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Colony  作者: Scherz
第四章 其々の道
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11-10-9.忘年会



 龍人が中庭から忘年会会場に戻ると、会場の中は先程よりも盛り上がりを見せていた。その主な要因は余興だろう。ステージ上では雑技団の様な人達が様々なパフォーマンスを繰り広げていて、派手なアクロバティック技が決まると学院生達から歓声と拍手が送られている。


「あ、龍人!どこ行ってたの?トイレに行ったって聞いたんだけど、長すぎない?」


 やや酔っ払っている遼がふらふらーと龍人に近づいて来る。右手に持っている不思議な色をした液体は、遼が近づいて来るだけでアルコールの匂いを感じさせる物だった。恐らく相当アルコール度数が高いカクテルか何かだろう。

 酒臭い息を吐く遼が据わった目で龍人に問いかけて来るが…正直な所、面倒臭い事この上ない。しかも、ラスターから話された内容はそう簡単に他人に話して良いものかも、今の龍人には判断は出来なかった。


「トイレを出た後に曲がる方向を間違っちまってさ。軽く迷ってた。家の中で迷うとか初めてだわ。」

「ヘェ~。龍人でも道に迷うんだね。そんな事言ってて、本当はマーガレット辺りとイチャイチャしてたんじゃないの?なんかさっきもくっ付かれてたしさー。」

「いやいや、どーゆー疑い方だし。あれはくっ付いてたんじゃなくて、くっ付かれてただろ?それに、今もマーガレットはあそこにいるじゃん。イチャイチャしてたとか無い無い。」


 話を上手く誤魔化そうとするが、酔っ払った遼は何故かヤケに絡んでくる。


「え?でも、迷ってた割には部屋の中に入ってきた時の顔は迷ってて疲れたって顔じゃなかったよ?」

「いやいや、じゃぁどんな顔だし。」


 鋭いツッコミに龍人が内心で冷や汗をかきはじめた時、ステージの方から今の状況を脱する救いの声が聞こえた。


「はい!次の余興は全員参加で行いますわ。皆さんステージの方に集まってほしいのです。」

「お、なんかやるみたいだぞ?行こうぜ。」

「あー、そうやってまた話を逸らす~

いつもいつもさ~…。」

「はいはい。いいから行くよ。」


 酔っ払った遼の想像以上の面倒臭さに呆れながら、龍人は遼の背中を押しながらステージに近寄って行った。

 ステージの上に立つのはルーチェとバルクだ。ルーチェはニコニコと微笑み、バルクは良いことを思いついた子供のようにキラキラした目で立っている。

 バルクは1大きな箱を後ろから取り出すと、ステージ上のテーブルの上にドンと置くと説明を始めた。


「おっしゃ!じゃぁ説明すんぜ。これからやんのは…王様ゲームだ!」


 まさかの王様ゲームに学院生達が盛り上がりを見せる。


(うげ…。王様ゲームってアレだろ?無茶な要求をされるやつだろ?…面倒臭いなこれ。)


 バルクの説明は続いていく。


「まず、皆にはこの球を持ってもらう。でだ、全員が持ったところで球に数字が現れるぞ。んで…なんだっけ?…あぁそうそう、ここにある大きい球にまず王様役の数字が出るから、該当の数字が出てる球を持ってる奴はステージの上に頼むぜ!そったら、王様は好きな番号の奴に好きな事をさせられるぞ。番号の指定とかは複数でもいい!自由だぜ!じゃ、皆球を取りに来てくれ!」


 学院生達はわらわらとステージ上の箱から球を取り出していく。


「ほら~何やってんのさ龍人。俺たちも取りに行くよ?」

「マジか。…引っ張るなってっ。」


 こっそりと球を取らないで終わらせようと思っていた龍人だったが、隣にいる遼に引っ張られてしょうがなく球を箱の中から1つ取り出す。


「おっしゃ!全員取ったな!先ずは数字を表示すんぞ!あ、説明忘れてたけど王様が決まったら数字はリセットされるぜ!誰かの番号を意図的に選べないようにしてんだ!じゃ、最初の王様は…!」


 バルクを中心にかなりの盛り上がりを見せているが、極力関わりたくない龍人は会場の端に移動して椅子に座る。因みに、遼はたまたま近くに来たスイにさり気なく押し付けてある。

 ロックグラスに入ったウイスキーを口に含むと芳香な香りが鼻を抜けていく。アルコールが身体中に回っていくにつれて、周りの大騒ぎは耳に入らず、龍人は魔法街に来てからの事をなんと無しに思い出していた。

 4月に街立魔法学院に入学したのだが、龍人と遼が住んでいた森林街がセフに滅ぼされたのは、その前の9月である。つまり、龍人が森林外からヘヴィーに連れられて魔法街に来て、既に1年と3ヶ月は経った事になる。

 龍人は魔法街で大切と思える人々と出会った。尊敬できるようでしにくいエロ教師や、共に戦う中で仲間という認識で見るようになったクラスメイト、淡い恋心を抱くに至った女性や、龍人に激しく迫ってくる女性。どの人達も森林街に住んでいたら出会う事も無かった人々だ。

