表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Colony  作者: Scherz
第四章 其々の道
684/994

11-10-7.忘年会



 龍人とマーガレットを引き離すためのプランはこうだ。


『ルーチェのお父さんが2人で話をしてみたいって呼んでいる』


 何故この方法を選んだのかと言うと、マーガレットの一直線な性格。そして親が法務庁長官という家柄。この条件で彼女が遠慮をする可能性がある相手は、この場にはラスターしかいないと判断したのだ。他の理由では何だかんだ言って一緒に付いて来てしまう可能性がある。


(それにしても…今更だけど、何で私がレイラの為にこんな事してるのかしらね?)


 火乃花の自分自身に対する疑問は最もである。他人の恋愛を妨害してまで(この場合マーガレットの事)する事なのかは、落ち着いて考えてみれば疑問が浮かんでくる。だが、火乃花はレイラがずっと龍人の事を想い続けているのを知っている。だからこそ放って置けないのだ。感情優先で動いてしまっているが、火乃花は止まるつもりは無かった。

 並べられた高級な肉を指差しながら何かを話している龍人とマーガレットに向かって歩いていく。一応ラスターの様子を確認すると、火乃花が歩き始める前には会場の端でカッコよくシャンパンを傾けていた。タイミングとしてはバッチリな筈だ。

 そして、火乃花が龍人に声を掛けようとした時である。何故か火乃花の横をスタスタとラスターが通り過ぎ、龍人とマーガレットの肩をポンっと叩いたのだった。


(えっ?さっきまであそこに居た筈なのに…。この距離を数秒で移動するってどれだけ凄いのよ…。)


 ラスターの移動速度の速さにも驚くが、龍人をマーガレットと引き離す為の理由で使う予定のラスターが話しかけた以上、火乃花のプランは総崩れである。だが、ラスターが龍人とマーガレットに近寄った理由が気になる火乃花は、目的を変更して話を盗み聞きしようと肉を選ぶ振りをして近くにスタンバッたのだった。


 さて、龍人とマーガレットはラスターに声を掛けられてかなり驚いていた。行政区の高官がわざわざ自分の所に来る理由が分からないのだ。マーガレットにしても、彼女の親も高官である事は間違い無いが、それでもマーガレットとラスターに何かしらの直接的な繋がりがある訳ではない。

 そのラスターは柔らかい優しそうな微笑みのまま話し出す。


「やぁ。龍人君とマーガレット君だな?君達とは話してみたかったのだよ。対抗試合決勝戦での2人の戦いは素晴らしかったよ。龍人君が使う構築型魔法陣の対応力の柔軟性は、私が見てきた魔法の中で1番かも知れないな。まぁ、やや火力不足なのは否めないが、それを補って有り余る可能性を秘めている。そして、マーガレットも魔法学院生1年生にしてあの魔法技術を使いこなすとはな。」

「それは…融合魔法の事ですの?」

「そうだ。決勝戦で使っていたのは3種類だったかな?特に3属性の融合魔法は中々のものだった。」

「そこまでお見通しなのですわね。流石ですわ。」

「まぁこれでも若い頃は学院生のトップを張っていたからね。」


(…融合魔法?マーガレットが使ってた赤い風とかの事か?)


 ここで「融合魔法って何?」なんて言う事は流石に憚れる為、龍人は会話の中から想像をするしかなかった。

 ラスターは龍人とマーガレットの前に移動すると、近くを通った使用人のトレンチからシャンパンを取って龍人とマーガレットに渡す。


「君達のような有望な学院生が育った事を私は誇りに思う。これからの君達の更なる飛躍を願って乾杯だ。」


 ラスターが龍人とマーガレットの方にシャンパングラスを掲げ、2人もそれに応じる。グラス同士が心地よい透き通った音を奏で、3人は金色の液体を口に含む。

 炭酸のシュワっとした舌触り、鼻に抜ける方向な香り、後を引かない喉越し。どれを取っても高級なシャンパンである事は間違いない。

 ラスターはグラスを垂直に戻すと、先程よりも真剣味の籠った顔を2人に向ける。


「さて、君達に聞いてみたい事がある。魔導師団についてどう思う?」

「魔導師団ですか…。」

「あのー。魔導師団についてあんま詳しい説明聞いた事が無いんだけど、ざっと教えてもらえないかな?」

「なんと。では簡単に説明しようか。魔導師団とは4人1組で動くチームだ。魔導師4人組を魔導師団と呼ぶ訳だな。因みに、魔導師とは魔法街の為に働く…つまり任務を遂行する事を許された魔法使いの事を指す。この魔導師団に選ばれるのは大変名誉な事だ。そして、今年は街立魔法学院、ダーク魔法学院、シャイン魔法学院の学院生から1師団ずつ選ばれる予定になっている。偶然にも去年の末に各魔法学院の魔導師団のメンバーが魔導師団を卒業してね。とまぁ、そういう訳で君達が魔導師団に選ばれる可能性も十分にあるのだよ。」

