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Colony  作者: Scherz
第四章 其々の道
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11-11-1.約束



 人が疎らになった忘年会会場でほっとひと息を吐く龍人へ、後ろから躊躇いがちな声が掛けられる。


「あの…龍人君。」

「ん?…お、レイラか。」


 何となく気まずそうな顔をしながらレイラは小さく頷く。だが、龍人にはレイラがそんな顔をする理由が分からなかった。…と言うよりもその理由に気付いていなかった。


「えっと…一緒に帰らない?」


 躊躇いがちなお誘い。勿論レイラに好意を寄せる龍人としては断る理由はない。


「もちろん!じゃ、行こっか。」

「…うん。」


 やはりどこかレイラの様子がおかしいが、その原因に気付くことが出来ない龍人は心の中で疑問符を浮かべながら忘年会会場を後にしたのだった。

 ギクシャクした雰囲気のまま歩き出す龍人とレイラ。2人の後ろ姿を見送りながら、火乃花は遼に話し掛ける。


「あの2人って…もう少しどっちかが積極的なら付き合いそうよね。」

「まぁ、レイラは元々積極的じゃないからね。龍人は…色々考える事があるんだと思うよ。」

「考える事ねぇ。」


 呆れたように溜息を吐く火乃花と困ったように溜息を吐く遼は、同じ様な動作をしながらも、その心に思う事は全く違うのだった。


 ブラウニー家を出た龍人とレイラは無言のまま歩いていた。いつもなら会話が絶えない2人なのだが…。龍人は気不味さ全開でどうしようかと悩みまくっていた。


(ってか忘年会に行く時は普通だったよな?そうすっと…忘年会中に何かあったって事だろ。忘年会中……。え、俺って何かしたっけ?)


 この場に龍人の心が読める人が居たなら、頭を叩いて「鈍感男!」と叱りつけた事だろう。このままでは何も解決せずに2人は其々の家に帰ってしまう。

 歩けば歩くほどに気不味い雰囲気が濃くなっていく中、不意にレイラが口を開いた。


「龍人君って……。」

「……ん?」


 少しの沈黙。レイラは頭に浮かんでいる事を口にするのを躊躇う。言ってしまえば引き返せなくなるかも知れないから。…だが、今言わなければ、今聞かなければならないとレイラは直感していた。故に問いかける。一縷の望みを掛けて。


「龍人君って、マーガレットさんと付き合ってるの?」


 この瞬間、龍人は全てを理解した。レイラとの間に流れていた気不味い雰囲気の正体も、レイラの表情がいつもより翳っている理由も。だがそれには《レイラが龍人に気がある》という前提が必要になるのだが…その前提を確かめるべくもない状況である。

 そして、レイラの気持ちを理解した龍人は忘年会会場での自分の行動が、どれだけレイラの心を痛めいたのかも分かってしまう。


(俺って…駄目だな。もう少し人の心を理解出来るようにならないと。)


 レイラは答えを待っている。今にも泣き出しそうな目で、縋るような目で龍人を見つめていた。願わくば自分の望む答えが返ってきて欲しい。だが、もし望まぬ答えだったとしても受け入れる覚悟はある。…そんな目だった。少なくとも、龍人にはそう見えた。

 だからこそ…と言っていいのだろうか。龍人は正直に話す事を選択する。全て…とはいかないが、言える事を全て話す決断。その結果としてどんな結末が待っているかは分からない。だが、それで良かった。龍人にもまたどんな結果でも受け入れる覚悟が出来ていた。


「俺は…マーガレットとは付き合って無いよ。」

「…ホント?」

「あぁ。」

「あんなに忘年会会場でくっ付いていたのに?」

「あれは、俺がくっ付いたんじゃなくてマーガレットがくっ付いてきたんだ。」

「でも…嫌がってる感じはしなかったよね。」

「そうだな。実際に嫌では無かったしね。…実はさ、対抗試合の後にマーガレットに話があるって呼ばれただろ?あの時に、告白されたんだ。」

「えっ…!?なんて…答えたの?」

「俺には気になる人が別に居るって伝えたよ。マーガレットはそれでも俺を振り向かせてみせるって言ってた。それで、俺はマーガレットの気持ちに正直に向き合うって答えたんだ。」

「向き合う?」

「あぁ。俺に好意を寄せてくれてるマーガレットの気持ちから逃げないって事だ。あそこまで面ときって好きって言われたら…一方的に振るのは出来なかったんだ。なんたって俺には彼女がいるわけでも無いし。じゃあ、今後マーガレットの事を好きになることは無いのか…って言ったらそれは分からないだろ?だから…かな。やや勢いに押されちゃった感もあるし、優柔不断男みたいだけどね…。」

「そっか…。」


 レイラは歩いていた足を止め、下を向いてしまう。龍人も一緒に足を止めるが…言葉を掛ける事は出来なかった。


「やっぱり、龍人君ってマーガレットさんの事が好きなんだね。そうじゃ無いと…向き合うなんて言えないと思うんだ。」

「それは…否定出来ないかなぁ。」


 話の流れが龍人にとっては良くない方向に流れつつあるのは感じるのだが…。もし、このようなレイラとの話が対抗試合の前にあれば、龍人は躊躇いもなく言っただろう。「レイラの事が好き」と。だが、多少なりともマーガレットに好意を抱いている以上…それがレイラに対する想いより小さかったとしてもだ…龍人はこの言葉を口にする事が出来なった。もし言ってしまえば、レイラも、マーガレットも、そして自分自身にも嘘をつく事になるからだ。

