表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Colony  作者: Scherz
第四章 其々の道
678/994

11-10-1.終業式



12月31日。1年の最後の日、この日に街立魔法学院では終業式が執り行われていた。といっても、入学式の様にクラス分け試験がいきなり行われるという訳でもない。至って普通の終業式だ。

校長のヘヴィー=グラムが長々と眠気を誘う話をし、今年の街立魔法学院としての活動報告が行われる。その中には魔法学院1年生対抗試合の結果報告も含まれており、準優勝を果たした龍人、火乃花、遼、レイラは壇上に呼び出されて表彰状を渡されたりもした。だが、イベントと呼べるようなものはこの程度だ。

唯一取り上げるものがあったとするならば、魔法街統一でとある魔法の呼び名が変わるという連絡がキャサリンからあった位である。その内容は以下の通り。本人の言葉をそのまま伝えよう。


「じゃぁ、皆に魔法の事で報告があるわ。防御壁の呼び名が変更になるわ。これについては魔法協会で何度も議論されてきたんだけど、防御壁っていう呼び方が特徴を正確に表してないって言うのがそもそもの理由よ。本日をもって防御壁の呼び名は魔法街統一で物理壁という呼び方に変わるわ。魔法壁の呼び方はそのまま。また、物理壁と魔法壁などの防御を目的に展開する結界の総称を防御結界と呼ぶ事になるわ。ま、呼び方が変わったから何かが大きく変わる訳じゃないから支障はないと思うわ。今日を境に全ての店で防御壁に関する表記が物理壁に変わってるから、その辺りは注意してね。間違って買っても返金とかは出来ないと思うわ。何か質問ある人いるかしら?…無さそうね。じゃ、私からは以上よ。」


淡々と説明をこなしたキャサリンはクールな表情を保ったまま壇上から下りたのだった。


学院生達の顔に退屈の文字が浮かび始めた辺りで、終業式の進行をしていたラルフが眠そうな声で終わりを告げる。


「あ~、終業式は以上だ。さっきも伝えた通り1月から3月の間は自由に過ごしてもらっていいぞ。遊ぶのも良し。特訓するのも良しだ。じゃ、この後は各クラスの教室に行くように。」


この他にまだ何か話すことがあるのだろうかと思いながらも、学院生達はそれぞれの教室へ向けて移動を開始した。

龍人は伸びをしながら立ち上がる。


「うしっ。遼行こうぜ。」

「うん。そだね。…あれ?ルーチェがラルフに捕まってる。」

「ん?ルーチェが?」

「うん。なんか普通に真面目っぽい雰囲気だけど…。珍しいね。」


2人の視線の先でラルフとルーチェは一言二言交わすと、小さく頷いて教員校舎の方に向けて歩き出した。所謂呼び出しというやつだろうか。ただ、ルーチェは普段から優秀な生徒の1人であり、悪い事をしたから呼び出されるというのは考えにくい。


(…いや、他人の事だし余計な詮索は良くないな。)


思考を途中で切った龍人は遼の肩をポンっと叩く。


「遼、行くぞ。あまり他人の事を詮索するのは良くないっしょ。」

「…それもそうだね。」


そう納得した龍人と遼は教室に向けて歩き出した。


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


上位クラスの教室に入ると、驚いた事にラルフと教員校舎に行ったはずのルーチェがレイラと談笑をしていた。


(え?俺たちも真っ直ぐ教室に向かってたんだけど…。話が速攻終わったって事か?)


流石に気になった龍人は、ついさっきの余計な詮索はしないというのを忘れてルーチェに声を掛けた。


「よっ。ルーチェ。」

「あら、龍人くんおはようなのですわ。」

「あのさ、さっきラルフと教員校舎の方に行ってなかったか?」

「行きましたわよ。大した話では無かったので、1分も掛かりませんでしたの。」

「へー。どんな話…。」

「それよりも龍人くん!あのマーガレットさんに呼び出されたと聞いたのですが…。何を話したのですか?とっても気になりますの。」


突然のカウンターに龍人の脳裏にはマーガレットに告白された時の事が鮮やかに蘇る。


「え?いや、大した話じゃないよ?」

「ふむふむ。どんな話だったのですか?レイラさんが教えてくれないと悲しんでいますの。」

「えっ?私はそんな事…。」


レイラは否定するが、その顔は知りたいと言っている。…様にも見えた。


「あ、その話…俺も気になってたんだよね。大した話じゃないって言う割には全然教えてくれないし。」


ここで新たな参戦者…遼が現れた。といっても、隣にいたので話に加わってくるのは当然なのだが。

龍人は悩む。マーガレットに告白されたことを隠さず話すか。それとも別の内容に置き換えて嘘をつくか。もし、龍人がマーガレットに対して何も好意を抱いていなかったら、迷わず告白された事を話していただろう。

