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Colony  作者: Scherz
第四章 其々の道
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11-10-8.忘年会

 龍人は使用人に聞いた通りに廊下を進んでいく。すると、廊下を左に曲がった所で目の前に大きなドアが現れた。その特徴は使用人から聞いたものとほぼ一致している。


(多分ここかな?)


 重いドアをゆっくりと押し開けると、12月の冷んやりとした空気が顔を撫でた。時刻が間もなく10時を回るだけあって、外は大分冷え込んでいるみたいだ。吐く息がたちまち白くなる。

 ドアの向こう側にはブラウニー家の中央部分に設けられた中庭が広がっていた。

 中庭の中心部分には噴水があり、その周りを囲むように柵が設けられている。柵の中には季節の花々が並んでいるが、深夜に近いために花弁は閉じられていて、華やかさは感じさせないが慎ましやかさをどこか感じさせている。そして、花壇の周りには小木が綺麗に並んでいて、それらの並びはとても綺麗…いや、整然としている。少し眺めれば、それらの配置が上下左右で対象…シンメトリーになっているのがすぐに分かるだろう。

 まだまだそれだけでは無い。夜の暗い中でも中庭が綺麗に、そしてどこか神秘的に見えるように、白からオレンジ…つまり寒色系から暖色系までの照明を上手く組み合わせて、夜を最大限に利用した演出をしていた。好きな人とこの庭でデートをして告白すれば、雰囲気だけで了承を得られるのでは。と、思える程に。

 少しの間、その素敵な中庭の光景に見惚れていた龍人は、噴水の近くに人影を見つける。


(お、あそこか。)


 そう。龍人が中庭に来たのは、とある人物とここで会うためだ。その目的は…龍人にも分からない。何せ、ついさっき呼び出されたのだから。

 噴水の近くまでゆっくり歩み寄った龍人は、寒さに冷える両手をポケットに突っ込んで、そこに居る人物に声を掛けた。


「待たせたか?で、俺をわざわざ呼び出した理由を教えて欲しいんだけど。」


 声を掛けられた人物は龍人を見るとフッと笑う。


「思ったより来るのが早かったな。マーガレット君にもう少し捕まっているかと思っていたが、案外手綱を握っているのかな?」

「なーに訳わかんない事言ってんだって。あの大勢の人がいる中でわざわざ俺を呼び出したのには、それなりの理由があるんたろ?…ラスター、誤魔化しは無しだぞ?」


 龍人を呼び出した人物…それはラスターである。龍人とマーガレットと忘年会会場で話をして、2人の下から去る時に求めた握手で龍人の掌に光魔法で文字を残していったのだ。「中庭で待つ」という文字を。

 最初は何かの冗談かと思って無視をしようと思った龍人だったが、なんと言ってもあのラスターである。行政区税務庁長官で、他の学院生はおそらく知らないが禁区の管理者も務めている大物人物だ。そのラスターから個人的に呼び出されたら、行かない方がリスクが高いと言えよう。

 そんなこんなで中庭に来た龍人は警戒心マックスである。そして、その警戒心を隠そうともしない龍人の厳しめな言葉を聞いてもラスターの笑みは崩れない。


「いい威勢じゃないか。なに、少し聞きたい事があってね君を禁区に連れ行った以降に、思念体と思わしき存在と遭遇はしたかな?」

「思念体か…。」


 ギルドの依頼で3つ頭の犬と遭遇した後に出会った異形の人物が脳裏に浮かぶ。謎の言葉を話し、最後にはユラユラと蜃気楼のように男の体から立ち昇って消えた存在。ラスターが思念体と言ったその存在は、対峙した瞬間に龍人へ《死》のイメージを与える程に得体が知れない存在であった。


「…んー、特にそれらしいのとは遭遇して無いな。あそこ迄異常な存在だったら気付かない筈が無いし。」

「そうか。そうなると、君達は思念体が求める者では無かったという事になるのか…。いや、だがそれにしては…。」


 ラスターは噴水の縁に腰掛けると考え込んでしまう。龍人は何も言うことが出来ない。というよりも、ラスターがわざわざ呼び出した理由を未だに掴めずにいた。


(ってか、思念体の事を聞きたいってのはどーゆー事だ?色々な所で観測はされてるんだったら、そこまで固執するもんか?)