 もうどうしようもない局面に達してしまったのか。…そんな諦めに近い感情が龍人の胸の内に芽生え始める。しかし、人生とは良い意味でも悪い意味でも思い通りにならない。


「あのね…あのね!」


 どこか必死そうなレイラ。龍人は静かに続きの言葉を待つ。思考は妙に冷静だ。頭の中にレイラとの恋の終わりの予感が渦巻いているからかも知れない。だが、そうなったらそれで良いのだ。好きな人を自分自身の周りに渦巻く危険に巻き込む事が無くなるのだから。


「あのね…私…ね…。私も…私も龍人君の事が好きなんだよ。」

「そっか…。………へっ?」


 さて、龍人の頭はマーガレットにプロポーズされた以来のパニックに陥る。


(マジか?えっ?確かにレイラって俺と話してる時にめっちゃ可愛い顔するけど、え?あれ?いや…確かに好きそうな雰囲気はあったかな…。でもそんなに好きアピールは無かったし。いやいやいや、それは俺も同じか。でも、俺がここでレイラの事が好きって言ったら付き合う事になんのか?…それは駄目だ。マーガレットに嘘ついた事になっちまう。誰よりも確実にレイラが1番に好きなら…今はそこ迄じゃない。俺はなんて返事すりゃ良いんだ?ってか、なんでこんな短期間で2人に告白されるんだ?俺ってそんなモテたっけ?…いやぁモテるってのとは縁遠い気がするわ。っつ俺がモテるとかどうでも良くて、俺はどうすりゃいいんだし!)


 頭の中で様々なプランが浮かんでは消えていく。レイラは上目遣いで龍人の目をみて動かない。龍人が何かを言わない限り状況は動かないだろう。だからこそ、龍人は言うべき言葉を全力で模索する。

 そして…覚悟を決めて口を開いた。


「ありがとな。俺の事好きって言ってくれて嬉しいよ。でも、俺にはレイラの気持ちを受け止める資格…いや、覚悟が無いんだ。対抗試合の時に話した、俺を取り巻く環境を覚えてるか?俺はこれを解決できない限り、恋愛ってのは出来ないって思ってる。」

「…どうして?」

「なんて言うかなぁ…俺の敵になる可能性がある奴にとって、彼女とかつけこみやすいもの持ってちゃいけないんだ。というか、俺にはそれを守りきる自信がない。だから…今の俺には無理なんだ。格別に強いわけじゃない俺に彼女を作る資格は無いんだ。」


 対抗試合の時に龍人が魔法街に来るきっかけとなった事件、そして魔法街に来てから起きた事件などを聞いていたレイラは龍人の気持ちを嫌でも理解してしまう。

 魔法協会地下の事件でサタナスに捕まったレイラは、サタナスの狂気、セフの底が見えない闇を実際に目の当たりにしている。それらが異常である事は、どんなに鈍感な人間でもすぐに理解出来るレベルのものだった。だからこそ、龍人が恋人などの大切な人を守りきれないという自信の無い発言をしてしまうのも分かるのだ。

 だが、それでも、レイラは口を開く。恋する乙女は強いのだ。


「じゃあ…私、龍人君に好きって言ってもらえるように…龍人君が安心して私を傍に置いておけるように、私に背中を任せてくれるように強くなるね。私がもっともっと強くなったら…私と付き合って下さい。」


 真っ直ぐなレイラの瞳は、龍人の心を真っ直ぐ射抜く。それこそ、今すぐにでも「彼女になって下さい」と言ってしまいそうになる程に。


「…分かった。俺も好きな人を守りきれる位に強くなるよ。これからもよろしく…でいいかな?ちゃんとした返事が出来なくてごめん。」

「ううん。いいの。私は私の気持ちを伝えることが出来たもん。龍人君の気持ちもちゃんと理解してるつもりだよ。」

「ありがとな。」

「うん。…龍人君、約束しない?」

「ん?どんな約束だ?」

「私がいつか龍人君と戦って勝つ事が出来たら…私と付き合うの。」

「こりゃまた大胆な約束だな。…分かった。負けて彼氏になるってのはなんか悲しいけど、それなら背中は任せられるもんな。約束するよ。」

「ありがと龍人君。」


 そう言って微笑むレイラの笑顔は満点の星空の下でも1番に輝いていた。胸の内には悲しみがあったかもしれない。龍人に対する憤りがあったかもしれない。それでも、レイラは龍人に満面の笑みを見せてくれたのだ。


 恋。愛。人が人を想う感情。時には人の行動原理の根本的なものになり得るそれらの感情は、時に人を救い、時に人を苦しめる。そして、そうであるが故に人を堕落させ、人を歓喜させる。人と人が交わる以上切り離すことができないこの感情は、龍人をどの様に導いていくのか。

 少なくともこの時の龍人には予感があったとしても、予想はしていなかった。

 レイラとの出会いが引き起こしたもの。引き起こすもの。そして…。


 物語の歯車がここでまた1つ噛み合い、ゆっくりと動き出した。



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