「…なるほど。それで、もし選ばれたらどうするのかを聞きたいのか?」

「そうだとしたら、何故それを聞くのかが気になりますわ。」


 龍人とマーガレットの眼光が少し鋭くなる。ラスターは2人の反応を見て愉快そうに笑いを漏らした。


「ふふふふ。魔導師団に選ばれたらどうするのかを聞いて、選考の判断にするつもりか?…なんて思っているのだろう?だが、安心したまえ。私は魔導師団の選任に関して何の権限も持っていない。意見を出す事すら出来ない。それらは全て魔聖に一任されているからな。」


 それでは…何を聞きたいのか?と、龍人は眉を顰めてしまう。ラスターはそんな龍人の考えもしっかりと分かっているようで、続けて口を開いた。


「私が聞きたいのは、魔法街の為に働く魔導師団をどう思うのかだ。魔導師団の冠した瞬間に、その者は個人としての魔法使いではなく、組織としての魔法使いとして生きる事を余儀無くされる。代わりに得るものは大きい。見える世界も変わる。だが、代償として一部の自由が無くなる。この魔導師団の存在をどう感じるかな?」


 ラスターの言葉は重かった。それこそ何も考えずに魔法学院に通っていた学院生なら、逃げ出したくなるほどに。皆の憧れと言われる魔導師団は、確かに憧れの的となるだけの実力者が揃う。しかし、その反面魔導師団以外のものには理解される事が無い問題点も抱えているという事だ。

 自由を失うのは嫌だと答える者も居るだろう。だが、龍人は違った。彼は既に覚悟をしており、その覚悟を貫き通すためには前に進むのだ。


「ラスター。俺は逃げないよ。魔導師団に選ばれるのなら、その中で1番に昇りつめてやる。俺は強くならなきゃいけないんだ。強くなる為の新しい場所が提供されるなら、俺は迷わず飛び込む。その中でもがいてもがいて強くなってみせる。」


 ラスターの眼をまっすぐ見つめながら話す龍人からは、確固たる意志を感じることが出来た。

 そして、龍人の言葉を横で聞いていたマーガレットは自分の選択に間違いは無かったと確信する。


(龍人を選んだのは間違い無いのですわ。龍人はこれからもっと強くなる。私は…私はその側で龍人を支える…いえ、龍人と共に強くなってみせるのですわ!いつか最強の夫婦と呼ばれるまで突っ走るのですわ!)


 妄想が大分広がったマーガレットはズイッと前に出ると、ラスターの瞳を不敵な笑みで射抜く。


「私も同じですわ。私は常にシャイン魔法学院でトップを狙っていますの。ただし、更に強い者たちがいる場所に行けるのなら逃げませんわ。私はレルハ家の娘として、胸を張って生きると決めていますのよ。」


 2人の言葉を聞いたラスターは満足そうに頷いた。真剣味を帯びていた目元も若干緩んでいる。


「君達の言葉を聞けて良かった。他の学院生達も君達と同じ志を持っている事を願おう。…では、ここで私は失礼するよ。」


 そう言うとラスターは微笑み、龍人とマーガレットの手を握り締め、別の学院生の所に歩いて行った。

 マーガレットはラスターについて話そうと龍人に声を掛ける。


「龍人、今のラスターの話ですが…。龍人?」


 なぜか龍人は険しい顔で自分の手のひらを睨んでいた。ちょっと話しかけるのも躊躇われる位の真剣な目付きだ。


(…そんなにラスターに手を握られたのが嫌だったのでしょうか?)


 不思議そうな顔で眺めるマーガレットの視線に気付いた龍人は「あぁ。」と、何でも無いような反応を示す。


「わりぃわりぃ。今何か言った?」

「あ、えぇっとですの…ラスターが魔導師団について聞いてきた真意は何だと思います?」

「ん~難しいなぁ。ラスターが魔導師団の選任に関与できないなら、本当に興味本位で聞いただけって考えるのが妥当じゃない?」

「…私にはそうは思えませんの。私は、ラスターが魔導師団の在り方に疑問を持っているように感じましたわ。」

「魔導師団の在り方…ね。……マーガレット。」

「なんですの?」

「あんまり深く考えるのは止めよう。魔導師団の実情も何も分からない今の状況で、あれこれ考えても分からないだろ。」

「う…確かにそうですが…。」

「だから、もし俺たちが魔導師団に選ばれたらその組織に呑まれないようにしようぜ。」

「…分かりましたわ。組織に潰されることなく1人の魔法使いとして…ですわね。」

「あぁ。…にしてもあれだな。魔導師団に選ばれてもいないのに、こんな事を心配するって何か変だよな。これがラスターの狙いだったら完璧だな。」

「ラスターは希代の魔法使いと言われていた大物ですわ。彼ならそれくらいの事はやってのけますわ。」

「なんかさ、俺ってもう少し穏やかに生活出来ないのかね?ちっとトイレ行ってくるわ。」

「あ、はい。分かりましたわ。」


 龍人はシャンパングラスをテーブルの上に置くと、マーガレットに「わりぃ」みたいな感じて軽く手を上げて小走りで忘年会会場の外に出て行った。

 マーガレットは龍人の背中を見送りながら、浮き上がるニヤニヤを抑えるのに全力を注いでいた。


(龍人と2人だけの秘密…みたいなのが出来ましたの。ふふ。)


 普段は高飛車系のお嬢様だが、龍人の前では完全に1人の乙女になってしまうマーガレットだった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