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Colony  作者: Scherz
第四章 其々の道
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12-1-3.魔導師団任命



 魔法街行政区。魔法街の星としての機能を維持するために、必要な行政機関が集まったこの場所は一般人が仕事以外で訪れる機会は殆ど無い。仕事で訪れるにしても行政機関の本部が置かれている場所なので、一般的な社会人が来ることも少ないとも言える。エリートのみが働く事を許された場所と言えるだろう。

 その行政区でも中枢を担う機関の1つである魔法協会本部。東西南北と中央の5つの区に設置された魔法協会支部の中枢を担う機関だ。各区の行政を司る魔法協会支部の本部は、各区の行政状況を纏め上げ、各区間のバランス調整を行なっていく重要な機関と言える。

 龍人達はラルフによってその魔法協会本部に連れてこられていた。目的は魔導師団に関する説明を聞く事だ。ラルフによれば、魔導師団への任命を受ける場合は説明を聞けて、受けない場合は説明を聞くことすら出来ないシステムになっているらしい。まぁ、魔法街の魔導師の名を冠して任務をこなす以上、秘匿性の高い情報もあるのだろう。

 魔法協会本部の会議室にはレインが魔導師団として読み上げた12人全員が集められていた。12人共に顔見知りなので、気軽に話す事も出来るのだが…会議室の中は緊張感が漂う静けさに包まれている。

 魔導師団に任命された12人が揃ってから10分程度経った頃だろうか、会議室のドアを開けて1人の女性が中に入ってくる。薄青のロングパーマを靡かせる長身のスタイル抜群の女性…レイン=ディメンションだ。そして、開いたままのドアから次々と人が入ってきた。

 細身で白髪短髪。初老の雰囲気が出ていて、伏し目がちな切れ目が鋭さも感じさせるヘヴィー=グラム。

 肩ほどまであるパーマの掛かったピンクの髪の毛を揺らし、優しい目を長い睫毛が飾り、ふくよかな体型をした巨乳…いや爆乳を携えるセラフ=シャイン。

 細身ではあるが鍛え抜かれたであろう体に、中分けの白髪が首の辺りで切り揃えられている…だが白髪だからといっても年老いては無く、齢は30辺りと言ったところ。全身から鋭い雰囲気を発するバーフェンス=ダーク。

 レインに続いて入ってきた3人の魔聖は、そこにいるだけで会議室内の魔力圧が上がるほどの存在感を出していた。その雰囲気に呑まれた魔導師団候補の12人は、高まる緊張感に思わず身を強張らせる。

 他にも各魔法学院から引率のような形で教師が1人ずつ会議室に来ていた。街立魔法学院からはラルフ=ローゼス。シャイン魔法学院からはホーリー=ラブラドル。ダーク魔法学院からはクラック=トンパ。普段はおちゃらけてやる気のないラルフも今ばかりは真面目な顔をして立っている。他の教師2人に関してもこの点に関しては同様である。普段がどうかに関しては龍人には知る由も無いが。

 会議室前方のスクリーン中央に立ったレインは集まった12人の魔導師団候補生達を見る。そして、微笑を浮かべると口を開いた。


「やぁ。今日は急に集まってもらいありがとう。予定よりも遅れた発表になった事、そして急な発表となった事を許してくれ。さて…と、時間が沢山ある訳ではないから話を進めよう。…魔導師団任命の件、断るつもりの者はいるかな?」


 手を挙げたのは…誰もいなかった。誰もが憧れる魔導師団任命を受けたのだ。余程の事が無い限り断る者は居ないだろう。それを見たレインは満足そうに頷く。


「では、君達にこれを配らせてもらう。えーと、今持ってるのはラルフかな?」

「はいよっと。じゃあ配りますよ。」


 ラルフの手元が光ると、龍人達の目の前に杖の形をしたネックレスが現れた。手に取ってみると杖の頭部分にクリスタルが嵌め込まれていた。掌から伝わる感覚的に相当な高密度のクリスタルだ。そして、そのクリスタルの中にはローマ数字でVIIIという数字が浮かんでいる。


「君達の手元に渡したのは魔導師団の証となる物だ。杖の頭部分に取り付けられた高密度クリスタルは、君達が窮地に陥った時に魔力補充が出来るようになっている。中のローマ数字は第何魔導師団なのかの証明だな。因みに、そのクリスタルは持ち主以外が使う事は出来ない。他の者が使おうときたら自然消滅するように出来ている。君達の手元に渡った時点で、所有者の魔力波形を認識、登録する様に出来ているんだ。つまり、もう君達が持ち主として登録されていることになるな。さて、使い方を説明するからネックレスを首に掛けて貰えるかな?」


