が増えた事を気にしているんだ。必然的に裏工作はしにくくなるだう?」

「………ふん。」


 魔導師団の事を気にしているのはサタナス=フェアズーフ。脅威ではないと考えているのはセフ=スロイだ。

 サタナスは拗ねたような反応を見せるセフを見て口元を歪める。


「君もまだまだ考えが甘いな。そんなんではあの人は…」

「黙れ。それ以上話したらお前の首を断ち切るぞ。」


 セフが刀を抜いてサタナスの喉元に突き付けるまでコンマ数秒。圧倒的な実力を一瞬の内に見せつけられるが、サタナスは余裕の表情を崩すことは無い。むしろ、さらに邪悪な笑みを濃くしていると言っても過言ではない。


「いいのかな?君はこの僕が居なくなったら困ると思うぞ。それでもいいなら僕の首を斬るがいい。同時に君は君自身で自分の望みを断ち切ることになるのだ。そして、この僕を殺すという事は組織に背くと言うことだ。その覚悟があるなら…好きにするがいい。」

「…ちっ。」


 セフは忌々しそうに舌打ちをすると長い刀身を引くと鞘にしまう。そして、後ろで今にもサタナスに攻撃を仕掛けそうな夜会巻きの細身美女に向けて手を向けて制止…動き出す直前だった細身美女はぐっと堪える。その目はセフを馬鹿にするサタナスへの憤怒で彩られていた。


「セフ様。我慢がなりません。」

「ユウコ…いい。こいつは元々こういう奴だ。下手な挑発に乗る必要は無い。」

「しかし…。」


 喰い下がろうとするユウコだが、セフがチラリと向けた視線を受け、今の状況を思い出して言葉を飲み込んだ。下手な言動が出来ないという状況を怒りの余り忘れてしまっていたのだ。一旦熱が冷めると、後悔と恥ずかしさが襲ってくる。ユウコはそれらの感情に耐えるために俯いて歯を食いしばるしか無かった。


「ははっ!サタナスなんかに乗せられてるんじゃねぇよ。ムカつくならサタナスの首なんか斬っちまえばいいんだよ!もっと自由に行こうぜ自由によ!」


 こう言ってセフの向かいの席で笑う男は、次の瞬間に陽気な雰囲気を一変させる。


「それとも、戦いたくてウズウズしてんならよ、俺が相手になんぜ?なんたって俺は強い奴と戦う為にここにいるんだからよ。ここにいる中でトップクラスに強いお前と戦えるなら…俺が代わりにサタナスの首をぶっ飛ばしてもいいぜ?」


 猛獣の様な殺気が一気にセフへ向けて放たれる。だが、セフは涼しい顔で向かいに座る男を睨みつけるのみ。


「…お前では俺の相手にはならない。」

「ははっ!言ってくれるじゃねぇか!よしっ。じゃぁこれからやるか?死闘を繰り広げようぜ!」

「ふむ。うるさいな。」


 サタナスはそう言うと左手からゼリー状の触手を出して騒ぐ男に巻き付ける。全身に絡みつき、口も塞がれた男はもごもごと身動きするが、触手が力を緩める気配は全くない。ぱっと見では男による男への触手プレイという…18禁。いや、21禁レベルの光景だがサタナス、セフ、ユウコの3人は気にしない。言ってしまえば、この男がいる時は大体サタナスの触手プレイの餌食になっているので、いちいいちいち飯能していられないのだ。


「ふむ。僕が余計な挑発をしたのがいけなかったな。では、本題に入るとしよう。今日君達を呼んだのは、今後の活動について多少の変更があったからだ。まず、里関係だが…セフが目を付けている高嶺龍人。彼に関しては高確率で里の力を受け継いでいると見て間違いない。だが、私が知っている限りでは里の力は圧倒的な力を誇るはず。今の彼の魔法の使い方は確かに強いが圧倒的では無い。恐らく、使いこなせていないのだろう。今の段階で高嶺龍人を捕まえる、もしくは我々の組織に引き込んでも意味が無いというのが、あの方の判断だ。よって、彼は暫く様子見をしようと思っている。いいかな?」

「…納得は出来ないが分かった。」

「ふん。素直だね。そしてだ、高嶺龍人を放置する代わりに別の候補者の調査を行って欲しい。で、今回の調査はあの方の意向で、そこで触手に巻かれている彼に行ってもらう事になった。」