 「そうだな…。いいか、私は思念体は特別な力を持った者の前に現れると読んでいる。そして…だ。その特別な力を持った者が…龍人君である可能性を考えている。」

「へっ?」


 突然の特別な力を持った者呼ばわりに間抜けな声を出してしまう龍人。ラスターが龍人を特別な力を持った者と呼ぶ事は実質的に間違ってはいない。何故なら龍人の属性は真極属性【龍】なのだから。

 龍人の認識としてその属性を知っているのはラルフとリリスのみだ。まぁ、街立魔法学院の学院長であるヘヴィー=グラムも知っているであろう事は容易に想像出来るが。もし龍人の属性を知っている範囲を広げたとして、それは街立魔法学院の教師陣の枠に収まるはずである。まさか行政区の高官がそれを知っているとは予想も出来なかった。


(ってか、なんで俺の本当の属性を知ってんだよ。…誰から聞いたのか問い詰めてみるか?)


 そんな龍人の沈黙をラスターは違う意味に受け取っていた。


「何を驚いているんだ?龍人君は属性【全】の持ち主で、魔法陣展開魔法と魔法陣構築魔法という希少な魔法技術を持っているだろう。これは特別な力と言うんだ。」

「あ…はい。そうですね。」


 どうやらラスターは龍人の本当の属性を知らないようだった。だが、本当の属性を隠していたとしても特別だと周囲に思われてしまうことを改めて痛感する。

 さて、龍人には1つ気になることがあった。それを今が聞くチャンスだと判断し、口を開く。


「俺が特別な力を持ってて、そこに思念体が引き寄せられるってのは大体理解したんだけど…そもそも思念体が特別な力を持つ人の前に現れる理由が良く分かんないな。体を乗っ取るとか支配するならまだ分かる。ただ、わざわざ他人の体に憑依して前に現れる理由はなんなんだ?」


 龍人の質問にラスターは深く頷く。


「そう。問題はそこなんだ。私は特別な力を持つ者が何かの鍵ではないかと考えている。その理由は…これを見てくれ。」


 ラスターは1枚の紙切れを懐から取り出すと龍人に手渡した。


「その紙はとある古代文献の一節だ。」


 その紙に書かれていたのは…


『太古に世界を創る力を持つ者達在り。其れらの力が1つに纏まる時、世界を再編する力を得る。彼の者達は其れを恐れ、別の世界に住む事を選択した。然れど世界は人により侵略される。人は世界を創る力を狙い、彼の者達は抗う。全てを巻き込む思惑は1つの事象により解決された。それは別の力に依る世界の再編。これにより世界を創る力は忘れ去られ、其の力を持つ者達は自身の住む世界を隔離された。』


 という記述である。


(この記述だと…特別な力が世界を再編出来るって事か?てか、太古の力ってなんだか分かんないし、世界の再編なんちゃらが1つの事象で解決ってなんだし。)


 世界を変える…再編する力が存在するであろう事は分かる。だが、それ以上の事は具体的に書かれていないので良く分からないというのが本音だった。

 難しい顔で紙を眺める龍人を見てラスターは笑う。


「はははっ。そんなに深く考え込まなくていいぞ?その古代文献の記述が正しいとは限らないしな。ただ特別な力っていうのは、そこに書いてある通りの可能性を秘めているんだ。だからこそ、思念体がそういう人達の前に現れるのではないか…というのが私の仮説なのだよ。」