 龍人達は言われる通りにネックレスを首に掛ける。すると、突然頭の中にレインの声が響いた。


『聞こえるかな?聞こえていたら手を挙げてもらおうか。…うん。大丈夫みたいだな。ネックレスの使い方はこれが主になる。基本的に受信がメインになると思うが、発信の仕方も教えておく。まず、ネックレスに魔力を注いでみてくれ。そうすると、顔の前にパネルが現れると思う。そこから通信相手を選ぶんだ。パネルは魔力を動かす感覚で操作出来るし、実際に手で触れて操作も出来る。ただ、そのパネルは他の人には見えてないから、手で操作するのは変人に見られる可能性が高いからオススメしないがな。一応補足すると、手で操作するのも結局は魔力で操作するのと同じ原理…動作が付くことで魔力を動かすイメージがしやすいだけだ。つまりだ、手を使わないで操作を出来るようになってくれって事になるな。』


 ここまで説明を終えたレインは、高性能なネックレスに驚きを隠せない学院生達を見てフッと笑う。


「驚くのも無理はないな。私も初めて見たときは驚きを隠せなかったし、ウキウキして一晩中何が出来るのかを確認するためにいじくり回していたよ。さて、次の話題に移ろうか。ここからはヘヴィーが説明をするよ。」


 話を振られたヘヴィーは、何故か杖を一振りして懐かしの姿に変わる。熊人形…股が裂けていてイチゴパンツが見えているあの熊人形である。熊人形は可愛らしく片手を上げて話し出した。


「私は任務中にこの姿に擬態する事があるでの。覚えておいて欲しいのである。さて、私からは魔導師団の基本事項について説明するのである。魔導師団…その構成員は魔導師と呼ばれるのである。魔導師とは魔法街の為に働く事を許された魔法使いのことであるの。まぁ、そう言うと聞こえはいいが、ギルドとは違ってやりたくない任務も任命されれば…やらなければならない。任務の拒否権は基本的にはないでの。その辺りはしっかりと理解しておくのじゃ。魔導師団は分かり易く言うと、魔法街の利益のために任務を行うのじゃ。勿論、それだけでは無いがの。恐らく任務の中では他の星に行く事もあるじゃろ。大きな話になってしまうが、この世界を守る為には他の星に行き、世界の平和を脅かす者共を倒すという事も往々にしてあるのである。まぁ、そんな所かの。質問はあるかの?」


 パッと手を挙げたのはジェイドだ。


「ほぅ。ジェイドじゃな。どうぞなのである。」

「単純な疑問なのだが、世界の平和を脅かす者達というのは…誰のことを指すのだろうか?それは、将来的にその様な者達があらわれたら…なのかな?それとも、今現在進行形でそのような者達…組織がいるという事なのか?」

「ほっほっほっ。それは…ぶ。」


 ほくほくと笑って答えようとしたヘヴィーの口を塞いだのはバーフェンスだった。


「ふん。そんなもの孰れ分かることだ。お前達は余計な詮索はせずに、黙って任務をこなせばいい。魔導師団はそれだけで一般人よりも様々な権益がある。だがな、あくまでも魔法街という大きな組織に所属する公認の駒だという事を忘れるな。首を突っ込んでばかりが正解ではない。」

「へぇ、駒ねぇ。バーフェンス…幾ら貴方が魔聖と言っても、言い方ってものがあると思うよ?」

「ほぅ。この俺に口答えするのか。」


 ブワッとバーフェンスの全身から闇の魔力が迸る。矛先が向いていない龍人ですら、その魔力の強さに当てられて全身に鳥肌が立ってしまうレベルだ。

 このままバーフェンスが魔法を発動したら…それを感知した瞬間には死んでいるのではないかという恐怖が忍び寄る。


「バーフェンス!」


 鋭い目をしたレインが名を呼ぶと、バーフェンスは舌打ちをして魔力を収めた。同時に会議室は闇の魔力の圧力から解放される。思わずため息をつく学院生達。


「全く…。すぐに怒るその性格はどうにかして欲しいものだな。仮にもお前は学院長という責ある立場にいるんだ。もう少しその辺りを弁えて欲しいものだな。」

「ふん。そんな事分かっている。お坊ちゃんが社会の序列というものを理解していないからな…。全く。シャイン魔法学院の教育を疑うな。」

「あぁん?てめぇ私の学院を馬鹿にするつもりか?」


 バーフェンスの憎まれ口にセラフが反応したのを見たレインは、深い溜息を吐いてしまう。この2人が何かとすぐに言い争いをするのはレインの悩みの種でもあったりする。放っておきたくなる気持ちはあるが、今ここにいる理由はこれから魔導師団として活躍するであろう若者達に魔導師団について説明をする場だ。放っておく訳にいかなかった。


