表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Colony  作者: Scherz
第四章 其々の道
689/994

12-1-1.昇学試験



 2月1日。この日は街立魔法学院に通う学院生達にとって今後の学院生生活を大きく決定づける日である。1月から3月の末までは魔法学院の授業は休みになる。だが、2月1日…この日だけは、ほぼ全ての学院生が魔法学院へ足を運んでいた。

 その理由は簡単、上の学年に上がるための昇学試験が行われるのだ。4年生は5年生という学院のシステムがないので昇学試験を受けることは無いが、3年生以下の学院生達は上の学年に上がる為に、新年が明けてからの1ヶ月間は試験対策を行ってきている。より強くなるためには上の学年に上がり、より高度な授業を受ける必要があるのだ。高みを目指すものなら誰でも試験に向けて準備をするだろう。

 因みに、試験内容は筆記と実技としか知らされていないので、出来る事は1年間を通して学んだ事を復習するだけなのだが。

 さて、ほぼ全ての学院生が試験対策を思いつく限りでバッチリと済ませてきているのに対して、試験対策を全くしないで当日に焦るという人は大体クラスに1人は居るものだ。

 街立魔法学院1年生上位クラスにも、その例に漏れず、当日まで何もしなかった人物が2人いた。彼らは人目を憚らないで全力で勉強中である。


 1人はバルク=フィレイア。彼は元々座学などの頭を使う事が途轍もなく苦手で、普段の魔法史等の授業を全く理解していなかった。そして、試験対策として実技の練習はしてきたらしいのだが、筆記の対策を後回し後回しにし続けてきた結果、何もせずに試験当日になってしまったのだ。まぁバルクの事なので、本人が試験がヤバイと騒いでいても「まぁそうだろうな」というのが、クラスメイト達の感想である。


 そして、もう1人の人物は上位クラスの面々からしても驚きの人物…龍人だった。そもそも、龍人は今日が昇学試験である事すら忘れていたのだ。正確に言うと少し違うのだが…。

 事のあらましはこうだ。


 遼は早朝に街立魔法学院へ登院し、1年生校舎への転送魔法陣に乗って移動する。集合時間よりも大分早めに到着した遼は、少し基礎魔法の練習でもしようと特訓室へ向かう。そして、特訓室使用の受付をしようとした時だった。龍人がフラフラの状態で部屋の1つから出て来たのだ。試験当日の早い時間に特訓室を使う人が自分の他に居たのも驚きだが、それが龍人だった事が驚きを一層強めていた。


「あれ!?龍人じゃん!龍人も朝からおさらいしてたの?」


 タオルで顔を拭いた龍人は、声を掛けられて初めて遼の存在に気付いたのか「おぉ。」と大袈裟な反応を示す。


「遼か。人の事言えたもんじゃないけど、朝早くから熱心だな。俺は…まぁおさらいっちゃーおさらいかな。」

「まぁ、今日をしくじったら困るもんね。俺もいつもは朝から特訓室を使おうとかは思わないんだけど…流石に今日は心配でおさらいしようかなって思ったんだ。」

「へぇ。今日を期限にしてたのか。もしかしてキタルに決められたのか?」

「ん?」

「え?」


 ここで遼は龍人との話がやや噛み合っていない事に気付く。


(なんでキタルの名前が出てくるんだろう?確かに魔弾形成ではキタルに色々教えてもらったけど、最近はあんまり会ってないし。ってか…龍人、今日が何の日か多分知らないよね。)


 最初は昇学試験の為に朝練をしているのだと思っていたが、どうやら龍人は試験とか全く関係なく朝練をしていたらしい。そして、この様子を見るとほぼ毎日通っているのだろうとも予想が出来る。

 ともかく、今は試験について伝えるのが先決である。


「龍人…まさか忘れてないと思うけど、今日が昇学試験っていうの分かってるよね?」

「………え?今日って何日?」

「え?2月1日だよ?」

「………げっ。」

「って事は、試験の存在は覚えてたけど今日が試験だとは思って無かったんだ。…はぁ。どうしちゃったのさ龍人。」

「いや、それがさ、ずっと特訓室に篭り続けてたから日にちの感覚がおかしいんだよな。ってか、試験の3日前にはラルフが声を掛けてくれる筈だったんだけどな。」

「でも、ラルフだよ?そこは信じ過ぎちゃダメだと思うよ。」

「………確かに。」


 ガチャリ。と、遼の後方でドアが開く音がする。見ると、話題になっていたラルフが少し焦った顔で立っていた。


「おぉ。龍人!悪い!ちっと仕事が長びいちまって今戻った!でだ、今日これから昇学試験なんだわ。なんとか…頑張れ!早く教室に行って勉強しろ。実技はいいから筆記をなんとかしろ!いいな!?」