「んー…。それは分かるけど、なんでその話を俺にしたんだ?」

「それは…前に話を聞いたときに、思念体が襲ったのは紛れもなく龍人君、君だったからだよ。遼君は一緒に居たに過ぎないと私は考えている。」

「つまり、俺が世界の再編なんちゃらに関わる力を持ってるって事か?」

「いや、そこ迄断言は出来ない。だが、その可能性がある事を理解しておいて欲しくてね。」

「理解ねぇ…。」


 ラスターは右手で小さい丸眼鏡の縁を掴んで位置を直すと、柔らかい笑みを浮かべた。我が子を見守る父親…とでも表現すればいいか。


「別に何かを求める事も無い。ただ、その可能性だけを心の隅に置いといてくれ。…では、楽しい忘年会中に呼び出して悪かったな。私は会場に戻るよ?」

「あ、あぁ。」


 ラスターは返事をほぼ待たずに建物に向けて歩き始める。龍人は突然の話題をまだ咀嚼出来ないのだろう。眉間に皺の寄った難しい顔をしてラスターの背中を見送っていた。


 建物の中に入り、忘年会会場に向けて長い廊下を歩くラスターは突然背後に現れた気配に対して、警戒する事も振り向く事も無く声を掛ける。


「やぁ。もしかして盗み聞きをしていたのかな?」

「やぁ。…じゃないだろ?龍人をどうしたいんだよ。」

「ん?さっき彼に話した通りだ。あくまでも親切心だよ。気を付けなければいけないという事を知っていて貰えればそれで良い。私の読みでは龍人君は魔導師団に選ばれるからな。魔法街という枠組みを越える以上、彼が狙われる確率は必然的に高くなる。そうだろう?ラルフ。」


 ラスターに名前を呼ばれたラルフはイライラしたように頭をガシガシと掻く。


「そうだとしてもだ。情報を伝えるタイミングってのがあんだろ?」

「何を言う。今がそのタイミングなんだよ。魔導師団に選ばれる前だからこそ、伝える意味がある。龍人君は頭がいいだろう?さっきの話で魔導師団になる事の危険性は、魔導師団の詳細を聞けば理解する筈だ。その上でどう判断するかは彼次第だろう。私はそこに干渉するつもりは無い。」

「…ちっ。そう言われたら反論出来ねぇだろ。」

「だから親切心だと言っているだろう?悪巧みは一切していないぞ?」

「…ホントにラスターには敵わねぇな。ま、悪巧みしてても俺が阻止すっけどな。」

「それは私への宣戦布告かな?」

「んなわけ無いだろ。お前さんとと敵対をするつもりは無い。」

「はは。そう言っていて、私が本当に悪巧みをしたら本気で潰しに来るんだろ?」

「ケースバイケースだ。」


 結局、敵対する可能性があるという結論にラスターは笑みの中に悲しそうな、寂しそうな表情を一瞬織り交ぜる。


「ラルフ…立場ってのは悲しいな。」

「それを理解した上で今の役職に就いたんだろ?」

「勿論だ。引くわけにはいかないし引くつもりもない。あ、悪巧みをしているからとかでは無いぞ?今の魔法街の現状から私は引く…逃げるの方が正しいか。逃げるつもりは一切無い。私はいまの役職を続ける限り、魔法街の為に動く。…例え肉親を切り捨てることになったとしてもだ。その程度の覚悟はあるつもりだ。」

「…そうか。なら、俺達が同じ方向を向けることを願ってるわ。」

「全くだな。…そろそろ会場だ。お前がここに居るのが見られたら、また痴漢とか騒がれるんじゃないか?」


 そう言ってラスターはラルフの背中をポンっと叩く。


「そうだな。じゃ、俺はここで。…ラスターお前は1人じゃないってのを忘れんなよ。」

「…あぁ、心しておくよ。」


 ラルフが転移魔法で消えると、ラスターは忘年会会場のドアの前で1度深呼吸をする。そして、仕事スマイルに切り替えてガヤガヤと明るく騒ぐ忘年会の中に入っていった。


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