「2人共…。少し静かにしてもらえるかな?」


 怒気を含んだレインの言葉にセラフとバーフェンスは舌打ちをして顔を背け合う。


(本当にこの2人は…仲が良いのか悪いのか分からないな。)


 ともかく、他に説明が必要な事を忘れていないかレインは確認をしていく。


(魔導師団の規則、魔導師団の証であるネックレスの用途…。他の細かいことに関してはまぁいいか。あ…1つだけ忘れていたな。)


 魔導師団として活動をするにあたっての重要事項を伝え忘れていた事に気付いたレインは、すぐにそれに関する説明を始めた。


「もう1つだけ説明をさせてもらう。魔導師団の証であるネックレスだが、それを見せれば魔法街に設置してある東区、北区、南区、中央区、行政区への転送魔法陣を使う事が出来る。今までみたいに魔法協会支部や学院から通行許可証を発行してもらわなくていいぞ。そうしないと任務に支障をきたすからな。但し…これは本人の良心次第だが悪用は避けて欲しい。基本的にネックレスを見せて転送魔法陣を使えるのは本人のみだ。過去に強制的に友達の使用許可もさせる奴がいたんだが…その時は職権乱用と騒がれて大変だったからね…。よろしく頼むよ。さて…これで今日する予定だった簡単な説明は終わりだが、何か質問はあるかな?」


 レインが周りを見回すと、再びジェイドが手を挙げる。


「ジェイドか。なんだい?」

「魔導師団のメンバー構成について質問なんだが…この場にいるという事は、クラック、ラルフ、ホーリーも魔導師団という事なのかな?」

「あぁ…そう言えば言ってなかったな。彼らは第1魔導師団に所属しているよ。残りの1人に関しては今は秘密だ。」

「む…。」


 丁度聞こうとしていた事を先に秘密と言われたジェイドは口を噤んでしまう。それを見た火乃花が次の質問をする為に手を挙げる。


「次は火乃花か。どうぞ。」

「魔導師団は基本的に学院毎の4人1組で動くのが基本なのよね。例えばだけど、2人ずつ入れ替えての任務とかもあるのかしら?」

「それに関しては魔導師団のメンバーで数人をピックアップして別の魔導師団を構成する事は…まぁあり得るな。状況次第ではあるが、一時的に寄せ集めの第9魔導師団が発足する事もあるよ。まぁ、そうすると他の魔導師団が欠員状態になるから、一概に良いとは言えないけどな。」

「なるほど…。分かったわ。」

「基本は今の魔導師団で動くから安心してくれ。他にはどうかな?」

「はい。」


 …と、手を挙げたのは龍人だ。


「龍人か。」

「えっと…魔導師団に対する魔聖4人の位置付けってどうなるんだ?」

「なるほど…。確かにそれは君達からしたら気になる話だな。私達魔聖は様々な任務を魔導師団に振り分ける事を主として動いている。各区の責任者を務めている以上、簡単に動く事が出来ないからね。」

「そーゆー事か。じゃあ俺達の第8魔導師団は、基本的にヘヴィーから任務が伝えられるって事だよな?」

「そうなるな。まぁ私から直接…って事もあるとは思うが、基本的には魔聖の誰かから任務が伝えられると思ってくれ。」

「分かった。」

「さて…と。そろそろ質問も無さそうだな。では、これにて解散とする。各自で帰宅するように。」


 そう言い残してレインはスタスタと部屋から出て行ってしまう。他の魔聖も続けて会議室から出て行った。残されたのは12人の新米魔導師達と、引率の教師3人。

 あれこれと話したい気持ちはあるのだが、それを躊躇う雰囲気が会議室の中には漂っていた。

 結果として、全員無口で各区へ、そして各々の家へと帰って行った。



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