 だからと言って、森林街を滅ぼされたのが良かったという事はない。新しい地に行けば新しい出会いがあるのは当然なのだから。

 今龍人が大切だと思う人々。この人達を失うわけには行かない。1度失った龍人だからこそ、この想いは人一倍強い。

 その為にも強くならなければならない。強くなるためには、鍛錬も重要であろうが、それと同時に多くの事を経験する必要がある。経験は多くの事を得る。1つの経験は1つの結果だけではなく、将来起こりうる様々な事態に対応する力を与えてくれる。


(魔導師団…か。自分が選ばれるとかは無いかもって思ってたけど、もし選ばれたら…。)


 思考に耽っている龍人の聴覚に、バルクが大声で叫んでいるのが飛び込んできた。

 

「おーい!38番の奴いないか~?38番だぞ!サーティーエイト!誰だ~!?」


 王様ゲームで該当番号の人をさがしているのだろう。会場内には優に100人を超える学院生達がいるので、自分が当たることは無い。大方該当番号を持っている人はトイレにでも行ってるんだろう。

 そんな事を考えながら、何となく自分の持つ球を持った龍人は硬直する。そこにはくっきりと38番の文字が浮かび上がっていた。


「げ…。 」


 王様だったらいいのだが、今の探している雰囲気的に王様の命令に該当する番号を持つ人を探している可能性の方が高い。このままさり気なく忘年会会場から出るのが吉だと判断した龍人は、ゆっくりと立ち上がった。

 だが、そんな簡単に逃げ出す事が出来る筈も無く…。立ち上がった龍人の左手を誰かが掴む。振り向くと、何故か怒った顔をしたスイが龍人の左手に握られた球を見ていた。


「お前か。人に面倒くさい奴を押しつけておいて逃げるな。」

「え?いやぁ…逃げるつもりなんか無かったよ?」

「そうか。では行くぞ。」


 スイは龍人の手を引っ張ってステージに向けて歩き出す。その様子を見たバルクがステージ上で龍人に向けて指を指す。


「おぉぉ!龍人か!?龍人なのか!?いやぁ持ってるじゃねぇか!こんな美味しい番号を持ってるなんて流石だぜ!」

(…?美味しい番号ってなんだ?食い物?)


 いまいち状況が掴めていないが、取り合えず逃げ出すことを観念した龍人はステージの上に上がる。そして気付く。ステージにはルーチェ、バルク、そしてもう1人の人物が立っている事に。その人物は…事もあろうかマーガレットだった。


「さーて!今回の王様命令はこの紙に書いてあるぞ!する事を紙に書いて、番号該当者を呼び出した後に命令内容を読むなんて、火乃花も面白い事を考えるよなぁ!」


 どうやら今回の王様は火乃花らしい。龍人が火乃花を見ると、彼女は気まずそうに視線を逸らした。


(…?なんだ今の反応。)


 もはや嫌な予感しかしないが、楽しそうなバルクは紙を広げて口笛を吹いた。


「こりゃぁウケるな!ってか火乃花も良くこんな命令を書いたな!じゃぁ発表するぜ!今回の王様命令は29番と38番の2人がキスをするだ!」

「「「「おおおぉぉぉぉ!!」」」」

「へっ!?」

「本当ですの!?」


 ステージ周りのギャラリーは激しく盛り上がり、龍人はまさかの展開に絶句、マーガレットは龍人とのキスを想像して顔を赤らめ、この事態を引き起こした張本人の火乃花は苦笑いを浮かべて眺め、龍人に想いを寄せるレイラは不安そうな顔で龍人を眺め、酔っぱらった遼は相変わらず据わった目で龍人を見て、ルーチェはお嬢様らしく両手を口元に当てて驚きましたポーズを取った。


「王様の命令は絶対だぜ!いけぇ龍人!シャイン魔法学院のお嬢さまの唇を奪っちまえ!!」


 龍人にキスを促すバルク。


「いやいや。流石にキスはマズイだろ?」

「まずくない!王様の命令は絶対だぜ!」


 どうやらバルクは龍人とマーガレットのキスを中断するつもりはないらしい。ギャラリーもザワザワと龍人達のキスを心待ちにしている雰囲気をバンバン出してきている。


(マズイ…。これ、逃げられないやつじゃないか?)


 ふと、マーガレットを見ると…上気した顔で龍人の事を見つめていた。龍人は悟る。マーガレットは何も言っていないが、恐らく、キスをする気満々である事を。この状況を打開するには、何かトラブルが起きるしかない。もしくはトラブルを起こすしかない。

 龍人は今まで培った全ての経験、知識をフル動員してこの状況を脱する方法を模索する。そして…1つの結論に達した。


(駄目だ。何も思いつかない!)


 思わず額に手を当ててしまう。だが、この場に居る人でキスの中断なんていう提案をしてくれる人が居る筈もなく…。龍人は仕方なく覚悟を決めた。いつの間にか周りの人々からは「キース!キース!」というコールまで…。龍人のファーストキスはマーガレットになりそうだ。

 龍人とマーガレットの距離が近づき、2人は互いの目を見つめあう。そして、目を瞑り…。唇の距離が近づいてき…。遂に…とはならず、突然会場の後方から聞こえた皿やグラスが割れる音によってキスセレモニーは中断されてしまった。




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