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Colony  作者: Scherz
第四章 其々の道
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11-10-2.終業式



終業式が終わり生徒達の殆どが帰宅した頃、街立魔法学院の学院長室に主要な教師陣が集まっていた。集った教師陣は以下の通り。


へヴィー=グラム

ラルフ=ローゼス

リリス=ローゼス

キャサリン=シュヴァルツァー

ダルム=パワード

キタル=ディゾル


彼らが集まったのは、ヘヴィーが集合をかけたからに他ならない。


「…という訳なのである。何か異論はあるかの?」


一通り説明が終わったところでヘヴィーが問いかけると、すぐにラルフが手を挙げた。


「つまり、今まで1学年を3人で受け持ってたのを1人でするって事ですか?流石にそれは無理があるんじゃ…。」

「勿論無理があるのじゃ。だが、先程も説明した通り、急に教師達が辞めると言い出してしまったのである。現状として新しい教師の採用の目処は立っていないのである。もし採用できたとしても、人数が多い下の学年優先になる可能性は高いのである。」

「まじですか…。そんなに面倒見切れないっすよ。」

「ははははは!ラルフ、弱気になりすぎだ!やってやろうじゃないか!」


豪快に笑い飛ばすのは来年から1年生を担当する事になったダルム=パワードだ。190cmもある巨体に筋骨隆々のダルムが笑う姿は歴戦の戦士が勝利の美酒を交わす姿を連想させた。


「ダルム…。お前1年生を担当した事無いだろ?右も左も分からない奴ばっかだし、根性無いし、めっちゃ大変だぞ?」

「がはは!そんな根性無しは俺が根性を叩き直してやる。着いてこれない奴は辞めてよし!」

「ダルム…あんた阿保でしょ?1年生はデリケートなんだから、ある程度は優しく教える必要があるのよ。」


こう言ってラルフの援護射撃をしたのはキャサリン。だが、歴戦の勇者(見た目)にそんな程度の攻撃は意味をなさない。


「何をいうんだ!それなら俺に1年生を持たせるヘヴィー学院長に文句を言えーい。」


責任を投げられたヘヴィーは周りの視線が自分に集中しても動じることなく口を開いた。


「私は何を言われても学年の担当を変えるつもりは無いのである。今まで優しく教える方針だった1年生を最初から教えるのは、いつかは試してみたかったのである。街立魔法学院は入学者数が他の魔法学院に比べて圧倒的に多いのである。じゃが、それと同時に途中退学者の数もずば抜けておる。まぁ、そのまま社会人として何かしらの企業に勤めているものが大半だから良いのじゃが…。それでも優秀な魔法使いがイマイチ育っていないというのは現在の大きな課題なのである。」

「ってなわけだ!」


ヘヴィーの言葉を何故かダルムが腕を組んで偉そうに締めくくる。この話を聞いた時点でラルフに反論する気は無くなっていた。ヘヴィーが言うことは最もであるし、そういう方針転換を試すのであれば、がさつさ(手加減の出来なさ)では群を抜くダルムが教育に当たった方が篩に掛け易いと言える。

次に入学してくる1年生達が可哀相ではあるが、それは不運だったと思うしかない。

このまま話が終わり。かと思ったがそんな事は無く、本題はここから始まる。


「この話題はもう良いかの?それでは本題に入るのである。これを見るのじゃ。第8魔導師団のメンバー候補なのである。」


そう言ったヘヴィーが広げたのは1枚の羊皮紙だった。そこには8名の生徒の名前が列挙されていた。


「クククク。成る程ねぇ!こいつらが新しい候補なんだね。ケケ…。いいじゃないか!僕も大方賛成だよ。ただ、気になる奴の名前があるけどねぇ?これは許されるのかな?」


そう言ってキタルは意味ありげな視線をラルフに向けた。向かいに座っていたラルフはキタルの視線に気付くと「あぁ。」と反応する。もう少し後で発表する予定だったのか、それとも忘れていたのか。基本的に適当なラルフではあるが、こういう大事な事はしっかりこなす性格を考えると、恐らく発表するタイミングはもう少し後だと考えていたのだろう。

とは言え、この展開で発表する以外の選択肢がある訳もなく、ラルフは耳の後ろを掻きながら口を開く。


「えっと、今日少し話したんだけどさ、やっぱ難しいみたいだわ。ま、そりゃそうだよな。親父さんに何かがあった時にあいつが自由に動けなかったら、それこそ大問題だしよ。」

「となると…実質の候補は7人って事になるわね。誰を選んでも実力的には申し分ないとは思うわ。」


キャサリンも眼鏡をクイッと上げながら賛同の意を示す。ヘヴィーは他の教師陣から反対の意が無いことを確認するとゆっくりと頷いた。


「うむ。ではこの8…7人じゃったな。を、候補として提出するぞい。この後の選考に関しては、正直私の意見で決められる訳では無いのである。じゃから、ここから先はどんな選考結果になっても責任は負えないのである。」

「そんな予防線張らなくても大丈夫ですって。」

「む?予防線のつもりは無かったのである。…そう解釈されてしまったとなると、私もいつの間にか弱くなっているのかも知れないのである。老いには勝てないのぅ。」

「ケケケ。校長、その年でその強さで老いとか言われたら世の中の魔法使いを敵に回しますよ?」

「むぅ。キタル…。お主も大分意地悪を言うよのう。私だってたまには年を感じるんじゃよ?時々腰がぐきって言いそうになるのであるよ。」

「「「………」」」


なんとも言えない一般的過ぎる老いの一例に教師陣は反応すら示さなかった。

教師達の冷たい反応にヘヴィーはブスッとしてしまう。


「ええんじゃよ。ええんじゃよ。どうせ私はこうやって孤独になっていくのである。ラルフが何を血迷ったのか、1年生上位クラスの皆が2年生に進級する事が決まったと大嘘を口走った事も咎めずにいようと心優しく思ってるのにこの仕打ちなのである。」