だが、龍人は告白されている最中にマーガレットへの好意を抱いてしまっている。そんな状況でマーガレットが決心を持って臨んだ告白を他人に言いふらすというのは…龍人には出来なかった。

ここはなんとなく話を作って逃れるしかない。…と思って龍人が口を開こうとした絶妙なタイミングでラルフが教室に入ってきた。


「うしっ。じゃあ軽い伝達事項があっから、みんな席に座れー。」


ラルフの言葉に合わせるようにして生徒たちはパラパラと席に座り始めた。龍人達の話題も勿論中断だ。


(よしっ。なんか知んないけどラルフに助けられた!)


龍人は心の中でガッツポーズをするが、表面上は何事もなかったかのようにして席に座る。

全員が席に座った事を確認したラルフは、ニヤニヤしながら口を開いた。


「うし。じゃ、先ずは2年生になれなかった者についてだが…。」


いきなりのデリケートな話題に生徒達はざわつき始めるが、ラルフはニヤニヤを崩すこと無く続けた。


「おめでとう。上位クラスは全員進級だ。」


おぉ~。と、声が上がり学院生達自身からパラパラと拍手が起こる。その反応は当然。もし、今年留年してしまうと、新入生と一緒に1年生をしなければならないのだから。


「2年生に上がるのは比較的簡単だが、3年生への進級からは留年するメンバーも確実に出てくるぞ。各自鍛錬は怠るなよー。」

「「「はーい。」」」


なんとも緩やかな雰囲気で連絡は続く。この後に伝えられた内容は3月までの過ごし方についてだ。特訓室を使う際は予約が必要になる事や、グラウンドも予約をすれば使う事が出来る事などが伝えられた。


「じゃ、そんな感じだ。2年生からはもっと実践的な内容を取り上げていくからな。気を抜くとすぐに置いていかれるから頑張れよー。」


こんな感じで締めくくったラルフは欠伸をしながら教室を出て行ったのだった。

ラルフが出た瞬間に教室の中は3ヶ月にも及ぶ休みをどう過ごすか。の話題で盛り上がり始めた。

周りが楽しそうに話している中、龍人は窓の外を眺めながら考え事をしていた。その内容は主にマーガレットについてだ。所属する魔法学院が異なるため、頻繁に顔を合わせる事は少ない。だが、次に顔を合わせた時…どんな態度で話せばいいのかがよく分からないのだ。1番良いのは今まで通りの対応をする事なのだろうが…イマイチ自信が無かったりもする。というか、面ときって好きと言われたのが初めての為、こういう場合の対処法が分からない。というのが正確か。


「わりぃ!ついつい忘れてた!」


ラルフがドタバタと教室に戻ってくる。教室に入ると中をぐるりと見回し、まだ船員がいる事を確認すると安心したように息を吐いた。


「いやぁ、俺ともあろう男がとんだミスをするとこだったわ。」


教室にいる全員が頭にはてなマークを浮かべていると、ラルフはニヤリと笑う。


「今まで不在だった街立魔法学院の第8魔導師団が年明けに発表される。恐らく同じタイミングでシャイン魔法学院の第6魔導師団、ダーク魔法学院の第4魔導師団も発表されるはずだ。選考にそこそこ時間がかかると思うから正確な発表の日時は未定だが、年明け1週間以内には発表されると思うぞ。楽しみにしてろよー。じゃ、良いお年を!」


そう言うとラルフは時計をちらりと見て転移魔法で姿を消したのだった。

直後、教室の中は先程よりも大きなざわめきに包まれる事となる。

周りが騒ぐ理由が良く分からない龍人は、近くに座っていたルーチェを見つけると声をかける。


「なんで皆こんなに騒いでんだ?ってか、魔導師団ってそんなに凄いのか?」


龍人の疑問を聞いたルーチェは「あれま」とばかりに両手を口の前に広げて驚いた。


「龍人くん。魔導師団についてほとんど知らないのですか?」

「ん?詳しくは知らないよ。」

「あらまぁですの。では、私が詳しく教えますわ。」


ルーチェはちょこちょこと龍人の隣に移動すると、魔導師団についての説明を始める。


「まず、魔導師団というのは魔法街の為に働く事を許可された、職業としての魔導師が4人1組で活動するチームの事ですわ。魔法使いの憧れでもあるので、任命されるのは大変名誉な事なのですわ。」

