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Colony  作者: Scherz
第四章 其々の道
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11-10-5.忘年会



 魔法協会南区支部の前で待つレイラは龍人を見ると嬉しそうに手を振る。龍人も手を振って近づいていくため、他人から見ればこれから一緒に年越しをするカップルだ。

 まぁ、周りからそう見られていようが、本人達はそこ迄の関係には至っていないし、レイラはともかく龍人は恋人の関係になろうとは今の現状では思えないのでどうでもいい。と思えば、周囲からどの様に見られようがどうでもいい事ではある。


「よっ。お待たせ。時間通りに来たつもりだったけど…待たせちゃった?」

「ううん。ちょっと早く着いちゃったけど、ギルドで依頼を見たりして時間潰してたから大丈夫だよ。」

「そっか。良かった良かった。じゃ、いきますか。」

「うん!」


 龍人とレイラは横に並んで歩き始める。互いの手が触れそうで触れない絶妙な距離を保ったまま歩く2人は、火乃花や遼が見たら焦れったくなってしまう感じだ。

 他愛ない会話を続けながら歩く龍人は、ついさっきのレイラとの会話を反芻する。普通、ちょっと早く着いていたとしても「待った?」と聞かれれば大半の人が「待ってない。」と返事をする。だが、レイラはしょうじきに「早く着いた」と伝え、その上で「大丈夫だ」と言ってきたのだ。

 人によってはわざわざ早く着いたことを言う必要は無いと思うかもしれないが、龍人にとっては好印象なものだった。何よりも下手に隠す事なく言ってくれたお陰で「実は待たせていたのではないか」という変な勘ぐりをしなくて良い。

 龍人がレイラを好きだからそう思うのでは…。とも考えられるが、ともかく、龍人はこういった返事を返す事に好印象なのである。

 2人で歩く事約10分。龍人とレイラは忘年会が行われる会場であるルーチェの家に到着した。正面玄関の前で立ち止まった2人は口を半開きにしてその門構えを見つめてしまう。

 ルーチェの家は門から玄関までおそらく10mはあると思われる。その門も大きく、玄関も遠目から見て大きいので、近くに行ったら更に大きく見えるのだろう。そして、大きな門に大きな玄関を持つ家の規模は当然の如く規格外の大きさで、豪邸という名が相応しい建物だった。

 特に何もされていないのに豪邸の前に立つだけで威圧感を感じてしまうのは、庶民だからこその感覚なのだろう。素直にルーチェとは住む世界が違うのだと痛感させられる。


「ルーチェさんの家…大きいんだね。」

「本当だな。ってか完全に豪邸じゃん。お嬢様だとは思ってたけど…こりゃぁ想像以上だな。」

「取り敢えず…入ろっか?」

「そだね。ここで立ち止まってても寒いだけだし。」


 開かれた門を通り抜けて正面玄関の前へ到着すると、同時にドアが自動的に開く。…と思ったら内側からメイド姿の女性が開けてくれていた。そのメイドは微笑んで龍人とレイラを迎え入れる。


「いらっしゃいませ。ルーチェお嬢様のお友達ですね?」

「あ、はい。忘年会をやるって聞いたので来たんですけど。」

「はい。畏まりました。他のクラスの方々も大分いらっしゃってますよ。それでは、こちらからお部屋までご案内しますね。」

「あ、ありがとうございます。」


 何故か対応してもらうのが申し訳無いと思ってしまう位に丁寧な対応をされて、龍人はやや気圧され気味だ。隣を歩くレイラはというと…。


「ねぇねぇ龍人君。凄いね。壁に飾ってある絵も大きいし、棚に飾ってある食器も高価そうだよ。」

「ん?あ、あぁそうだな。ってかレイラはこんな豪邸に来て緊張しないのか?」

「え?全然大丈夫だよ?」


 といった感じで、いつも通りのレイラである。そのレイラを見ていると、緊張している自分が馬鹿らしくなってきた龍人はいつも通りにしようと心を落ち着ける為に深呼吸をする。

 そう考えている時点でいつも通りでない。というツッコミは控えてあげよう。

 さて、家の中を5分程歩いた頃だろうか。既に廊下をあっちこっち曲がっているので、1人で帰るのは難しくなってきた。そんな事をぼんやり考えていると、先を歩くメイドがとあるどの前で立ち止まった。


「こちらが忘年会の会場になります。」


 これまた大きいドアをメイドは1人で押し開けていく。これだけ大きいドアであれば、開く時にギィィィという軋むような音が出るのが普通なのだが、何の音もなくスゥゥゥっと開いていった。丁寧に手入れがされている証拠である。

 そして、ドアの向こう側から飛び込んできた絢爛豪華な光景に龍人とレイラは思わず息をのむ。

 色取り取りに飾り付けをされた天井や壁。2M程度の感覚で天井からぶら下がるシャンデリアは、細かなパーツまで磨き上げられているのか一切の曇りが無く、光を反射してキラキラと輝いている。天井に埋め込み型で取り付けられているダウンライトに暖色系の光を使っている事で、部屋の中はキラキラし過ぎず、ある態度の落ち着いた感じも演出されていた。