オイオイと大袈裟に泣き真似をするヘヴィー。そして、慌てるラルフ。周りの教師陣の冷たい視線がラルフに一気に突き刺さる。妻であるリリスですらも、やや冷たい目でラルフを見ていた。

眼鏡の位置を直したキャサリンが低い声を出した。


「ラルフ…。もしかして…いや、まさかそんな事はないと思うけど、昇学試験が2月1日に行われて、3月1日に結果発表ってのは伝えてるわよね?実力的にクリアしてても、筆記で余りにもダメなら留年あり得るわよ?」

「………あれ?そうだっけ?最近4年生しか担当してなかったから、完全に忘れてた…。」


完全にやってしまった事を今更気付いたラルフを見て教師陣は思わず大きな溜息を吐く。

そもそも、そのラルフが犯した失敗を咎めないとか言っているヘヴィーもどうなのか?と思うかもしれないが、こういう時のヘヴィーはわざとそう言っているだけである。恐らく最初から咎める気満々だったはずだ。

そのオイオイと泣き真似をしていた筈のヘヴィーが、如何にも学院長らしい口調でラルフに命じる。


「ラルフよ。お主の失敗は生徒達の未来を閉ざす可能性も孕んでおる。今すぐ上位クラスの皆へ進級が誤報であることと、昇学試験がある事を伝えるのじゃ。」

「う…分かりました。」


ラルフのテンションががた落ちになった所でヘヴィーはゆっくりと立ち上がる。


「もう一度言うんじゃが、教師陣が一気に辞める理由はほぼ行政区への引き抜きじゃ。基本的に引き抜きという事は、素晴らしい教師を育てる事が出来たと思っていいのである。じゃが、引き抜きが余りにも多過ぎる。これが偶然なのか意図的なものなのかは流石に今の段階では分からないのである。じゃが、私達には生徒がおる。魔法学院同士の駆け引きやパワーバランスなぞ関係ないのである。生徒がいるから。生徒の為に。これを第一にするのである。教師が減ったから教育の質が落ちるなどというのは以ての外である。この苦難、何としても乗り越えるのじゃ。」


ヘヴィーの力の籠った言葉を聞いた教師達は、自然と立ち上がっていた。

街立魔法学院がダーク魔法学院やシャイン魔法学院のように入学における条件を規定せずに、魔法を学びたい者達へ広く門戸を開いている理由。それはこの魔法学院で働く教師全員が知っていて、尚且つその考え方に共感をしているからこそ、この魔法学院で働く事を選んでいるのだ。

この瞬間、街立魔法学院を支える教師達の心は今までよりも少しだけ1つになったのかもしれない。


「よし。では….これより年越しパーティーを開催するのじゃ!ラルフ、用意したものを出すのである。」


ついさっきまでテンションガタ落ちだったはずのラルフは、ヘヴィーが年越しパーティーと言った瞬間にケロリといつも通りのテンションに戻っていた。


「任せてくださいっとな。ほれっ!」


そうして、次元魔法で保管していた豪華な御馳走を一気に解放する。


「はっはっはっ!今年の年越しも美味そうじゃないか!」

「くくくく…この瞬間を待ち望んでいたよ。」

「わぁ!美味しそう!私、お腹すいちゃった。」

「今年も豪華じゃない。流石学院長ね。じゃ、遠慮なく頂きます。」


街立魔法学院教師達の豪華な年越しが始まった。


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


街立魔法学院の正門を出た龍人は、大きく伸びをして歩き出した。目指す先は魔法の台所だ。


(今回の対抗試合で俺の弱点がよく分かったからな。なんか補えるような魔具があったら嬉しいんだけど。)


少しでも強くなる為。その為に出来る事は何でもするしかない。魔法協会地下で出会ったセフ=スロイ、その部下であるユウコ=シャッテン。彼らの実力は対抗試合で戦ったシャイン魔法学院の面々を遥かに超えていた。

ユウコには確かに勝利した。だが、それはあくまでも黒い靄の力に頼っての勝利。現状として黒い靄を自由に出せる様にはなったが、使った後に体への大きな反動があるのは依然として変わらない。この黒い靄の力は本当に切札としての場面以外では使いたくないのが龍人の本音だ。

つまり、これから現れるであろう未だ見ぬ敵に遭遇した時、黒い靄の力に頼らなくてもある程度は戦えるように強くなる必要があるのだ。

だが、自身の弱点をカバーする魔具を求め、それを手に入れる事が強くなる事と同義であるとは言い切れない。

勿論龍人はその点に関しては理解している。理解してて尚、一縷の望みを掛けて魔具に縋ってみようと決心したのだ。普段は表に出さないが、強くならなければいけないという想いは龍人の中でそれ程までに強いものとなっていた。とは言え、追い詰められているわけでは無いので今すぐに何かを手に入れなければいけない。と、思っている訳でもない。

目的の魔具を探している内に何かしらのヒントを得ることが出来るかも知れないという考えもあったりする。

大晦日という事で、これから世を徹して遊ぶであろう若者達が騒ぐ街魔通りはいつも以上に人で溢れており、1人で歩く人の方が珍しいのでは無いかというレベルだ。その街魔通りの中央にある魔法の台所に到着した龍人は、いい魔具が有りますようにと願いながら店の中に入っていった。



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