「こいつがか?行っても騒ぎを起こすだけだろう。」

「それが、その騒ぎを起こす事も考慮に入れた上での決定らしい。これは決定事項だ。今ここで何かを言っても覆ることは無い。」

「分かった。で、俺はどうすればいい?」

「ここで待機だ。」

「…何?」


 セフから怒気が発せられる。


「まぁ、そんなに怒るな。今現在、複数の星に我々のメンバーが調査に向かっている。だが、どこもイマイチな結果しか出ていない。これは僕の予想だが、その中で1つは当たりがあるはずだ。その当たりが出た時に対応できないのが一番まずいんだよ。だからだ。君達にはここで待機してもらう。」

「…それなら仕方がないか。」

「ふむ。物分りが良くて助かるよ。」

「で、こいつはどこに行く?」

「機械街だ。」

「…よりによって機械街か。」

「あぁ。あそこは魔法街並に星のシステムがしっかりと構築されている。そう簡単に事は運ばないだろうが…。まぁ、僕が後ろでサポートもするからな。ある程度の成果は見込めるだろう。」

「…ふん。失敗しない事を祈っている。」


 そう言うと、もう話は終わりとばかりに立ち上がったセフは、ソファーにリラックスして座るサタナスを見下ろす。


「ん?何かな?」

「……。」


 明らかに何かを言おうとしている雰囲気だが、セフはそのまま視線を逸らすとドアに向かって歩き出した。

 ユウコも立ち上がるとセフに続いていく。歩き始める前に怒りのこもった目でサタナスを見たのは間違いが無いだろう。

 ドアが閉まり、部屋に残るのはサタナスと触手に巻きつかれた男のみとなる。サタナスは懐から1枚の紙を取り出すと、広げてそこに書いてある文字列を追っていく。


「さて…と、僕もこの件に関しては早急に動かないとだな。こういうのはどれだけ早く成果にたどり着くことが出来るのかが焦点になる。」


 サタナスは立ち上がると部屋の窓際に設置されているデスクに向かい、パソコンのキーボードを叩き始めた。触手に囚われた男が解放されることはなく、もごもごと蠢く男とその動きを締め付けることで押さえつけるゼリー状の触手のヌチャヌチャとした音が部屋の中にいつ迄も響き続けるのだった。


 部屋を出たユウコはスタスタと先を歩いていくセフに追いつくと、躊躇いがちに声を掛ける。


「セフ様…。今回の事、これでいいのでしょうか。私には完全に厄介払いされた気しかしません。」

「…。例えそうだとしても逆らう事は出来ない」

「ですが…ですが。これでは組織にいいように使われるだけではありませんか?私は、私はそんなセフ様を見ているのが辛いです。」

「…。」

「セフ様の目的は…本当にサタナスの力を借りないと実現出来ないのでしょうか?私は…私なら…。」

「…ふん。何を言う。あいつの科学力、そしてそれを実現するだけの機材。これらが無ければ…俺の目的は目的になる事すらなかった。いいか、俺は俺の目的の為に動く。それを邪魔するものが居れば…ユウコ、例えお前でも俺は容赦なく斬り捨てる。それを忘れるな。」


 ユウコはセフの言葉に目を見開き、足を止めそうになってしまう。セフは相変わらずスタスタと歩き続けているので、足を止める事はギリギリで阻止することが出来たが…、衝撃を受けた表情を隠す事は出来ない。

 僅かに開いた口は、やがてゆっくりと閉じられ歯が食いしばられる。ユウコはセフの目的を知っていた筈だった。それなのに、いや、そうであるからこその失言。悔やんでも悔やみ切れなかった。目には薄っすらと涙が浮かび、唇は僅かに震え始める。


(セフ様に捨てられたら…。私はどうすれば…。)


 絶望。ユウコの心の中を負の感情が支配し始める。隣を歩くセフの様子を気にする事が出来ないほどに。

 その様子を見たセフは面倒臭そうにため息を吐く。あくまでも隣を歩くユウコに聞こえないように…ではあるが。


「ユウコ。俺はお前の力を必要としている。応えてみせろ。」


 セフから掛けられた言葉。それはユウコにとってとても温かく感じることができる言葉にでもあった。唇の震えが止まり、涙は別の涙に変わっていく。


「セフ様…。私はどこまでも着いていきます。」

「…ふん。好きにしろ。」

「はい。」


 セフは相変わらず無表情のままだが、一歩後ろを歩くユウコは喜びを噛みしめる表情をしていた。


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