「う、お…おぉ。分かった。」

「よしっ!おれも試験の準備が全然出来てねぇし確認も出来てねぇ!取り敢えずまた後でな!」


 そこ迄話すとラルフは転移魔法であっという間に姿を消してしまった。ラルフがいた空間を見る龍人は乾いた笑い声を上げる。


「はははは…。座学とか授業の半分は寝てたからなぁ。マジでヤバイかも。」

「とにかく教室行こう。俺が分かる範囲で教えるから。」

「頼むわ。」


 こうして龍人と遼は上位クラスの教室に向かう。自身の実技の練習を置いてでも、龍人の筆記試験対策に力を貸すのは、流石は親友と互いに言うだけの事はあるのだろう。歩き始めて少しして、ふと疑問が浮かんだ遼は龍人に問いかける。


「そういえばさ、龍人は特訓室で何の練習をしてたの?」

「ん?それは…秘密だな。」


 そう言うと龍人はニヤリと笑ったのだった。


 こんな経緯があって、遼のサポートの元、龍人は教室で猛烈に勉強をしている。バルクも龍人達の横で「分かんねえ。なんでこうなるんだ?」とか何とか言いながら、ルーチェに教えて貰っているが、バルクに突っ込む余裕は一切無しだ。

 そして、バルクは良いにしても龍人が猛烈な勢いで勉強をしているのを見た上位クラスの面々は、教室に入ってきた時のにこやかな笑顔を凍りつかせ、直ぐに机に座って勉強を始める。

 上位クラスでトップレベルに強い龍人が必死に勉強しているのだ。その姿を見て「ヤバイのかも」と思わない生徒の方が少ないのは当然だ。しかも、龍人が勉強をしてきていないから焦って勉強をしていると知っているのは遼のみ。その状況を知らない他の生徒は《龍人が最後の追い込みを掛けている》《筆記試験がかなり難しい事を龍人が知っているのでは》という想像をし、全員が焦りを感じたのだ。

 結果として、久々の登院であるのにも関わらず1年生上位クラスは騒ぐバルクを除いて、勉強をする音だけが響いていた。

 そして、龍人が教室で遼と勉強を始めてから2時間後。分厚い紙束を抱えたラルフが教室に現れた。


「よしっ!勉強道具は仕舞え~。これから昇学試験の筆記試験を行う。筆記試験だからって侮るなよー?授業で受けた内容を把握してるだけじゃぁ50点が限界だ。魔法技術など、この1年を通して学んだはずの事を余すことなく問題にしてある。さっきチラッと見たけど、中々の難問揃いだぞ。…じゃ、筆記試験の時間は3時間だ。結構長い時間やるから、途中で寝るなり何なり好きにしていいぞ。一応カンニング防止の為に、探知結界を張らせてもらう。魔力を感知した瞬間に容赦無く攻撃させてもらうから、その点は注意しろ。では…と、この紙を後ろに回してくれ。」


 3時間という驚異的な(人によってはそう感じる)時間にクラスの生徒達は顔が引きつるが、ラルフに言われた通りに答案用紙を後ろに回していく。

 龍人に特訓室で声を掛けた時はかなり焦った雰囲気だったラルフなのだが、今は至って落ち着いている。少し前まで焦っていた事が全く感じられないその様子は、流石教師と言えるものだった。

 ラルフは全員に行き渡ったのを確認するとパシィ!っと手を叩いた。


「よし!始め!」


 上位クラスの教室内に紙をめくる音と、カリカリと文字を書く音が響き始めた。


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


 試験開始から3時間半後。

 上位クラスのメンバーは学食に来ていた。その面子は龍人、遼、火乃花、レイラ、バルク、ルーチェ、スイ、タム、サーシャ、クラウンだ。

 その面子の中で筆記試験の明暗は分かれた様だ。「楽勝だった」と、明るい表情な面子に対して、筆記試験に玉砕してテーブルに突っ伏しているのがバルク、タム、クラウン、そして…遼だ。その遼に試験前に色々と教えてもらっていた龍人は何故かルーチェに続いて2番目に筆記試験を終えていた。