 そして、部屋の広さがまた凄い。小さい体育館よりも広いのだ。100人程度であれば問題無く収納できる広さを誇っている。

 その広い部屋の中に等間隔に並べられたテーブルには、これまた豪華な食事がこれでもかという位に置かれていて、部屋の中に漂う香りが空腹気味のお腹を刺激する。

 呆気にとられて入口から動かない龍人とレイラを見たメイドは、優しく声をかける。


「お2人様。恐らく部屋の中にお友達もいらっしゃると思いますので、中にお入りになりませんか?」

「あ、すんません。想像以上に凄かったので。」

「ふふ。そう言っていただけると何よりです。私達使用人が普段から培ったノウハウを発揮して飾り付けをした甲斐がありますね。」

「えっ。これって使用人の人達がやったんだ…。」

「凄いね。」


 驚く龍人とレイラを見て使用人は微笑む。因みに、メイドだと龍人達が思っていた事は本人には内緒である。とは言え、使用人の格好は明らかにメイドなわけで、使用人とメイドに大きな差がある訳でもないが…それでも本人が使用人と言っている以上は、使用人なよである。それこそが働く者の誇り。

 そうして忘年会の会場に入った龍人とレイラは、見知った顔の集団を発見する。そこにはバルク、タム、サーシャ、遼、火乃花、クラウンが集まっていた。そして、よくよく見れば人混みが嫌いそうなスイまでその集団に混じっていた。

 他にも上位クラスの生徒や、学校で見かけた事があるような顔触れが揃っている。


「よっ!みんな来るの早いんだな。」


 龍人がクラスメイト達に声を掛けると、バルクがニヤニヤしながら口を開いた。因みにバルクは相変わらずレザージャケットで腰回りにシルバーアクセを巻き、赤い短髪はソフトモヒカン具合にツンツンに立っている。


「おう!龍人!カップルで登場なんて目立つ事するよな!」

「へ?それはちっと間違ってないか?」

「ん?俺って今何か間違った事言ったか?」


 本気で首を傾げるバルクは隣に立つスイの方を向く。そのスイは相変わらず無表情で興味が無さそうだが、意外な事にバルクの問いに反応した。


「カップルと思われても仕方が無い。我にもそう見える。」


 てっきり興味がないとか、そんな台詞をいうと思っていたのだが、予想外の言葉が飛び出る。龍人は横にいるレイラを傷つけない程度に反論しようと口を開きかけるが…。


ザワザワザワ


 突然、忘年会会場が大きめのざわめきに包まれた。ざわざわ君達は漏れなく会場の入口に目線を向けている。

 会場ドアから入ってきたのは、2つのグルーブだ。そこに並ぶ顔触れを見た龍人は驚きを隠せない。


「えっ?まじ?なんであいつらが来てるんだ?ってこんな事あんのか?」


 だが、誰も龍人の言葉に答えることが出来ない。何故彼らがこの場にいるのか。それを知る者が居ないのだから当たり前ではある。

 その中の1人は皆の注目を集める中、カツカツと歩いて龍人達の前で立ち止まった。


「皆さんお久しぶりですわ。自己紹介する必要は無いとも思いますが…初めて見る顔の人もいますので改めて。私はシャイン魔法学院1年生のマーガレット=レルハですの。今日は他学院という壁を越えて仲良く出来ればと思っていますので、よろしくお願いしますわ。」


 そう。まず1つ目のグループは龍人達と決勝戦で戦ったシャイン魔法学院のメンバーだ。マーガレット、マリア、ミータ、アクリス、その4人に加えて見た事がない男が加わった5人組。

 そして、もう1つのグループも龍人達に近づいてくる。その中の1人、伏し目がちな細身の男が龍人に向けて片手を挙げた。


「やぁ。久し振りだねぇ。まさか今日ここに来る事になるとは全く予想してなかったんだよぉ~。でも、せっかくの機会だから交流を深められたらいいねぇ。あ、一応自己紹介しておくよぉ?おれは浅野文隆だよぉ。ダーク魔法学院の1年生だねぇ。まぁ、よろしくねぇ~。」


 何とも気の抜けた挨拶をした浅野文隆はヘラヘラと笑みを振りまいていた。もう1つのグループと言うのが、このダーク魔法学院の文隆、博樹、デイジー、ミータの4人だ。そして、こちらにも見た事のない男が1人。

 マーガレットも文隆も何故か龍人を見て話すので、ここは自分が代表して挨拶をしなければ駄目だろうと龍人は一歩前に出る。そして、一応歓迎の言葉を言おうと口を開く。


「こんなトコで会うとは…。」


ブンッ


 急に訪れる暗闇。部屋の電気がいきなり落ちたのだ。そして、次の瞬間には忘年会の会場前方に設置されたステージ上にスポットライトが当たる。

 そこにはルーチェ=ブラウニーがのほほんと立っていた。



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