「へぇぇ。さっきラルフが街立、ダーク、シャインで1つずつ発表されるみたいに言ってたけど、増設されるって事なのか?」

「それは違いますの魔導師団は第1~8師団がありまして、第1魔導師団は各魔法学院から1名ずつと行政区から1人の選出。第2魔導師団は各学院教師から所属を問わずに実力のある人を先週。第3~4師団はダーク魔法学院に所属している者から選出。第5~6師団はシャイン魔法学院から。第7~8師団は街立魔法学院から。と決まっていますの。去年、丁度各学院の魔導師団のメンバー達が卒業を選択した事で、第4、6、8師団が現在空席となっていますの。この選出は学年とかは関係ないので、言ってみれば誰にでもチャンスがあるとも言えますわ。」

「へぇぇ。街立の第7魔導師団って誰が所属してるんだ?」

「…龍人くん、ちょっと無知過ぎませんか?」


ルーチェに真顔で返された事でショックを受けつつも、無知という評価をなんとか受け入れる龍人。その様子を見たルーチェはピンっと指を立てた。


「いいですの?第7魔導師団はルフト=レーレさん、ミラージュ=スターさん、ララ=ディヴィーネさん、カイゼ=ルムフテさんですわ。ルフトさんが魔導師団のメンバーなのも知らなかったのですか?」

「う…聞いたことが有るよーな無いよーな。」

「龍人くん…。そこまでだと逆に感心してしまいますの。無知ではなく無関心ですわね。」

「すんません。」

「気にしなくていいのですわ。逆に教え甲斐がありますの。それでですの、魔導師団には1つの制限がありますの。それは、魔法学院に所属する事なのですわ。この制限の詳しい理由は公にはされていませんが、魔法学院同士の均衡を保つ為というのが一般的な見解ですの。」

「なるほど。それって選ばれたら絶対にやんなきゃいけないのかな?」

「あら。龍人君選ばれるつもり満々じゃないの。一応言っておくけど、魔導師団は実力だけで選ばれるわけじゃないみたいよ。普段の素行とか、筆記試験の成績とか色々加味した上で選出されるはずだわ。」


会話に割り込んできたのは前の席で龍人とルーチェの話を聞いていた火乃花だ。


「いやいや。選ばれるつもりってか、今までで断った人っているのかなっていう純粋な疑問だし。魔法使いの憧れとは言っても、やりたくない人はいるはずだろ?」

「そんな人いるのかしら?」

「んー、あくまでも噂程度なのですが、去年魔法学院を卒業することを決めた元魔導師団メンバー達は、魔導師団として活動をするのが嫌になったから卒業を選んだ。なんて話もありますの。」

「え、そんな事あんのか?」

「あ…でも、確かにあり得るわね。魔導師団として活動を続けるには、魔法学院に所属してなければいけないし。そうなると、生徒か教師としてこの学院にいなきゃいけないもんね。他にやりたい仕事とかがあったら…そっちを選ぶって気持ちも分からなくは無いわ。」

「んー。なんか魔法学院に拘束されるみたいでちっと嫌だな。」

「でも、恩恵はかなりありますのよ?」

「へぇ。それって…」

「はーっはっはっはっはっ!龍人ぉ!魔導師団に選ばれるのは俺様に決まっているだろう!この、この、このクラウン=ボムが魔導師団として世界中に名を轟かせてモテモテになる日が遂にやってきたのだぁ!」


なぜこのタイミングで割り込んできたのかは分からないが、ともかく机の上に片足を乗せて馬鹿笑いするクラウンによって話は中断された。

完全に空気を読まないクラウンをイライラした様子の火乃花が睨む。


「ちょっと、五月蝿いんだけど。そもそもあんたが魔導師団に選ばれる事は…」

「ふっ。火乃花よ!俺様の姿がそんなに眩しいか!?中位クラスから怒涛のように追い上げて上位クラスに入り、そしてこのクラスでも事実上のトップとなった俺様にひれ伏すがいい!」


ここ最近1番のテンションで騒ぎ続けるクラウンを見上げ、龍人はルーチェにこっそり耳打ちをした。


「どーなってんだこれ?」

「今朝ラブレターが入ってたらしいのですわ。その中にクラウンが一番強いだとかが書いてあったみたいで…結果がこれですの。」

「なーるほど。こりゃあお陀仏だな。」


龍人の言葉通り、騒ぐクラウンの目の前に座る火乃花の体が小刻みに揺れていた。恐怖…ではなく、怒りを抑えているのだ。そしてその限界は意外にも早く訪れた。

火乃花はバンッと立ち上がるとグワシッとクラウンの襟元を掴む。


「な、何をする!?」

「あんたねぇ…いつまでもうっさいのよ。少し静かにしてなさい。」


この後はいつも通りの流れである。上位クラスの教室内を焔が暴れまわり、真っ黒焦げになったクラウンがパタリと倒れたのだった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