 サンドイッチを頬張りながら龍人が落ち込む遼に問いかける。


「なぁ、そんなに難しかったか?座学の授業でやったトコは出来たんだろ?」

「…うん。座学はほぼ完璧なんだけど…。実技に関する筆記試験…アレは反則だよ。」

「え?そうか?」

「いや、だってさ…魔法陣を描く時と、魔具に魔力を注入する時の違いとか、精霊魔法を呪文魔法に組み合わせる時のパターンとか実際にやった事ないと分からなくない?」

「まあ…そうだけど俺は知ってたぞ?じゃあ…他の近接魔法に対する遠距離魔法の接近戦時の効果的な戦い方とかは書けたんだろ?」

「……。」

「へ?もしかして書いてないのか?得意分野だろ。」

「そんな事言われても…。何が効果的かとか分からなくない?状況次第で変わるし、相手が使う属性が何かによって対処法も変わるし。」


 横で2人のやり取りを聞いていたルーチェがピコンと人差し指を立てる。


「分かりましたわ。遼くんは答えが書けるだけの知識も経験もあったのに、正確な答えを書こうとし過ぎたのですわ。頭でっかちみたいな感じなのです。」

「うぅ…。それは言わないでよ。」


 遼の向かいで味噌汁を飲んでいた火乃花はお椀を置くと、更に追い討ちをかける。


「ホント分からないわよね。バルク君とかクラウン君が筆記試験が出来ないだろうっていうのは元から分かってたけど、まさか遼君が…って感じよね。」

「うっ…。ホントもうヤダ…。」

「ちょっと待てぇぇえ!俺様が元々筆記試験が出来ないと分かっていただと!?馬鹿にするのもいい加減にぐふっ…!」


 火乃花に突っ掛かり始めたクラウンがくぐもった声を漏らして腹を押さえる。見ると、横に座っていたスイが肘打ちをクラウンの鳩尾に食い込ませていた。


「クラウン=ボムお主は本当に五月蝿いな。少し黙ってろ。」

「…ぐ、ぬぬぬぬ。このポニーテール男が!」

「ブフッ!!」


 っといきなり吹き出したのはバルクだ。ついさっきまで落ち込んでいたのが嘘のように笑っている。


「ん?バルクさんどうしたんすか?」


 バルクの横で一緒に落ち込んでいたタムが顔を上げてバルクに問い掛けた。すると…。


「ハハハハハッ!いや、だってよ、ポニーテールだってよ!確かに後ろで1本に纏めてるもんな!ポニーテールスイとか強面オカマ過ぎてウケる!ハハハッ!」


 話せば話すほどに笑い転げるバルクを見てスイのこめかみに青筋が浮き上がる。


「バルク=フィレイア…叩き斬ってやる。」


 スッと音も無く立ち上がったスイは腰に差した日本刀に手を掛ける。


「はいっ!はいー!おわりおわり!終わりっすよー!もうすぐ午後の試験っすよ!はいっー!皆さん行きますよっ!」


 喧嘩になりそうな雰囲気に慌てたタムが全ての話をぶった切って立ち上がり、全員に移動をうながす。


「はいっ。スイさんも行きますよー?こんな所で無駄な魔力消費して実技で失敗したら悲しいっすよね?バルクさんなんか、結局筆記が出来てなくて昇学が怪しいんですから、無駄に相手をする必要は無いっすよー。」

「む…それも…そうか。」

「そうっす!はいっ!行きましょー!」


 タムはスイの背中を押してさっさと歩き出す。チラッと後ろを見てウインクをしたのを見た龍人は感心してしまう。


(あのスイを強引に勢いとノリで落ち着かせるってのはすげぇな。)


 タムが実技試験の時間と言ったのは、スイを落ち着かせるための口実だけでは無く、本当にその時間が20分後に迫っていた。

 龍人は落ち込む遼を放っておいて立ち上がる。


「うしっ!このまま実技試験もしっかりやるか!」


 当日まで試験の存在を忘れていた龍人は、そんな事を感じさせない程に余裕感で溢れていた。万全の態勢で臨んだ遼が玉砕しているのは悲しきかな。

 タム達の後を追って歩き出した龍人の横にレイラがやってくる。


「龍人君、次の試験って何やると思う?」

「んー、なんだろうな?基礎的な魔法の使い方の試験は確実にあると思うんだけど。」


 いつも通りに龍人と話すレイラ。

 12月31日以降、龍人は特訓室に篭っていたので、レイラとはほぼひと月振りに会うが…31日の出来事が無かったかのようにいつも通りだった。…いや、その出来事があったからこそいつも通りなのかも知れない。気不味かったりという感じがないのは龍人としても有難い事で、レイラと話す時に何かを特に意識して…とはならない様にしていた。…レイラが自分の事を好きだと分かってから、話す時に前よりもドキドキしているのは間違いないが。

 そんな龍人とレイラの背中を見つめる火乃花は首を傾げていたりもする。


(おかしいわね。忘年会の後に何も無かったのかしら?)


 さて、そんなこんながあったが、時間通りにグラウンドにて昇学試験の実技試験が始まる。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